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説明的文章指導の認知過程

第1章 説明的文章指導で育成すべき「資質・能力」

第2節 説明的文章指導の認知過程

前節では、新学習指導要領の教科目標の観点から「言葉による見方・考え方」と「資質・

能力」についての関係性を述べ、特に説明的文章指導における「思考力・判断力・表現力」

では、論理的、批判的な思考の育成が求められていることについても述べた。本節では、説 明的文章の認知過程をもとに文章の読解に必要な力を明らかにすることで、説明的文章指 導で培われるべき学力について述べていく。そしてさらに具体的に「言葉による見方・考え 方」と「資質・能力」について認知心理学の観点から考察してく。

第1項 説明的文章の理解を促す要因

説明的文章においてその理解を促す要因について、岸(2004)は読み手要因、文章材料要因、

課題の方向づけ、課題の四つを挙げており、その中でも特に読み手要因と文章材料要因につ いて以下のように述べている

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読み手要因には、先行知識の量や構造化の程度、作動記憶の容量と機能、推論能力な ど、理解過程での個人内差・個人間差を直接決めると思われる要因から年齢、知能、動 機など一般性の高いものまでが含まれる。一方、文章材料要因は、文章自体に関係する もので、文章のタイプ(説明文・物語文など)、文章構造、文章の表現様式(長さ、漢字 の比率、使用語彙の困難度、文体など)、記述順序などが考えられる。

また、文章材料要因について、説明的文章自体の特徴の中で、読み手の理解程度に何らか の差をもたらす四つの要因(文章のタイプ・文章構造・記述様式・記述順序)について挙げら れている。これらそれぞれがどのように説明的文章の理解に影響を及ぼしているかについ て、以下のように説明されている

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文章のタイプでは、説明文の場合、宣言的説明文と手続き的説明文との間の違いが大 きく影響する。この場合の影響とは、理解を促進あるいは抑制するという意味ではなく、

両タイプの間で理解の仕方が異なるという変動要因としての影響である。

文章構造とは、文間の論理関係、文章全体の論理構造、さらには文章全体での段落間 の構造などをどのように構成するかであり、この構成の仕方によって理解に影響を及 ぼすことが知られている。

表現様式とは、文章自体の記述の仕方による影響である。

記述順序とは、文章全体の内容構成が理解にどのように影響するかを検討するもの である。例えば、同一の文章であったとしても、段落の配列順序によって理解のしやす

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岸学(2004)『説明文理解の心理学』、北大路書房、p.21-22。

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同上、p.24-25。

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さに個人差が生じるような場合が考えられるためである。

説明的文章指導の学力評価問題を作成するにあたって、その文章が認知心理学の観点か らどのような要因をもとに理解できる可能性があるのかはやはり指導者は捉えておかなけ ればならない。その点において上に指示した理解を規定する要因のうち、文章材料要因につ いては、説明的文章指導における重要な着眼点を示しているといえよう。学力評価問題は読 み手(生徒)の学力を評価するものでなくてはならないため、どのような観点で理解をして いるのかを作成者が捉えておく必要がある。また、説明的文章指導における読解の理解につ いてその要因を認知心理学の観点から心得ておくことはこれまでの研究と実践を結ぶため にはやはり重要視すべきである。

また、読解のプロセスにおけるトップダウン処理とボトムアップ処理の二つについても、

説 明 的 文 章 を 読 む 際 の 方 略 と し て 着 目 す べ き で あ る 。 こ れ ら の 認 知 過 程 に つ い て Bruer(1993)は以下のように示している

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入力刺激からの情報のみに基づいて低次なレベルからしだいに高次なレベルへと処 理が進んでいくのがボトムアップ処理であり、データ駆動型処理と呼ばれることもあ る。これに対し、知識に基づいて高次なレベルからの制御のもとになされる情報処理が トップダウン処理であり、概念駆動型処理と呼ばれることもある。

また、岸(2004)は文章理解の過程は、ボトムアップ処理とボトムアップ処理の相互作用に よって文章全体の表象を的確に効率よく作っていくことに他ならないとしたうえで、次の ようにそれぞれを示している

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ボトムアップ処理とは、視覚や聴覚を通じて入力された言語情報について、まず単語、

