照射が vinblastine 生産に与える影響
第1節 序論
第2章の結論として、赤単色でのニチニチソウの栽培は、他の光質に比べてバイオマスの 増加に有効でかつ、アルカロイド濃度を低下させないことを示した。そこで本章では、Hirata
et al.(1991; 1992; 1993)が報告するUVAまたは青色光照射によって促進される非酵素的な
カップリング反応を赤色光下で栽培したニチニチソウの葉内で起こすことで vinblastine 蓄 積させることが可能か調査を行った。
UVA や青色光のような比較的エネルギーレベルの高い光を細胞が受けると、細胞内には ROSなどのさまざまな酸化物が生じる(Baier et al., 2006)。細胞内での恒常性の維持には、
酸化物の消去を行うことが重要な機能の一つとして知られている。その機能を担う酵素の 一つにascorbic acidを酸化させて過酸化水素消去を行うascorbate peroxidase 1(Apx1)が存
在する。Davletova et al.(2005)は、シロイヌナズナにおいて光ストレスが生じるとApx1発
現量が高まることを報告しており、Apx1 発現量を増やすことでこのストレスに対応してい ると考えられている。vindolineとcatharanthineのカップリング反応を触媒する酵素CrPRX1 は、APX1と同じペルオキシダーゼであり、過酸化水素を分解する作用がある。エネルギー レベルの低いRで栽培されたニチニチソウにUVAや青色光を照射することは、突然エネル ギーレベルの高い光にさらされることになり、酸化状態の急激な上昇が生じると予想され る。この時、CrPrx1発現量を高めることで、Apx1と同様に酸化状態の急激な上昇に対応す る可能性が予想される。Costa et al.(2008)は、CrPrx1発現量および活性の増加は、3‘, 4’
-anhydrovinblastine 量の増加を起こすことを報告していることから、UVA や青色光照射によ
ってCrPrx1発現量増加にともなう二量体MIA量の増加が期待できる。
植物の二次代謝産物は、いくつかのマスター制御転写因子が複数の生合成酵素遺伝子の 発現制御を行っており、生合成が促進されるような刺激が加えられると代謝経路上の生合 成酵素遺伝子の発現量が同時に増加することが知られている(Gonzalez et al., 2008;Hirai et al., 2007;Kato et al., 2007;Shoji et al., 2010;Yamada et al., 2012)。ニチニチソウでもマスタ ー制御転写因子としてOrca2(Menke et al., 1999)、Orca3(van der Fits and Memelink, 2000)、
Bis1(Van Moerkercke et al., 2015)が確認されている。そのため、カップリング反応発生時に
マスター制御転写因子が活性化することで単量体MIA生合成も高まっている可能性がある。
しかし、UVA や青色光照射行ったときの生合成関連遺伝子発現量を測定した研究例は過去 にない。そこで、本章の実験ではアルカロイド濃度と共にアルカロイド生合成関連遺伝子の 発現量を調査した。
40 第2節 材料および方法
1. 材料および育苗条件
材料は第2章と同じ品種を用いた。育苗条件は第2章実験2と同じにした。
2. 赤色光照射条件
播種35日後、150 μmol m-2 s-1の赤単色光に設定したDFTに移植した。光周期、DFTの水 耕液および室温は育苗と同じ条件とした。播種63日後、異なる3つの光処理区にそれぞれ 32株移植した。
3. UVAまたは青色光照射条件
光処理区は、150 μmol m-2 s-1の青単色区(B)、5 W m-2のUVA に150 μmol m-2 s-1の赤色 光を補光した区(UVA+R)、コントロールの150 μmol m-2 s-1の赤単色区(R)とした。可視 光は、第2章で用いたLEDを使用した。UVAの光源はウシオ電機(株)から提供されたUV
蛍光灯(XEFL340、ピーク波長370 nm付近)を用いた。UV蛍光灯は320 mm間隔で設置し
た。UVA強度はUV放射強度計(x9-6, Gigahertz-Optik GmbH)を用いて測定した。光周期、
DFTの水耕液および室温は育苗と同じ条件とした。
4. 収穫および生育調査
播種63日後の第4葉対および全葉を処理0日後サンプルとして、それぞれ異なる株から 4株ずつ収穫した。その後、播種64、66、68、70日後の株から第4葉対および全葉を、処 理1、3、5、7日後としてそれぞれ異なる株から4株ずつ収穫した。
収穫後、株あたり地上部新鮮重および全葉新鮮重を測定した。測定後、第4葉および全葉 をビニルパックに入れ−35 oCで保存した。その後、凍結した全葉は48時間凍結乾燥し、こ れを株あたり全葉乾物重とした。
5. アルカロイド抽出
アルカロイドの抽出は第2章実験2処理2の方法で行った。
6. HPLC条件
HPLC システムは Chromaster((株)日立ハイテクノロジーズ)を用いた。カラムは CapcellpacC18 MGII(4.6 mm× 150 mm,5 μm,(株)資生堂)を用いた。注入量は10 µl、
流速は1.0 ml min-1、カラムオーブン温度は40 oCに設定した。アルカロイドはダイオードア
レイで検出し、測定波長は250 nmに設定した。移動層は0.01 Mリン酸緩衝液(pH7.0,溶 媒A)とアセトニトリル(溶媒B)を用いた。グラジエント条件(溶媒Aの容積:溶媒Bの 容積)は0-3 min 70 : 30、3-8 min 40 : 60、8-20 min 40 : 60とした。vindloineおよびcatharanthine の同定と定量は、vindolineとcatharanthine sulfate標準品(ともにLKT Labolatries, Inc.より購
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入)を用いて保持時間と吸収スペクトルから同定を行い、定量は各標準品から検量線を作成 し行った。
