第 4 章 低温測定 25
4.3 量子ホール効果
る。縦抵抗率がディラック点の両側で対称に ρxx = 0となっていると同時に、横抵抗率 はホールプラトーを観測した。この量子化値は、式(2.52)の占有率ν = ±2,−6に従って いる。
実験 ソースドレイン電圧をVsd = 100 mVに固定し、磁場 Bを15 Tから 1 Tまで2 T ずつ変化させながら、バックゲート電圧Vbgを-25 Vから25 Vまで変化させて、抵 抗率ρを測定した。
この結果から、縦軸を磁場、横軸をバックゲート電圧としたときの縦抵抗率の2次元 プロットを行い、ランダウファン図を作成した。それが図4.8である。図中の直線は、式
-20 -10 0 10 20
5 10 15
= 2 = 6
V bg
(V)
B(T)
0.000 2500 5000
図4.8 縦抵抗率の2次元プロット
(2.30)、(2.50)、(4.7)より、
B= Cbgh
νe2 ∆V (4.8)
として、ν =2l (l= ±1,±2,· · · ,±5)の場合をプロットしたものである。この結果から、量 子ホール状態の広がりが式(4.8)に従っていることがわかる。
縦抵抗率において、谷が観測されたのは、ν = ±2でB ≥ 3 T、ν = −6でB ≥ 7 Tであ り、ρxx =0が実現されるのは、占有率ν =−6,−2,2でB≥7 Tの領域であった。
これら2つの実験結果から、本試料では、B≥7 Tの領域において、単層グラフェン特 有の半整数量子ホール効果が発現していると考えられる。
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第 5 章
原子間力顕微鏡によるグラフェン表 面の不純物の除去
5.1 原理、先行研究
原子間力顕微鏡(AFM)は、走査型プローブ顕微鏡の1種で、試料と探針の原子間に働 く力を検出してイメージを得る装置である。探針はてこになっており、先端と試料表面と の力学的相互作用によりてこがたわむ。そのたわみを電気信号として検出する仕組みであ る。図5.1は使用したAFMの装置のマニュアルから引用した装置の概略図である。
図5.1 原子間力顕微鏡
AFM には2種類の測定方法があり、一つはタッピングモード、もう一つはコンタクト モードである。タッピングモードは、てこを共振周波数付近で振動させ、試料表面を断続 的に接触しながら走査するモードである。この方法では、試料へのダメージが少なく、柔 らかい試料の測定に適している。一方、コンタクトモードはてこを振動させず、静的な状 態で常に接触させながら、試料表面をスキャンするモードである。試料表面に探針が接触 するので、柔らかい試料の測定には向いていない。比較的硬い試料であれば、より高解像
度の像を得ることができる。
グラフェンは、プロセスの都合上、表面にレジスト残渣などの不純物が残る。しかし、グ ラフェン表面と不純物の接着がそれほど強くないため、AFMのコンタクトモードを用い ることによって除去できることが報告されている[12]。また、ディラックポイントが変化 するという現象や、移動度が向上するという現象が観測されている[12]。我々は、これを 参考にし、グラフェンの不純物が量子ホール効果にどう影響を与えるかを調べるため実験 を行った。
5.2 グラフェンクリーニングのテスト
まず、テストサンプルを用いて、我々の実験環境において表面不純物の除去ができるか どうかを調べたのでその結果を記述する。図5.2はタッピングモードを用いてサンプルの 全体像をイメージしたものである。
図5.2 テストサンプルのAFM像(タッピングモード)
外側に伸びているのは金属端子である。金属端子の端の左側が白くなっているのは、グラ フェン表面の凹凸がわかるように条件を合わせたために大きな段差をきれいにイメージで きなかったためである。グラフェンの表面に小さな円状のものがあるがこれが不純物であ ると考えられる。次に、コンタクトモードによる描画を行う前と行った後のグラフェン表 面のイメージを図5.3、5.4に示す。ともにタッピングモードによる描画である。
5.2 グラフェンクリーニングのテスト 33
図5.3 クリーニング前のAFM像(タッ ピングモード)
図5.4 クリーニング後の AFM像(タッ ピングモード)
図5.3 を見てわかるとおり、グラフェンの表面に無数の不純物がついていることがわか る。この不純物を除去するために、コンタクトモードで探針の触圧を23nNにして、表面 を複数回スキャンした。より強い触圧でもクリーニングできたのだが、一部でグラフェン の破壊が見られたので、クリーニングは弱い触圧で複数回行ったほうが、グラフェンへの ダメージが少ないと考えた。クリーニング後のタッピングモードによる画像が図5.4であ る。表面が平たんになっていることがわかる。グラフェンの端がぼけているように見える のは、探針に不純物が付着したため、解像度が落ちているためであると考えられる。最後 にクリーニング後のグラフェンのイメージを、コンタクトモードを用いて作成したので図 5.5に示す。
