問題が生じたりした場合の地方自治体内での対応や役割分担を定めておくことなどが有効と考え られる。
災害時に女性に対する暴力が発生することは多くの研究成果から示されており38、物理的な対応 策として暴力に対する避難所(シェルター)を設け、女性やその家族(とくに子供)を保護する 必要がある。ボリビア国においても、実数は明らかではないものの同様の災害時の暴力発生数増 加の情報は複数の機関で聞き取りがなされたが、災害時にそのような施設を増設したという情報 は無く、ベニ県での聞き取りでも同県内の常設シェルターは 3 箇所であり、予算不足でまだまだ 需要に対して追いつかないのが実状とのことであった39。通常の暴力被害に対してのシェルター施 設数が不十分である状況であることから、災害時に暴力被害者への対応が満足に行われていると は考えられず、今後の防災とジェンダーの課題のひとつであるといえる。この課題への対応とし ては、物理的にシェルターを増やすことが出来れば直接的な効果が見込めるであろうが、防災活 動としてシェルターを増やすことは非現実的な策と考えられる。まず被害の対象となる女性を対 象に災害時の心構え(一人で活動しない、被害にあっても泣き寝入りしないこと等)や自衛用の 用具を携行することなどを防災教育の一環として行うことが効果的と考えられる。
また、災害時における避難が長期化することで単調な日常に加えて収入が減少することによる 精神的苦痛、ストレスの蓄積を問題視する意見が複数確認された。このような事態を想定し、事 前に災害時の心構えについての講習や職業訓練活動への備えを行うことを検討する必要がある。
次図 に災害時のジェンダーを取り巻く課題について示した。
図 6:災害時のジェンダーを取り巻く課題(調査団作成)
2)支援ニーズ
前項においてボリビアにおける防災とジェンダーに関する課題を 4 項目示したが、各課題に応 じた具体的な支援ニーズと支援を行う際の留意点を次に示す。
① 防災データの収集と蓄積
38池田恵子(2014)、ジェンダーの視点から考える防災・減災~災害により強い社会の創生に向けて~ 第 209 回 FASID BBL セミ ナー、2014 年 12 月 12 日
39 ベニ県庁人間開発局での聞き取り(2016 年 2 月 19 日)
防災関連のデータを蓄積・分析し、これを緊急対応計画や予算配分に活用することで、防災に おけるジェンダー配慮、主流化を推進すべきことを既述した。この活動は中央政府の防災セクタ ーが主体となり関連機関および地方自治体と連携して進めるべきものである。現状ではデータの 収集方法(様式)は整理されているものの、収集方式(調査頻度、時期、調査主体とその責任、
集計・分析方式など)は標準化されていないようである。漏れのない確実なデータ収集と集計、
分析を行うためには、関係機関がデータ収集・分析の目的を理解し、相互に協力し責任を果たす ことが求められる。
現時点でのデータ収集方式は、①国勢調査による画一的な人口・生活水準などについての統計、
②「EDAN」による災害時の各種セクターに関わる調査、③「SIPPASE-VRG」による暴力に関わる調 査があるが、それぞれのデータの性質や管理機関は異なっている。また、①の国勢調査結果につ いては世銀の協力の下で UDAPE により市町村単位の災害リスク評価に用いられているが、②「EDAN」
や③「SIPPASE-VRG」のデータの取り込みには至っていない。
このような状況から、観点の異なるデータを蓄積・整理し、防災事業に活用するための下地造 りをおこない、5~10 年単位の中長期的な計画に基づいたデータ収集・分析活動が必要と考えら れる。そのためにはベースライン調査、組織連携計画、データ集計・分析方式の策定、データ分 析技術者の養成について支援を必要とすると考えられる。現状でも UDAPE を対象に世銀による災 害リスク分析への支援が行われているが、ドナーの支援の対象機関を拡げたうえで、より効果的、
効率的なデータ収集・分析を行えるような体制構築を目指すプロジェクトを立ち上げるべきであ る。このような支援内容はボリビア政府からの直接的なニーズとして示されたものではないが、
ボリビア国の中央政府機関が現状の防災とジェンダーの問題点を認識することで、その必要性は 理解されるものと考えられる。
日本では国勢調査に基づいた基本データが存在し、災害被害については国や管轄の地方自治体、
