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第 5 章 Fuchs 型常微分方程式と一般化 Riemann スキーム 31

5.2 Fuchs 型微分方程式

微分方程式P u = 0がx = で確定特異点を持つとは,x 7→ 1x と変換したときに原点で確定特異 点を持つこととする.さてP W(x) のC¯ := C∪ {∞} での特異点がすべて確定特異点であるとき 微分作用素P と微分方程式P u = 0をFuchs型とよぶことにする.また,C¯ からP の特異点の集合 {c0, c1, . . . , cp} ⊂ C¯ を除いてできる集合をC¯0 := ¯C\{c0, c1, . . . , cp}とかく.このとき微分方程式P は 次のような写像を定義する:

F: ¯C0⊃U(単連結な領域)7→ F(U)⊂ O(U),

ここでF(U) :={u(x)∈ O(U)|P u(x) = 0}とする.さらに特異点{c0, c1, . . . , cp}の近傍として,

Uj,,R =

{{cj +re |0< r < , R < θ < R+ 2π} (cj 6=), {re |r > 1, R < θ < R+ 2π} (cj =) を定義する.このときF は次を満たす.

1. F(U)⊂ O(U)であり,dimF(U) = ordP.

2. V ⊂U ⇒ F(V) =F(U)|V ={f|V ∈ O(V)|f ∈ F(U)}

3. 特異点cj に対して >0があって次が成り立つ.任意のφ∈ F(Uj,,R)に対し,ある正数Cと正 整数mがあって,

|φ(x)|<

{

C|x−cj|m (cj 6=∞, x∈Uj,,R), C|x|m (cj =∞, x∈Uj,,R)

5.2 Fuchs型微分方程式 37 が任意のR∈Rに対して成り立つ.

このような条件を満たす(有限個の特異点を持つ多価の)正則関数の空間Fの全体は,W(x)の作用で閉 じていることが以下の補題からわかる.

補題 5.2.1. Br+:={x∈Br |Imx >0}とおくとき,ψ∈ O(Br+)がある整数mに対して

|ψ(x)| ≤C|x|m (x∈Br+) を満たすならば,以下の評価が成り立つ.

0(x)| ≤2|m|+1Cx(m+1) (0< x < r2) Proof. 0< x < r2 とすると

ψ(x) = 1 2π

−1

|tx|=x2

ψ(t)dt t−x であるから

0(x)|=

1 2π

|tx|=x2

ψ(t)dt (t−x)2

max

|tx|=x2|ψ(t)|2

x 2|m|+1Cx(m+1). さらに次がいえる.

定理 5.2.2. Fuchs型常微分方程式と解空間の対応

{W(x)P ⊂W(x) : Fuchs型} −→ { 上の条件1〜3を満たすF }

P =n+∑n1

i=0 ai(x)∂i 7→ {U 7→ {u∈ O(U)|P u= 0}}

は全単射.F(U) =∑n

ν=1Cφν(x)とかけているとすると,

Φi=











φ(0)1 (x) · · · φ(0)n

... ... ... φ(i11)(x) · · · φ(in1)(x) φ(i+1)1 (x) · · · φ(i+1)n (x)

... ... ... φ(n)1 (x) · · · φ(n)n (x)











(5.4)

としたとき,

ai(x) = (1)nidet Φi

det Φn

と書ける.

証明の概略. φν(x) (ν = 1, . . . , n)はF(U)の基底なので,任意のu(x)∈ F(U)に対し,

det





u φ1 · · · φn

u(1) φ(1)1 · · · φ(1)n

... ... ... ... u(n) φ(n)1 · · · φ(n)n



= 0

38 第5章 Fuchs型常微分方程式と一般化Riemannスキーム となる.1列目に関する余因子展開がu(x)の満たす微分方程式を与える.これがFuchs型であることを 確かめればよい.特異点cj のまわりを反時計回りに回るループをγj とおき,Φiをループγj にそって解 析接続したものをγjΦiとかこう.γjφ1, . . . , γjφn ∈ F(U)であり,φ1, . . . , φnF(U)の基底なので,

Mj ∈GL(n,C)があって,

γjΦi= ΦiMj

となる.ここで解析接続は微分と可換なので,Mj はΦi (i= 1, . . . , n)によらないことに注意しよう.両 辺の行列式を比べると

γjdet Φi= detMjdet Φi

となるので,detMj =e2πiλなるλ∈Cをとると,

γj

((x−cj)λdet Φi

)= (x−cj)λdet Φi.

