韓国では、2016年から株主総会および機関投資家の議決権行使に関する情報を一括的に提供 する「議決権情報広場(Voting Information Plaza、VIP)」サービスが行われている。株主総 会の議案について適切な議決権行使を図るためには、議決権行使に関する情報へのアクセスを 容易にすることで、市場の監視機能を強化し、これを通じて機関投資家の自発的努力を誘導す る方策を構築しなければならないという声が高まった結果である113。
当該サービスは、過去から現在までの機関投資家の議決権行使の内訳とその理由、上場企業 の株主総会の関連情報114、機関投資家の議決権行使の充実度の関連指標等を提供している。以下
112 2011年4月の商法改正では、倫理経営を強化する世界的な傾向に合わせて大規模な企業に対しても遵 法経営を担保するために遵法支援人制度を導入した。同改正商法上の遵法支援人制度は、金融会社支配構 造に関する法律や資本市場法上の遵法監視人制度とは区別される。
遵法支援人は、企業がこれを置かなくても、罰則やその他不利益を受けてはいないが、商法でその選任 を強制しているということには、疑問の余地がない(イチョルソン『会社法の講義』第24版(2016、博英 社)864頁)。しかし、遵法支援人の義務的選任の妥当性については議論があり、その他にも遵法支援人と 監査役または監査委員会との機能重複や関係不明確、遵法支援人の資格などについて見解の対立がある
(ユンソンスン「改正商法上の遵法支援人制度の問題点」企業支配構造レビュー通巻60号(2012、韓国企 業支配構造院)61頁以下;キムイス「遵法支援人制度導入の正当性と改善方向」企業支配構造レビュー通 巻第64号(2012、韓国企業支配構造院)26頁以下)。
商法542条の13第1項では、最終事業年度の末日の資産総額が5千億ウォン以上の上場会社(商法施行令39 条)は、法令を遵守し会社経営を適正にするために、役職員がその職務を遂行する際に従うべき遵法統制 基準を用意するように要求し、同条2項では、その遵法統制基準の遵守に関する業務を担当する遵法支援人 を1人以上置くように要求している。また、同条では、遵法支援人の資格(弁護士、5年以上勤務した法学 教授、その他法律的知識と経験が豊富な人[同条5項])と選任(取締役会決議[同条4項])、任期(3年常勤 [同条6項])、職務の範囲(遵法統制基準の遵守を点検する業務およびその点検結果の理事会への報告[同 条2項および3項])、職務の遂行方法(独任制の機関としてその職務を遂行[同条9項])、義務(善管注意 義務[同条7項]、職務上知り得た会社の営業上秘密漏洩禁止[同条8項])、身分保障(同条10項)などにつ いて規定している。
113 韓国企業支配構造院「議決権情報広場(VIP)の概要および活用説明会の資料」参照。
114 株主総会の議案に関する詳細情報、議案提案者(取締役会、株主)、電子投票制度施行の有無等をい う。
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の機関投資家の議決権行使の現状は、基本的に当該サービスの内容をもとに、検討することと する。
1議案別の議決権行使の現状
[表4]韓国企業支配構造院の反対勧告率および反対行使率
2016 2017 2018 反対
勧告率
反対 行使率
反対 勧告率
反対 行使率
反対 勧告率
反対 行使率 定款変更 17.69% 3.4% 7.76% 11.6% 12.2% 7.2%
役員 選任
社内取締役 6.64% 5.4% 4.28% 7.9% 4.7% 4.8%
社外取締役 33.52% 4.6% 39.37% 7.5% 30.5% 6.8%
監査委員 40.52% 4.2% 39.79% 6.2% 28.6% 6.0%
監査役 40.74% 9.0% 38.46% 13.1% 34.6% 15.6%
財務諸表
利益配当 3.69% 0.6% 3.09% 2.3% 2.1% 1.1%
報酬 限度
取締役 4.20% 1.4% 2.79% 5.3% 2.1% 6.6%
監査役 2.60% 0.9% 2.22% 4.2% 0.0% 2.8%
その他 43.24% 2.7% 33.85% 3.8% 48.3% 10.7%
出典:韓国企業支配構造院「2017年の1四半期の定時株主総会の議案分析結果」報道資料(2017 年4月18日)2頁;韓国企業支配構造院「2018年の1四半期の定時株主総会の議案分析結果」報道 資料(2018年4月3日)1頁;議決権行使情報広場(VIP)、http://vip.cgs.or.kr/main/main.as p(検索日:2018年10月3日)。
(1)韓国企業支配構造院の議案別の反対勧告率
一般的に、韓国企業支配構造院で各案件について反対勧告をする理由は、次の通りである115。
115 以下は、韓国企業支配構造院「2016年第1四半期の定時株主総会の議案の分析結果」報道資料(2016
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定款変更に関する案件については、主に会社価値の毀損や株主権の侵害の恐れを理由として 反対を勧告する。具体的には、①転換株を導入し、その転換の理由を買収合併が懸念されてい る場合に明示する等、正当な企業合併を不当に制限する目的で悪用される恐れがあると判断さ れる場合、②取締役や監査役の責任減軽等の株主総会の承認事項を合理的な理由や説明もなく 取締役会決議事項に変更すること、書面投票制度の廃止、集中投票制排除等の株主権の侵害の 恐れがあると判断される場合が該当する。
役員の選任に関する案件については、主に会社または最大株主との利害関係116や長期在任117等 によって独立性が不足した場合、低い出席率等によって忠実性が問題になる場合が挙げられる。
その他にも、株主権侵害の憂慮、行政的・私法的制裁等、過度な兼任等が問題になる場合、反 対の勧告がなされる。
