第六章では話題の選択と展開について分析した。しかし、「具体的に、どのように話題を 導入するのか」という話題の導入についてはまだ触れていない。宇佐美(2002a)ではディス コース・ポライトネスを構成する要素には、言語形式だけではなく、話題導入の頻度など も含むと指摘した。
したがって、本章では、日本人と中国人は話題導入における基本状態を同定するために、
それぞれの話題導入の頻度を算出し、さらにどのように話題を導入するのかについて具体 的に分析する。宇佐美(1998、2001ab、2002 など)の DP 理論に基づき、基本状態を同定し た後、その離脱する有標行動に注目して、フォローアップアンケートを通して発話効果を 探る。
7.1 話題導入のコーディングの基準について
量的分析を適応するために、本研究では宇佐美(1998)に倣い、日本人と中国人の会話デ ータを発話文ごとに①挨拶(G)②話題導入(I)③非話題導入(N)という3つのカテゴリ ーによって分類する。具体的に例1のように話題導入のセルを設けてコーディングする。
例1 話題導入のコーディング例 ライ
ン番 号
発話 文番 号
発話 文終 了
話者 発話内容 話題
導入
1 1 * JWB01 初めまして。 G
2 2 * JWN01 初めましてよろしくお願いします。 G
3 3 * JWB01 お名前は…。 I
4 4 * JWN01 「JWN01 姓名」です。 N 5 5 * JWB01 「JWN01 姓名」,私は「JWB01 姓名」って言います。 N 6 6 * JWN01 「JWB01 姓名」さん、<よろしくお願いします>{<}。 G 7 7 * JWB01 <お願いします>{>}。 G
8 8 * JWB01 何年生ですか。 I
9 9 * JWN01 三年です。 N
10 10 * JWB01 あっ、じゃ,ためで,<笑いながら>###で。 I 11 11 * JWB01 三年、<笑いながら>タメ語で…。 N
12 12 * JWN01 あ。 N
13 13 * JWB01 えっ,何学部[↑]。 I
14 14 * JWN01 教育…。 N
15 15 * JWB01 教育なんだ、私,政経なんだけど<笑い>。 N
188
16 16 * JWN01 あっ。 N
17 17 * JWB01 何専攻…。 I
18 18 * JWN01 えっと,こく,国語国文学科で。 N
19 19 * JWB01 あ、そっか。 N
20 20 * JWB01 じゃ、知り合いはいないなあ。 I
21 21 * JWN01 ああ。 N
ただし、次のような場合は話題の導入と関係のある発話文として、以下のようにコーデ ィングする。
① 話者 A の質問に対して話者 B が答えたあとで同じような質問をする場合、同じ大話 題としてカウントする。ただし、話者 B の質問は小さな話題とみなし、I の形でコー ディングする。例:ベース協力者が「サークルとかなにかやってる?。」と聞いて、会 話相手はそれに答えた後、「なんかサークル入ってる?[↑]。」とベース協力者に聞き 返す場合、同じサークルという大きな話題の下にある小さな話題と認められるため、
「I」とコーディングする。
② 話者 A の質問→話者 B 回答→他の話題が挿入→話者 B が同じ質問という発話連鎖が 出てくる場合、話者 B の質問は話題の回帰(R revolution)とみなし、R で表記する。
それぞれ初対面会話と友人同士会話の話題導入の基本状態を同定するため、さらに話 題がどのように導入されるのか分析する必要があると思われる。したがって、話題導入
(I)を以下の表 1 のように下位分類する。仁田(2010)によれば、文の分類には、構造的 な分類と、意味的な分類がある。本研究では文のもつ伝達的な機能を重視するために、
モダリティの観点から意味的な分類を採用する。表 1 の定義と例は仁田(2010:16-17)よ り引用したものである。
表 1 話題導入の仕方について 質問文(Q)Question
典型的には、話し手が疑問を解消するために、聞 き手から情報を求める文である。
例:きみは学生ですか。
あの人、どこから来たの。
平叙文(D)Declarative
判断や情報を話し手から聞き手へ伝達するとい う機能をもった文である。
例:あの人、代表に選ばれたらしいよ。
感嘆文 (E) Exclamatory
何らかの誘因によって引き起こされる、話し手の 驚きや感動を表す文である。独立文が多い。
例:なんてきれいな花なんだろう。
きれい!