研究機関、大学などによる調査データが存在し、公開されている。防災政策については内閣府が 中心的な役割を果たし、ジェンダー課題を含めた各種防災関連事項の検討がなされている。ボリ ビア国においては国の機関として INE が存在しデータを管理しているが、全てのデータが集積さ れ一元管理されているわけではないので、防災とジェンダーの課題を扱うにあたっては防災関係 セクター(VIDECI など)が中心になり、必要な情報を集積し分析に用いるようにとりまとめ、UDAPE のような政策研究機関と連携する体制を構築するべきと考えられる。つまり、既往の機関の役割 や特性を活かした組織体制作りが必要と考えられる。
②
防災事業における女性の視点と参画の促進
ボリビア国においても防災セクターにおける女性の参画や地域での防災活動における女性のリ ーダーシップの発揮が重要な事項であることは前項で述べた。ただし、単に女性の視点を設けた り参画を促したりするだけであればジェンダー主流化を考慮した防災活動とはならない。なぜ防 災におけるジェンダー主流化が必要なのか、防災におけるジェンダー配慮によってどのようなメ リットがあるのか、実施しないデメリットは何か、という事項を理解したうえで中央政府や地方 自治体が自主的に活動することが必要である。
具体的な支援ニーズとしては、ジェンダー主流化を目的として中央政府や地方自治体の職員を
対象に国際的な防災主流化の動向やジェンダー課題の防災における位置付け、ボリビア国におけ るジェンダー課題の評価といった事項をレクチャーし、理解を促進することが求められる。した がって、ドナーを主体とした国際機関の協力によってボリビア政府におけるジェンダー主流化を 促進する活動が必要と判断される。
女性の防災活動への参画という観点ではボリビア国では災害時の避難所の運営や災害に強い住 環境の構築などで女性の活動ポテンシャルが高いことが伺えた。マチスモの影響で弱い立場であ るとされる女性が、災害時には強さや行動力を発揮しているケースが多く見受けられ、女性の活 動ポテンシャルは未知の可能性を有していると考えられる。したがって、地方自治体やコミュニ ティー・レベルを対象として防災活動への女性の積極的な参加を促すセミナーや講習会を開催す る意義が大きい。これらの活動によって、女性の積極的な参加によるジェンダー課題への取り組 みや災害から回復する力(レジリエンス)の強化も見込める。
他の支援ニーズとしてはコミュニティ単位の防災能力の向上を目的として早期警戒活動や避難 訓練、ハザードマップの活用など基本的な防災教育を女性におこなうことが考えられる。特に男 性は労働のため昼間は家を空けることが多いが、女性は生活環境を守る立場にあるのでコミュニ ティを守る防災リーダーとしての活動をおこなう役割が求められる。このような女性を対象とし た防災リーダーの育成による能力開発は、ジェンダー課題への女性の積極的な関わりを生むこと も見込まれ、非常に効果的な支援活動と考えられる。
③ 災害対応に係る知見の共有
既往災害による経験を災害に備えるための防災活動に生かすことは重要である。災害常襲地域 における教訓やそれから得たノウハウを周辺自治体と共有し地域の防災対応能力を高めることが 効果的である。またこの取り組みは防災関連の全ての活動に対して行うべきものであり、災害直 後の混乱期の女性に対する暴力の増加や避難所のプライバシー確保などジェンダーに関わる事項 を含めて扱う必要がある。
この活動を推進するためには地方自治体間の連携を推進するための災害の教訓やジェンダー配 慮へのノウハウなどを共有するための支援ニーズに対応する必要があり、運営を推進する主体と なる国や県レベルでの組織作りや活動計画の立案からスタートすべきである。中米諸国では市町 村連合などの組織があり、運営主体となって防災活動の情報共有を行ったり、同じ災害種の被害 が顕著な地方自治体が相互に支援活動を行ったりするケースもみられる。ボリビア国においても このような活動の可能性についてベースライン調査を行い、実施に向けた支援活動を行うことが 望まれる。ボリビア国の地方自治体は交通上の遠隔地もあるのでそれほどの会合の頻度は望めな い。従って、Web システムを用いた情報共有のためのシステムを開発し、すべての防災関連セク ターからの閲覧が可能とするなどの情報ツールの導入も効果的と考えられる。
④ ジェンダー特有の課題への対応
災害時の暴力、性的被害の増加に対する対応は、災害が発生してからの治安維持や避難所の整 備までの時間をスピーディーに行うことで大きな効果が見込めると考えられる。このためには、
防災関係機関と関係セクターが災害発生を想定して初動体制の手順を確認し、問題の生じた場合 の対応についても共通認識を持つことが必要である。災害の発生を想定し関係セクターが一様に