1.
事故防止対策
①ポート・ステート・コントロール(PSC)
これまでの施策の推進により、サブスタンダード船の排除が進んでいると期待されるが、
まだ十分とはいえないことから、実績を踏まえた外国船舶監督官の適正な配置、処分の実 績を踏まえた対象船舶や検査方法の重点化や適切な実施結果の公表に引き続き取り組み、
PSCの適切な実施に努める必要がある。
また、東京MOU全体においても、関係当局による会合の他に、各国の外国船舶監督官 を集めた研修の実施などを通じて各国の連携・協力を深め、PSCを強化・重点化し、域内 のサブスタンダード船の排除を促進することとする。
②IMO加盟国監査スキームの実現に向けた取り組み
2003年に開催されたIMO総会での決議を受け、今後、「IMO取り決めの実施のための コード」の策定との調和を図りつつ、2004 年 7 月から開始されるパイロット監査プログ ラムを含む本スキームの具体化に係る議論・作業への積極的な参加を通じ、IMOによる監 査スキームの2005年までの実現に向けて取り組みを行う必要がある。
また、本スキームは、監査を強制化することについて便宜置籍国をはじめとする多数 の国々が難色を示したことから、加盟国の任意とする制度として創設することが IMO 総 会で決議されたものであるが、将来的な強制化の可能性を排除するものではないことにつ いても同総会で承認されたこと、当初任意の制度として発足した航空分野における監査制 度が強制化されるに至っていること等を踏まえ、我が国としては、今後の本スキームの定 着と実施状況を見極めつつ、その実効性を確保するために必要な制度の改善・発展につい ても積極的に取り組んでいくことが必要である。
③油タンカー船体構造規制
シングルハルタンカーのフェーズアウト期限の前倒し及び検査強化を盛り込んだ MARPOL73/78条約附属書Ⅰの改正案が、2003年12月に第50回海洋環境保護委員会
(MEPC50)で採択された。本改正附属書Ⅰに対応すべく、国内法令の整備(海防法第5 条に基づく技術基準省令の見直し等)を行う必要がある。
④避難場所に関するガイドライン策定を受けた我が国の対応
カスター号(2001年)、プレスティージ号事故などの経験から、事故に遭遇した船の避 難場所の指定に関する諸問題がIMOで検討され、2003年総会でガイドライン(Guidelines on Places of Refuge for Ships in Need of Assistance)が採択されたが、これを受けて適切 に対応していくことが必要である。
⑤船主等への追加責任の導入によるタンカー事故防止への取り組み
油濁損害賠償保障制度において、タンカー事故に係る船舶の船主等への追加負担の導入 等を通じて、良質の船舶運航(クオリティーシッピング)のインセンティブを高め、タン
カー事故を防止する取り組みを推進する必要がある。
⑥一般船舶への保険加入義務付け、無保険船の入港禁止等の制度の導入
タンカー以外の一般船舶についても、損害賠償の支払いを填補する保険加入を義務付け、
無保険船舶について入港を禁止する制度の導入を通じて、保険に加入できないような安全 性の低い船舶を排除し、船舶の事故防止に繋げていく必要がある。(今次通常国会に油濁損 害賠償保障法の一部改正案を提出済み)
2.
応急対策
(1)防除体制の整備
①地域レベルの連携強化
排出油防除協議会の広域化が進んでいない海域があることから、そのような海域で は、広域的な協力関係の構築を進める必要がある。
②排出油防除に関する合同訓練
油排出事故発生時における災害応急対策を迅速・的確に実施するため、今後とも引 き続き、自治体や関係機関と合同での対策本部の設置等の机上訓練や船艇を用いた実 働訓練を実施し、連携の強化を図る必要がある。
③(独)海上災害防止センターについて
(独)海上災害防止センターは、中期目標に掲げたように、社会情勢の変化に対応 して、①業務運営の効率化、②業務の質の向上、③財務内容の改善等の着実な実施を 図っていくことが望まれる。具体的には、海洋環境に関する国民意識の向上、外国船 舶の事故の増加に伴い迅速かつ経済的な油防除の実施が求められていることから、全 国で10基地に保有する油回収装置の運用システムを構築し、マニュアル化を行うと ともに、訓練及び研修会の実施による契約防災措置実施者の能力の向上等を図ること により、(独)海上災害防止センターの業務の質の向上を図り、これらの着実な実施を 図る必要がある。
(2)資機材等の整備について
資機材の整備の目標を満たしていない排出油防除計画の海域においては、目標を満た すべく資機材整備を進めるほか、資機材によっては、メンテナンスや有効期限切れに伴 う更新にも万全を期す必要がある。また、隣接する海域から資機材を迅速に調達するこ とが可能となるよう、平時より連携を図り、動員可能な資機材量の把握、及び調達方法 についての検討を引き続き進めていくことが望まれる。
