第4章 推進剤の供給方法の変更による性能改善の検討
4.3 電子エネルギー分布関数計測
結合によるもの, 二次微分回路を二段階接続したもの, 二次微分を直接得る回路を用い るなどのようにプローブ電圧を時間的に変化させて, その結果得られたプローブ電流 の時間微分を取る方法がある.そしてさらに階段状に変化させたプローブ電圧に対応 するプローブ電流をサンプルホールド回路を用いて二次差分を求めるものがあるが, 被測定系に存在する高周波数の雑音の影響が大きく, 帯域除去フィルターの接続が不 可避となり信号に歪みができる.遅延素子を用いた微分回路を方法でも遅延処理の小 さく遮断周波数の高い遅延素子が必用になる.これに対してデジタル技術の発達に伴 ってアナログ物理信号をデジタル信号に変換し, 計算機を用いた数値的な処理によっ て要求される信号処理操作を行うことが可能になっている.高精度でしかも高速度の A/D 変換器を用いてプローブ特性を測定し, 計算機を用いた数値微分処理により電子 の速度分布関数の測定が可能である.従って本実験ではデジタル処理を用いた電子エ ネルギー分布関数の測定を行った.
4.3.2 計測シミュレーション
上述したようにデジタル処理にて計測を行うが, その場合にまず計測器の能力がど の程度要求されるのかを把握する必要がある.そこで計測器選定のために計算機上で ラングミュアプローブ特性曲線を与え, それを差分法により電子エネルギー分布関数 を得るために必要な二階微分値を求めてみる.
計測シミュレーションで使用したラングミュアプローブ電流−電圧特性曲線の式を 以下に示す.
1) 電子飽和電流領域
€
Ies≡1
4eneAP 8κTe πme 2) 減速電界領域
€
Ide=Iesexp eV κTe
3) イオン飽和電流領域
€
Iis=Ide−Ii
ここでkはボルツマン定数, Teは電子温度, meは電子質量, Apはプローブ電流, neは電子 数密度, eは素電荷, Vはプローブ電圧, Iiはイオン電流である.
プラズマプロセス等に使用されるコイルによる共鳴磁場を使った ECR プラズマ装置 では, ECR 層近辺では電子温度が 2 温度を示している事が多数報告されており, その事
(4-3)
(4-4)
(4-5)
を踏まえて今回のシミュレーションに於いても式(4-3)から(4-5) を使用して 2 温度分布 を持つ特性曲線とした.この時, 低温電子の温度を 5eV とし, 高温電子の温度を 30eV とした.プローブ特性曲線を図 4-18 に示し, 計測器に分機能制限を持たせていない場 合に, 低温電子に対する高温電子の存在比を 0.001, 0.01, 0.1, 0.3 と変化させ, その プローブ特性曲線を二階微分して対数表示したものを図 4-19 に示す.二階微分する時 の差分には以下に示す中心差分を使用した.
€
d2f(V)
dVP2 = f(VP+ΔVP)−2f(VP)+f(VP − ΔVP) ΔVP2
高温電子の存在比が高くなればなるほど, 電子のエネルギー分布の尾部にあたる-20 か ら-60V近傍での値が高くなっていることがわかる.
実際デジタル計測器には分解能という制約がありそれを考慮したシミュレーション の結果を図 4-20から図 4-23に示す.計測器の A/D変換レートが 16bit (65536 階調, 有 効桁数4 桁)の場合, 差分電圧幅を 6 Vとした時に, 高温電子の存在比が 0.001の時はプ ローブ電圧が-20V(電子エネルギー=35eV)当りで乱れてしまうが, それ以上の存在比で あるならば尾部の電流値が高くなり, 十分に計測できることが明らかになった.
4.3.3計測装置
現在オシロスコープやデータロガー等は 12bit の A/D 変換器を使用しているものが 主流となっており, 16bit A/D 変換器も特別なものではなくなってきている.さらに高 価ではあるが 20bit A/D 変換器を有する計測器も存在する.本実験実験では上記の通り
16bit で十分なこと.さらには価格の面からも計測器の全てのチャンネルをそろえる事
ができるので16bitのA/D変換器を使用する事にした.
図 4-24 に本実験でデジタル的に電子エネルギー分布関数を計測するために構築した システムを示す.本計測システムは16bitデジタルスコープ, 100Vバイポーラ電源, フ ァンクションジェネレーター, PC からなる.またスラスタが取り付けられている真空 容器フランジに二次元移動計測システムである”X-Y ステージ”がスラスタとともに取 り付けられており, 指定場所にプローブを移動させてエネルギー分布を計測する事が 可能である.
