• 検索結果がありません。

誰もがゲームに参入

ドキュメント内 M&A_ENG_main.indd (ページ 37-41)

P

Eが(少なくとも従来型のPEが)日 本のM&A市場を次の段階に押し進 めるかどうか。それは難しいので はないかと疑問視する声がある理 由のひとつは、PEに対して政府発の関与が たくさんありすぎたからだ(この政府発の 関与によって、新しいタイプの投資家が参 入してきたわけだが)。ここ数年にかけて PE投資がそれなりに増加していたが、実際 ほとんどは全国あるいは地方レベルの国内 金融機関系ファンドによる案件だった。外 資系ファンドの日本進出は続き、独立系国 内ファンドの新設もいくつかあるにはあっ た。しかしファンドの数が増えたといって も、そのほとんどは国内の投資銀行、地方 銀行、保険会社、あるいは商社・ノンバン クといった金融活動もするコングロマリッ トなどによって設立されたものばかりだ。

年間100億米ドルを調達する大規模な米 国ファンドと比べると、日本のこうした ファンドのほとんどは極めて小さい(100

〜500億円/8700万〜4億3500万米ドル)。

ましてや、親会社たる銀行の不良債権処理 を手助けすることが、そもそもの設立目的 だった。たとえばシナジー・キャピタルは UFJ銀行が、オリックス、丸紅、双日な どの出資を得て設立したファンドだ。代表 取締役副社長の片岡央幸氏によると、投資 資金140億円のシナジー・キャピタルは、

UFJが大口債権者になっている弱った会社の 買収・再生を目的に作られたのだという。

こうしてできたファンドはシナジー・

キャピタルだけではない。フェニックス・

キャピタル(当時の東京三菱銀行)、ビ ジョン・キャピタル(同)、みずほキャピ タルはいずれも同類だ。また、野村證券に は野村プリンシパル・ファイナンスが、日

興コーディアル証券には日興プリンシパル

・インベストメンツと日興アントファクト リーがある。

これらのファンドはやや後になって参入 した後発組だが、安定したマーケットカバ レッジとネットワーク力によって、市場で は手強い存在となっている。親銀行のネッ トワークから案件を発掘している上に、投 資先企業が親銀行と密接な関係にあるお かげで、入札などを経ずに最初から独占的 に案件を獲得することが多い。片岡氏によ ると、シナジー・キャピタルがこれまでに 扱った七つの案件はいずれも、この方法で 獲得したものだという。

しかし、全てのプレーヤーがいつまで もPE市場に残るつもりでいるわけではな い。ファンドの中にはメインバンクのネッ トワーク内でのみ取引を続け、いずれは 事業をやめるつもりのところもある。シナ ジー・キャピタルの場合、三菱東京フィナ ンシャルグループがUFJホールディングスと 吸収合併したことに加え、不良債権問題が 収束しつつある現状もあって、すでにその 存在意義を失っている。シナジーはこれま でに手がけた買収案件のうち二社からは完 全に手を引いていて、ほかの買収企業から もいずれ引き上げるつもりだ。片岡氏によ ると、シナジーはもう新しい買収案件の検 討はやめている。新たに次のファンドを新 設するか、あるいは残りの持ち株を売却し てから事業をたたんでしまうかは、まだ決 めていないと言う。

一方で、金融機関などをバックにもつほ かのファンドは残るはずだ。それもそのは ず。ほかの主要な金融サービスと比べて、

PE投資の収益率が格段に高いことを思え ば、当然だろう。何かと腰の重い日本の信

立ち止まり?それとも減少?

日本における資金調達

2000 2001 2002 2003 2004 2005

2.2 0.97 1.5 2.0 3.7 2.1

調達額、単位:10億米ドル

出典: アジア・プライベート・エクイティー・センター

19 15 20 25 22 17 新規資金を調達 しているファンドの数

託銀行でさえ、この分野に入ってきた。信 託銀行は後継者問題を抱えているオーナー 企業ばかりを対象に、オーナー所有の株式 を移す先として信託勘定を開いたらどうか と提案している。すると、その企業の実質 的所有者は信託銀行ということになる。銀 行がその会社を経営し、信託勘定に配当金 を払い込むという仕組みだ。もちろん信託 銀行には経営スキルなど持ち合わせていな い。しかし自分の会社の価値をわかりやす く形にしてもらえるからと、この方法を好 むオーナーはそれなりにいる。

PEのゲームに新規参入しているプレー ヤーは日本の金融機関だけではない。商社 をはじめ、(ITやインターネット関連事業 を中心的に扱う)ソフトバンクやオリック ス、ニッシン(ノンバンク金融サービス)

といった複合企業の投資部門も、企業の フィナンシャルバイヤーとして実に積極的 に活動している。いずれも厳密にはPE投資 会社ではないが、主たるビジネスをもつ上 場企業とつながっているおかげで、PE投資 会社のように行動する。つまり企業に投資 し、自分たちの経営ノウハウを使い、ある いは自分たちのほかの投資事業との相乗効 果を活用しながら、投資先の価値を高めて いくのだ。こうしたプレーヤーはPE市場で 実に活発に動き、案件獲得のための競争力