図5.5 クリーニング後のAFM像(コンタクトモード)
グラフェン表面に観察できる線状のものはグラフェンの転写時に発生したしわであると考 えられる。このようにして、グラフェン表面をクリーニングできることを確認した。
5.3 低温測定後の試料を用いたグラフェンのクリーニング
移動度の向上を目的として、前章で用いた試料 Fのホールバーのクリーニングを行っ た。まず、低温測定後の試料の光学顕微鏡によるイメージを図5.6に示す。
Hallbar
図5.6 低温測定後の試料(光学顕微鏡)
低温測定前の画像(図3.5)と比べて、表面が汚染されていることがわかる。これは低温測 定後の試料引き上げ時に付着したものであると考えられる。また、ホールバーの部分を タッピングモードにて観察したものを図5.7に示す。
図5.7 低温測定後の試料のAFM像(タッピングモード)
ホールバーの境界が分からなくなるほど表面が汚染されていた。(場所の特定は周囲の 金属端子を参考に行った。)そのため、先ほどのテスト時と同じ条件でクリーニングを数 回行った。図5.8〜図5.11にクリーニングの過程におけるコンタクトモードのイメージを
5.3 低温測定後の試料を用いたグラフェンのクリーニング 35 示す。クリーニングを行うにつれて、少しずつグラフェンの表面が観察できるようになっ
図5.8 スキャン2回目(コンタクトモード) 図5.9 スキャン3回目(コンタクトモード)
図5.10 スキャン5回目(コンタクトモード) 図5.11 スキャン6回目(コンタクトモード)
ていることがわかる。水平方向に走っている直線は不純物が移動しているときにイメージ として写るものである。最後にクリーニング完了後のコンタクトモードによるイメージを 図5.12に示す。グラフェンの表面が平たんになっていることがわかる。したがって、グ
図5.12 クリーニング後(コンタクトモード)
ラフェン表面の汚染を除去できていると考えられる。
しかし、再び伝導特性を評価しようとしたが、すべての端子において導通が見られな かった。これは、試料引き上げの際にグラフェンと金属端子が接触不良を起こしたか、ク リーニングの際にグラフェンを破壊してしまったのではないかと考えられる。
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第 6 章
結論
本研究では、CVDグラフェンにおける量子ホール効果を観測することを目的として、
試料の微細加工及び低温における電気伝導特性について評価した。また、移動度を改善す るためにAFMによるグラフェン表面のクリーニングについて検討した。
キャリア密度操作について
低磁場領域における、横伝導率の磁場依存性からキャリア密度を評価した結果、実 験値から計算したキャリア密度とバックゲート電圧との関係式は、SiO2 をコンデ ンサーとして理論的に計算した式に一致した。これはバックゲート電圧によりキャ リアが正しく励起されているということを意味している。
移動度について
ゼロ磁場における、縦伝導率のキャリア密度依存性から移動度を評価した結果、本 試料では我々がゲート操作を行った領域においてµ= 2500〜8000 cm2/V·sである ことがわかった。この値は、SiO2 の上にあるCVDグラフェンの移動度としては、
他の文献値[9, 10] と比べて同等かそれ以上であるといえる。
量子ホール効果について
強磁場領域において抵抗率のバックゲート電圧依存性を測定した結果、縦抵抗率に 関してディラック点の両側で対称にρxx =0が実現され、横抵抗率に関して占有率 ν= ±2,−6のホールプラトーを観測した。また、縦軸をB、横軸をVbgとしたとき の縦抵抗率ρxxの2次元プロットは、占有率ν =−6,−2,2においてρxxが極小値を とっており、ランダウファンを表していた。これらの2つの実験結果より、単層グ ラフェン特有の半整数量子ホール効果を確認することができた。
AFMによるクリーニングについて
AFMのコンタクトモードを用いてグラフェン表面の不純物を除去する方法を検討 した結果、強い触圧で一度に不純物を取り除こうとするよりも、弱い触圧で複数回
行うほうが適していることを確認した。この方法により、グラフェン表面の不純物 をほぼ除去することに成功した。
以上のように、本研究では単層CVDグラフェンの低温における古典的な電気特性及び量 子ホール効果を評価することができた。また、AFMによって表面の不純物を取り除くこ とができることを確認した。しかし、端子が導通不良となったため、AFMによる不純物 除去後の移動度の変化を評価することはできなかった。その原因として、金属-グラフェ ン間の接触不良及びクリーニングの際のグラフェンの破壊の可能性が考えられる。これら の問題を、試料作製条件の最適化によって解決することにより、CVDグラフェンの利点 を生かしたさらなる物性探索が期待される。