第 1 章 序論
4.4 適用事例と評価
面上に表示されているとする.金利変動表の数値を変更すると,それに応じ て金利変動グラフの形状が変わる.逆に,金利変動グラフの形状を変更する と,それに応じて金利変動表の数値が変わる機能である.
本機能により,利用者は,使い慣れた入力インタフェースを選択できる.
また,グラフ形式などの可読性の高い表示ビューにより,まったく的外れで 不自然なデータを容易に発見できるので,入力ミスの防止を図ることができ る.たとえば,金利変動のシナリオを設定しようとする場合,グラフ形式の ビューで金利変動のトレンドをビジュアルに把握しながら大まかなシナリ オを設定し,表形式のビューで正確な値を設定していくという使い方ができ ることになる.
図4.8 機能構成図 setup
input
Model
Scenario View
Result
View
ViewController
Select view
Change the state (Application control)
up date no
tific ation
pu atd e
on ic tif ioat n Se
tup/update updatenotification
up date no
tific ation
Scenario View
Scenario data Scenario generation
The actual achievement data Simulation
Logic input
input
Result View
Simulation Result data output
つ い て も い ろ い ろ な 表 示 形 式 で 結 果 表 示 で き る 機 能 を 実 装 し て い る .
「Controller」には,ユーザとシステムとのインタラクションを制御する機
能,および「Model」に実装された機能コンポーネント(ソフトウェア部品)
の起動やあるコンポーネントの終了を契機にあるコンポーネントを起動す るなど,コンポーネントの実行を制御する機能を実装している.
図4.9 に損益シミュレーションシステムの画面インタフェースを示す.本 システムは,以下の特徴を持つ.
(1) シナリオ自動生成方式としてモデルシナリオの自動生成と近傍シナリ オの自動生成機能を実装
直近 4 週間の債券先物価格のトレンドに類似したパターンを過去の債券 先物価格の実績データから検索して,4週間目にあたる過去時点を現時点と してその先 6週間分を,提案アルゴリズムによりモデルシナリオとして自動 生成する.これにより,自動生成されたシナリオを必要に応じて変更するだ
図4.9 画面インタフェース 例
けでよく,シナリオ設定の負荷軽減が図れる.また,ユーザが設定した債券 先物価格シナリオに対して,近傍シナリオを提案アルゴリズムにより自動生 成(図 4.9 に示す例では,±2.5 円の範囲を生成)し,設定シナリオと同時 に近傍シナリオに対してのシミュレーションも実行する.これにより,ユー ザのシナリオ設定の負荷軽減と,シナリオ設定漏れ防止が可能である.
(2) シナリオデータのマルチビュー方式として表−グラフ連動シナリオ入 力機能を実装
表の数値データとグラフのプロット座標を連動させ,表形式ビューに債券 先物価格を数値入力すると,価格グラフビューのグラフがそれに応じて変わ り,逆に価格グラフビューのグラフプロットをマウスドラッキングで変更す ると,表形式ビューの数値もそれに応じて変わるようにし,数値入力とグラ
(3) 近傍シナリオシミュレーション結果の回転機能付き3次元グラフ表示機 能の実装
近傍シミュレーション結果を,債券先物価格,期間及び損益の 3次元グラ フで,ビジュアルに表示する機能を実現している(図4.9右側のインタフェ ース).また,3 次元グラフには回転機能を持たせ,自由な角度からグラフ を見ることができる.また,3 次元グラフ上のプロットをマウスクリックす ると,その期間の債券先物価格と損益の関係を,計数表示することもできる.
提案支援方式を実装したシミュレーション機能を,某銀行のディーリング 部門で実際に試用してもらい,提案支援方式の評価を行った.評価項目は,
ひとつのシナリオを設定するのに要する時間,および意思決定プロセストー タルで要する時間の 2つを取り上げ,支援ツールを一切使用しない場合の所 要時間に対する提案機能を使用した場合の所要時間の比率(時間比率)を評 価した.また,試用評価は,ディーリング業務経験が1 年,3年,7年の実 務者に実施してもらった.まず,ひとつのシナリオを設定するのに要する時 間比率は,それぞれ平均で 92%,83%,71%であった.いずれも支援機能が ある方が短時間で設定できており,支援機能の効果が出ている.しかし,モ デルシナリオは過去の実績データのみに基づき生成しているので,他の変動 要因を考慮する必要があり,大きな効果が出ているとは言えない.一方,意 思決定プロセストータルで要する時間比率は,それぞれ平均で 61%,58%, 51%となっており,業務プロセス全体ではほぼ 40%〜50%の時間短縮となっ ている.このことから,過去の実績データのみを考慮する単純な方式であっ ても,意思決定プロセスを円滑に進める支援効果があると言える.特に,従 来,ディーラーが人手で設定していた複数シナリオのうち,どの程度提案機 能が近傍シナリオとして自動生成しているかを示すカバー率を評価すると,
約 30%前後と推定でき,これが大きな短縮効果につながっていると考察で
きる.これらの結果から,シナリオベースシミュレーションの特徴である試 行錯誤プロセスの効率的運用には,シナリオ設定環境の整備は重要なファク ターであることがわかる.
