近年の主な油流出事故は、国際的な対応の枠組み及び我が国の対応の進展に大きな影響を 与えた。次章以降において施策の現状把握や評価を行う前に、そうした経緯をとりまとめる。
1.
エクソン・バルディーズ号事故(
1989年・アラスカ)
この事故を契機として、海洋汚染事故に対するさらなる国際的な対策の必要性、特に、初 期対応の重要性が改めて認識された。このため、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)において、事故の再発防止対策等が検討され、大規模な油流出事故による海洋 環境への影響を最小限に押さえることを目的として、各国の防除体制の強化、国際協力体制 の確立などを定めた「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(通 称:OPRC条約)」が1990年11月30日に締結され、1994年5月13日に発効要件を満た し、その12ヶ月後である1995年5月13日に発効した。我が国は、1995年10月17日に 同条約の締結を行った。
また、OPRC条約の策定作業と並行して、油、ばら積みの有害液体物質、容器入有害物質、
汚水及び廃物といった船舶から排出されるあらゆる汚染物質の排出を規制するとともに、一 定の船舶に対する構造・設備規制を行うことを定めた「1973年の船舶による汚染の防止のた めの国際条約に関する1978年の議定書(通称MARPOLマ ル ポ ー ル73/78条約)」の構造基準の見直しが 行われた。この結果、1992年にMARPOL73/78条約の改正が採択され、油流出事故が発生 した場合の防除措置マニュアルとなる油汚染船内緊急計画の作成・備置きがOPRC条約の内 容の一部を先取りする形で一定以上のタンカーに義務付けられるとともに、万一座礁や他船 との衝突などで外板に破口を生じたとしても、貨物タンクには直接被害を与えにくく、積荷 が海洋に流出しない二重船体(ダブルハル)構造が導入された。
2. ナホトカ号事故(1997
年・日本海)
事故発生の原因については、学識経験者から成る「ナホトカ号事故原因調査委員会」によ り調査検討を行った結果、「構造部材の激しい衰耗により、縦曲げに対する強度が大幅に低下 していたため、船体に作用した荷重が船体強度を上回り、折損に至ったと推定。なお、日本 海における最大級の波浪に遭遇していたことと標準的方法によらない貨物の積載を行ってい たこととの相乗効果により、船体に作用した荷重が大きくなったことも副次的な要因として 寄与したものと考えられる。」等とされ、主因は「船体腐食による強度不足」であるとされた
(平成9年7月31日「ナホトカ号事故原因調査報告書」ナホトカ号事故原因調査委員会)。
以上のような経緯に着目して、問題点を抽出し、以後の事故の再発防止対策、流出油防除 対策等について総合的に検討するため、運輸技術審議会総合部会に「流出油防除体制総合検 討委員会」を設置し審議した結果、油流出事故対策のあり方の見直しに関する基本方針等に ついて報告書が取りまとめられ(平成9年12月12日「流出油防除体制の強化について−最 終報告書」運輸技術審議会総合部会流出油防除体制総合検討委員会)、国土交通省においては 現在までこの検討に基づく施策が講じられてきている。【図表13】
図表 13 ナホトカ号油流出事故対応の問題点と対応の方向
区分 小区分 問題点 対応の方向
船舶の安全性の 確保
便宜置籍船の増加等に伴い、国際基準を下回るサブス タンダード船による大型海難事故が問題化
・PSC実施体制の強化を図り我が国の港に入 港するサブスタンダード船を排除
・無害通航船については近隣諸国をはじめと して国際的に協調しつつPSC強化を進める ことが必要
・これまでは、設備・機器ののチェックが中 心であったが、船体構造の健全性や堪航船 に係るPSCの強化が必要
事 故 再 発 防 止 対策
タンカーの構造 規制適用に係る 油の見直し
重油の及ぼす被害は原油と同等程度であったが、
MARPOL73/78条約においては、重油は原油に比較
して規制が緩やかな精製油に分類
・同条約における規制に関しては、重油は原 油と同等の取扱とすべきである。
即応体制の強化 ・OPRC条約に基づく国家緊急時計画及び海防法に基 づく油防除計画において、外洋における大規模油流 出事故が想定されていない
・災害対策基本法に基づく防災基本計画においては事 故災害対応が具体的に定められておらず、地域防災 計画においても多くの場合、大規模油流出事故自体 が想定されていない。
・以上の結果、政府の即応体制の枠組みが不明確、防 除に関する具体的な責任主体及び役割分担が不明 確、初動おける関係機関の緊密な連携が不十分
・防災基本計画事故対策編の見直し
・他の計画についても見直し
外洋における油防除体制が未確立 ・外洋における油防除体制を確立
・関係機関による迅速で均衡のとれた防除シ ステム
・公的主体の連携強化
・海上保安庁、センターの体制の充実等業務 執行体制の強化
