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第3章 スピリチュアリティを測定する尺度の開発1

問題と目的

第1章では,中川(2005)の分類を参考に,教育におけるスピリチュアリティにおいて,

青少年の「スピリチュアルな問い」を扱うことが共通の課題として挙げられていること,

また,こうしたトピックは,スピリチュアル・インテリジェンスという概念としても研究 が進められてきたことを論じた。さらには,高等教育研究領域において,Astin et al.(2011)

によるアメリカの大学生を対象とした大規模縦断調査が行われ,スピリチュアリティと心 理的変数や学業面との関連,スピリチュアリティの発達に影響を及ぼす要因の解明が試み られてきたことを確認した。青少年のスピリチュアリティ,とりわけ主要な課題として挙 げられている「スピリチュアルな問い」そのものを扱う尺度が開発されれば,教育とスピ リチュアリティ議論において,基礎研究や実践的介入を行う上での有効なツールとなる。

ここでわが国に目を向けてみると,青年も対象者に含めた,スピリチュアリティを測定 する尺度の研究として,中村(1998, 2007),比嘉(2002),尾崎(2005)などが挙げられ る。しかしながら,従来の尺度は,スピリチュアルな「問い」に対する,「答え」の内容を 尋ねる質問項目(例えば,「自分がこの世に生まれてきたことには,大きな意味があると実 感できる」等)が多く含まれていることや,これまで論じてきたような,宗教的問いや形 而上学的問いなど,「大きな問い」を包括的に扱えていないという問題点がある。すなわち,

青年の抱える様々な「大きな問い」を網羅的に含み,そうした問いについて思慮している 程度を測定する尺度は,管見ながら開発されていないのが現状である。

本研究で筆者は,まず,スピリチュアル・インテリジェンスを測定する尺度が見当らな い国内の現状に鑑み,信頼性と妥当性が確認され,スピリチュアル・インテリジェンスの 諸側面の測定を可能にした,The Spiritual Intelligence Self-Report Inventory(SISRI-24)

(King & DeCicco, 2009)の日本語版尺度の開発を試みる。次いで,従来のスピリチュア ル・インテリジェンスに関する議論を参照し,Gardner(1999 松村訳 2001, 2000)の指 摘する変性意識状態等の問題には立ち入らず,実存的な問いを含む「大きな問い」に焦点 をあてた尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証することを本研究の目的とする。

その際,こうした問いがどの程度現代青年の間で抱えられているのかという現状把握と,

そもそも,こうした問いについて思慮すること自体,青年がどの程度望んでいるかという,

ニーズを把握できる側面を含めることも重要であろう。それによって,例えば,学校教育

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では大きく取り上げることが難しい「宗教的問い」は,実際のニーズとして青年の間にど の程度存在するのかを明らかにできるといったように,青年自身が数ある「問い」のうち どのような領域を探究することを必要と感じているのかを明らかにすることができる。す なわち,「大きな問い」のうち,「今現在,どの程度考えたり学んだりしているか」(現状)

と,「理想としてどの程度考えたり学んだりしたいと感じているか」(理想)という二つの 側面を測定する尺度が存在すれば,教育的アプローチに関する議論を行うための補助的な 道具になると考えられる2。しかしながら,第4章以降の研究では,「現状」の側面に焦点 をあてた研究を実施するため,「理想」に関する分析結果は別の機会に報告することとする。

研究1

目 的

研究1では,King & DeCicco(2009)によって開発された”The Spiritual Intelligence

Self-Report Inventory(SISRI-24)”の日本語版を作成することを目的とする。妥当性の検

討のために使用する尺度は,King & DeCicco(2009)で用いられた尺度のうち,日本語版 が公刊されているものを用いた3

方 法

対象者 関西圏の大学に所属する,大学生363名であった。回答漏れ,26歳以上の回答者 を除き,最終的には,269名を分析対象とした(有効回答率74.1%)。男性112名,女性157 名で,平均年齢は19.05(SD =1.14)歳であった。

調査方法 質問紙調査の依頼にあたっては,調査の目的,自由参加であること,プライバ シーの保護,参加辞退の機会保証等に関する事前説明を行い,同意が得られた参加者のみ,

質問紙に回答してもらった。心理学の講義内で配布,回収を行った。

質問紙の構成 (1)日本版「人生の意味」尺度(Meaning Life Questionnaire: MLQ):

島井・大竹(2005)が翻訳した10項目で,「意義探索」と「意義保有」の2因子から構成 される。7件法(「1:全くあてはまらない」~「7:非常にあてはまる」)で回答を求めた。

(2)日本語版自己報告式スピリチュアル・インテリジェンス尺度(SISRI-J):24項目,5 件法(「0:自分には全然あてはまらない」~「4:自分に完全にあてはまる」)で回答を求 めた。翻訳にあたって,スピリチュアリティ研究に対する知見と,翻訳経験のある大学教