試用してもらったディーラーにヒアリングしたところ,まず,ディーラー が高い確率でこうなるであろうと想定するシナリオに近いものを,モデルシ ナリオとして生成できている,との評価を得た.また,ディーラーがこうな るかもしれないと想定するシナリオは,自動生成する近傍シナリオでおおよ
そカバーできている.さらに,想定していなかったシナリオまでカバーして いる,との評価を得た.さらに,本章で提案する幅を持つシナリオ生成とい う考え方は,大局の把握とクリティカル状況の把握が早期にでき,対応策の 準備に直ちに入ることができるので,ビジネス分野でのシナリオベースシミ ュレーションのコンセプトとしてよいものである,とのご意見をいただいた.
また,複数表示ビューを連動させたシナリオ設定機能は,大局を把握しなが ら詳細を設定できる点や設定ミスの防止が図れる点において,使い勝手のよ い機能である,との評価もいただいた.
これらにより,従来はあるシナリオを想定してシミュレーションを実行し,
その結果を評価してシナリオを再設定しシミュレーションを再実行する,こ れを何回も繰り返してきたが,提案支援方式によれば,このサイクルの回数 を減らすことができ,シナリオベースシミュレーションの特徴である試行錯 誤のサイクルを効率的に運用できることを確認した.また,シナリオ想定漏 れの防止を図っていけることや,提案支援方式によりシナリオ設定の操作性 や可読性を向上できることを確認した.
4.5 結言
本章ではWhat-If評価の典型的意思決定支援システムのひとつであるシナ リオベースシミュレーションを対象とし,これが意思決定の現場で有効に機 能するためにはシナリオ設定の支援が重要であることを述べ,シナリオ自動 生成方式とシナリオデータのマルチビュー方式を提案した.また,前者では 規範となるモデルシナリオの自動生成と,設定されたシナリオの近傍シナリ オの自動生成方式を提案した.そして,提案方式の実装アーキテクチャとし てMVC モデルを採用したアプリケーションアーキテクチャを規定し,債券 ディーリングにおける損益シミュレーション機能に適用した.開発したシミ ュレーション機能を実際のディーラーに実務で試用してもらい,提案支援方 式の評価を実施した.その結果,提案方式によりシナリオベースシミュレー ションの特徴である試行錯誤のサイクルを効率的に運用できることを確認
第 5 章 システム運用方式評価法の開発
本章では,図2.1に示した「一環情報流通のための企業情報システム」の 構築課題の三つ目である,システム運用方式の高信頼化設計課題について述 べる.具体例として,コンピュータで実行されるジョブの運用方式設計を取 り上げる.ここでは,拡張確率ペトリネットを用いたジョブ運用方式の評価 方法を提案し,適用事例を通してその有効性を評価する.
5.1 緒言
近年,銀行などのオンラインシステムやインターネットの Web システム に見られるように,コンピュータシステムはますます大規模化・複雑化する とともに,そのサービスも多様化してきており社会生活とより密接な関わり を持つようになっている.このため,以前よりもまして高信頼なシステムが 要求されている.これに対して,システム構成面で機器の二重化などさまざ まな高信頼化への対応(75)(76)(77)がなされている.一方,サービス時間延長(63) などを実現するために,障害が発生してもリカバリ処理を含めた全体処理時 間を短時間で終了できるよう高度なリカバリ方式がとられるなど,高度・複 雑な運用方式(78)がとられるようになってきている.このため,信頼性の高 いシステムを構築するには,運用方式においても高信頼な設計を行っていく ことが重要な課題となってきている.
運用方式を設計する上では,運用を高度・複雑化するとジョブ全体処理時 間の短縮などの効果が得られるが,逆に,操作が複雑化し,信頼性が低下す るというトレードオフが問題となる.高信頼な設計では,これを総合的かつ 定量的に評価していく必要がある.その指標に,障害発生の可能性を考慮し たジョブの処理時間の期待値がある.この期待値による評価では,障害とそ の組み合わせを考慮したすべての運用ケースを洗い出していく必要がある が,人間の手作業では運用ケースの洗い出しに多くの時間と労力を要する.
このため,従来では,設計者が重要と判断した運用ケースについてのみ検討,
評価してきた.しかし,この方法では設計者の能力に評価の精度が左右され るばかりでなく,対象が複雑になると考えもれや矛盾が生じやすくなり,精 度の高い評価結果を得ることができない.
本章では,ジョブ運用方式をコンピュータ内にモデル化し,自動的にジョ ブ全体処理時間の期待値を算出する方法を提案する.まず,ジョブの処理時 間によるジョブ運用方式の評価問題を明らかにし,このための定量的な指標 として,ジョブの処理時間の期待値を導入する.つぎに,期待値評価におけ る従来の問題点を明らかにする.そして,この問題に対処するために,拡張 確率ペトリネット(ESPN:Extended Stochastic Petri Net)(80)を用いてジョブ運