も強い。目的は個人投資家ではなく一般株 主に収益を還元することなので、自分たち の社内ハードルレートは低くて済む。この ため、入札ではPE投資会社より高値をつけ ることができ得るわけだ。

ラザード・フレール・ジャパン社長兼CEO の畠山康氏は、このようなPE活動によって 結果的に何がおきているかというと、まだ 相対的に小規模な市場の中で、実に大勢の フィナンシャルバイヤーが洗練されないま ま、また利益を最大化できないまま、ひし めきあっているのだと話している。「1990 年代後半にPE活動がはじまったころは、

プレーヤーはまだ少数に限られていて、そ れぞれが優れた手腕の持ち主だった。不良 債権の問題に伴い、投資対象となる会社も たくさんあった。しかし不良債権問題が片 付き、新規参入組が増えた今、競争は激し く、いささか不合理なことが多い」と畠山 氏は言う。

早く投資を成功させようと慌て、PE投資 会社の多くは当初持っていた使命を放棄す るケースが多い。また、表向きは買収ファ ンドを運営する企業もベンチャーキャピタ ルのように動き、少数株主となったり、テ クノロジー系企業に投資したり、あるいは 不動産投資にも参入している。実のところ 多くのPEプレーヤーは高い収益性は二の次 に、投資や取引をすることそのものが目的 になっていて、これを裏付ける具体的な事 例には事欠かない。

多くの場合こうしたファンドのポート フォリオは結局は悪化し、まともな収益を 確保できる状態でエグジットすることが難 しくなってしまう。それと同時にPE市場 のほかのプレーヤーたちにとっては、こう したファンドは値段をつりあげる(利益を 減らす)存在となってしまう。たとえば、

2006年初頭に第一三共が離乳食メーカーの 和光堂を入札で売却すると決めた際、PE投

資会社が高値をつけすぎたため、結果的に 買収したアサヒビールは和光堂の株価に対 して150%もの高値を払うはめになった。購 買層(つまりは赤ちゃん)がひたすら減り 続けると思われる業界の企業を買ったにも かかわらずだ。これは決して特別なケース ではなかった。香港の調査機関「アジア・

プライベートエクイティー研究センター」

の計算によると、2005年にはPEの内部収益 率は‒39%〜66%で、2004年の32%〜230%

と比べて激しく落ち込んでいる(この収 益率は実現損益で計算されている。ただし ファンドが自分たちの損失額を公表するこ とはめったにないので、数値は実際よりも 大きくなっているはずだ)。激しい競争の せいで買収価格がどんどんつり上がってい ることが、収益率低下の理由の一つになっ ているのは確かだ。しかしその一方で、日 本国内にあるファンドはほとんどがきわめ て小さい組織なので、案件の規模にかかわ らず、競争はずっと少ないという点は留意 しておくべきだ。

しかしながら、全てのプレーヤーがこう した動きを心配しているわけではない。日 本のペルミラ・アドバイザーズの代表取締役 会長グイド・ガムチ氏はかつて欧州で、PE 市場が進化する様子を間近にみていた。そ の経験から、新しい市場の初期段階で機関 投資家が重要な役割を演じるのはどんな市 場でも同じで、時間がたてば機関投資家は 失速していくものだとガムチ氏は言う。豊 かなマーケットカバレッジや案件調達機会 のおかげで機関投資家は当初は強力だが、

やがては利害の不一致がおこったり、ある いは独立系ファンドに優秀な人材を引き抜

かれたりして、力を失っていくものだとい う。「長い目で見れば、成功するのは真に 独立したPE投資会社だけだ」とガムチ氏は 話している。

ガムチ氏の指摘するこのパターンが日本 の市場にもあてはまるのかどうかは、まだ 分からない。日本よりも発展した市場と日 本市場との最大の違いは、それぞれの銀行 の状態だ。日本の銀行は以前に比べれば、

市場に対して敏感にはなったものの、米 国や欧州の銀行と比べると、利益を最大化 しろという株主からの圧力が、日本の銀行 は少ない。その上、主業務の金融サービス からの利益があまりにも少ない状態では、

PE取引をお粗末なやりかたで進めたとして も、そこから得られる利益は十分だという 判断になるわけだ。今のこうした状態は、

郵便貯金の民営化でさらに多くの資金が市 場に出回るようになり、日本経済の中でよ り利益率の高い投資先を求めて回るように なる以上、しばらくは続くはずだ。

最後に、たとえ利益が少なくても、PE のゲームに参加し続けることには、それな りのビジネス・ロジックが働いている。小 さなファンドが取引を続ければ、最大手の PEプレイヤーが扱う案件は減り、利益も減 る。そうすればその大手PE投資会社が市場 牽引力や影響力をもてなくなる。日本では よくありがちな、競争に対するゼロサム的 アプローチだ。機関投資家はいずれはゲー ムから脱落するかもしれない。しかし日本 市場で金融の収益性がどういう状況にある かを思えば、機関投資家がいなくなるまで にはガムチ氏が驚くほど時間がかかるかも しれない。

ドキュメント内 M&A_ENG_main.indd (ページ 37-41)

関連したドキュメント