また、大型浚渫兼油回収船等油回収資機材についても、高粘度な油の回収、高波浪に 対応できるよう高度な油防除技術の開発が必要である。さらに、事故情報の伝達態勢や 手法の検討、訓練の実施等、より迅速な出動体制を検討する必要がある。
(3)情報整備
海上保安庁においては、現在実施している沿岸域の環境脆弱性指標(ESI)データの整 備を推進するとともに、データをシーズネットの付加情報として順次掲載していくこと が必要である。また、各地方自治体も独自の情報図を整備していけるよう、「沿岸海域環 境保全情報」のデータベースの更なる有効利用を進めていく必要がある。
気象庁における漂流予測モデルについては、海流の強い黒潮流域で予測誤差が大きい ことから、引き続きモデルの改良を進める必要がある。このためには、海流等の状況を 正確に把握する必要があることから、関係機関と連携して海洋観測データの収集、解析 をさらに強化することも重要である。
油防除作業の計画を立てる場合の利便性のために漂流予測結果をシーズネットへ追加 し、沿岸海域環境保全情報との一元的な表示を可能とする必要がある。
(4)国際協力(NOWPAP等)
現在NOWPAP で検討が進められている「NOWPAP 地域油流出緊急時計画」の早期
発効・実施を図り、加えて、同計画の地理的適用範囲の拡大を実現すべく、関係国との 間で鋭意調整を進める必要がある。また、合同訓練等の実施を含め、沿岸国との間で円 滑なオペレーションが実施されるために必要な取り組みを行っていく必要がある。
(5)サハリンプロジェクトの事故想定を踏まえた対策の検討
今後更なる事業展開が予定されているサハリンプロジェクトについては事業主体から の油流出シミュレーションの想定が十分に公開されていないために、現段階では我が国 への影響について判断することはできないが、引き続き同プロジェクトの情報収集に努 めるとともに、わが国への影響について注視し、適切に対応していく必要がある。
3.
まとめ
これまでの評価等を踏まえ、本評価書のまとめとして、次の事項への対応を今後の課題と して指摘する。
①油流出に係る近隣国との国際協力体制の強化
既に述べたように、今後、大規模油流出事故対応の施策を推進する上で、特に強化を図 っていく必要がある分野は、近隣国との国際的な協力・連携体制の強化であると考えられ る。海上交通は、元来、国際的なものであるため、国際的な視点、特に近隣アジア諸国と 連携した施策を推進していくことは重要である。当面の課題として、具体的には、以下の ような点を指摘できる。
・サブスタンダード船の排除を進めるため、東京MOUの各加盟国で、船舶の欠陥指摘 実績等を考慮した対象船舶や検査方法の重点化等に取り組む効果的なPSC の連携実 施体制の強化
・新しい国際的な取り組みであるIMO加盟国監査スキームを2005年までに具現化す るために国際間の調整・協議を進めていくこと
・油濁損害賠償に関する保険・補償におけるタンカー事故に向けたインセンティブの導 入を提案、国際間の調整を進めること
・サハリンプロジェクトについて情報収集に努めるとともに、我が国への影響を注視し、
適切に対応していくこと
・ 既存の NOWPAPの枠組みにおいて、「NOWPAP地域緊急時計画」の早期発効・実 施、同計画の地理的適用範囲の拡大、それに基づく日本、中国、韓国、ロシアの4カ 国の連携体制の早期確立、沿岸国との合同訓練等の実施
さらに、将来的には、単にこれらの課題に個別に対応することにとどまらず、例えば国 土交通省と近隣諸国の関係行政機関といった実務官庁同士で、直接、関係する様々な課題 について包括的に意見交換を行うことや、関係国の沿岸自治体やNPOも含めた連携関係 を構築すること等を視野に入れ、真に機動的かつ実効的な国際協力関係の構築を模索する ことが期待される。
②その他の個別的課題
以上のほか、既に述べたように、以下のような個別的課題への取り組みを着実に推進し ていく必要がある。
ア.事故防止対策
・ポート・ステート・コントロール(PSC)の実績を踏まえた外国船舶監督官の配置、
対象船舶や検査方法の重点化
・MARPOL73/78条約改正附属書Ⅰに対応するための海防法第5条に基づく技術基準省 令の見直し等の国内法令整備
・IMOにおける避難場所に関するガイドライン策定を受けた適切な対応
・タンカー以外の一般船舶への保険加入義務付け、無保険船舶の入港禁止等の制度の導 入
イ.応急対策
・排出油防除計画の資機材の整備目標を満たしていない海域における目標の達成の推進
・隣接する海域からの迅速な資機材の調達を念頭においた、平時からの連携確保、動員可 能な資機材量の把握及び調達方法についての検討
・大型浚渫兼油回収船等油回収資機材についての、高粘度な油の回収、高波浪に対応でき るような高度な油防除技術の開発、より迅速な出動体制の検討
・排出油防除協議会の広域化が進んでいない海域での広域的な協力関係の構築