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マイクロ波放電型イオンスラスタに対する プラズマモデルの構築

第5章 結論

付録 1 マイクロ波放電型イオンスラスタに対する プラズマモデルの構築

A-1 はじめに

A-1-1 背景

 マイクロ波放電型イオンスラスタは「はやぶさ」に搭載され,確実な信頼性を得た が,それ以前での飛行実績はなく直流放電型イオンスラスタに比べて歴史は浅い.よ ってプラズマモデルについての検討も未だなされておらず,設計・開発に使用できる 確実なものはない.そこでここでは,性能の面からみても同等な直流放電型イオンス ラスタで開発されたプラズマモデルを取り上げ,マイクロ波放電型イオンスラスタへ の適用を試みる.

A-1-2目的

 マイクロ波放電型イオンスラスタに対して放電室内プラズマモデルの構築を検討す る.

A-2 Brophy Model

[1][2]

A-2-1 体系

 まず初めに Brophy が構築した直流放電型イオンスラスタのプラズマモデルを確認す る.Brophy が使用したイオンスラスタを図 A-1 に示し, そこでのエネルギーバランス を図 A-2 に示す.使用したのは直流放電型の中でもリングカスプ型のイオンスラスタ である.直流放電型の場合, プラズマは主として 1 次電子と中性原子との電離衝突に よって生成される.1 次電子は陰極から放出された熱電子が陰極シースでの電位差に よって加速されて,イオン化に必要なエネルギー以上の十分に高いエネルギーを持つ.

よってプラズマ生成のための放電室へのエネルギー入力は,1 次電子電流である陰極 放出電流JFと陽極と陰極との間の電位差VD-VCの積

PD=JF(VD−VC) となる.

A-2-2 プラズマモデル

 イオン生成コスト CI 及びビームイオン生成コスト CB は放電電流 JDとイオンビーム 電流JBを用いてそれぞれ

CI =JDVD JB

CB =

(

JDJB

)

VD

JB

と表せて, さらにビームイオン生成コストはイオン生成コストを用いて

CB = JDVD

JBVD=CI −VD

と表せる.そして放電室内で生成されるプラズマに必要なエネルギーであるプラズマ イオン生成コストCPは放電室内でのプラズマ生成率を電流換算したJPを用いて

CP = JDVD

JP =

{

JD

(

JC+JB

) }

VD

JP と表される.ここで, 電流バランスより

JD=JB+JF+JC

JP =JB+JA+JC

となる.陽極への損失電流JAが投入される電流に対して無視できるとすれば JPJB+JC

とビーム電流JBとイオンの陰極への損失電流JCの和となり, 放電電流は

(A-3)

(A-4)

(A-A)

(A-6)

(A-8) (A-7) (A-1)

(A-2)

JDJF +JP

となる.よってプラズマイオン生成コストは次のように書き換えられる.

CP =

{

JDJP

}

VD

JP =JFVD JP

式(A-10)より,プラズマイオン生成コストは, 1 次電子電流に対応する電力とイオン生 成電流の比で表される.

 次に, 電離や励起によりエネルギーが減少した電子と電離により生成された電子は 熱電子になると考えると, 熱電子電流 JTは陰極から放出された電子が直接陽極へ損失 する電流JLを用いて

JT =JP +

(

JFJL

)

=JP+JF 1JJL

F

  

 

となる.1次電子が中性粒子と衝突せずに陽極へ到達する時の電流は

JL

JF =exp(−σ0n0λe)

なる減衰方程式で表される.ここでエネルギーバランスを考えると

JF

(

VDVC

)

=JPU++ JjUj

j

+JTUT+JL

(

VDVC

)

となる.ここで, U+, Uj及び UTはそれぞれ電圧換算の電離エネルギーと励起エネルギ ー, そして熱電子エネルギーである.

 そして, ビームイオン電流 JB と壁面電位面へ流入する陰極イオン電流 JCはイオンの 生成量に比例すると仮定し, それぞれの比例係数をfB, fCとすると,

JBfBJP

JCfcJP

となる.ただし, fB + fC =1 である.この fBfCを用いてプラズマイオン生成コスト CP とイオン生成コストCiを関係付けると,

CP =

{

JD

(

JC+JB

) }

VD

JP = JDVD JB

JB

JPJC+JB

JP VD= fBCI

(

fC+ fB

)

VD

となり, すなわち

CP = fBCIVD である.よってイオン生成コストの式を書き換えると

(A-9)

(A-10)

(A-11)

(A-12)

(A-13)

(A-1A)

(A-16)

(A-17) (A-14)

なる.右辺第 2 項より壁面への電流損失は放電電圧に比例する.放電電圧を上げすぎ ると発熱やグリッドのスパッタリング損傷が増加する.

 次にエネルギーバランスより, 式(A-5)のプラズマイオン生成コストの変形を行う.

