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議決権行使内訳等の開示規制

ドキュメント内 機関投資家の議決権行使に関する法的検討 (ページ 125-143)

第四章 機関投資家の適正な議決権行使に向けた利益相反防止体制

第三節 議決権行使内訳等の開示規制

最後に、議決権行使の内訳などを個別に開示する規制について言及することにしたい。議決 権行使結果の公表を充実させることが機関投資家の議決権行使の透明性を高め、特に、利益相 反についての懸念を払拭させる有効な手段として期待されるからである480481

議決権行使結果の開示については、①個別開示が賛否結果についてのみに関心が集中する結 果、形式主義を助長して建設的な対話を阻害する、②機関投資家の反対議決権行使が、市場に 否定的なメッセージとして伝わり、株価下落などにつながる、③小型株アクティブ運用の場合、

個別開示によって投資対象企業名が明らかになれば、フリー・ライドする者があり得るなど、

実務的に説得力のある指摘もある482。このことから、議決権行使結果の個別開示を強制するので はなく、選択肢の一つに留めるべきとの意見もある483

他方で、上記①の懸念は、賛否判断の理由などを具体的に明らかにすることで、一定程度の 解消することができる、また、上記②の懸念は、機関投資家の反対議決権行使が株価上昇につ ながることを示す実証研究があるといった反論も考えられる。また、③は「説明、または遵守」

原則をどうみるか、たとえば、遵守を担保する手段と見るか、ベストプラクティスを探し出す ための手段と見るかによって、問題になる可能性が変わるしかない。たとえば、(i)では、個別 開示が義務と理解されるため、③が現実化する可能性があるものの、(ii)では、個別開示が選

478 キムスンソク・前掲注(469)118頁;ユクテウ「議決権行使諮問会社の現況および欧米先進国に おける規制に関する比較法的考察」江原法学49券(2016、江原大学比較法学研究所)561頁。

479 キムスンソク・前掲注(469)119頁。

480 森・濱田松本法律事務所・前掲注(371)2頁。

481 村田・前掲注(378)22頁。

482 村田・前掲注(378)22頁; 詳細は、三瓶裕喜「議決権行使結果の開示」ジュリスト1515号(201 8、有斐閣)25頁参照。

483 村田・前掲注(378)22頁。

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択肢として理解されるため、③は現実化する可能性がない484

筆者としては、諸外国と比べて、利益相反の問題がより深刻な韓日両国では、開示すべき情 報の量・質を改善し、市場の監視機能が効率的に発揮できるように個別開示を促進するための 制度を整備していくことが有要と考える。そのため、以下では、このような観点から、議決権 行使結果の個別開示について検討することにしたい。

1 議決権行使の内訳等の開示対象

(1)韓国特有の問題

日本では議決権行使結果の開示対象に関する制限を設けていない。これに対して、韓国の資 本市場法では、集合投資業者が集合投資財産に属する株式の議決権行使結果を開示しなければ ならないと規定している(同法87条1項)。もっとも、非上場法人が発行している株式について は、その例外を認めている(同法87条参照)。このような措置は、開示に係る負担を緩和する ことによって開示内容の充実や開示制度の効率性を高めるためのものと考えられる。しかし、

上場法人が発行している株式のうち、各集合投資機構(たとえば、ファンド)の資産総額の 5%または100億ウォン未満の株式を所有している上場法人が発行している株式に関する議決権 行使の内訳等も開示対象から除外されている。かかる適用除外の妥当性には疑問がある。

大型機関投資家が多くのファンドを運用している現実を考えると、上記のような開示対象の 制限は、機関投資家の議決権行使についての市場監視機能を過度に弱化させるおそれがある。

例えば、機関投資家であるAが、ファンドの1、2、3、4、5を運用する場合を考えてみよう。Aは、

1ファンドにおいては資産総額の5%または100億ウォン以上を上場法人であるXの株式に投資する 一方、2~5ファンドにおいては資産総額の5%または100億ウォン未満をXの株式に投資すること ができる。この場合には、Aは1ファンドの議決権行使の内訳等だけを開示し、2~5ファンドの 議決権行使の内訳等は開示しなくてもよい。このように、Aの議決権行使の内訳等の開示からは、

Aが所有しているすべてのXの株式に関する議決権行使の内訳は分からない。これは、AがXとの ビジネス関係などを考慮し戦略的に議決権を行使しても、これを十分に監視できないことを意 味する。利益相反問題などが存在する韓国の現実を考えると、このような規制の空白は望まし くない。