財務諸表・利益配当に関する案件については、「過小配当」または「過剰配当」118を理由とし て反対の勧告をする。韓国企業支配構造院は、会社の純利益指標、財務諸表、今後の投資計画 および投資規模、資本および利益剰余金の規模、同種業界の配当性向等を総合的に考慮し、配 当の「過小」または「過剰」を判断している。
報酬限度に関する案件については、過度な取締役の報酬の上限119、長期インセンティブ支給基 準の取締役会への委任、登記役員の以外の役員や従業員を含めた報酬の上限の提示を理由とし て反対を勧告する。登記役員の以外の役員や従業員を含めて報酬の上限を提示する場合には、
登記役員の報酬の上限を分離して把握できないため、個別登記役員の権限と能力、責任等を考 慮した上で、報酬の水準を策定したのかを把握できないという理由が挙げられている。
ところで、近年(韓国版コードの導入後)では、韓国企業支配構造院の反対勧告率が減少傾
年4月6日)5頁以下参照。
116 会社または最大株主との利害関係は、役員の選任に関する案件についてのすべての反対勧告の理由の 中、40.53%を占めた。利害関係が問題になったケースとしては、会社または最大株主と法律諮問や訴訟代 理等の取引関係があった法務法人や法律事務所の特殊関係人が50件として最も多かった。
117 長期再任している社外取締役および監査役(監査委員)の場合、独立性の維持が難しいと判断される。
CGS議決権行使ガイドラインでは、新規の任期を含めて連続在任している期間が7年(金融業種の場合には、
5年)を超過する場合、長期再任であると判断している(同ガイドライン8.1)。
118 過剰配当として反対の勧告を行った事例は、次のとおりである。放送サービス業を営むC社は、最近5 年間、3回の当期純損失を記録し、2015年会計年度にも当期純損失を記録した。このような状況であるに もかかわらず、C社が支払った配当金の総額は、会社が保有している現金および現金性資産の3分の1水準に 及んだ。しかも、C社は、物的分割で会社が保有している現金および現金性資産の相当部分を分割新設会社 に移転する計画であった。また、C社の場合、最大株主と特殊関係者の持分が42、86%であり、そのうち、
法人である最大株主の持分は39.36%であっだ。
119 CGS議決権行使のガイドラインでは、会社と取締役会の規模、経営成果等を総合的に考慮した上で、
報酬の上限を判断するようにしている(同ガイドライン13.1および13.4)。
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向にある。特に、2018年の全体反対勧告率(14.2%)は、前年(18.0%)に比べてかなり減少し た。その背景には、議決権行使ガイドラインの改正によって取締役会などの出席率基準が緩和 されたことに加えて120、独立性が問題になっている長期在任に該当する社外取締役や監査役の候 補が大幅に減少し、さらに、政府の財閥改革の基調に対応して、三星(サムスン)、現代(ヒョン デ)自動車、SK、ハンファ、CJ、LSなどの大企業集団が株主権益の強化に本格的に取り組む姿勢 を見せたことが挙げられる121。
(2)機関投資家の議案別の議決権行使
2016年の機関投資家の議案別の議決権行使の現状を見ると、全体的に反対の議決権行使の割 合が低く、定款変更や役員の選任に関する案件に比べて、利益配当や役員の報酬に関する案件 についての反対の議決権行使の割合が低くなっている。国内の上場会社の配当性向や配当収益 率が他国に比べて低いという点を考えれば、利益配当の案件についての反対の議決権行使の割 合が低いことは、望ましい現象とはいえない122。しかし、韓国企業支配構造院の反対勧告率につ いての、より本質的な問題は、各議案別の機関投資家の反対の議決権行使の割合が全般的にか なり低いという点である。
さらに、機関投資家は、議決権行使の内訳だけでなく、その賛否理由123を開示しなければなら ないにもかかわらず、その賛否理由を忠実に開示していないという点も問題である。韓国企業 支配構造院が、2013年8月29日から2015年8月29日まで、2年間の臨時株主総会および定時株主総 会での議決権行使の内訳開示の件を分析した結果によると124、充実していない反対理由125の開示
120 従前には、在任期間のうち、年間出席率が1回でも75%未満の場合において反対勧告をしたが、改正ガ イドラインでは、3年間の平均出席率が75%未満の場合に限り反対勧告するとした基準に変更した。
121 三星は、社外取締役を取締役議長に選任することで、代表取締役と取締役会議長を分離し、取締役会 の運営の独立性と監督機能を強化した。また、四半期配当制度を導入し、50:1の株式額面分割を決定した。
現代自動車は、企業支配構造憲章を宣言し、株主還元推進策を発表した。SK、ハンファ、CJ、LSなどは、
株主にやさしい経営強化の観点から、株主総会の分散開催などを実施した。その他にも、SKは、取締役会 傘下にガバナンス委員会を設置し、創立以来初めての中間配当を実施するなど、株主価値の極大化を強調 する姿を見せた。
122 アンサンヒ=キムインヨン「機関投資家の議決権行使で見た本株主価値、そして今後の課題」ISSUE REPORT(2016年6月7日)(2016、大信経済研究所)2頁。
123 韓国では、機関投資家の義務と責任を強化するために、2013年、資本市場法の改正で機関投資家の議 決権行使に関する開示の範囲を拡大した。したがって、機関投資家は、議決権行使の内容に加えて、その 理由まで開示しなければならない(資本市場法87条8項1号ないし3号)。
124 イムジャヨン「機関投資家の反対の議決権行使についての理由開示の現状分析」CGSReport5巻12号
(2015、韓国企業支配構造院)20~23頁。
125 充実していない反対理由の開示は、反対理由が具体的でない場合および反対理由を開示しなかった場