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 表9に示した、これまでの発掘調査によって概要が判明している修覆場地区と船屋地区の一部の 主要な遺構、地上構造物、地形についての表現は、以下のように設定する。

 なお、これらの整備については、第3章第2節において、「地下遺構そのものの露出や、河川敷の 形状等の大幅な改変については行わない。」という方針を示しているところであるが、現状における 遺構表現としてどのようなものがより適しているのかについて、改めてここで検討を行うこととする。

 なお、今後も発掘調査を実施することから、その進展や成果に基づいて新たな表現が必要となっ た場合には、再検討を行う。

①ドライドック

 護岸遺構の木組みは、三重津海軍所跡の本質的価値の枢要となる遺構であり、来訪者にとって は史跡の「見どころ」でもある。したがって、当遺構の表現については、来訪者の理解が促進さ れるよう十分な工夫を施すことに留意する。

【表現すべき内容】

・全長約60m、幅約25mに及ぶ規模、形状及び位置(空間スケール)

【前提条件】

・遺構面を確実に保護するため、十分な厚さの盛土を行うこと

・地下の遺構の保存環境(地下水位)に影響を与える改変は行わないこと

・ 大潮時の浸水による土砂や漂流物の影響を考慮し、できる限り維持管理が行いやすい形状と すること

・現在の堤防構造に影響を及ぼさないこと

【留意点】

・ 木と土によって造られた階段状の側壁構造が理解されるように表現し、木造ドックと誤解さ れないように注意すること

・ 護岸遺構の木組みなど遺構面の表現には、リアリティが失われないような表示・素材とする こと

・ 地表面で行う遺構表示だけにとどまらず、ARやVRなどのデジタル技術を十分に用いた表 現とすること

 上記の内容を踏まえ、平面表示、立体表示、復元、露出展示の四つの手法をベースに五つの案 を作成して、現地におけるドライドックの表示方法について比較検討を行った。その比較検討の 概要及び委員会での意見については、表10及びP89~90に示したとおりである。

 その結果、表10内のC~Eの表現については、将来的に保存技術の向上や進展により実現の可 能性が高まった段階で再検討を行うこととし、現段階においては、地下遺構の確実な保護を最優 先に考慮した表10の「A:平面表示」及び「B:立体表示」をベースとした表現を採用し、今後、

整備手法や内容の具体化を行うものとする。

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A:平面表示 B:立体表示 C:復元(水なし) D:復元(水あり) E:露出展示

