臨床的には以下の
4
型に分けることが多い449).加えて,
肺動脈病変は8
〜15%
,冠動脈病変は3
〜10%
に認められ るとの報告がなされていたが26, 27, 446, 450),最近のCT
やMRI
を用いた検討では,肺動脈病変は50
〜86%
,冠動脈 病変は40
〜50%
に認められるとも報告されている451–455). そのほかに難聴や耳鳴り,結節性紅斑などの皮疹を認める ことがある.● I型:弓分枝閉塞型(頭部と上肢の虚血症状)
頭部虚血では視力障害,めまい,失神発作といった脳虚
3.
症候と診断
表9 高安動脈炎の血管造影分類
タイプI 大動脈弓分枝血管に病変を有するもの
タイプIIa 上行大動脈,大動脈弓ならびにその分枝血管に病変を 有するもの
タイプIIb 上行大動脈,大動脈弓ならびにその分枝血管,胸部下 行大動脈に病変を有するもの
タイプIII 胸部下行大動脈,腹部大動脈,腎動脈に病変を有する もの
タイプIV 腹部大動脈および/または腎動脈に病変を有するもの タイプV
上行大動脈,大動脈弓ならびにその分枝血管,胸部下 行大動脈に加え,腹部大動脈および/または腎動脈に 病変を有するもの
さらに冠動脈に病変を有するもの(C+)ならびに肺動脈に病変 を有するもの(P+).
Numano F. Curr Opin Rheumatol 1997; 9: 12–15 445)より.
血症状が出現する.血行障害が著しい患者では顔面の萎縮
(
bird face
)や鼻中隔穿孔がみられる.頸動脈洞反射が亢 進すると,顔を上に向けたときに視力低下や失神発作が生 じる.これは,炎症性変化で被刺激状態にある頸動脈洞神 経に頸動脈内圧の低下,脳の低酸素状態が加わって生じる ものと推定される.この状態の患者は常にうなだれた姿勢 をとっているのが特徴である.上肢動脈の閉塞では,脈の欠損や血圧の左右差が出現す る.上肢のしびれ,脱力感,冷感が生じる患者もある.高 血圧を合併する患者では,上肢血圧は体血圧を反映しない ことに留意する.
● II型:胸腹部閉塞型(高血圧を中心とした多彩な症状)
胸腹部大動脈や腎動脈の狭窄病変による高血圧が問題と なり(異型大動脈縮窄症,腎血管性高血圧),患者は頭痛 や心悸亢進を訴える.異型大動脈縮窄症では,わずかな運
動でも
200 mmHg
を超える高血圧がみられる.高血圧がコントロールされずに長期間続くと心不全につながり,生命 予後に影響を及ぼす.大動脈の狭窄病変では下肢虚血に伴 う間歇性跛行が,上腸間膜動脈や腹腔動脈の閉塞性病変で は腹部アンギーナ症状が出現することがある.
● III型:広範囲閉塞型
I
型とII
型が合併した複雑な病態である.● IV型:動脈瘤型
大動脈瘤の大部分を占める変性による動脈瘤と比較し て,高安動脈炎の動脈瘤は胸部大動脈とその分枝に発生す ることが多い.破裂するまで症状がないことが多い点は,
変性による動脈瘤の場合と同様である.また,上行大動脈 の拡張による弁輪拡大ないし弁尖自体の変性による大動脈 弁閉鎖不全を約
3
分の1
の患者に認める26).大動脈弁閉鎖 不全は心不全につながり,本疾患の予後に大きな影響を与 える.3.3
診断
3.3.1 診断の指針
初期においては症状が非特異的であるため,診断が困難 な場合が多い.進行期においては閉塞された血管によって 多彩な臨床症状を示す.本来確定診断は病理組織所見によ るが,外科的治療の対象は瘢痕期の病変であるうえに,標 本を得ることも困難なため,血管画像診断が最も役立つ.
厚生労働省の難治性血管炎に関する調査研究班455a),米国 リウマチ学会456)などから診断基準が示されている(表 10).
3.3.2 検査所見 a.血液検査所見
本症に特異的な血液検査所見はない.非特異的炎症所見 である赤沈亢進,白血球増多,軽度の貧血,gグロブリン 上昇,
CRP
上昇などで高安動脈炎の活動性を評価する.保険適用外ではあるが,血中ペントラキシン(
pentraxin;
PTX
)-3
の値が疾患活動性のマーカーとしてより優れてい るとの報告もある457).このほかリウマチ因子陽性,抗核抗 体陽性を呈する患者もある.HLA-B52
陽性例では陰性例 に比較して病変の程度が強いとの見解もある.b.画像診断所見
若年女性に単純
X
線写真で大動脈の石灰化がみられた 場合は,本症の疑いが濃厚である.確定診断となるのは血 管画像診断で,CTA
,MRA
,DSA
で大動脈の内腔不整,大動脈およびその主要分枝の閉塞性病変,動脈の拡張性 病変を認める458).多発病変が多いため,大動脈とそのす べての分枝で病変の有無を確認する必要がある459–461).断 層像による評価も重要で,造影
CT
平衡相―後期相や造影MRI
では,狭窄・拡張性病変が生じる前でも動脈の壁肥厚 を検出できることがある.造影CT
では同時に肺動脈病変 の有無も評価する.病変のある動脈には高度の内膜肥厚が認められ462–464), 超音波検査も有用である.頸動脈エコー検査での所見は
「マカロニサイン」と呼ばれる.上行大動脈の拡張と大動 脈弁閉鎖不全は心エコー検査で確認できる.保険適用外で はあるが,近年
FDG-PET
を用いた大動脈の炎症の画像化 が診断および病状評価で有用視されている465).c. 眼底所見
慢性に進行する脳血圧低下によって毛細血管が拡張す る.さらに進行すると毛細血管瘤が耳側周辺部眼底から始 まり,眼底全体にみられるようになる.重度の虚血では動 静脈吻合が形成され,視神経乳頭を取り巻いて馬蹄形また は花環状となる.末期には乳頭や虹彩に新生血管がみられ,
毛様体の機能低下,低眼圧,白内障などが生じ視力が低下 する.低血圧による網膜中心動脈の閉塞や網膜剥離で失明 する.脳虚血の指標であるこの一連の眼底変化をまとめた のが宇山の分類である465a).