句、文のレベルで意味を解釈し、それをもとに、文の間や段落の間での意味関係をとら えてより大きな単位の意味に次つぎにまとめていき、最終的に文章全体の意味を表し たもの(表象:representation)を作って記憶する過程である。

一方、トップダウン処理とは、理解のときに、文章全体の構造についての知識を使っ て文章を予測し、一つ一つの文や段落をはっきりさせる、文章の論理構造をとらえて次 の内容を予測する、先行知識を使って意味内容を推測する、などの過程である。上から 下への処理過程、あるいは予測の処理過程ともいえる。「この次には問題提起が書いて あるはずだ」「結果は~のようになるはずだ」などと考えながら理解を進めていくもの

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John T.Bruer(1993)『Schools for thought : a science of learning in the

classroom』=松田文子・森敏昭監訳(1997)『授業が変わる―認知心理学と教育実践が手を 結ぶとき』、北大路書房、p.161。

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岸学(2004)『説明文理解の心理学』、北大路書房、p.30。

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である。

文章を理解する過程では、ボトムアップ処理とトップダウン処理の双方を必要に応 じてうまく使い分けなければならない。

読みの認知過程のボトムアップ処理は文章から知識を得て読んでいくことであり、トッ プダウン処理は自らの知識をもとに文章に書かれていることの内容を推測しながら読んで いくことである。この二つを交互に使い分けながら読み手は文章を理解してくわけである。

これは「資質・能力」の育成のうち「知識及び技能」と「思考力・判断力・表現力」の観点 に即して捉えることができるのではないか。ボトムアップ処理では読んだことについて何 を理解したかという点で知識が活用され、トップダウン処理については自らの知識を活用 して文章の内容について予測しながら文章と自己の考えを比較しながら読むことができる。

これら二つの読みのプロセスを活用することが国語科による「資質・能力」の育成へと繋が っていくと考えられるのである。

第2項 トップダウンと文章構造

読みのプロセスにおいて、読者はトップダウンとボトムアップの両方の処理を行ってい る。この二つの処理の間には相互作用があり、どちらかだけを行っているということではな い。前項では、これらが国語科における「資質・能力」の育成としての可能性を秘めている と述べた。また、トップダウン処理が「思考力・判断力・表現力」の育成に際して特に注目 すべき点である事も述べた。本節ではこれについてさらに説明を加える。トップダウン処理 をスムーズに行ううえで最も有力な資源を文章構造であるとした岸(2004)は、トップダウ ン処理と文章構造について以下のように述べている。

段落間構造の理解とは、段落の意味内容や接続語を手がかりにして段落間の関係を とらえ、最終的に文章全体の構造をとらえていくことである。これができれば、次の段 階の内容を予測したり、予測と食い違った内容が書かれているかどうか確認したり、文 章全体の要旨をとらえたりなどのトップダウン処理を働かせ、文章全体の理解を大き く促進するといえよう。

上記引用のほか岸は、段落間の論理構造を把握すること以外にも、文章間での論理構造を 把握する際にも、トップダウン処理は有効であると述べている。つまり、ボトムアップ処理 によって読者は文章から知識や筆者の考えを受け取ることができるが、トップダウン処理 によって段落間の構造や文章間の論理について読者は理解することができる以外にも、文 章を予測しながら読み進めることができるため、自分の予測と文章が合致しているかとい う点を意識しながら読むことができる。これは、文章を読むという点について批評しながら 読むということと関係があるのではないか。予測しながら読み、自分の考えと比較しながら

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文章や段落について理解することはつまり、文章の論理や段落間の関係について主体的に 読みながらその文章について批評的にならざるを得ないからである。

ここに、国語科の教科の特質として定められた「言葉による見方・考え方」と「資質・能 力」の関係性が見えてくる。認知心理学の観点から、読みの認知過程にはトップダウン処理 とボトムアップ処理の二つがあることは先に述べた。このうち、トップダウン処理は文章間 や段落間の論理構造についての理解を大きく促進すること、そして、トップダウン処理によ る読みによって主体的に読み進めること、批評的に読み進めることができるのであれば、こ れは「知識及び技能」の習得だけにとどまらず、「思考力・判断力・表現力」といった観点 での読みの学力の育成が期待できる。