第 6 章 Fuchs 型微分方程式の簡約化 51
6.2 簡約化と既約性
∑p j=0
m2j,1−(p−1)n2−
∑p j=0
(mj,1−d)2+ (p−1)(n−d)2
= 2d
∑p j=0
mj,1−(p+ 1)d2−2(p−1)nd+ (p−1)d2
=d (
2
∑p j=0
mj,1−2d−2(p−1)n )
= 0.
また,
∑p j=0
nj
∑
ν=1
mj,νλj,ν−
∑p j=0
nj
∑
ν=1
m0j,νλ0j,ν =m0,1(µ+ 1)−(m0,1−d)(1−µ) +µ (
n−m0,1−
∑p j=1
(n−mj,1) )
= (∑p
j=0
mj,1−d−(p−1)n )
µ−m0,1d−(m0,1−d) =d.
よって主張が従う.
6.2 簡約化と既約性
まず,Fuchsの関係式から以下の既約性の結果が従うことがわかることに注意しよう.
定理 6.2.1. P をFuchsの関係式(5.10)を満たす(5.9)のRiemann図式{λm} を持つn階のFuchs型 微分作用素とする.このとき,0< n0< nを満たすn0とn0の分割の組m0=(
m0j,ν)
0≤j≤p 1≤ν≤nj
で以下の条 件を満たすものが存在しなければ,P は既約である.ここで,いくつかのm0j,ν は0でもよいとする.
m0j,ν ≤mj,ν (0≤j ≤p, 1≤ν≤nj),
∑p j=0
m∑0j,ν−1 i=0
(λj,ν+i)
− (p−1)n(n−1)
2 ∈ {/ 0,−1,−2, . . .}. (6.8)
Proof. 可約ならばP u= 0の解が定義するn次元の多価関数の空間F に含まれる.よって,より小さな
n0次元の多価関数の空間F0があって,それはあるFuchs型微分方程式P0v= 0の解の空間となる.P0 はFuchs型であるが,c0, . . . , cp以外に見かけの特異点c01, . . . , c0qがあり得る.Pのcj での特性指数の集 合は{λj,ν |i= 0, . . . , mj,ν−1, ν = 1, . . . , nj} であるから,定理5.1.9ii) より,P0のcj での特性指数 の集合は,あるn0の分割m0j,1, . . . , m0j,n0
j によって
{λj,ν+kj,ν,i |1≤i≤m0j,1, ν = 1, . . . , nj}
と表せる.ただし,kj,ν,i は0 ≤ kj,ν,1 < kj,ν,2 <· · · < kj,ν,m0j,ν < mj,ν を満たす整数である.同様に 見かけの特異点c0j における特性指数の集合は,0≤ kj,10 < kj,20 <· · · < k0j,n0 を満たすある整数k0j,iに よって
{k0j,i|1≤i≤n0} と表せる.P0に対するFuchsの関係式から定理の主張が得られる.
58 第6章 Fuchs型微分方程式の簡約化 さてこのことから次のようなことがわかる.{λm}がm=m0+m00, 0<ordm0 <ordmを満たす 任意のm0,m00∈ Pに対して,
|{λm0}|∈ {/ 0,−1,−2, . . .} (6.9) を満たすならば,Riemann図式{λm}をもつFuchs型微分作用素は既約である.
命題 6.2.2. kを正整数,m∈ Pp+1(n) を素で実現可能とする.
i) λj,ν (j = 0, . . . , p, ν = 1, . . . , nj)を(Fuchsの関係式のもとで) 一般の値にとったとき,Riemann 図式{λm}を実現するFuchs型微分方程式は既約である.
ii) idxm<0とする.i)と同様λj,ν を一般の値にとると,スペクトル型kmに対し,Riemann図式 {λkm}を実現するFuchs型微分方程式は既約である.
Proof. i) を 示 す .い ま ,m が m = m0 +m00,0 < ordm0 < ordm と 分 解 で き て ,|{λm0}| ∈ {0,−1,−2, . . .} となったとする.しかし |{λm}| = 0 より,一般の値 λj,ν に対して,|{λm0}| ∈ Z とするにはある正整数lがあってm=lm0 とならなければいけない.しかしmは素なので,このよう なmの分解は存在しない.よってこの節の初めに見たことより,実現する微分方程式は既約.
ii) も 同 様 に 示 す こ と が で き る .実 際 km = m0 + m00,0 < ordm0 < ordm で ,|{λm0}| ∈ {0,−1,−2, . . .}を満たす分解があったとすると,ある正整数l < k があって,m0 = lmでなければ いけない.しかし,このとき
|{λlm}|=
∑p j=0
nj
∑
ν=1
lmj,νλj,ν −ordlm+l2 2idxm
=l(
ordm−kidxm 2
)−lordm+l2 2idxm
= l(l−k)
2 idxm>0
となり|{λm0}|>0となって仮定に反する.従って実現する微分方程式は既約である.
既約に実現可能なm∈ Pは,素でないならばidxm<0となることが第7章3節で示されるので,ス ペクトル型mとFuchsの関係式を満たすgenericな特性指数を持つ微分作用素P に対するRAd (∂−µ) などの作用素は,一般には既約性を保つことがわかる.