従って,(x−cj)λdet Φix=cj に高々極を持つことがわかる.すなわち,det Φiは,あるψj ∈ OcjkiZ0があってdet Φi= (x−cj)λ+kiψi.従って,det Φiとdet Φnの商をとれば(x−cj)λの項は 打ち消されるので,ai(x)もx =cj に高々極を持つことがわかる.最後にx=cj が確定特異点であるこ とと,すべての解が条件3を満たすことが同値であることに注意すれば(cf. 問5.2.4),定理が従う.

c0, . . . , cp を特異点にもつ階数nの Fuchs型微分方程式 P u = 0 に対して,特異点でない点 x0 0を取り,その点のまわりの局所解のなすベクトル空間をV0とかき,V0の基底をφ1, . . . , φn と する.x0を基点として特異点cj のまわりを反時計回りに回るループをγj とし,φi達をこのループに 沿って解析接続したものをγjφi ∈V0と書こう.これにより,V0の線型自己同型が得られ,それを基底 φ1, . . . , φnで書けば,

V0 −→ V0

v 7→ γjv

jφ1, . . . , γjφn) = (φ1, . . . , φn)Mj

なるMj ∈GL(n,C)が得られる.これらMj を集めてM= (M0, . . . , Mn)とかき,P u= 0のモノドロ ミー*3という.

Fuchs型方程式の特異点であってもそこでのモノドロミー行列が単位行列になることがある.その点の

近傍では正則な解が解の基底を張っているが,解のWronskianすなわちdet Φn(x)がその点で消えてい る場合にはこのようなことが起こり,そのような特異点を見かけの特異点という.見かけの特異点におけ る特性指数の集合は{k1, . . . , kn}の形をしている.すなわち,各kj は0≤k1< k2<· · ·< knを満たす 非負整数となる.特にkn=n−1ならばその点は特異点ではない.

定理5.2.2から,直ちに次の結果がわかる*4

5.2.3. n階のFuchs型微分方程式P u= 0に対して以下の条件は同値.

1. P は既約.

*3基底の選び方によるので,MGL(n,C)共役類といった方がよいかもしれない

*4Airyの微分方程式の例からわかるように,不確定特異点も許すと一般には正しくない

5.2 Fuchs型微分方程式 39 2. 解空間のモノドロミーM= (M0, . . . , Mp)は既約,すなわちMjV ⊂V (j= 0, . . . , p) となるCn

の部分空間V{0}とCnのみ.

3. 解空間に対応するF は,同様なより次元の少ないF0 (すなわち,{0} $F0(U)$F(U)を満た すもの)を持たない.

5.2.4. 記号を簡単にするため一次分数変換を行なってcj = 0とする.

i) 可逆なn次正方行列M に対し, expL:=∑

ν=0 Lν

ν! =M となる行列Lの存在を示せ.

ii) F の基底u= (u1, . . . , un)が特異点cj = 0の周りで定義するモノドロミー行列をM とするとき,

i)のLを用いてv=uxL,xL:= exp(−Llogx)とおくと,vの成分はcjの近傍で一価でcj を高々極 とすることを示せ.

iii) 特異点cj = 0の近傍でのFの基底が(5.3)のように取れることを示せ.

iv) このときxni aai(x)

n(x)x = 0を除去可能な特異点に持つことを示し,拡張した正則関数のx= 0 での値を求めよ.