・遺構面を保護層で覆い、発掘時の原寸大の写真等

を用いて平面的に表示する。

・遺構面を保護層で覆い、実際の数分の1の深さで ドライドックの位置と平面上の広さを表現する。

・深さや素材感など、様々な手法が考えられる。

・遺構面を保護層で覆った上で適切な強度の護岸構 造物を設ける。その上に土の質感を再現した樹脂 やコンクリート等で往時のドライドックの姿を 再現する。

・遺構面を保護層で覆った上で護岸構造物を設け る。その上に土の質感を再現した樹脂やコンク リート等で往時のドライドックの姿を再現する。

・遺構面そのものに薬剤処理等を施し、劣化を防ぎ ながら実物を展示する手法だが、現時点ではドラ イドックを確実に保存しながら展示できる手法 が確立されていない。

・平面表示による雨水の浸透状況の変化には配慮す る必要があるものの、基本的に現在の保存状態を 維持できる。

・立体表示による雨水の浸透状況や高潮時の排水な どには配慮する必要があるものの、地下水位より も高い位置での立体表示とすることで現在の保 存状態を維持できる。

・遺構の保存環境を大幅に変えてしまう可能性が高

・地下水を遮断することで遺構の保存環境を改変すい。

る可能性がある。

・地盤改良などが必要となる可能性が高く、遺構面 への影響が懸念される。

・整備前に遺構への影響を図るための調査やモニタ リングを行う必要があり、多大な時間がかかる。

・ドライドック全体を掘り起こすレベルの大規模な 調査が必要となる。

・遺構の保存環境を大幅に変えてしまう可能性が高

・酸素が多く含まれた水が遺構面に触れることで遺い。

構の保存状態を悪化させる可能性がある。

・地盤改良などが必要となる可能性が高く、遺構面 への影響が懸念される。

・整備前に遺構への影響を図るための調査やモニタ リングを行う必要があり、多大な時間がかかる。

・ドライドック全体を掘り起こすレベルの大規模な 調査が必要となる。

・地下に埋設されることで良好な保存状態を保って きたドライドックを、常時露出することになる。

・遺構を露出した場合、遺構が乾湿の繰り返しにさ らされることになり、遺構を大きくき損すること になる。

・ドライドックの位置と平面的な大きさを正確に表 現することが出来る。

・ドライドックの位置と平面的な大きさは正確に表 現出来るが、深さは実際の数分の1となるため、

正確性に乏しい。

・保護層や護岸構造物等を設ける必要があるため、

平面的な大きさや深さなどを正確に表現するこ とが難しい。

・保護層や護岸構造物等を設ける必要があるため、

平面的な大きさや深さなどを正確に表現するこ

とが難しい。 ・遺構そのものを見せるため、最も正確性が高い。

・ドライドックの位置や大きさなど、平面的な情報 しか伝えることができない。

・ドライドックの範囲を部分的に立体化するため、

Aよりもわかりやすいが、C、Dよりもわかりに くい。

・立体的な形状を伝えることができる。

「ドライ」ドックとして水を抜いて修船作業を行っ ていた様子をイメージしやすい。

・ドライドックの中に入ることが出来る。

・立体的な形状を伝えることができる。

・水面の干満差などを表現できる。

・遺構そのものを見せるため、最もわかりやすく、

来訪者に伝えることが出来る情報も、最も正確で 多い。

・整備費用が最も安い。 ・C、Dよりも比較的に工事費用や維持管理費用が 安い(Aよりは高い)。

・水は入れないが、不足の事態に備えた強度が求め られる上、土の質感を再現するため整備コストが 高い。

・護岸としての強度が求められる上、土の質感を再

現する必要があるため整備コストが非常に高い。 ・整備手法が確立されていないため、想定し難い。

・最も維持管理が容易であり管理費用も安い。 ・大潮後に土砂やごみなどが残る可能性があり、土

砂の浚渫、清掃、メンテナンスが必要となる。 ・大潮後に土砂やごみなどが残る可能性があり、土

砂の浚渫、清掃、メンテナンスが必要となる。 ・河川護岸としての定期的な管理や土砂の浚渫を行

う必要がある。 ・整備手法が確立されていないため、想定し難い。

・地上部がフラットになるため、公園として利用し

やすい。 ・公園としての広場的な利用はし難い。 ・公園としての広場的な利用はできない。 ・公園としての広場的な利用はできない。 ・公園としての広場的な利用はできない。

・来訪者の安全性は最も高い。

・河川管理施設への影響は無く、治水は保たれる。

・高低差の表現方法に対応した安全確保が求められ

・河川管理施設への影響を考慮し、状況によってはる。

治水対策を行う必要がある。

・転落防止柵や階段、手摺など安全性への配慮が求 められる。

・河川管理施設への影響を把握し、治水対策を行う 必要がある。

・転落防止柵や階段、手摺など安全性への配慮が求 められる。

・河川管理施設への影響を把握し、治水対策を行う 必要がある。

・転落防止柵や階段、手摺など安全性への配慮が求 められる。

・河川管理施設への影響を把握し、治水対策を行う 必要がある。

・発掘調査やその他の調査研究の進展により検討条件に大きな変化が無い限り、平面表示と立体表示を ベースに今後詳細な表現方法の検討を行う。

・地下遺構の保存環境を大きく改変する可能性があり、遺構への影響が不明瞭であることから、現時点 で採用することはできない。

・保存科学技術の進展により検討条件に変化があった場合、再度検討を行う。

・実施すれば遺構を大きくき損することとなり、現 時点で採用することはできない。

・遺構を確実に保存することができる手法が確立さ れた場合に限り、再度検討を行う。

平面表示 立体表示 復元(水なし)

復元(水あり) 露出展示

平面表示

地下水位

遺 構 保護層 ( 土 )

立体表示

立体表示

地下水位

遺 構 保護層 ( 土 )

地下水位

遺 構 護岸構造物 遺構面の質感の再現

保護層 ( 土 ) 保護層 ( 土 )

遺 構

地下水位

護岸構造物 遺構面の質感の再現

露出展示

薬剤処理等 遺 構

地下水位 表10 ドライドッグの表現比較

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