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シナリオベースシミュレーションとその課題

第 1 章  序論

4.2 シナリオベースシミュレーションとその課題

シナリオベースシミュレーションは,図4.1に示すような What-If評価の 典型的な意思決定支援システムで,たとえば銀行勘定系システムなどの業務 処理システムに存在する取引データや顧客データなどの実績データが,意思 決定者により設定されるシナリオ(たとえば,時系列データとなる金利変動 予測値や資金運用・調達などの将来計画値)のもとでどのように振舞うのか を計算する,すなわち将来の予想実績データを推定するものである.得られ た予想実績データを種々の観点から評価し,シナリオを再設定してシミュレ ーションを再実行し評価する試行錯誤的サイクルを実施して,とるべき行動 を決定していく.

シナリオベースシミュレーションの課題は,大きく2 つある.ひとつは,

業務システム群のバックエンドのデータベースから,どのようにシミュレー ションの入力となる実績データを作り出すかである.もうひとつは,シナリ オベースシミュレーションの特徴である試行錯誤のサイクルを効率的に運 用できる環境の整備である.

図4.1 シナリオベースシミュレーション

……

The actual achievement data

Simulation Logic

The future actual achievement data The Business DB

The Business DB

The transaction data The customer data,

and so on Evaluation

Setting Scenarios

The environment The actions

  第一点目の課題は,シミュレーションに必要なデータを保持する業務シス テム群とインタフェースをとればよい.しかし,一般的に企業情報システム はその時代の要請に従い生じるニーズや技術的要因から業務システムごと 個別に構築されているのが通常であり,システム間連携機能を業務システム ごと個別に開発する必要がある.また,企業経営は市場環境の変化に対応し ていくことになるので,意思決定の指標やシミュレーションロジックが変化 し,必要なデータも変わってくる.これにそのつど対応していたのでは,複 雑なシステム間連携となるばかりでなく,かかるコストも大きくなる.この 問題に対して,文献(59)(60)で提案している「SEE 情報システム」の活用が 有効である.図4.2は,この「SEE情報システム」をベースとした実績デー タの収集方式を示している.

図4.2 データ収集システム

(参考文献(2)( 3)を参考に作成)

……

The Business DB

The Business DB

Accumulation The original

archival DB

DB-makerDB-extractor

The actual achievement data The data gathering

system

第二点目の課題である試行錯誤サイクルの効率性は,意思決定者のシミュ

離れしたものとなり,意思決定のための情報源として活用していくことはで きない.妥当なシナリオを設定していくためには,ある程度の経験とノウハ ウが必要であり,経験の浅い意思決定者には妥当なシナリオを設定するため の支援機能が必要である.一方で,経験のある意思決定者でも,実績データ の変動が激しい場合などでは,シナリオを適切に想定するのは難しい.また,

シナリオの想定漏れが発生する恐れもあり,誤ったデシジョンにつながりか ねない.したがって,シナリオ設定支援機能は,シナリオベースシミュレー ションの試行錯誤サイクルの効率性向上に寄与する重要な機能である.

シナリオ設定支援として,シナリオ自動生成方式が数多く提案(72)(73)(74)さ れている.これらは複雑なモデルやアルゴリズムを提案して,いかに精緻な 予測値,すなわちシナリオを生成するかに主眼が置かれている.しかし,予 測問題領域の構造が複雑かつ柔らかすぎるので,完全に正確に予測しうるも のはない.したがって,実務上では企業戦略や意思決定者の経験とノウハウ により,自動生成されたシナリオに修正を加え,複数のシナリオを設定する ことになる.しかし,モデルやアルゴリズムが複雑になるほど,どの要因を どの程度考慮して修正すればよいのかの判断が難しい.そのため,実用性の 観点からの使い勝手が悪くなる.

本章では,実務支援という有用性重視の視点に立ち,シナリオベースシミ ュレーションの試行錯誤サイクルの効率向上に寄与する 2 つのシナリオ設 定機能(70)を提案する.

  ひとつは,一次近似のシナリオを生成するのに充分な情報量を持つ過去の実 績データから,規範候補となるシナリオ(実績データに基づく妥当性の高いシ ナリオのことで,以降では「モデルシナリオ」と呼ぶこととする)を自動生成 したり,設定されたシナリオ(モデルシナリオに意思決定者が修正を加えたも の)の近傍シナリオを自動生成したりする機能である.特に後者については,

設定されたシナリオの周辺の複数シナリオに基づいたシミュレーションを同時 計算することにより,想定漏れ防止や作業効率向上を実現するもので,このよ うな幅を持つシナリオ生成という考え方を提案するものである. 

  もうひとつは,複数表示形式(マルチビュー)を連動させ,シナリオデータ をマルチビューで表示・設定する機能である.ここで,マルチビューの連動と は,あるビューでシナリオデータが変更されると,他のビューにその変更が自 動的に反映されるものである.本機能により,利用者が使い慣れた入力インタ フェースを選択でき,可読性の高い表示ビューにより入力ミスを防止しながら

詳細値を設定していける.  

これらの提案機能により,自動生成されたシナリオを必要に応じて変更す ればよくなるので,シナリオ設定の負荷軽減が図れ,経験の浅い意思決定者 でも適切なシナリオを設定していくことができる.また,設定されたシナリ オの近傍を自動生成してシミュレーションを同時に実行するので,シナリオ 設定の手間が少なくなるとともに,シナリオの想定漏れ防止も図ることがで きる.この結果,シナリオベースシミュレーションの試行錯誤サイクルを円 滑にすることができる.また,本章で提案するシナリオ自動生成は,前述し た先行研究に比べ,一次近似レベルは低い.しかし,アルゴリズムを比較的 簡単にできるので,生成されたシナリオの説明(どうしてこのようなシナリ オとなるのか)が判り易く,経験レベルが異なる意思決定者の間での認識の 相違が少なくなる特徴もある.

  図4.3に,提案する支援機能を取り入れたシナリオベースシミュレーショ ンシステムの概要を示す.

……

The actual achievement data

Simulation Logic

The future actual achievement data The Business DB

The Business DB

Evaluation Setting

Scenarios

図4.3 提案するシナリオベースシミュレーション Scenario

Generator

M ulti-view Display

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