CP =JFVD JP

=U++

JjUj

j

+JTUT+JLVDJLVC+JFVC

JP ここで, 右辺の各項はそれぞれ

JTUT

JP =UT 1+JF JP 1−JL

JF

  

 

 

 

 =UT 1+CP VD 1−JL

JF

  

 

 

 

JLVD

JP =JLCP JF

JLVC

JP =JLVCCP JFVD

JFVC

JP =VCCP VD となり, これらの式を式(A-19)に代入して整理すると

CP =U++

JjUj

j

JP +UT+CP UT VD 1−JL

JF

  

  +JL JFJLVC

VFVD+VC VD

 

 

 となり, CPについてまとめると

CP 1−UT VD 1−JL

JF

  

  −JL JF +JLVC

VFVDVC VD

 

 

 =U++

JjUj

j

JP +UT

CP 1−UT +Vc VD

  

  1−JL JF

  

  =U++

JjUj

j

JP +UT

CP = U++

JjUj

j

JP +UT 1−UT+Vc

VD

  

  1−JL JF

  

 

= U++

JjUj

j

JP +UT 1−UT+Vc

VD

1−exp

(

−σ0n0λe

)

{ }

−1=UP

{

1−exp

(

−σ0n0λe

) }

−1

となる.

(A-19)

(A-20)

(A-21)

(A-22) (A-23)

(A-24)

(A-2A)

(A-26)

(A-27)

UP*U++

JjUj

j

JP +UT 1−UT +Vc

VD

を基礎イオン生成コストと呼ぶ.ここで, 推進剤利用効率ηuを導入する.

ηu=JB m ˙ と表され, 推進剤流量の電流換算値

m ˙ はイオンビーム電流 JB と中性粒子密度の電流換 算値 の和であるので,

m =˙ JB+n ˙ o

と表される.さらに式(A-30)中のグリッドから抜けていく中性粒子密度の電流換算値     は, イオン加速用のグリッド面積を A, その開孔率をφ0, 中性粒子数密度 n0, 中性粒子 速度v0を使用して

n ˙ o=1

4en0v00

と表される.よって中性粒子密度は推進剤利用効率を用いて

n0=4 ˙

(

m −JB

)

ev0Aφ0

=4 ˙ m 1−η

(

u

)

ev0Aφ0

と表される.この式をプラズマイオン生成コストの式(A-27)に代入すると

CP =UP 1−exp −σ0 4 ˙ m (1−ηu) ev00 λe

  

 

 

 

−1

= UP

1−exp

{

−C0m 1−η˙

(

u

) }

となる.ここで

C0≡ 4σ0λe ev00

とした.イオン生成コストを考慮するために式(A-17)に式(A-33)を代入すると

CI = UP

fB

[

1−exp

{

−C0m 1−η˙

(

u

) } ]

+

VD fB となる.すなわち

CI =CP+VD fB

(A-28)

(A-29)

(A-30)

(A-31)

(A-32)

(A-33)

(A-34)

(A-3A)

(A-36)

˙ n o

n ˙ o

JjUj

j

JP

σjve Uj

j

σ+ve

と表される.すなわち励起粒子とイオン生成粒子の反応速度定数で表される.反応速 度定数は

σv = f

( )

ε

0

σ ε

( )

m

e

と表される.f(ε),σ(ε)はエネルギー表示の電子の速度分布関数と励起または電離の 断面積である.meは電子の質量である.

 さらに Brophyは陰極から放出される 1 次電子の影響を明確にするために 1 次電子と

マクスウェル分布した熱電子との比を基礎イオン生成コストへ導入した.すなわち式 (A-37)は

JjUj

j

JP =

np nM

( )

σ jvp+ σjve M

{ }

Uj

j

np nM

( )

σ +vp+ σ+ve M

とした.< >Mはマクスウェル速度分布関数で平均化された反応速度定数を意味し,

“´”は 1 次電子が寄与するものを表している.またΣ以下の項は全励起断面積であ るσexと励起エネルギーUexとで近似でき,結局基礎イオン生成コストは

UP =

U++UT+ nP

nM σ ′ exvP + σexve M

 

 

Uex nP

nM σ ′ +vP+ σ+ve M 1−

(

VC+UT

)

VD

となる.式(A-41)より,基礎イオン生成コストは,マクスウェル分布した電子エネル ギーUT,1 次電子密度 nPとマクスウェル分布した電子密度 nMとの比,さらに放電電圧 Vcの値を設定することで求まる.

 よって次節では以上で述べてきたモデルを使用してマイクロ波放電型イオンスラス タ用に変換する.