7. UPLC-MS条件
UPLC システムは、ACQUITY UPLC systems(Waters)、質量分析計は SYNAPT HDMS
(Waters)、カラムはACQUITY UPLC BEH C18(2.1 mm× 150 mm、1.7 µm、Waters)を用 いた。流速は0.3 ml min-2で移動層は0.1 % 蟻酸を加えた水(A)およびアセトニトリル(B) を用いた。グラジエント条件(溶媒Aの容積:溶媒Bの容積)は0 min 80 : 20、7 min 70 : 30、9-14 min 5 : 95、14.5–19.8 min 80 : 20とした。注入量は5 µlとした。アルカロイドの定 性は、vinblastine 硫酸塩(和光純薬工業(株)より購入。)、tabersonine 標準品(Santa Cruz Biotechnology Inc.より購入。)および3‘, 4’-anhydrovinblastine標準品(Santa Cruz Biotechnology Inc.より購入。)を用いて、保持時間とマススペクトルから同定を行った。vinblastineの定量
は、vinblastineのプリカーサーイオン(811.47 m/z)から得られる、全プロダクトイオンのイ
オン強度の積算値を使用して、標準品から検量線を作成し定量した。tabersonine および 3‘,
4’-anhydrovinblastineは、標準品量が検量線を作成するのに十分な量得られなかったので、そ
れぞれのプリカーサーイオン(337.19および793.42 m/z)から得られる、プロダクトイオン
(168.07および224.10 m/z)のピーク強度を元に相対値で表した。
8. 統計処理
本実験で得られたデータは、統計解析ソフトJMP11(SAS Institute, Japan)用いて
Tukey-Kramer 検定を有意水準 5 %で行った。また、パブリックドメインソフトウェアである R
version 3.2.4を用いて二元配置分散分析(two-way ANOVA)およびPearsonの相関係数(r) を求めた。
42 第3節 結果
1. 第4葉におけるアルカロイド濃度の経日変化
Fig. 3-1 に第4葉に含まれる単量体 MIA 濃度の経日変化を示した。vindoline および
catharanthine濃度は、光質、処理日数の影響が見られた、交互作用には統計的な差が見られ
なかった(Table 3-1)。すべての処理区で処理1日後に増加した(Fig. 3-1 A)。R処理区では 処理3日後まで増加を続け、その後減少する傾向が見られた。UVA+R処理区では、処理1 日から7日にかけて減少傾向にあった。B処理区では、vindoline濃度は処理1日から3日後 にかけて減少する傾向があり、その後濃度の変化は観察されなかった。一方でcatharanthine 濃度は、処理1日から3日後にかけて減少する傾向が見られた。その後、増加する傾向が見 られた(Fig. 3-1 B)。vindolineおよびcatharanthine濃度間には、r = 0.9687と強い相関が見
られた。tabersonine濃度は、光質、処理日数、交互作用の全ての項目で統計的な差が見られ
なかった(Table 3-1)。全ての処理区で処理0日から1日後にかけて増加する傾向が見られ
た(Fig. 3-1 C)。R処理区では、処理1日後以降減少傾向が見られた。BとUVA+R処理区
では、R 処理区と同じ様に減少したが、処理 7 日後に増加傾向に転じた。tabersonine は
vindoline 前駆体であるが、相関は見られなかった。また、共通の前駆体から合成される
catharanthineとも相関は見られなかった。
Fig. 3-2に二量体MIA濃度の経日変化を示した。vinblastineおよび3’, 4’-anhydrovinblastine 濃度は、光質、処理日数に影響が見られた(Table 3-1)。一方、vinblastineは交互作用に統計 的な差は無かったが、3‘, 4’-anhydrovinblastineでは交互作用の影響が見られた。vinblasitne濃 度は、R 処理区では処理期間中 1.84 μg g-1DW 以下しか検出されなかった。また、3‘, 4’
-anhydrovinblastine 濃度も処理期間中に大きな変化は観察されなかった。B 処理区では、
vinblastine、3‘, 4’-anhydrovinblastineの両方で処理1日後から増加する傾向が見られ、処理3 日から 5 日後にかけて大きく増加した。UVA+R 処理区では、vinblastine、3‘, 4’
-anhydrovinblastineの両方で処理1 日後から増加傾向が見られ、処理 3 日後に大きく増加し
た。その後、vinblastineは処理5日後、すべての測定点の中で最大値を示し、処理7日後に 減少傾向を示した。他方で、3‘, 4’-anhydrovinblastineは処理7日後も増加傾向にあった。
2. 第4葉におけるアルカロイド生合成関連遺伝子発現量の変化
Fig. 3-3 に vindoline および catharanthine 生合成酵素遺伝子発現量の経日変化を示した。
CrTdc発現量は、光質で影響が見られたものの、処理日数、交互作用には統計的な差が見ら
れなかった(Table 3-2)。R処理区では処理1日後に最も高い値を示し、その後減少傾向が 見られた(Fig. 3-3 A)。B処理区でも、R処理区と同様の傾向が見られた。UVA+R処理区 では、処理5日後に大きく減少したが、他の日には大きな変動は見られなかった。
CrStr発現量は、光質、処理日数、相互作用に影響が現れた(Table 3-2)。R処理区では、
処理5日後まで増加する傾向が見られ、処理7日後に減少した(Fig. 3-3 B)。B処理区では、
処理1日後に減少傾向が見られ、処理3日後に増加した。その後、減少傾向を示した。UVA+R