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集落ぐるみ型の営農組織における生産・労務管理の改善方策

ドキュメント内 藤井吉隆 (ページ 108-123)

第1節 はじめに

第 1 章第2節で指摘したとおり,滋賀県では兼業農家率が高く水田農業に特化した農業 構造の中で,集落営農の育成をとおして生産性の高い水田農業の確立と農村集落の活性化 に取り組んできた。2013年2月現在,滋賀県の集落営農法人数は141組織となっており,

これら組織の大半は,「集落の農地は集落で守る」という基本理念にもとづき,定年退職 者や兼業従事者が主体となり,集落ぐるみ型の組織運営が行われている。そのため,日々 の営農活動においても原則として水田の所有面積に応じて全戸に出役を割り当てるなどの 作業体制による組織運営が行われ,多数の構成員による組織的な生産活動が行われている ことが大きな特徴である。

これまでの集落営農は,高橋ら(2007)が指摘するとおり「集落ぐるみ参加という性質ゆえ に,多様な構成員の意見を調整し,組織としての一体性をどう確保していくか」が大きな 課題であった.しかし,昨今の米価低落等により水田作経営の収益性が低下する中で,経 営の成長・発展を図るためには,利益の確保を目指した生産性の向上を実現するための取 り組みの実施が求められる.集落ぐるみ型の営農組織における生産活動は,複数の作業者 により農作業を行うという点では雇用型法人経営と共通するが,兼業従事者や定年退職者 など農地の所有面積に応じて出役を割り当てられた構成員が日替わりで作業を担うなど,

参画する構成員数や構成員の従事状況に大きな相違がある.このため,集落ぐるみ型の営 農組織における生産性の向上を図る上では,集落ぐるみ型の組織運営の特徴を踏まえた対 応策の検討が求められる.

こうした課題を解決するためには,①多様な構成員が営農活動の実施に際して必要とな る情報の共有・伝達,②役割分担や人員配置などの運営体制の工夫,③営農活動に関わる 知識や技能などのノウハウを経営内で蓄積し,伝達・継承するなどの生産・労務管理に関 わる新たなマネジメントの仕組みを構築していくことが重要と考えられる。これまでに集 落営農を対象とした既存研究は多くあるが,これらの研究は,集落ぐるみ型の営農組織を 維持するという観点からの研究が大半であり,生産性の向上などの観点からの研究の蓄積 は少ない1)

以上の問題意識から,本章では,集落ぐるみ型の営農組織において生産性の向上への取 り組みを進める営農組織(以下,D経営という)を対象に,組合長への聞き取り調査や組 織が作成する組織運営に関する資料の解析などをとおして,集落ぐるみ型の営農組織にお いて安定した収量・品質の確保や作業の効率化など生産性の向上を図るための生産・労務 管理の改善方策を検討する。

項目 内容

運営形態 協業経営方式

集落概況 水田面積62.1ha、農家戸数87戸

加入状況 加入農家84戸、加入農家水田面積59.7ha 土地利用体系 水稲+麦(馬鈴薯)+豆(2年3作体系)

作付面積 水稲32.6ha,麦15.9ha,大豆16.9ha,馬鈴薯1ha 収量水準 水稲518kg/10a,麦330kg/10a,大豆207kg/10a

主要設備 トラクタ55ps2台、田植機8条側条施肥1台、コンバイン6条2台、大豆コンバイン1台、乾燥機 50石2台、乗用管理機2台

収支状況 総収入55,551千円、経常利益11,637千円、労賃16,368千円、地代6,997千円

(2009年度実績値)

役員構成 組合長(1)、副組合長(2)、総務部(3)、生産労務部(6)、設備機械部(3) オペレーター 15名専任体制

第2節 調査事例の概要

D集落は,滋賀県中央部のE町に位置する。E町は琵琶湖辺の農村地帯であり,町の中 央部にはJR琵琶湖線,南部には国道8号線が通り,京阪神,中京方面に行き来できるなど 交通の便に恵まれた地域である。

D集落は,農家戸数87戸,水田面積62haの農村集落である。D集落では,圃場整備事業 を契機に,1999年から集落営農の設立に向けた検討を開始した。その結果,2001年に「農 地の高度利用を図り,生産性の効率化をもって,地域に根ざした水田農業を確立する」こ とを目的に集落ぐるみ型の営農組織(D経営)を設立した。

D経営は,その後,2004 年に特定農業団体の認定を受けるとともに,集落全農家が加入 する農業組合を母体とする農地利用改善団体を設立し,集落内での農地の利用調整を行い 効率的な農地利用体制を構築するとともに,2010 年3月に農事組合法人を設立した。2009 年の農地面積は,48.8haとなっており,作付けは,水稲32.6ha,大麦3.4ha,小麦11.4ha,

白大豆10.3ha,黒大豆3.5ha,小豆0.7ha,馬鈴薯1.4haである(表7−1)。

D経営の組織運営は,定年退職者及びサラリーマンや公務員などの兼業従事者からなる 役員15名(内訳:組合長1名,副組合長2名,総務部3名,生産・労務部6名,設備・機 械部3名)が中心的役割を果たしている。作業は,15 名の役員が兼務する作業遂行責任者 が作業の段取りや作業指示,情報の伝達等で中心的役割を果たす。機械作業は15名のオペ レータによる専任体制を取るとともに,一般作業は,水田の所有面積に応じて全戸に出役 を割り当てる体制をとっており,60名を超える作業者が日替わりで作業を実施している。

なお,D経営では,集落ぐるみ型の組織運営を前提としながら,安定した収量,品質を 確保するなど緻密で周到な栽培管理が行われていることが特徴である2)

