2.1 試験研究業務
2.1.3 重要技術の競争的研究開発
〔研 究 題 目〕体内時計遺伝子情報の解読による利用技 術の研究
〔研究担当者〕石田直理雄、宮崎 歴
〔研究 内 容〕 我々はこれまで
Rper2
遺伝子の末梢での 日周発現が中枢(SCN)により支配されることや中枢と 末 梢 で の 時 計 分 子 機 構 が 異 な る こ と を 報 告 し て き た(J.Biol.Chem.273, 27039-27042, 1998, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96, 8819-8820, 1999
)。さらに本年はper1、per2、per3の 中 で 末 梢 時 計 の 光 同 調 に はp e r1
が 重 要 で あ る こ と(European J.of Neuroscience 12,
4003-4006, 2000
)や哺乳類
Timeless
様遺伝子のクローニングと単独核移行能の発見
BBRC 279, 131-138, 2000
)や哺乳類末梢時計の同 調に松果体由来メラトニンは必要でないこと(Brain Res. 印刷中)等を見い出した。
SCN
由来遺伝子ライブラリーよりクローン化した時 計制御遺伝子DOU
の全長クローニングに成功した。ま た哺乳類per
相同遺伝子とCRY
遺伝子をin vitro
で過剰 発現させた結果、核移行が確認された。per相同遺伝子 の核移行シグナルの同定にも成功した。シアノバクテリアでは
Kai
遺伝子の発現制御機構やKai
蛋白の生化学的解析(結合やリン酸化)を進め、新 たな時計制御遺伝子SasA
の存在を見い出した(Cell101, 223-233, 2000)
。〔研 究 題 目〕ゲノム上の変異検出・クローニングのた めの新技術の開発
〔研究担当者〕木山 亮一、町田 雅之
〔研 究 内 容〕本研究は、ゲノム解析にとって不可欠な 変異部位の検出・クローニング技術を完成させるため、
我が国で独自に開発された新しいゲノムサブトラクショ ン法(IGCR法)とサブトラクションにより得られた電 気泳動試料を
DNA
レベルで可視化する新技術である原 子間力顕微鏡(AFM)を併用することにより、2種の ゲノム間の塩基配列の違いを包括的かつ高精度に比較す る技術を確立し、それらの技術を用いた総合的なストラ テジーを構築することを研究の目的とする。本研究は平 成9〜12
年度の4年計画で、本年度は最終年に当たり、次の研究内容を行った。(1)IGCR法を用いてがん組織 と正常組織由来のゲノム
DNA
の間でサブトラクション ライブラリーを作成し、得られたクローンの解析の結果、LOH(Loss of Heterozygosity)を示す部位の染色体上の
位置を決定した。その内4か所についてさらに解析を続 け、2か所については候補遺伝子が得られた。現在、そ の遺伝子の機能について解析を行っている。(2
)上記の 腎がんゲノムDNA
解析の結果得られたLOH
情報を元に マイクロアレイを作成し、それを用いてGenotype
情報 を得ることにより、腎癌診断のためのLOH
情報を高速 に得る手法の開発の可能性を検討した。(3
)本年度は、数
kbp
程度以上のDNA
断片中に存在する1塩基の変異を
検出するために、AFM法を用いて解析する技術を確立 するとともに、様々な種類の変異に対する信頼性・特性 の評価を行った。AFM法を用いた変異の解析では、検体
DNA
と標準DNAを混合して熱変性させ、再会合によ ってできるヘテロ二重鎖を用いる。この際、検体DNA
中に変異が存在すればその部位にミスマッチが生じるこ とから、ミスマッチ特異的に結合するMutSを結合させ
た後AFM
で測定することによって、1
分子から変異の 位置を特定することが可能となった。また、化学的合成 法とPCR
法との組み合わせを用いて、1
種類のミスマッ チのみを有するDNA
断片を作製し、本方法で検出可能 な変異の特異性の解析と評価を行った。その結果、全8 種類のミスマッチのうちC:Cミスマッチの検出効率が低
いことが明らかとなった。これにより、サブトラクショ ン法との組み合わせによって、様々な解析長に対応した 変異部位の検出技術が可能となった。〔研 究 題 目〕生体機能調節因子の探索・利用技術に関 する研究
〔研究担当者〕久保 泰、木村 忠史、岡本 治正、
玉野上佳明、岡村 康司、大塚 幸雄、
国分 友邦
〔研 究 内 容〕我々は昨年度までに脳神経系の機能蛋白 質としてセロトニン(5
HT)受容体、ムスカリン性ア
セチルコリン受容体(mAChR)、Ca2+チャネルに焦点を
