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機関投資家の利益相反防止に関する検討

ドキュメント内 機関投資家の議決権行使に関する法的検討 (ページ 102-125)

第四章 機関投資家の適正な議決権行使に向けた利益相反防止体制

第二節 機関投資家の利益相反防止に関する検討

前節で明らかにしたように、機関投資家の適正な議決権行使を阻害する主な要因は、経済的 動機の不足や利益相反問題である。このうち、前者の機関投資家の経済的動機の不足を補うア イデアとして、近年、ヘッジファンドと伝統的な機関投資家の役割分担が注目されている。こ れは、ヘッジファンドが、株主利益の観点で投資企業の事業戦略に関する具体的な提案を行っ て、伝統的な機関投資家が当該提案内容を分析・評価して賛否の議決権を行使するというもの

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である392。もっとも、韓国において、ヘッジファンドを利用する考えについては、慎重な態度が 必要である。韓国では、企業の買収防衛策が認められておらず、ヘッジファンドの活動を自由 に行わせることに大きな抵抗があるからである。したがって、この問題については、買収防衛 策の導入の是非を含めた、総合的な検討が不可欠で、これについては今後の課題としたい。な お、経済的動機の不足を解消できる方策として、議決権行使助言会社の活用が考えられる。こ れは利益相反問題の解消とも密接な関連があるため、本稿で検討対象とすることにしたい。

以下では、韓国と日本のスチュワードシップ・コードからの要請事項を中心に、両国共通の 問題として、実効的な利益相反管理体制のあり方について具体的に検討することにしたい。

1スチュワードシップ・コードの要請

日本版コードは、「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相 反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである」と規定している(日本版コード原 則2)。また、韓国版コードは、「機関投資家は、受託者として責任を履行する過程において、

実際に直面し、または直面する可能性がある利益相反問題をどう解決するかについて、効果的 かつ明確な政策を実施し、その内容を公開しなければならない」と規定している(韓国版コード 原則2)。

両国の原則を見ると、表現の差はあるものの、機関投資家に対して明確な利益相反管理方針 の策定・公開を要請している点で共通点が見られる。それゆえ、機関投資家は、所有・支配関 係や取引・契約関係により、利益相反が実際に発生し、または発生する可能性のある場合393を把 握し、これを実効的に管理できる明確な方針を策定・公開する必要がある。さらに、顧客(ま

392 白井・前掲注(22)40、41頁。

393 韓国版コードに関して、具体的に、①機関投資家が系列会社の株主総会で議決権を行使する場合、② 機関投資家が(潜在的)事業関係にある会社、またはその系列会社の株主総会で議決権を行使する場合、

③機関投資家が系列会社と事業関係にある会社の株主総会で議決権を行使する場合、④機関投資家の経営 陣、最大株主(特殊関係人含む)が取締役として在任中の会社の株主総会で議決権を行使する場合、⑤機 関投資家が系列会社、または関連機関の役員や従業員を社外取締役候補に推薦する場合などが挙げられて いる(韓国企業支配構造院「韓国スチュワードシップ・コード第1回解説書」(2017年6月)32頁)。これ に対して、日本版コードでは、「スチュワードシップ活動を行うに当たっては、自ら所属する企業グルー プと顧客・受益者の双方の影響を及ぼす事項について議決権を行使する場合など、利益相反の発生が避け られない場合がある。機関投資家は、こうした利益相反を適切に管理することが重要である」(指針2-

1)「機関投資家は、こうした認識の下、あらかじめ想定し得る利益相反の主な類型について、これをど のように管理するのかについての明確な方針を策定し、これを公表すべきである」(指針2-2)として いるものの、その具体的な措置については規定されていない。この点、韓国の具体例が参考になると思わ れる。

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たは受益者)の信頼確保という観点から見ると、上記の方針には、「利益相反管理の必要性と 目的」、「利益相反問題の点検及びその結果の公開」、「利益相反管理体制、利益相反管理方 針の制定・改正」、「履行点検に関する組織体系・権限・責任・報告などに関する事項」およ び「受託機関・諮問機関などの利益相反管理に関する事項」など、具体的な内容を盛り込むこ とが望ましい394