I
度は血管の拡張,II
度は小動 脈瘤形成,III
度は動静脈吻合の形成,IV
度は進行した複 合病変である.3.3.3 鑑別診断
鑑別疾患としては,今日では少なくなった梅毒,結核と いった特異性炎症による血管炎に加えて,非特異性炎症で 大動脈炎を生じる疾患である巨細胞性動脈炎を念頭におく
表10 高安動脈炎の診断基準(厚生労働省)
1 疾患概念と特徴
大動脈とその主要分枝および肺動脈に炎症性壁肥厚をきたし,またその結果として狭窄,閉塞または拡張病変をきたす原因不明の非 特異性炎症性疾患.狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害,あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病 態の中心をなす.病変の生じた血管領域によって臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する.全身の諸臓器に多彩な病変が合併 する.若い女性に好発する.
2 症状
(1) 頭部虚血症状:めまい,頭痛,失神発作,片麻痺など
(2) 上肢虚血症状:脈拍欠損,上肢易疲労感,手指のしびれ感,冷感,上肢痛
(3)心症状:息切れ,動悸,胸部圧迫感,狭心症状,不整脈
(4) 呼吸器症状:呼吸困難,血痰,咳嗽
(5) 高血圧
(6) 眼症状:一過性または持続性の視力障害,失明
(7)耳症状:一過性または持続性の難聴,耳鳴 (8)下肢症状:間歇性跛行,脱力,下肢易疲労感 (9)疼痛:下顎痛,歯痛,頸部痛,背部痛,胸痛,腰痛
(10)全身症状:発熱,全身倦怠感,易疲労感,リンパ節腫脹(頸部)
(11)皮膚症状:結節性紅斑 3 診断上重要な身体所見
(1)上肢の脈拍ならびに血圧の異常(橈骨動脈の脈拍減弱,消失 ,著明な血圧左右差)
(2)下肢の脈拍ならびに血圧の異常(大動脈の拍動亢進あるいは減弱,血圧低下,上下肢血圧差)
(3)頸部,胸部,背部,腹部での血管雑音 (4)心雑音(大動脈弁閉鎖不全症が主)
(5)若年者の高血圧
(6)眼底変化(低血圧眼底,高血圧眼底,視力低下)
(7)難聴
(8)炎症所見:発熱,頸部圧痛,全身倦怠感 4 診断上参考となる検査所見
(1)炎症反応:赤沈亢進,CRP 高値,白血球増加,gグロブリン増加 (2)貧血
(3)免疫異常:免疫グロブリン増加(IgG,IgA),補体増加(C3,C4),IL-6 増加(MMP-3 高値は本症の炎症の程度を反映しない)
(4) HLA:HLA-B52,HLA-B67 5 画像診断による特徴
(1) FDG-PET* での大動脈およびその分枝への集積増加 (2)大動脈石灰化像:胸部単純X線写真,CT
(3)大動脈壁肥厚:CT,MRA
(4)動脈閉塞,狭窄病変:CT,MRA,DSA
限局性狭窄からびまん性狭窄,閉塞までさまざまである.
(5)拡張病変:超音波検査,CT,MRA,DSA
上行大動脈拡張は大動脈弁閉鎖不全と合併することが多い.
びまん性拡張から限局拡張,数珠状に狭窄と混在するなど,さまざまな病変が認められる.
(6)肺動脈病変:肺シンチ,DSA,CT,MRA (7)冠動脈病変:冠動脈造影,冠動脈CT
(8)頸動脈病変:CT,MRA,頸動脈エコー(マカロニサイン)
(9)心エコー:大動脈弁閉鎖不全,上行大動脈拡張,心嚢水貯留,左室肥大,びまん性心収縮低下 6 診断
(1)確定診断は画像診断(CT,MRA,FDG-PET*,DSA,血管エコー)によって行う.
(2)若年者で大動脈とその第一次分枝に壁肥厚,閉塞性あるいは拡張性病変を多発性に認めた場合は,炎症反応が陰性でも高安動脈 炎を第一に疑う.
(3)これに炎症反応が陽性ならば,高安動脈炎と診断する.ただし,活動性があってもCRP は上昇しない症例がある. (4)上記の自覚症状,検査所見を有し,下記の鑑別疾患を否定できるもの.
7 鑑別疾患 1. 動脈硬化症 2. 炎症性腹部大動脈瘤 3. 血管Behçet病 4. 梅毒性中膜炎 5. 巨細胞性動脈炎 6. 先天性血管異常 7. 細菌性動脈瘤
*FDG-PETは2015年時点では保険適用外.
難病情報センター.「高安動脈炎」455a)より.