当て、これらの機能蛋白質との特異的相互作用によりそ の機能を修飾する調節因子のスクリーングシステムを構 築した。今年度はさらに、ニコチン性アセチルコリン受 容体と内在性リガンドが未知の2種類のオーファン受容 体の生理活性測定システムを新たに開発した。これらは いずれも複数のサブタイプを有し、脳神経系に局在する ものは記憶、学習、情動などの高次神経機能に関与する ことが知られている。また、これらの機能蛋白質が関与 する神経疾患の治療薬あるいは痴呆改善薬の中で現在使 われているものは、サブタイプの識別が厳密でないこと に起因する副作用の問題が深刻となっている。そのため に、これらの機能蛋白質のサブタイプに特異的に作用す る治療・診断薬の開発が危急的課題である。平成12
年 度は、すでに構築した視床・視床下部、大脳皮質、小脳等の
cDNAライブラリーから無細胞系でタンパク質/ペ
プチドを合成した。また、有毒生物の毒産生組織には未 同定の生理活性物質が数多く存在することが推定される ため、我々は沖縄産ハブ(Trimeresurus flavoviridis)、
エラブウミヘビ(Laticauda semifasciata)、南米産サン ゴヘビ(Micrurus Coralinus)、ホンジュランイエロース コーピオン(Centruroides margaritatus)の毒腺やアズマ ヒキガエル(Bufo bufoformosus)の分泌腺を含む皮膚
から
cDNAライブラリーを調製した。これらの cDNA
ライブラリーから無細胞蛋白質合成系により蛋白質/ペプ チドを合成し、アミン類、アミノ酸等を含む低分子量分 画を除去した後、高感度生理活性測定システム系に供した。
その結果、内在性リガンドが未知のオーファン受容体
について、その細胞内カルシウムの増加を引き起こす分 画をブタ大脳ライブラリーより見い出した。現在その活 性分画の単離操作を行っている。また毒産生組織から調 整したcDNAライブラリーからは、イオンチャネルに対 するブロッカーと共通のシステイン残基配置を有する新 規ペプチド
cDNA
を単離した(サンゴヘビより10
種類、サソリより8種類)。これらのイオンチャネルブロッカ ー様ペプチドの一部について、その生理活性を調べた結 果、神経系ニコチン性アセチルコリン受容体の活性を効 率良くブロックすることが判明した
〔研 究 題 目〕情報伝達受容体・チャネル分子の可視化・
計測技術の研究
〔研究担当者〕岡部 繁男、海老原達彦、宮本 宏
〔研 究 内 容〕本研究計画では、生体情報伝達機構を分 子レベルで解明するために、組み換え
DNA技術により
生きた細胞内で受容体・チャネル分子の集合状態を光学 的に検出する技術を開発し、トランスジェニックマウス による遺伝子発現系と組み合わせることにより、生体内 での受容体・チャネル分子の輸送・動態を直接的に解析 するシステムを開発することを目指している。1)NMDA
受容体の細胞外ドメインにペプチドタグを付加する事で、NMDA受容体の
NR1
サブユニットの細 胞表面への発現機構を解析した。NR1サブユニットのsplice variantのうち、C
末端の細胞質ドメインが最も短 いもの(NR1-4)が最も細胞表面に発現しやすく、それと は対照的に、最もC
末端の細胞質ドメインが長いもの(NR 1 - 1 )は単独では細胞表面にほとんど発現しないこと
が明らかになった。NR1分子の
splice variant
は、脳組 織 に お い て 部 位 お よ び 時 期 特 異 的 に 発 現 し て お り 、splicing
によるNMDA受容体の細胞表面への輸送制御が行われていることが示唆された。
2)シナプス後部に存在する NMDA
受容体結合蛋白質であるPSD-95に
green fluorescent protein (GFP)による
蛍光タグを付加し、培養海馬神経細胞に発現させること で、シナプス後肥厚部(PSD) の経時的変化を可視化した。
PSD
の構造はダイナミックに変化しており、24
時間で20
%以上のPSD
が生成、消滅していた。内在性の神経 活動がPSD
の動態に与える影響を調べる為、AMPA受 容体、NMDA受容体、およびナトリウムチャネルの阻 害薬を用いて、神経活動をブロックしてPSD
の動態を 測定した。神経活動の抑制により、PSDのturnover
は 抑制され、シナプスの構造変化が神経細胞の興奮により 制御されている事が示唆された。3
)培養海馬神経細胞では、培養後10
日から20
日の間 に興奮性シナプスの局在が樹状突起のshaftからspineへ と変化する。この間のシナプスの形態形成と機能分子の 動態を解析する為に、シナプス後肥厚部の分布、シナプ ス小胞の分布、spineの形態をGFP
のvariant
であるCFP、 YFP
の蛍光シグナルを用いて可視化する事を試 みた。具体的には、PSD-95にYFP
蛋白を付加したPSD-95-YFP、およびシナプス小胞蛋白質であり、シナプス
前部マーカーであるsynaptophysinにCFP蛋白を付加し た、synaptophysin-CFPの2
種類のマーカー分子を同時 に海馬神経細胞に発現させた。この方法により、シナプ ス後肥厚部の構成蛋白質が既に伸長したfilopodia/spine