484 韓国と日本では、「説明、または遵守」原則を(i)の観点からのみ見る傾向がある。しかし、今後、

個別開示規制に関する検討するのに必要なリアルデータの蓄積という面を考えると、「説明、または遵守」

原則を(ii)の観点から見る必要もあると考えられる。

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現行制度の維持が正当化されるためには、議決権行使の内訳等の開示利益より費用などの負 担が大きくなければならないだろう。しかし、韓国の機関投資家の中には、自発的に法律上の 開示対象より広い範囲で議決権行使の内訳等を開示するケースが多いことが注目される。この ことは、開示対象を拡大したとしても、追加的な負担は大きくないことを示唆するように思わ れる485。また、これまでも、機関投資家の開示に係る負担を緩和する立法が持続的に行われてお り、資本市場法の施行当時より機関投資家の開示業務負担は相当に緩和されている(以下の[表 19]参照)。これらのことから、機関投資家の開示コスト負担の増加を考慮することなく、開示 対象の範囲を広げることにも合理性を見出すことができるように思われる。たとえば、議決権 行使及びその内訳等の開示などを担当する人材の採用自体が困難な零細機関投資家についての み例外を設けるとする案486、または機関投資家が自発的に開示している範囲を参考にして開示対 象を拡大する案などが考えられる。

(2)日本特有の問題

韓国では、機関投資家は議決権行使の内訳およびその理由、その他議決権行使の適正性など を把握するうえにおいて必要な議決権行使に関する内部指針、議決権行使の対象法人との関係 などを開示する必要がある(資本市場法87条8項・9項、同法施行令91条4項など)。

一方、日本では、機関投資家は議決権行使に対する明確な方針と議決権行使の内訳だけを開 示すればよい。日本版コードでは、機関投資家に対して、議決権行使についての明確な方針を 策定・公表すること(指針5-2)、議決権行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表す ること(指針5-3)のみを要請しているためである487。日本版コード指針5-3では、「議決権の行 使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明する ことも、可視性を高めることに資すると考えられる」としているが、これは賛否の理由を開示 しなければならないというものではない。したがって、機関投資家が賛否の理由を開示するこ とは自由であり、開示しなくても、その理由を説明する必要はない488。ところが、市場の監視機

485 イスウォン・前掲注(90)14、15頁。

486 米国の場合、Form N-5を通じて登録した小規模投資会社を除いたすべての投資会社は、毎年8月31日 まで、直前年度の6月30日から該当年度6月30日までの議決権行使の内訳を開示しなければならない(SEC

「Final Rule:Disclosure of Proxy Voting Policies and Proxy Voting Records by Registered Manage ment Investment Companies」Form N-RX)。

487 もっとも、機関投資家はその理由を説明し、個別開示を実施しないことも可能である(日本版コード 指針5-3)。

488 浜田宰「議決権行使結果の個別開示をめぐる議論と機関投資家の対応状況」商事法務2145号(2017、

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能を活用した機関投資家の適正な議決権行使の実現という観点から見ると、機関投資家が開示 する情報の量は多ければ多いほど良い。特に、賛否の理由は、多くの機関投資家が反対する議 案について賛成し、またはその反対の場面などにおいて不要な対立を緩和し、機関投資家の議 決権行使の結果を納得させることができる重要な資料となる。もちろん、特定議案について賛 成する場合には、特別な異議がないからなど、その具体的な理由を提示することが容易ではな いケースも想定できる。しかし、反対する場合には、明確な理由があるはずである。議案に反 対の理由を開示するときは、可能な限り、具体的な情報を含むことが望ましい489

2 開示の時期

(1)事前開示490

市場への情報提供は、早ければ早いほどよい。特定案件に関する機関投資家の反対情報が株 主総会前に市場に提供されると、機関投資家の判断に対する評価はもとより、当該案件に対す る関係専門家の深度のある分析と意見が提示される可能性が高くなる。このことは、機関投資 家の議決権行使が不適切な方向で行われることを防止する一方、個人投資家の議決権行使の判 断にも寄与するものである。このように、機関投資家の議決権行使内訳等の事前開示は、機関 投資家の適切な議決権行使以上の意味を持つものと言える491

しかし、韓国や日本の株主総会の運営実態を考えると、事前開示は、過度な実務の負担をも たらす可能性がある。韓国や日本では、上場企業の多くは、法の要請で、株主総会の2~3週間 前に招集通知を発している492。このような状況で、事前開示を要求すれば、機関投資家は1週間

商事法務研究会)38頁。

489 韓国の機関投資家の2013年8月から2015年8月までの賛否理由の開示を見ると、23.61%において、「配 当政策の改善を通じて株主価値を向上しなければならない」、または「変更事項が株主の利益に符合しな いと判断する」といった、具体的な情報のない形式的な理由を提示するか、または賛否の理由自体を提示 しなかった。

490 事前開示とは、機関投資家が株主総会の開催前に議決権行使内訳等を開示することをいう。

491 機関投資家が株主総会前に議決権行使の内訳等を開示することを検討すべきとするものとして、アン サンヒ=ファンウンギョン「Governance Issue:国内上場企業の支配構造改善に向けた提言(II)」ISSUE REPORT(2017、大信支配構造研究所)4頁がある。議案の分析力や情報力が劣る個人投資家が議決権を行 使する際、機関投資家の行使内訳を参考にすることができると、その議決権行使に肯定的な影響を及ぼす 可能性がある。一方、機関投資家の事前開示をためには、株主総会の議案に関連する資料を少なくとも取 締役会決議(韓国では、通常、株主総会の30日前)までに公開することを検討しなければならない。

492 權容秀・前掲注(430)210、211頁。

ドキュメント内 機関投資家の議決権行使に関する法的検討 (ページ 125-143)

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