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・地下にあるドライドックの遺構を地表面で示す方法については、妥当で相応しいものであるか を世界遺産としてきちんと検討する必要がある。全てがわかっていない段階で、憶測によって 大きさを表示することは価値を損ねることにもなりかねない。世界遺産として、ドライドック そのものでない表現を実施することには疑問がある。

・A案からE案は、長くても20〜30年程度の期間において暫定的に整備するものであり、未来永 劫にあり続けるものではないと考える。もちろん、誤った理解ではなく、どこまでが調査によ り把握された根拠ある情報なのかを明確に示した上で、現地において想像を膨らませるための プレゼンテーションの一環として行うものと理解している。それは、世界遺産でも史跡でも同 じものとして許容されているものである。

・考古学的な遺構自体は断片的なものであるから、その現物だけを展示すれば歴史がきちんと理 解されるというものではない。推測される上部構造物や人間の行動などを含めないと、遺構は 評価できないし理解はできない。もちろん、確実な部分と推測や仮説の部分という色分けは明 記されるべきであるが、それらが共存する表現の仕方は今後の復元や展示などで考えていくべ きものだと思う。

・遺跡での復元の問題と、展示で行うものとは区別をすべきであると思う。いくら推測による復 元であるとの説明を加えたとしても、現場でそれをやるのはまずいのではないか。展示におい ては、そのように説明していくことが欠かせないので、その違いはしっかり踏まえるべきだ。

・賛否両論はあるものの、このような指摘は基本中の基本。地下遺構の見える化を考えた際に、

今後のプレゼンテーションのあり方や展示としての表現と復元のあり方をどのように切り分け て考えるのかという議論が行われたことは、とても重要なことである。したがって、遺構表現 の検討で行われた議論のプロセスを、本計画の遺構表現の項に記録として記載しておくべきと 考える。

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②金属加工関連遺構

 修覆場地区においてドライドックと一体的に展開した金属加工施設は、a.鉄の鍛造関連施 設、b.鉄の鋳造関連施設、c.銅の鋳造関連施設、d.廃棄関連施設の4種に分類できる(図 107)。これらは、ドライドックと合わせて修船システムの特性を現すものである。しかし、その ほとんどは上部構造が無い状態で確認されており、出土遺物も少ないことから、三重津海軍所稼 働期にどのような形状をしていたかは不明な点が多い。

【表現すべき内容】

 金属加工関連遺構の上部構造は不明確な点が多く表現ができないことに加え、発掘により検 出された状態に近い形で立体的に遺構を表現したとしても、遺構が持っていた機能やそのつな がりを来訪者にわかりやすく示すことは難しい。

 そのため、現地での遺構表現としては、遺構の位置や平面的な形状を伝えるための平面表示 を行うことに留め、造船・修船システムのイメージを補完するデジタル技術を活用した表現や ガイドによる案内、サインによる説明の充実を図ることを基本として、わかり易い表現に努める。

 金属加工関連遺構のそれぞれの表現内容等については、以下のとおりである。

a.鉄の鍛造関連施設

 修覆場地区に展開した鉄の鍛造関係施設は、在来の鍛冶職人を中心に様々な作業が展開さ れたと考えられるが、その実態は不明である。関連遺物の出土状況から、ドライドックの上 流側、鉄の鋳造施設よりも、堤防側に分布していたと考えられるが、これまでの調査では明 瞭な遺構は確認されていないため、今後の調査の進展に応じて表現を検討することとする。

b.鉄の鋳造関連施設

 鉄の鋳造関係施設は、遺構の分布状況から、ドライドック上流側の堤防寄りに展開している。

図107 平面配置図

SX9009 石組遺構 SX9009 石組遺構 SX9004 炉状遺構 SX9004 炉状遺構

SX9001 溝状遺構 SX9001 溝状遺構

SX10007、10008 二連炉 SX10007、10008 二連炉 SK2001 廃棄土坑 SK2001 廃棄土坑

SK10018 廃棄土坑 SK10018 廃棄土坑 SX9015 炉状遺構 SX9015 炉状遺構

b. 鉄の鋳造関連施設 b. 鉄の鋳造関連施設

c. 銅の鋳造関連施設 c. 銅の鋳造関連施設 d. 廃棄関連施設

d. 廃棄関連施設 ドライドック ドライドック

0 50m

SX9009 石組遺構

SX10007・10008二連炉

SK10018廃棄土坑

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これまでの検出遺構や出土遺物から、その作業内容は、SX9009石組遺構は鋳型作製、SX 9015炉状遺構はこしき炉による鉄材の再溶解、SX9001溝状遺構は鋳込み(鋳造)であるこ とが判明している。