表7−1 D経営の経営概況

注:D経営総会資料,会計資料,生産管理資料などにより作成

6 0

( 1 5

( 1 2

( 3

( 1 5

( 8

( 1

( 1

生産技術体系の選択 栽培方法および作業技術体系

の選択

作付計画の策定 栽培方法・品種・作型単位の

作付面積と圃場配置の決定

営農活動計画の決定 作業体系・資材投入計画・年

間作業計画の策定

作業基本スケジュールの策

中期(月単位)の作業計画の

策定

作業基本スケジュールの変

短期(週・日単位)の作業計画

の策定

作業判断 作業方法,経路,資材投入量

の決定

作業実施 多様な条件に応じた作業の実

目的 内容 具体的内容

雇用型法人経営(A法人)

経営条件を最大限 に活用する

適期に作業を実施 する

的確に作業を実施 する

集落営農(D経営)

第3節 集落営農における構成員の職能分化

D経営の生産活動における構成員の職能は,組織運営全般を担当する経営管理者層(組 合長・副組合長),生産活動において中心的役割を果たす農場管理者層(総務部役員,生 産労務部役員,設備機械部役員),日々の作業を監督・管理する作業管理者層(15 名の役 員が兼務する作業遂行責任者),作業者層(オペレータ,一般作業者)の4つの階層で構 成される.表7−2に職能分化を生産活動のプロセスと関連付けて示す(表7−2).

「基本計画の策定」は,経営管理者(組合長1名・副組合長2名)および農場管理者(総 務部役員3名,生産・労務部役員6名,設備・機械部役員3名)が主体となり担当してい る.具体的には,経営管理者層,農場管理者層が参画する役員会で生産技術体系の選択や 作付計画,営農活動計画など生産活動に関わる基本計画を策定する.

次に「作業計画の策定」は,関係役員(生産・労務部役員6名,設備・機械部役員3名)

が参画して作業の基本スケジュールを策定(年間作業スケジュールに基づく月単位の作業 計画および作業者の出役計画)するとともに,15 名の役員が兼務して日替わりで配置され る作業遂行責任者が作業の進捗状況や生育,圃場の状態などを考慮して作業の基本スケジ ュールを変更(日単位の作業計画の策定)する.そして,「作業の実施」に際しては,作 業遂行責任者の指示・監督に従い出役者が役割分担を行いながら作業を実施する.

第2章で検討した雇用型法人経営と比べ,生産活動を複数の職能で協力・連携して実施 するなど,多くの構成員が参画して生産活動が行われていることが確認できる(表7−2).

表7−2 構成員の階層と役割分担

注:  1)◎:主担当,○:担当,△:必要に応じて担当を表す.雇用型法人経営は,第 2 章表 2-7 を再掲. 

第4節 生産・労務管理の改善方策

以上のとおり,D経営では,定年退職者や兼業従事者など多くの構成員が参画して,組 織的な生産活動を実施している.集落ぐるみ型の営農組織では,①組織運営の中心的役割 を担う役員が一定任期の後に交代するなど役員の在任期間は短いこと,②農地の所有面積 などに応じて均等に割り当てられた多数の作業者が日替わりで作業を担当するなど構成員 の従事状況が雇用型法人経営とは大きく異なる.このため,集落ぐるみ型の営農組織にお いてはこれらの特徴を踏まえた生産・労務管理の改善方策を検討することが求められる.

そこで,本節では,集落ぐるみ型の営農組織において生産性の向上に向けた取り組みを 進めるD経営の事例分析を通して集落ぐるみ型の営農組織における生産・労務管理の改善 方策について生産活動のプロセスと関連付けて検討する。

1 「基本計画の策定」段階における対応策

第2章第4節で指摘したとおり,大規模水田作経営における「基本計画の策定」を的確 に実施するためには,品種・作型の選択や圃場配置,資材投入など農業生産全般に関わる 総合的な知識やノウハウの習得が要求される.しかし,一般的な集落ぐるみ型の営農組織 における「基本計画の策定」は,経営管理者層(組合長・副組合長)や農場管理者層(関 係役員)が担当しているが,役員は一定任期のもとに交代することが前提となる.しかし,

「基本計画の策定」で要求される農業生産に関わる総合的な知識やノウハウを,定年退職 者や兼業従事者の役員が短期間で習得することは困難である.このため,集落ぐるみ型の 営農組織では役員の任期交代を前提に,「基本計画の策定」段階における業務を的確に実 施するための取り組みが重要となる.D経営の取り組み内容は,以下のとおりである.

1)営農活動の記録と数値化

D経営では,組織設立当初から作業時間,費用,収量等のデータの記録と分析に基づい た営農活動の数値化に取り組んでいる。

具体的には,農作業に関わる記録(作業日報,資材投入記録),機械施設に関わる記録

(機械点検一覧表,機械管理日報,機械日報),栽培管理に関わる記録(ライスセンター 搬入記録表,収穫物量管理票,土壌分析),生育ステージに関わる記録(出穂穂揃い日管 理表)等営農活動に関わる詳細なデータを記録している。記録したデータは,担当役員が 分担して集計分析を行い,役員会などで経営改善に向けた判断材料として活用している.

例えば,作業時間では,作業を約50種類に分類した上で,作業内容を作業日報に記録し,

得られたデータから作業別作業時間を算出し,前作との増減分析を行いながら課題を摘出 し,人員配置や作業方法の見直し等の改善資料として活用している(図7−1,7−2)。

費用では,各費目別費用を算出し,コスト削減に向けた対応策の検討に活用するととも に,新品目や省力・低コスト技術の導入などの検討を行っている。さらに,栽培方法別・

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