・防除資機材の技術開発
・資機材及び専門家に関するデータベースの 充実
外洋における船主の防除義務が不十分 ・領海外における外国船舶の防除措置に係る 船主責任の明確化
外洋での作業に対応し得る資機材の整備が不十分 ・外洋対応可能な資機材の整備・開発(最大
波高4〜6m対応)
・ジュリアナ号事故を踏まえ7000KL程度の 油流出量を想定
・機械的回収以外に必要に応じ航空機による 油処理剤の空中散布、ガット船、油回収ネ ットを用いた回収の実施
・資機材の個別保有ではなくセンターを中心 として一体的に整備することを検討 防除体制の強化
日本海側は太平洋側と比べて防除体制に格差 ・日本海を航行する老朽船の折損事故の可能 性を考慮
・日本海側の体制整備を優先 流 出 油
防 除 対 策
技術開発等 ・沿岸海域環境保全情報の整備が着手されたばかりで 不十分
・漂流予測について、リアルタイムのデータの収集・
分析や漂流量(吹送流等)の適切な考慮ができなか った。
・沿岸海域環境保全情報の整備と活用
・リアルタイムデータの充実及び漂流予測手 法の高度化
環日本海諸国の 協力
・北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)が進めら れている。
・NOWPAP計画の推進
防除関係情報の 一元化
OPRC 条約の非締約国については同条約に基づく保 有資機材情報等が得られない
・外交ルートを通じた情報収集
・収集情報の一元的・効率的蓄積及び関係機 関への提供
・旗国から被害国に事故船舶の設計データ等 について迅速に提供できる仕組みの検討 海 洋 汚
染 防 止 国 際 協 力 体 制 の構築
事故原因共同調 査の制度化
事故発生後、早々と爆弾説や漂流物説が中間発表。 関係条約上旗国が責任を有する事故調査につ いて共同調査の制度化を検討
(注1)平成9年12月12日「流出油防除体制の強化について−最終報告書」運輸技術審議会総合部会流出油防除体制総合検討 委員会をもとに海洋室で作成
(注 2)これを踏まえた省内の対応状況(平成 9 年 12 月当時)は次頁を参照
(図表 13 参考)
流出油防除体制の強化について
[運輸技術審議会総合部会の報告書及び省内対応状況]
平 成 9 年 1 2 月 運輸政策局海洋室 1.事故再発防止策
(1)船舶の安全性の確保
• 旗国による船舶検査の確実な実施
• 我が国における外国船舶の監督(PSC)の実施体制の強化[組織要求及び概算要求中]
• 国際的な PSC の強化のために、検査報告書の記載事項の追加及び PSC で船体構造に欠陥が発 見された船舶に関する通報制度の改善を提案 [5 月に IMO に提案済。検査報告書の記載事項追加 については 11 月に合意・採択済。概算要求中]
(2)タンカーの構造規制適用に係る油の分類の見直し
• 精製油に分類されている重油に関する構造規制を原油並みのより厳しい規制とすることを提 案[9 月に IMO に提案済]
2.流出油防除対策
外洋における防除体制の強化を基本(当面日本海側に重点) (1)即応体制の強化
• 防災基本計画事故災害対策編の策定(警戒本部、非常災害対策本部の設置等)、流出油防除のた めの国家的緊急時計画等の見直し[6 月に事故災害対策編を策定し、現在、国家的緊急時計画等 の見直し作業中]
(2)防除体制の強化
• 関係者の連携強化のための方策の検討(領海外における外国船舶からの油の排出に対する海上 災害防止センターの迅速な対応、港湾建設局等の防除作業への参画の円滑化等)[制度改正を検 討中]
• 海上保安庁の巡視船、民間のサルベージ船等に搭載可能な大型油回収装置の整備[概算要求中]
• 高粘度油対応油回収装置、油処理剤の空中散布装置、高粘度油対応の油処理剤、回収ネット等 の資機材の充実[概算要求中]
• 港湾建設局の大型浚渫船海鵬丸の代替建造にあわせ、油回収機能を有する兼用船を整備[概算 要求中]
• 海上保安庁の業務執行体制の強化(油防除の専門家である機動防除隊の充実・強化)[組織要求 及び概算要求中]
• 海上災害防止センターの財政基盤等の強化[概算要求中]
(3)技術開発等
• 外洋・荒天下・高粘度油対応の防除資機材等の技術開発[概算要求中]
• 資機材及び専門家に関するデータベースの充実[専門家情報について登録手続き中]
• 沿岸海域環境保全情報の整備[組織要求及び概算要求中]
• 漂流予測の高度化[概算要求中]
3.国際協力体制
(1)環日本海諸国の国際協力体制の構築
• 北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の具体化等[7 月に富山で国際会議を開催。また、9 月のア ジア太平洋海上保安主官庁フォーラムにおいて国際協力の促進を確認]
(2)防除関係情報の一元化
• 国際海事機関の情報収集・提供等の機能の活用[諸外国からの情報提供を求める事項について 検討中]
(3)事故原因共同調査の制度化
• 旗国及び被害国等関係国による事故原因の究明