行為要求の文
(I)Imperative
例:静かにしろ。(命令)
どうぞおかけください。(依頼)
189 話し手が聞き手に行為の実行を求める文である。
命令、依頼、禁止などがある。
そこを動くな!(禁止)
意志文(V)
sentences to express volition
話し手が行為を実現する意志を、聞き手に伝える ことを特に意図せずに、発した文である。
例:今年こそは留学しよう。
勧誘文(A)
sentences to express advice
話し手が行為を遂行することを前提として、聞き 手に行為の実現を求める文である。
例:一緒に帰ろう。
一方、中国語の場合は黎志(2003)に従い、「疑问句(質問文 Q)、陈述句(平叙文 D)、
感叹句(感嘆文46E)、祈使句(命令願望文)」という 4 つに分類した上で、さらに「祈使句(命 令願望文)」を「行為要求の文(I)、意志文(V) 、勧誘文(A)」という下位分類にする。つま り、中国語の分類は仁田(2010)と同様とした。コーディングする場合、同じ記号を使うこ ととした。
また、質問文には「はい」「いいえ」で答えられるY・N疑問文や、不明な情報が含まれている ことを表すWH疑問文などいろいろな種類がある。従って、林(2008)(Q1-Q5)を参考にして、
質問文を以下の表2のように下位分類する。
表2 質問文への下位分類 質 問 文 ( Q )
Question
Q1WH 疑問文 地元どこですか。
Q2Y・N 疑問文 やっぱり物価すごい安いですか。
Q3 倒置疑問文 好きですか、旅行なんか。
Q4 中途終了疑問文 お名前は…。
Q5 選択疑問文 政治か経済かどっちなんですか。
Q6 自問自答 誰か行った?、行ってないと思う。
Q7 反問 これって高くない?。
具体的には例2のように、話題導入と認定される文(I)を下位分類のセルで上記の表1と表 2の基準でコーディングする。
46中国語の感嘆文の判断基準は朱晓亚(1994)にならい、以下のとおりである。
1 特殊な標識のある感嘆文。①程度を表す副詞/指示代名詞+感嘆を中心とする形容詞・動詞構成文、②感 嘆詞を含む文、③語気詞を含む文。2 標識のない感嘆文:前後の文脈から判断する。音のトーンが高く語 尾が下がったり伸びたりする文など。
190 例2 話題導入文のコーディング
話者 発 話 内 容 話題 下位
分類
JWB01 お名前は…。 I Q4
JWB01 何年生ですか。 I Q1
JWB01 あっ、じゃ,ためで,<笑いながら>###で。 I A
JWB01 えっ,何学部[↑]。 I Q1
JWB01 何専攻…。 I Q4
JWB01 じゃ、知り合いはいないなあ。 I D
JWB01 2204‘にのにまるよん’だったから、向こうの<笑いながら>二号館か
な~と思って。 I D
JWB01 《沈黙 1 秒》えっ,中国語にいない?[↑]。 I Q2
JWB01 それで 2 外はなに?。 I Q1
JWB01 サークルとかなにかやってる?。 I Q2
JWB01 小美術が好きなんだ。 I D
JWB01 その,なんかうちお父さんが,博物館<笑いながら>で働いてるから。 I D JWN01 《沈黙 1 秒》なんかサークル入ってる?[↑]。 R Q1 JWN01 《少し間》小美術に入ってた友達が入ってるときっと…。 I D JWN01 <あと>{>}もう一つは?。 R Q1 JWB01 《沈黙 1 秒》どっか旅行とか好き?[↑]。 I Q2 JWB01 いつ行った?、<時期的に>{<}。 I Q1 JWN01 <語学留学に行ってて>{>}。 I D JWB01 《沈黙 1 秒》まあいいな、友達できた[↑]?。 I Q2 JWB01 うん####、誰か行った?、行ってないと思う。 I Q6
7.2 日本人会話の話題導入の頻度
この節では日本人会話の話題導入の頻度を分析する。7.1 節で紹介した話題導入のルール に従って、日本人会話データを①挨拶(G)②話題導入(I)③非話題導入(N)に分類した。
その中の 20%は第二評定者(男性、言語学博士)にコーディングしてもらい、評定者間信頼 数係数をとったところ、カッパ係数 0.79 が得られたので、分類は妥当なものとみなすこと ができる。
7.2.1 日本人女性会話の話題導入の頻度
まず、日本人女性初対面の会話を見てみよう。全 6 会話の話題(大話題と小話題の合計) を集計し、平均した結果は表 3 の通りである。
191
表 3 日本人女性初対面会話の話題導入の全体的な頻度