(A-37)

(A-38)

(A-39)

(A-40)

(A-41)

A-3 マイクロ波放電型イオンスラスタへの適用

A-3-1 モデルの変換

 マイクロ波放電型イオンスラスタのプラズマモデル構築で使用するエネルギーバラ ンスを図 A-3 に示す.マイクロ波放電型イオンスラスタでは放電室内へ入力する電力 はマイクロ波電力Pμである.よってイオン生成コストCI

CI = Pµ JB である.プラズマイオン生成コストは

CP =Pµ−(JW+JB)VF Jp

となる.ここで直流放電型の放電電圧 VDに相当する“VF”というマイクロ波放電型に おいて電子の加速電圧となる値を導入した.電流バランスより

W B

p J J

J = +

と表す事ができる.JWは放電室壁へ損失するイオン電流である.またプラズマイオン 生成コストはさらに

CP =JFVF JP

と表すことができるので,式(A-43), (A-44), (A-4A)よりマイクロ波電力は

F p F

u J J V

P =( + )

と表すことができる.すなわちマイクロ波電力は高速電子とイオン生成に供せられる ことを意味している.

ここでビームイオン電流と壁面損失イオン電流はイオンの生成量に比例すると仮定す ると

p B

B f J

J       

p W W f J

J         である. fB + fW =1である.

 直流放電型と同様に,電離や励起により減衰した電子と電離により派生した電子は 熱電子になると考えると、

F L F p L F P

T J

J J J J J J

J

+

=

− +

= 1

) (

1次電子が中性ガスと衝突せずに陰極へ到達する量は減衰方程式より得られ、

(A-42)

(A-43)

(A-44)

(A-45)

(A-46)

(A-47)

(A-48)

(A-49)

 ここで fBを用いてプラズマイオン生成コストとイオン生成コストを関係付けると

CP =CI JB

JP −VF = fBCI −VF     よって

CI =CP+VF fB

      

となる. 次にエネルギーバランスより

+ +

+

= +

j j j T T L F

P F

FV J U J U J U J V

J

(A-52)式を利用してCPの変形を行う.(A-45)式と

CP =U++

JjUj+JTUT+JLVF

j

Jp より

JTUT

JP =UT 1+JF JP (1−JL

JF)

 

 

 =UT 1+CP VP (1−JL

JF)

 

 

   

JLVF

JP = JLCP JF

      

であるので、CP

CP=U++ JjUj

j

JP +UT+CP UT VF (1−JL

JF)+JL JF

 

 

CP 1−UT VF

  

  1−JL JF

  

  =U++

JjUj

j

JP +UT と表せる. よって

CP = U++

JjUj

j

JP +UT 1+UT

VF

  

  1−JL JF

  

 

= U++

JjUj

j

JP +UT 1−UT

VF

1

1−exp(−σ0n0λe)

{ }

 ここで推進剤利用効率ηuを導入する.

ηu=JB

m ˙

(A-51)

(A-52)

(A-53)

(A-54)

(A-55)

(A-56)

(A-57)

(A-58)

(A-59)

m =˙ JB+n 0

n 0′ =1

4en0V00 よってn0は以下のように表される.

n0=4( ˙ m −JB)

eV00 = 4σ0λe eV00

よって式(A-58)へ代入してプラズマイオン生成コストCP及びイオン生成コストCI

CP = UP

1−exp

[

−C0m ˙ (1−ηu)

]

CI = UP

fB

[

1−exp

{

−C0m ˙ (1−ηu)

} ]

+

VF fB すなわち

CI =CP+VF fB

である. ここで

UP*は式(A-A8)より

UP*U++

JjUj

j

JP +UT 1−UT

VF

   

である.また

e j j

e j

P j

j j

v U v J

U J

+

= σ

σ

    

と表すことができる.

A-3-2 Brophy Model とマイクロ波放電型イオンスラスタモデルの比較

 マイクロ波放電型イオンスラスタにおけるプラズマモデルでは Brophy

Model(式(A-28))で存在した陰極電位 VCがない.よってこの陰極電位によるイオン損失が減少し、

それだけコストが下がる事になる.

 本文でも述べたように,直流放電型イオンスラスタと比較して,マイクロ波放電型 (A-60)

(A-61)

(A-62)

(A-63)

(A-64)

(A-65)

(A-66)

(A-67)

れる.

図A-1 Brophyがモデル構築に使用したカスプ磁場型イオンスラスタ (参考文献[2]より抜粋)

図A-2 直流放電型のエネルギーバランス図

図A-3 マイクロ波放電型のエネルギーバランス図

付録1参考文献

[1] John R. Brophy, and Paul J. Wilburt, “Simple Performance Model for Ring and Line Cusp Ion Thrusters”, AIAA Journal, Vol. 23, pp. 1731-1736, 1985.

[2] John R. Brophy, and Paul J. Wilburt, “Calculation of Plasma Properties in Ion Sources”, AIAA Journal, Vol.24, pp. 1516-1523, 1986.