4.3.4 計測内容
(4-6)
すように 1, 2 列目の磁石列の間に推進剤供給ポートを 2 つ設置したもので, 第 2 の実 験は図 4-26 に示すように 1, 2 列目の磁石列の間に推進剤供給ポートを 4 つ設置したも のである.この時使用したプローブの形状は直径0.3mmの円筒形であり, 長さは4.5mm である.それぞれの測定箇所に設置して一度に計測を行った.スラスタ軸方向の計測 位置はグリッドの代わりに放電室前面に設置しているパンチングメタルから放電室上 流に 3mm である.計測器へのマイクロ波の侵入を防ぐために, プローブの配線には BNCの同軸構造ケーブルを使用した.
4.3.5 計測結果
まず初め に, 推進剤供給 ポートを 2 つ 使用した場合の 電子エネルギー 分布関数
(EEDF)の測定結果を図 4-27 から図 4-32 に示す.プローブ 1 から 3 までの EEDF では
低エネルギー領域の粒子は 3 の位置で多いが(図 4-28), 高エネルギー領域をみると 1, 2 で粒子数が多くなっている(図 4-29).磁石列の並びは 1 列目が S 極で 2 列目が N 極で あるので電子のドリフト方向はスラスタを正面から見て左周りになる.すなわち 3 の 位置では低エネルギーの粒子が主として存在していたが, 電子がドリフト運動を行い, 2 から 1 の位置まで移動する間にマイクロ波からエネルギーを得ている.よって 1, 2 の位置では高エネルギーの粒子が増加している.プローブ 4 から 6 までの EEDF も同 じようにエネルギーの変化がみられ, 推進剤供給位置でエネルギーを失った電子は通 過した後またエネルギーを得る.よってプローブ 4 では高エネルギー領域の粒子が増 加している.次に各位置での高温電子の存在比を示すために, 低温電子がマクスウェ ル分布した場合の尾部(実直線)を示したものを図 4-33, 4-34 に示す.この時, グラフの 縦軸はEEPF(Electron Energy Probability Function)で表示している.ここで, EEPFはEEDF を
€
E(E:電子エネルギー)で除したものであり, EEDF がマクスウェル分布であれば片対 数表示した(ln(EEPF)-E)時には直線となり, その勾配が温度の逆数に比例する.従って 勾配が穏やかであれば高温である.図 4-33, 図 4-34 からわかるように, どの計測位置 に於いてもエネルギー分布の尾部は直線表示したマクスウェル分布からはずれて 2 温 度を湿している事がわかる.上述した ECR 加熱を利用したプラズマデバイス等の計測 結果同様, 2 温度分布を示した.そして 3 と 6 の位置すなわち推進剤供給ポートを通り 抜けた後では, 低電子領域の温度が低下しているのが直線の傾きが増大しているのが わかる.これは以下のように考えられる.推進剤供給ポート近傍では中性粒子(推進剤) 密度が他の部分に比べて高いので, そこでの中性粒子と電子の衝突確率は高くなる.
測定結果より低エネルギー領域の電子温度が下がっており, 推進剤供給位置でのプラ ズマの発光は他の部分よりも強いので, 図 4-35 に示す電子と Xe ガスの各断面積から
わかるように, 主に電子は励起衝突をしてエネルギーを失っているものと考えられる.
次に, 4つの推進剤供給ポートを使用した場合の EEDF の測定結果を図 4-36 から図 4-37に示す.測定位置1, 2, 3と4, 5, 6のどちらの分布関数をみてもエネルギーの変化 はほとんど見られない.この理由は同一の磁石列の間に推進剤供給位置を増やしてい るので, 電子はドリフト軌道上で中性粒子との衝突が増し, 電離エネルギー以上のエネ ルギーを得る前に, 励起衝突をしてエネルギーが低下しているためだと考えられる.
しかしながら, このような場合に於いても EEPF 表示した図 4-38, 4-39 からわかるよう に 2 つの推進剤供給ポートを使用した場合と同様, エネルギー分布の尾部がマクスウ ェル分布からはずれ, 2温度を示している事がわかる.
以上のことから, 放電室内での電離度を上昇させ, 推力密度を増加させるには, 電子 のドリフト軌道上には推進剤供給ポートを多数配置しない事が良いことがわかった.
また 4.2 で述べたように推進剤流量を増した場合には, 中心よりも放電室壁に近い位置 での推進剤を供給させることがよいので, これらを考慮して性能改善を試みた.