話者 G(あいさつ) I(話題導入) R(話題回帰) N(非話題導入) 合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 JWB 9 1.50 0.46% 212 35.33 10.92% 9 1.50 0.46% 1711 285.17 88.15%
JWN 9 1.50 0.50% 163 27.17 9.02% 8 1.33 0.44% 1627 271.17 90.04%
平均 9 1.50 0.48% 188 31.25 10.01% 9 1.42 0.45% 1669 278.17 89.06%
日本人女性初対面会話の話題導入(I)の割合は 10.01%である。つまり、日本人女性初対面 会話話題導入の基本状態は約 1 割程度である。
次に日本人女性友人同士の会話を見てみよう。全 6 会話の話題(大話題と小話題の合計) を集計し、平均した結果は表 4 の通りである。
表 4 日本人女性友人同士会話の話題導入の全体的な頻度
話者 G(あいさつ) I(話題導入) R(話題回帰) N(非話題導入) 合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 JWB 0 0.00 0.00% 106 17.67 5.93% 11 1.83 0.61% 1672 278.67 93.46%
JWF 0 0.00 0.00% 111 18.50 6.27% 11 1.83 0.62% 1647 274.50 93.10%
平均 0 0.00 0.00% 109 18.09 6.10% 11 1.83 0.62% 1660 276.59 93.28%
日本人女性友人同士会話の話題導入(I)の割合は 6.10%である。表 3 と表 4 を比べると、
以下の結果が得られる。
① 日本人女性初対面会話の話題導入頻度(10.01%)は友人同士の会話の話題導入の頻度 (6.10%)より高いことが分かった。
② 日本人女性友人同士の会話ではあいさつ(G)が出てこなかった。それは友人同士の距 離が近いため、あいさつ抜きで気軽に会話を進めていくからである。会話終了後のフ ォローアップアンケートを調べると、日本人女性友人同士の会話では、あいさつ抜き に会話をはじめることに対して不愉快に思っていなかったということである。宇佐美
(1998、2001ab、2002)の DP 理論からみれば、それはベース協力者と会話相手にとっ ては許容範囲に納まるため、ニュートラルの発話効果となる。つまり、あいさつ抜き に会話を進めるのが日本人女性友人同士の話題導入の基本状態だといえよう。
日本人女性の話題導入の特徴をみるため、表 3 と表 4 の結果を図 1 に示す。
192
図 1 日本人女性話題導入頻度の結果
図 1 をみると、日本人友人同士会話に比べると、初対面会話の話題導入の頻度が高いこ とが明らかになった。
さらに、具体的に日本人女性初対面の各会話の話題導入の頻度を見てみよう。集計の結 果は表 5 に示すとおりである。
表 5 日本人女性初対面会話の各会話の話題導入の頻度 会話
番号
G(あいさつ) I(話題導入) R(話題回帰) N(非話題導入) 頻度 割合 頻度 割合 頻度 割合 頻度 割合 1 4 0.91% 33 7.50% 4 0.91% 399 90.68%
2 4 0.79% 31 6.13% 3 0.59% 468 92.49%
3 6 0.87% 81 11.79% 6 0.87% 594 86.46%
4 2 0.35% 62 10.93% 3 0.53% 500 88.18%
5 0 0.00% 98 11.11% 0 0.00% 784 88.89%
6 2 0.30% 70 10.51% 1 0.15% 593 89.04%
平均 3 0.48% 63 10.01% 3 0.45% 556 89.06%
表 5 に示したように日本人女性初対面会話の話題導入(I)の頻度の平均値 10.01%より少な いのは会話 1(7.5%)と会話 2(6.13%)だけであった。この 2 つの会話は日本人初対面会話の 話題導入の基本状態から離脱しているといえよう。この 2 つの会話をよく観察すると、他 の会話と比べると発話文数が全体的に少ないことに気付く。文字化された内容を見てみる と、沈黙と関係があると考えられる。そこで、日本人初対面会話の沈黙の時間を計算し、
0.00%
10.00%
20.00%
30.00%
40.00%
50.00%
60.00%
70.00%
80.00%
90.00%
100.00%
日本人女性初対面 日本人女性友人
G(あいさつ) I(話題導入) N(非話題導入) R(話題回帰)