より具体的に次の定理を用いて既約性を調べてみよう.
定理 6.2.3 (Tsai [Ts, Corollary 5.5]). Q∈W[x]はCの中でc1, . . . , cpに特異点を持ちそれらはすべて 確定特異点*2であるとする.そして各x=cj では特性指数
{[0](mj,1),[λj,2](mj,2), . . . ,[λj,nj](mj,nj)}
を持つとしてさらにλj,ν ∈/ Zであるとする.このときQがW(x)の中で既約ならば,Qの簡約代表元 RQで生成されるW[x]の左イデアルW[x]RQは極大イデアルとなる.
*2実際のTsaiの定理では不確定特異点でも良く,他の条件ももう少し弱くできるのだが,簡単のため確定特異点とした.ま た,x=∞に関してはなにも条件もつけていないことに注意
6.2 簡約化と既約性 59
またLaplace変換で特性指数がどう変わるかを特別な場合にみておく.
命題 6.2.4. Q∈W[x]がQ=
m0
∑
i=−k
xiqi(ϑ)と多項式qi(s)を用いて書けているとしよう.ここでm0,k は非負整数で,qm0 6= 0, k >0であるとする.さらにx=∞はQの確定特異点で,Qはx =∞で特性 指数
{[λ1](m1), . . . ,[λn](mn)}
を持つとする.このときL(Q)はx= 0を確定特異点として持ち,そこでの特性指数は {[0](m0),[λ1−1](m1), . . . ,[λn−1](mn)}
である.
Proof. もしi≥0ならば
L(
xiqi(ϑ))
= (−∂)iqi(−ϑ−1) であるので,ある多項式rj(x) (j= 1, . . . , k)があって
L(Q) =
m0
∑
i=0
(−∂)iqi(−ϑ−1) +
∑k j=1
xjrj(ϑ) と書ける.よって主張が従う.
ここからは話を簡単にすために,特性指数たちを一般のパラメーターだと思って議論すすめる.すな わち,Fuchs型微分方程式P u= 0がRiemann図式(5.9)を持つとして,(
λj,ν
)
0≤j≤p 1≤ν≤nj
はただ一つの関 係式
|{λm}|= 0
を満たす以外は互いに独立なパラメーターと思うことにする.さらにこの(λj,ν)0≤j≤p 1≤ν≤nj
がC上生成する 体をC(λ)と書こう.C(λ)でその代数的閉体を一つ固定する.そして
W[x;λ] =W[x]⊗CC(λ) ={ Q=
∑n i=0
ai(x)∂|ai(x)∈C(λ)[x]}
とおいて,今後微分作用素の演算はこのW[x;λ]のなかで考えることにする.またW(x;λ)も同様に定 義する.
また定理6.1.2の時と同様にmj,1= 0 (j= 1, . . . , p)も許すとして,
{
λj,1= 0 (j= 1, . . . , p),
|{ λm
}|= 0 (6.10)
に制限して考えることにする.以上の準備の下,RAd (∂−µ)が既約性を保存することをみてみよう.
定理 6.2.5. P は上のとおりとし, W(x;λ)の中(あるいは,(6.10) を満たすgenericな複素数)で方程 式P u = 0は既約であるとする.このときµ=λ0,1−1とおくと,ordP >1ならばRAd (∂−µ)RP も また既約となる.
60 第6章 Fuchs型微分方程式の簡約化 Proof. 定理6.2.3よりRP はW[x;λ]の極大イデアルを生成する.Laplace変換は代数同型写像なので LRP も極大イデアルを生成する.よって LRP /∈ C(λ)[x]ならば,LRP は W(x;λ) の中で既約であ る.そこで,もしLRP ∈C(λ)[x]だったとすると,ある多項式f(x) ∈C(λ)[x]があって,RP =f(∂) だがともに既約なのでf(x) は一次式.これはordP > 1に反する.よってL RP はW(x;λ)で既約.
またRAd (x−µ) は既約性を保存するのでRAd(x−µ)L RP は W(x;λ)で既約.ここで命題6.2.4より RAd(x−µ)L RP はx= 0で確定特異点で,特性指数
{[−µ](∑p
j=1
∑nj
ν=2mj,ν−n),[0](m0,1),[λ0,2−1−µ](m0,2), . . . ,[λ0,n0−1−µ](m0,n
0)
}
を 持 つ .よ っ て 再 び 定 理 6.2.3 よ り RAd (x−µ)L RP は W[x;λ] の 極 大 イ デ ア ル を 生 成 す る の で RAd (∂−µ)P = L−1RAd (x−µ)L RP は C(λ)[x] の元でなければW(x;λ) の中で既約となり主張が 従う.逆にC(λ)[x]の元であったとしてみると,P の既約性からあるα∈C(λ)[x]があって
RAd (x−µ)L RP =∂+α, すなわち,あるf(x)∈C(λ)[x]があって
L RP =f(x)(ϑ+αx−µ)
となる.よってRP =f(∂)(−ϑ+α∂−µ−1)だが,これはPの既約性とordP >1に反する.
注意 6.2.6. また定理の証明からordP = 1の場合も有限の特異点が2点以上あれば既約性が保存される こともわかる.