の中に集積し、シナプス後部構造の特異化が起こる過程 が観察された。また、シナプス後肥厚部の形成とシナプ ス小胞の集積はお互いに時間的に相関して起こることも 明らかになった。一方、既に樹状突起のshaft
に存在す るシナプス後肥厚部構成蛋白質は選択的に失われていく ことから、shaft synapseのspine synapse
への移行は、spine
局所での速やかなシナプス機能分子の集積と、shaft
からの選択的なシナプス構造の喪失によって起こると考察された。
4
)以上の培養細胞系で使用し、シナプス構造のマーカー分子として有用であることがわかった、PSD-95-GFP
およびsynaptophysin-GFPについて、マウス個体で の発現を観察するため、トランスジェニックマウスを作成 した。〔研 究 題 目〕酵母細胞壁糖蛋白質の成熟過程の解明と その感染阻害剤探求系への応用
〔研究担当者〕地神 芳文、仲山 賢一、新間 陽一、
横尾 岳彦
〔研 究 内 容〕酵母の細胞壁を構成する主要成分である マンナン蛋白質の細胞壁組込に関与する因子の特定を目 的とし、レポーター遺伝子を組み込んだ酵母を用いて変 異株の取得を試みた。レポーター蛋白質として溶菌活性 を持つヒトリゾチームと細胞壁に組み込まれるマンナン 蛋白質の一つである
Cwp2p
の融合遺伝子を作成し、酵 母の染色体に組み込んだ。野生型酵母では、この融合蛋 白質は細胞壁に組み込まれるために、リゾチーム活性は 培地中には検出されないが、マンナン蛋白質の細胞壁組 込に異常が起きた株では、この蛋白質が細胞壁に組み込 まれず培地中に放出される。この結果、細胞壁組込に関 する変異株では培養液中にヒトリゾチーム活性が検出さ れるようになる。この現象を指標に変異株をスクリーニ ングしたところ、TUS1遺伝子に変異が起こった株が取 得された。このTUS1
遺伝子にコードされる蛋白質は、1307アミノ酸残基からなり、β-1,3-グルカン合成の制御
を行っているRho1p
のGDP/GTP exchange proteinである
Rom1p、Rom2p
などと相同性を示すことが分かった。さらに、この蛋白質は、分泌シグナル及び膜貫通領域と 考えられる疎水性部分を持たないことから、細胞室内に 存在する蛋白質と推定された。この
TUS1
遺伝子の破壊 株を作成したところ、温度感受性とカルコフラワーホワ イトに感受性を示した。現在、この遺伝子の局在部位の解析及び、細胞壁構成成分に与える影響を解析中である。
〔研 究 題 目〕シナプス伝達機構の遺伝学的解明及び利 用技術の研究
〔研究担当者〕岩崎 幸一
〔研 究 内 容〕本研究では神経細胞間コミュニケーショ ンの素過程であるシナプス伝達機構を、遺伝学を用いて 解析する新手法を開発・発展させることに焦点をおく。
具体的にはまず、シナプス伝達を新しい角度から研究で きるよう遺伝学的解析を中心に新アッセイ法を開発す る。ここでは最近全ゲノム解析が行われた線虫の行動様 式を指標として用いた新しい遺伝学的実験系を開発しシ ナプス伝達解析に利用する。次に、この方法をシナプス 伝達異常による神経疾患等に対する治療薬剤等の研究開 発にも応用できるように発展させ、将来の新産業創出に 貢献する。
1)シナプス伝達に関与する既知のタンパク質の未知の 機能を明らかにする新解析法の開発。
本研究においては、この方法を用い、特に
Rab 3 GDP/GTP
交換因子の未知機能の解析を行った。Rab3GDP/GTP交 換因子は従来、Rab3タンパク質を結合し、GDP/GTP交 換を促進することにより、シナプス伝達を調節するタン パ ク 質 で あ る と 考 え ら れ て い た 。 本 研 究 で はRab3GDP/GTP
交換因子がRab3
以外のタンパク質と結合し、GDP/GTP交換因子の機能に依らない異なる経路 からシナプス伝達調節をすることを明らかにすることが できた。
2)シナプス伝達における逆向性調節経路に関与する遺 伝子の同定・解析
シナプス伝達が単に神経細胞から筋肉等の非神経細胞 の支配調節だけではなく、非神経細胞から神経細胞への シグナル伝達もある二方向性であり、しかもこの逆方向 性シグナル伝達がシナプス伝達効率等にきわめて重要な 決定因子であることを明らかにした。特に、本研究では この逆方向性シグナル伝達の調節に関与する新規タンパ
ク質
AEX-1
の同定・解析に成功した。〔研 究 題 目〕神経栄養因子によるシナプス可塑性と脳 神経機能の調節機構の研究
〔研究担当者〕今村 亨、鈴木 理、浅田 真弘
〔研 究 内 容〕脳神経機能を理解し、制御し、応用する 上で、その調節機構を解明することの必要性は極めて高 い。近年脳神経系において栄養因子として知られていた
FGF
群が脳神経系のダイナミックな機能調節に果たす重 要な役割が明らかになり、その機構を分子・細胞・個体 レベルで解明する事は、学問的にも、応用を視野にいれ た産業・医療利用上も大きな意義がある。本研究では、神経栄養因子によるシナプス可塑性と高次脳神経機能の 調節を遺伝子レベル・タンパク質レベル・細胞レベル・