2具体的な利益相反防止体制

(1)独立した第三者委員会の設置

韓国版および日本版コードが想定している利益相反管理策として、独立した取締役会や議決 権行使の意思決定や監督に向けた第三者委員会の設置など、ガバナンス体制の整備がある(日 本版コード指針2-3、韓国版コード原則2案内指針に関する解説395)。このような体制整備を行い、

適切な内部統制の手続きに従って議決権行使を事前的・事後的に管理・監督することは、利益 相反管理の観点で有用である。

上記のようなコードの要請から、日本の大手資産運用会社の多くは、利益相反管理のために 議決権行使判断を客観的な視点で監督できる体制を構築している396。そこでは、利益相反の恐れ がある議案、または議決権行使判断基準に定めがない議案に対する諮問・監督などを行う第三 者委員会の設置が注目されている。たとえば、日本では、Nissay Asset ManagementやMitsubis hi UFJ Trust and Bankingなどが、社外有識者や社外役員として構成される独立した第三者委 員会を設置し、議決権行使についての諮問・監督などを行うこととしている397。また、韓国では、

国民年金が既存の議決権専門委員会の役割を拡大·強化した受託者責任専門委員会を設置し、議 決権行使についての適正性を高めている398。このような韓日の機関投資家の動きは、利益相反管 理の観点から肯定的に評価することができる。

もっとも、このような第三者委員会が実効的に機能し、利益相反管理に実質的に寄与するこ

394 韓国企業支配構造院・前掲注(393)33頁。

395 韓国企業支配構造院・前掲注(393)34頁。

396 井口・前掲注(10)112頁。

397 Nikkei,Japan's asset managers seek to vote more independently,Asian Review(June 20,201 7),https://asia.nikkei.com/Business/Trends/Japan-s-asset-managers-seek-to-vote-more-independe ntly(検索日:2018年3月27日)。

398 受託者責任専門委員会は、各界の代表として推薦された専門家で構成することで、独立性を強化して いる。

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とを期待するためには、第三者委員会の独立性および審議の適正性を確保することが重要であ る。そこで、以下では、まず、この問題を検討することにしたい。

1)第三者委員会の独立性確保

第三者委員会については、高いレベルの独立性の確保を要請する必要があると考えられる。

そう判断した根拠は、次の通りである。一般上場会社と異なり、機関投資家は、顧客の資産を 基盤に運営され、その不適切な経営は国民経済の全般に影響を及ぼしかねない。そのため、機 関投資家の支配構造に関する事項については、厳格な基準を示すことが妥当である。他方で、

第三者委員会は、利益相反管理の観点から、機関投資家による議決権行使を管理·監督し、その 適正性を確保することで、「最終受益者の利益」を目的とする。それゆえ、第三者委員会は、

機関投資家の大株主や経営陣から独立していることに加えて、機関投資家そのものから独立し て受益者の利益という観点から行動することが要請される。このような事情を総合すると、第 三者委員会については、特に、高いレベルの独立性を要請する必要があり、以下では、こうし た考え方に基づき検討する。

①独立性を持つ委員の選任

第三者委員会は、独立した客観的な立場で、利益相反が発生し得る議案に対する議決権行使 を判断・監督できる能力を備えている必要がある。そこでは、第三者委員会の独立性を確保す ることが何より重要な課題だろう。

第三者委員会の独立性を確保するためには、その前提として、構成員が機関投資家から独立 性を持つことが不可欠である。問題は、どのような基準で独立性を判断するのかである。これ については、韓国と日本との法体系の差を考慮して、両者を区分して検討することとする。

ⓐ日本

日本における第三者委員会の委員について、証券取引所が上場企業に要求する独立役員の要 件が参考になる。たとえば、東京証券取引所(以下、「東証」という)の有価証券上場規程で は、一般株主と利益相反が発生する恐れのない会社法上の社外取締役や社外監査役を独立役員 と規定している(以下の[表17]参照)。同じく利益相反の防止が必要な第三者委員会において は、少なくともこれに該当する委員を選定する必要があると考えられる。

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