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第4章  自然会話における東京アクセントの跨拍上昇音

第3節  調査の方法

②話題に上っている人或は話の相手に対し軽蔑の念を抱いていることを表す。

遅上がりの原因‥ 「苦然自失,不審、当惑、遠慮、驚異、驚嘆のあまり気力が失せ、声を 上昇させるという努力を早いうちに済ませてしまうことが困難である」ためによる(川 上1956再録pp.63‑72)

のだけ印を付け、それ以外はすべて中間として分類したが、実はその中には様々な程度の強 調と弱化とが存在している。例えば、表11の8番と18番は相当の上昇と高低差とがある が,文全体のアクセント句の山と比べて中程度の上昇なので、強調の分類に入れなかった

(資料編の資料4図5 NAGA6 「英作」 ,図12 NAGA12 「電話」を参照) 0

また今回採集した跨拍上昇音の例で聴覚実験を行う必要があるため、背景音や音楽、他人 の声が混入している部分及び単音レベルでの発音がはっきりしない部分を除いて、すべて拾 い上げた。その上で前から500例の跨柏上昇音を単音レベルで切って、それらの跨拍上昇音 が母語の中国語では何声に聞こえるかという聴覚実験を台湾の留学生3名に行った(意見の 相違があるところは他の複数の留学生にも判断させた。暖味なところは単音と全文節を聞か せ、判断できるまで何回も聞かせることにした) 0

資料と他のデータとともに、 Microso氏 Excelで分析した。以下に例として、そのセリ フ(太字は採用された跨柏上昇音)とデータの一部を提示しておく(ピッチ曲線については 資料編の資料4図 12を参照、セリフの全文と跨柏上昇音全部のデータは資料編の資料

3と5を参照されたい) 0

渡る世間は鬼ばかり(第5部第2回より) 長子:日向,幼稚園に連れて行ってきます。

タキ:あたくしお連れします。長子さん夕べも徹夜でしたでしょう。

長子:英作が帰ってこない夜はつい頑張っちやってね。

タキ:おばちやんと行きましょう。

長子:はい、日向。どうもすいません。

タキ:はい,行ってまいります。

長子:行ってらっしやい。

大吉:英作くんは夕べも泊りかね。

長子‥遊んで外泊してるんじやないかって言いたいんだろうけど、まじめに当直してるの、

ほかの医局員に代わってね。本間のお母さんが英作を無視して、由紀ちやん夫婦の 言いなりになって、本間医院を建て直ししていることにショックを受けてんのよ。

だから仕事に逃げてるの。黙って見ててあげるのが愛情ってもんなの。

文子:おはようございます。

長子:あら。ずいぶん早いじやない。何かあったの。

文子:ご無沙汰して申し訳ありません。

長子:そうよ。お父さん心配してたんだから。

大吉:いい加減なこと言うんじやないよ。立派に独立してね。好き勝手なことしてる娘 の心配なんか誰がするもんかい。

長子:ほら,怒ってるでしょう。連絡もないと心配してるから,腹も立つの。

文子:四月から受験勉強に追われてて、ここ‑来る暇もなかったの。

長子:電話くらいできるでしょう。

文子:旅行業務取り扱い主任者の資格を取る試験勉強してるなんて言ったら、またお父さん に余計な心配させるじやない。だから、わざと黙ってたの。けど、望が,お父さんの お料理持って帰ってくれて,すごく慰められたの。お父さんのお料理、おいしくいた

だけました。感謝しています。

長子:だったら,お礼の電話くらいしなさい。

表11跨拍上昇音のデータの例 通し

番号

発話者

番号 語頭音 土fヨ 単 語 品詞 形 高低 差

士戸 文 中

位置 前 立fヨ

強調 W H R N M Q 弱 化

1 NAG A 有声 Y O ‑ 幼稚 囲 名 斜 昇/ 36 2 2 2 句頭 低 強調

2 NAG A2 つ有声 E‑ 英作 名 平らー 20 1 1 1 文頭

3■NAG A2 有声 G A N 頑 張 動名 平ら「 ‑55 1 1■ 1 句 中 低 弱 化 4 NAG A3 無声 S ∪Ⅰ すいません 副 斜 昇/ 83 2 2 2 句頭 低 強調 5 NAG A4 有声 G A Ⅰ 外泊 動名 平 らー 0 1 1 1 句中 高 弱化 6 NAG A5 無声 T 0 ー 当直 動哀 斜 昇/ 49 2 ■ 2 1 2 1 2 句中 高 強調 7 NAG A6 無声 H0 N 本 間 名 平 ら」 一31 1 1 1 文頭 弱化 8 NAG A6 有声 Eー ■英作 名 斜昇′ 57 2 2 1 2 2 句 頭 低 9 NAGA 6 有声 卜 言いなり 名 軸昇√ 109 単1全2 単一全2 1 1 句 頭 低 強調 10 NAG A7 無声 H 0 N 本間医院 名 馳昇「 126 1 1 1 句 頭 低 強調 ll NAG A8 有声 A Ⅰ 愛情 名 平 ら「 13 1 1 1 句 頭 低 弱化 12 F∪M Ⅰ1 有声 M 0 一 申し訳 動名 槻昇′● 57 1 1 1 句 頭 高 13 NAGA 9 無声 SⅠN 心配 動名 紬昇へ 36 1 1 1 句頭 低 強調 14 NAGA10 有声 R EN 連絡 名 槻昇√ 45 1 1 1 文頭

15 NAGAー0 無声 SⅠN 心配 動名 軸昇へ 25 1 1 1 句頭 低 16 NAGA1ー 有声 D EN 電話 名 降昇)/ 19 1 2 2 2 女頭 強調 17 F∪M Ⅰ2 無声 SⅠN 心配 動 名 平らー ‑ 19 1 1 1 句 中 高 弱化 18 NAGA 2 有声 D EN 電話 名 軸昇r 69 単1全2 単一全2 2 2 2 2 句 中 高 注・品詞の欄について 名:名詞、動名:動作名詞。副:副詞,動:勤詞o

・形の欄について 斜昇:斜め上昇、地昇:地物線上昇,降昇:先端下降後に上昇,低昇:低 音がしばらく持続した後上昇。

・高低差の欄について 高低差の単位はヘルツ(Hz) 、上昇する部分がないときには、値が ゼロかマイナスになる。

・声の欄について 英字は学習者の別を示す。数字は学習者の答え(跨拍上昇音を中国語の音 感で何声と判断したのか)を示す。 1‑第一声。 2‑第二声。 3‑第三声。 4‑第四声。

1 ・ 2‑第一声と第二声の中間の音に聞こえる。単1全2‑単音だけ聞いた時には第一声に 聞こえるが、全文節の時は第二声に聞こえる。

・文中位置の欄について 句頭:アクセント句の先端にある跨拍上昇音、句中:アクセント句 の中にある跨拍上昇音、文頭:一文の始めにある跨拍上昇音.

・前音の欄について 文頭の場合、文音調はリセットされたと考えられるので、前音を省略す る。高と低の字は,前の語の最後の音がアクセント型で高音か低音かを意味する。

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・強調弱化の欄について 強調:アクセント型がはっきりと強調されていると判断できた場合。

ピッチ曲線が文音域の上限附近に入り、前音との高低差が激しい。弱化:前音と一続きに発 音され、前音と殆ど高低差がない場合,或いは前音と高低差が小さく、ピッチ曲線が低く抑 えられた場合。空白セル:強調と弱化に判断された以外のもの。