以下の定理に述べるように.Fuchs型微分方程式の左W(x)加群として同型類はモノドロミーの共役 類*5と1対1に対応する.

定理 5.2.5. P, Q∈W(x)をFuchs型微分作用素とする.このときW(x)/W(x)P とW(x)/W(x)Qが W(x)加群として同型であることと,P u= 0とQv = 0において,モノドロミー行列が単位行列となら ない特異点の位置が同じで,モノドロミーが共役であることとは同値である.

注意 5.2.6. P =n+∑n1

i=0 ai(x)∂i∈W(x)で定まる微分方程式P y= 0に対し

Y =



 y y0

... y(n1)



, AP(x) =







0 1 0 · · · 0

0 0 1 0

... ... . .. . .. ...

0 0 0 · · · 1

−a0(x) −a1(x) −a2(x) · · · −an1(x)







としたときに一階の連立系 dxdY =AP(x)Y が得られる.さてPW(x)加群W(x)/W(x)P との関係 は前にみたが,上の連立系とこのW(x)加群の関係を見てみよう.

P u = 0 を満たす生成元 u W(x)/W(x)P より,W(x)/W(x)P は C(x) ベクトル空間として u, ∂u, . . . , ∂n1uによって生成される.従ってW(x)/W(x)P への作用をこの基底によって成分が C(x)の列ベクトルv∈W(x)/W(x)P に対する作用として書けば

∂v=tAp(x)v

と行列表示できる.従ってW(x)/W(x)P へのの作用の行列表示はP から得られる連立系の転置行列 として書けることがわかる*6

*5見かけの特異点のように単位元となるモノドロミー行列とその特異点は除いて,共役類を考える たとえば,(x2)F(α, β, γ;x)の満たす方程式は,x= 2に見かけの特異点を持つ

*6MP =W(x)/W(x)P とかき,MPの双対ベクトル空間MP fMP に対し,f(m) =f(∂m) (mMP)とし て右W(x)加群とみることができる.すると上の注意からMP へのの行列表示は{u, ∂u, . . . , ∂n1u}の双対基底をと

40 第5章 Fuchs型常微分方程式と一般化Riemannスキーム 定理の証明. W(x)/W(x)P とW(x)/W(x)Qが同型ということは,C(x)ベクトル空間としても同型な ので,

dimC(x)W(x)/W(x)P = dimC(x)W(x)/W(x)Q=n.

P y= 0から上記の注意のようにC(x)ベクトル空間の基底を取ってできる連立系を

∂Y =A(x)Y, (5.5)

同様にQz= 0に対応する微分方程式を

∂Z=B(x)Z (5.6)

と書いておこう.このとき W(x)/W(x)P と W(x)/W(x)Qが W(x) 加群として同型であるという ことは,その同型は C(x) ベクトル空間としての同型でもあるので,G(x) GL(

n,C(x))

によって Z =G(x)Y として与えられ,∂Y =A(x)Y を満たすということとZ =G(x)Y∂Z =B(x)Zを満た すということが同値であることを意味する.

言い換えれば,方程式の特異点を含まない任意の単連結開集合U 0に対して,方程式(5.5)の解の 基底y1, . . . , yn(

O(U))n

と,方程式(5.6)の解の基底z1, . . . , zn (

O(U))n

を適当に(同型に応じて)

取ったとき,Y= (y1· · · yn)∈GL(

n,O(U))

,Z= (z1 · · · zn)∈GL(

n,O(U))

とおくと ZY1∈GL(

n,C(x)) となることである.

一方で特異点cj を回るループγj に対して

γjY=YMj, γjZ=ZNj

なるMj, Nj ∈GL(n,C)が決まるが,

ZY1∈GL(n,C(x))⇔γjZY1=ZY1(j= 0, . . . , p)

ZNjMj1Y1=ZY1 (j= 0, . . . , p)

⇔Mj =Nj (j= 0, . . . , p) となって定理の主張が従う.