 よって、これらの各遺構の位置や、平面形状の表現を行う。

c.銅の鋳造関連施設

 銅の鋳造関連施設には、坩堝炉が確認されている。これは、地金を入れた坩堝ごと炉内の 坩台に据え付けて加熱して溶解させるものである。後述する廃棄土坑から出土した坩堝の中 には、強く被熱し、銅に由来する溶解物が付着しているものがあり、これらの坩堝がSX 10007やSX10008で使用されたと考えられる。

 そこで、銅の鋳造関連施設については、調査により明らかになった遺構の位置や平面形状 の表現を行う。

d.廃棄関連施設

 b.鉄の鋳造関連施設及びc.銅の鋳造関連施設から発生した廃棄物は、操業単位ごとに 廃棄土坑に投棄されたものと考えられ、SK10018、SK2001がその廃棄関連施設にあたる。

 よって、廃棄関連施設については、その位置や平面形状の表現を行う。

【前提条件】

・遺構面を確実に保護するため、十分な厚さの盛土を行うこと

・地下の遺構の保存環境(地下水位)に影響を与える改変は行わないこと

・大潮時の浸水による土砂や漂流物の影響を考慮し、できる限り維持管理を行いやすい形状と すること

【留意点】

・修覆場地区における金属加工作業の流れを理解しやすい表現手法とすること

・ARやVRなどのデジタル技術を用いた積極的に活用した解説の手法を取り入れること

・上屋等については正確な情報が不足しているため、今後の調査の進捗に応じて復元等の検討 を図ること

【表現手法の基本的な考え方】

a.鉄の鍛造関連施設

・今後の調査の進展に応じて、表現手法の詳細な検討を行う。

b.鉄の鋳造関連施設

・平面表示または立体表示とし、土や石をイメージしやすい素材、または原寸大の写真の採 用なども検討する。

・遺構表示に加え、ARやVRなどのデジタル技術による遺構ごとの作業風景の再現を検討 する。

c.銅の鋳造関連施設

・平面表示または立体表示とし、土や石をイメージしやすい素材、または原寸大の写真の採 用なども検討する。

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・遺構表示に加え、ARやVRなどのデジタル技術による遺構ごとの作業風景の再現を検討 する。

d.廃棄関連施設

・平面表示を基本とし、土をイメージできる舗装や素材による表現を検討する。

・平面表示に加え、ARやVRなどのデジタル技術による遺構ごとの作業風景の再現を検討 する。

③土堤盛土

【表現すべき内容】

・遺構の形状及び位置(空間スケール)

【前提条件】

・漁港利用に支障が出ないこと

・遺構面を確実に保護するため、十分 な厚さの盛土を行うこと

・地下遺構の保存環境(地下水位)に 影響を与える改変は行わないこと

・大潮時の浸水による土砂や漂流物の 影響を考慮し、できる限り維持管理 を行いやすい形状とすること

【留意点】

・ARやVRなどのデジタル技術を積極的に活用した解説の手法を取り入れること

【表現手法の基本的な考え方】

・平面表示を基本とし、土をイメージできる舗装や素材による表現を検討する(図108)。

④木杭群

 発掘調査の結果、掘立柱建物である可能性が判明したことから、今後の調査成果に基づき、そ の表現手法を検討する。

⑤旧堤防跡(保存堤防)

 旧堤防跡(保存堤防)については、現状を維持し、新たな遺構表現は行わない。

図108 土堤盛土の平面配置図

土堤盛土 平面表示 土堤盛土 平面表示 漁港範囲

漁港範囲

土堤盛土 調査・研究の進展に 合わせた表現検討 土堤盛土 調査・研究の進展に 合わせた表現検討

0 100m

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