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員と協議を重ね,適宜修正を行った。(3)神秘主義尺度:西脇(2004)が翻訳した32項目 で,5件法(「1:全くあてはまらない」~「5:全くあてはまる」)で回答を求めた。(4)バ ランス型社会的望ましさ反応尺度日本語版(BIDR-J):谷(2008)が翻訳した24項目で,

「自己欺瞞」と「印象操作」の2因子から構成される。7件法(「1:全くあてはまらない」

~「7:非常にあてはまる」)で回答を求めた。

結果と考察

探索的因子分析 SPSS Statistics 20を用い,最尤法による探索的因子分析を行った(Table 1)。軸の回転にはプロマックス回転を用いた。固有値の減衰状況,解釈妥当性から,4因子 解を採用することとした。因子負荷量が.35以下の項目を削除し,因子の解釈可能性から項 目を選択し,尺度を作成した。採用された因子は,いずれも原版とほぼ同様の因子構造を 示していたことから,第一因子より順に,「意識状態の拡張(Conscious State Expansion:

CSE)」,「超越性への気づき(Transcendental Awareness: TA)」,「批判的実存思考(Critical Existential Thinking: CET)」,「個人の意味生成(Personal Meaning Production: PMP)」

と命名した。なお,第二因子の項目21(「何らかの偉大な力(例えば神,神のようなもの,

神聖な存在,より高次のエネルギーなど)があるかどうかについて,深く考えたことがあ

る」)と項目17(「人間と宇宙との関係について,考え込むことがよくある」)は,先行研究

では第三因子のCETに含まれていたが,宇宙や神のような存在といった超越性に関する項 目であることから,因子の解釈上妥当であると判断し,第二因子として採用した。因子間 相関は,.404~.627であった。

信頼性の検討 信頼性の基準として,内的整合性を示すα係数を用いた。第一因子から順 に,α=.885,α=.830,α=.770,α=.713であり,ほぼ十分な内的整合性を示すものと判 断した。

妥当性の検討 SISRI-Jの併存的妥当性を検討するために,各尺度との相関係数を求めた。

各尺度の平均値(項目数で除したもの)と標準偏差,および尺度間の相関係数をTable 2に 示す。以下,有意であった分析結果を中心に記述する。

まず,スピリチュアル・インテリジェンス(SI)総得点は,MLQのうち,意義探索,意 義保有とそれぞれ低い正の相関が(r =.325, p < .001; r =.304, p < .001),神秘主義総得点 と中位の正の相関が(r =.538, p < .001),BIDRのうち自己欺瞞とはほとんど相関がみられ なかった(r =.174, p < .05)。先行研究では,SIは,意義探索と低い正の相関を,意義保有

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Table 1 SISRI-Jの探索的因子分析結果

Table 2 各尺度の平均値と標準偏差および尺度間の相関係数

共通性

Ⅰ.意識状態の拡張(α = .885)

(8) 高次の精神状態または意識状態に入るタイミングを,コントロールすることが

できる。 .958 -.144 -.008 .012 .772

(12)様々な精神状態や意識状態のレベルを,自由に行き来することができる。 .802 .047 -.106 .087 .718 (4) 高次の精神状態または意識状態に入ることができる。 .685 -.013 .364 -.260 .568 (24)高次の精神状態または意識状態に入るための,自分なりの方法を磨いてきた。 .649 .187 .027 .078 .712 (16)高次の精神状態または意識状態のときに,問題になっていることや選択肢が

はっきりとわかることが多い。 .630 -.009 .157 .056 .545 (11)自分の人生の目的や理由が何であるか言うことができる。 .365 .020 -.032 .355 .411

Ⅱ.超越性への気づき(α = .830)

(21)何らかの偉大な力(例えば神,神のようなもの,神聖な存在,より高次のエネ

ルギーなど)があるかどうかについて,深く考えたことがある。 -.182 .767 .015 -.035 .438 (18)人生のもつ物質的でない側面について,かなり気付いている。 .040 .703 .001 .073 .596 (17)人間と宇宙との関係について,考え込むことがよくある。 -.187 .588 .136 .015 .338 (22)人生のもつ物質的でない側面に気付くことで,自分の中心の感覚を感じること

ができる。 .302 .571 -.042 .030 .628

(14)私は,物質を越えた,または物質的でない存在である。 .278 .551 -.058 -.023 .508 (20)人間には,外見,性格,または感情よりももっと有意義な特質があると思って

いる。 .104 .548 -.148 .130 .394

(2) 物質的な身体を越えた何かが,自分の中にあると思っている。 .172 .369 .151 -.043 .322 (6) 肉体や物質以外の何かを感じることは難しい。 -.106 -.267 .032 .259 .074

Ⅲ.批判的実存思考(α = .770)

(3) これまでに,自分が存在する目的や理由について,じっくり考えてきた。 .029 -.071 .725 .021 .501 (9) 人生,死,現実,また存在のようなことについて,自分なりに考えてきた。 .004 -.045 .695 .128 .536 (1) 現実というものについて疑問に思ったり,考えこんだりすることがよくある。 -.013 .092 .573 -.090 .348 (5) 死んだ後に何が起こるかについて,深く考えることができる。 .070 .001 .523 -.137 .257 (13)人生における出来事の意味について,じっくり考えることがよくある。 -.020 .250 .440 .246 .574

Ⅳ.個人の意味生成(α = .713)

(19)人生の目的に応じて,意思決定をすることができる。 -.059 .100 -.026 .639 .423 (23)日々の経験の意味や目的を見い出すことができる。 .045 .031 .031 .621 .463

(7) 人生の意味や目的を見い出す力があるので,ストレスがかかる状況に順応する

ことができている。 .399 -.219 -.258 .555 .470 (15)失敗したときでさえ,その意味について考えることができる。 -.026 -.133 .456 .495 .496 (10)自分と他の人が,深いところでつながっていることに気付いている。 .089 .095 .093 .345 .270

- .627 .404 .596

- .559 .532

- .407

-1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 M SD

1 スピリチュアル・インテリ

ジェンス総得点 (SI) - .840*** .874*** .751*** .703*** .325*** .304*** .538*** .174** -.060 1.49 0.61 2 意識状態の拡張 (CSE) - .641*** .472*** .560*** .158* .299*** .509*** .260*** -.007 1.10 0.80 3 超越性への気づき (TA) - .532*** .471*** .213*** .179** .478*** .092 -.054 1.29 0.76 4 批判的実存思考 (CET) - .389*** .399*** .121* .335*** -.054 -.110 1.98 0.77 5 個人の意味生成 (PMP) - .317*** .464*** .373*** .325*** -.009 1.72 0.70 6 意義探索 (MLQ) - .288*** .101 -.067 -.113 5.01 0.91 7 意義保有 (MLQ) - .266*** .314*** .044 3.78 1.10

8 神秘主義総得点 - .119 .045 2.83 0.69

9 自己欺瞞 (BIDR) - .155* 3.32 0.69

10印象操作 (BIDR) - 3.49 0.66

*p < .05; **p < .01; ***p < .001

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と中位の正の相関を,神秘主義総得点と高い正の相関を示し,BIDRの両下位尺度とほとん ど相関を示さなかった。意義保有,及び神秘主義総得点との相関係数は,本研究では低い 値となったが,原版とほぼ同様の相関関係を示していた。

意識状態の拡張(CSE)は,意義探索とはほとんど相関がみられず(r =.158, p < .01),

意義保有とBIDRの自己欺瞞と低い正の相関が(r =.299, p < .001 ; r =.260, p < .001),神 秘主義総得点と中位の正の相関が(r =.509, p < .001)がみられた。意義保有と神秘主義総 得点との相関関係は,先行研究とほぼ同様の結果が得られたが,意義探索との間に有意な 相関関係がみられた点と,自己欺瞞との間に低いながらも相関関系がみられた点は,異な っていた。本研究においては,異なる精神状態へと自分の判断で没入することができてい るに違いないと故意に判断して,回答した者がいる可能性が示唆された。

超越性への気づき(TA)は,意義保有とほとんど相関がみられず(r =.179, p < .01),意 義探索と低い正の相関が(r =.213, p < .001),神秘主義総得点と中位の正の相関がみられ た(r =.478, p < .001)。意義保有がTAと低い正の相関を示した先行研究の結果とは異なっ ていた。また,本研究では神秘主義総得点との中位の正の相関が示された点は一致してい たが,先行研究では低い正の相関を示したBIDRの両下位尺度とは,相関関係を示さなか った点は,異なっていた。本研究においては,物質を超えた性質や存在に対する自覚は,

人生の意味や目的を有することや,社会的な望ましさとはほぼ関連しないことが示唆され た。

批判的実存思考(CET)は,意義保有とほとんど相関がみられず(r =.121, p < .01),意 義探索,神秘主義総得点と低い正の相関がみられた(r =.399, p < .001; r =.335, p < .001)。 先行研究では,意義保有とは有意な相関関係はなく,神秘主義総得点とは中位の相関関係 を示していたが,概ね同様の結果を示すこととなった。

個人の意味生成(PMP)は,意義探索,神秘主義総得点,自己欺瞞と低い正の相関が(r

=.317, p < .001; r =.373, p < .001; r =.325, p < .001),意義保有と中位の正の相関がみら

れた(r =.464, p < .001)。先行研究においては,意義保有は高い正の相関を,神秘主義総

得点は中位の正の相関を示していた。また,意義探索は無相関であったが,本研究におい ては,意義探索に低いながらも相関関係が見出された。また,先行研究では見いだされた 印象操作との低い正の相関は,本研究では見いだされなかった。

尺度ごとの相関係数を比較すると,先行研究と同じく,CSE,TAという超越的側面に関 する下位尺度と神秘主義総得点の相関係数は,CET,PMPと神秘主総得点の相関係数より

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