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日本人会話のスピーチレベル

宇佐美(1998、2001ab、2002 など)の DP 理論によると、「特定の状況で、あって当たり前 で、それが現れないときに初めてそれがないことが意識され、ポライトではないと捉えら れる」という類のものがある。それが談話の「基本状態」であると捉えられる。しかも、特定 の談話の「基本状態」は、ポライトネス効果を相対的に捉えるために同定する必要があると 指摘している。そして、「基本状態」として捉えるものとして、数多くの同じ活動の型の「失 礼のない状態の談話」における「主要な言語行動の平均的な構成比率(分布)」といったもの が挙げられる。ポライトネスを論じるにあたり、分析可能な要素として言語形式の丁寧度 が考えられる。

言語形式の丁寧度については、「敬語レベル」(生田・井出 1983)・「スピーチレベル」(宇 佐美・嶺田 1995)・「待遇レベル」(三牧 2002)・「スピーチスタイル」(伊集院 2004)・「文末 スタイル」(申 2009)などの用語が使用されている。本研究では文末だけでなく、語彙や発 話文全体も視野に入れて考察するために、言語形式の丁寧度を指す用語として汎用性が高 いと思われる「スピーチレベル」を使用する。

本研究では宇佐美(2001a)に倣い、「スピーチレベル」を、「発話中の語彙や文末・終助 詞など、言語形式から判断される発話の丁寧度」と定義する。

日本人会話のスピーチレベルについて、宇佐美(2001a)では「文中」に尊敬語、謙譲語な どが含まれるかどうかが、話者自身の言葉遣いの特徴の指標となると予測している。一方、

「文末」が敬体か常体かは、対話相手への配慮、心的距離の調節、待遇の指標となると予測 できると指摘された。したがって、本研究では日本人会話データのスピーチレベルについ て文中と文末という二つの観点から分析する。

具体的に宇佐美研究室のスピーチレベルコーディングのマニュアル(2010 試作版・未公 開)に倣い、日本人会話データをスピーチレベルに関して「文中」と「文末」の 2 項目で コーディングした。

ただし、以下の場合はコーディングを行わない項目とする。

① 発話文末の「,,」は発話が終わっていないマークであるために、その発話文はコーデ ィングの対象とせず、全てのコーディングセルに「-」と記す。

② 笑いのみの発話はコーディングの対象とせず、「#」と記す。本研究の研究対象は「笑 い」ではないために、除外する。

③ 聞き取れない箇所を示す「#」記号がある発話文は、すべてコーディングとせず、「#」

と記す。その理由は、その部分がどのような内容なのか判断できない。例えば「どこ に###ですか?」のような例は文末がコーディングできても、文中は判断できない。

文中と文末を組み合わせて分析する必要があるために、その発話文の全体を見ること が難しくなってしまう。したがって、本研究では「#」の入った発話文をコーディン グの対象から除外することになる。

33 4.1 文中スピーチレベル

本節では宇佐美(1998、2001ab、2002 など)の DP 理論に基づき、文中スピーチレベルの 基本状態を同定した上で、そこから離脱する言語行動を有標行動として捉え、フォローア ップアンケートを通してその有標行動がもたらした発話効果を分析する。

4.1.1 文中スピーチレベルのコーディングの基準

まず、文中スピーチレベルのコーディングの基準について説明する。文中のセルでは、

当該発話文中で使用されているすべての文中の丁寧度をコーディングする。文中のスピー チレベルは、表1にある 4 項目に分類する。

表 1 文中のスピーチレベルのコーディング記号とその定義

記号 丁寧度 定義

S Super-polite 尊敬語、謙譲語、丁寧語、美化語、丁重語

P Polite 特別にマークする必要のない語彙(ニュートラルな語彙)

N Non-polite ニックネームや「飯(めし)」など丁寧度が低く正式な場面 で通常使わない語彙、音声的な変形(縮約、音便など)、動 詞の縮約形など

V Vulgar 罵り表現やいわゆる放送禁止用語など、丁寧度が極端に低 い語彙。例:「馬鹿やろう」など

次に具体的な例を挙げながら、文中スピーチレベルのコーディングの基準を詳しく説明 する。

(1)「S」:Super-polite

① 「御(お/ご)」がついている名詞

例:「お宅」「お名前」「お皿」「ご自宅」「ご子息」「ご利益」など

② 尊敬や謙譲の意を持つ名詞

例:「名前+様」「方(かた)」「わたくし」「わたくしども」「どなた」「貴社」「弊 社」など

③ 場所を表す丁寧度の高い指示詞

例:「こちら」「そちら」「あちら」「どちら」

④ 「御(お/ご)」がついている形容詞・形容動詞 例:「ご立派だ」「お美しい」など

⑤ 動詞の尊敬語、謙譲語

例:「いらっしゃる」「おいでになる」「なさる」「くださる」「いただく」「申し上 げる」「いたす」「お目にかかる」など

⑥ 「~れる」「~られる」などの尊敬の助動詞がついている動詞

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例:「行かれる」「読まれる」「理解される」など

⑦ 「御(お/ご)~になる」という尊敬語形式

例:「お忘れになる」「ご覧になる」「おいでになる」など

⑧ 「御(お/ご)~する」という謙譲語形式 例:「お邪魔する」「お願いする」など (2)「P」:Polite

① 特別にマークする必要のないニュートラルな語彙、名前+さん

② 応答詞

例:「はい」「ええ」「うん」「そう」「ですよね」など

③ 場所を表す指示詞

例:「こっち」、「そっち」、「あっち」、「どっち」

④ 「じゃない」は日本語教科書で他の文法項目と同等に取り扱われているため、ニュ ートラルな語彙だと考え、「P」とする。

⑤ 「こんにちは」や「ごめんなさい」などのような定型表現(表 2 を参照)

(3)「N」:Non polite

① ニックネームの使用などくだけた呼びかけ

例:「名前+ちゃん」、「名前+君」、「あんた」、「お前」「おれ」など

② 丁寧度が低く正式な場面で通常使わない語彙 例:「飯(めし)」、「奴(やつ)」など

③ 音声的な変形(縮約、音便など)、目上に対してあまり使わないと判断できる語彙。

例:「ほんと」(「ほんとう」の変形)

「そりゃ」(「それは」の変形)

「とこ」(「ところ」の変形)

「あん時」(「あの時」の変形)

「うっそ」(「うそ」の変形)

「してねえ」(「してない」の変形)

「っつう」(「という」の変形)

「どっか」(「どこか」の変形)

「そっか」(「そうか」の変形) 「やっぱ」(「やっぱり」の変形)

「ばっかり」(「ばかり」の変形)

「あんまり」(「あまり」の変形)

「じゃ」(「では」の変形)

④ 動詞の縮約形は基本的に N とする。

例:「食べちゃった」「行っちゃった」など

⑤ 述部の丁寧度がカジュアルだと判断できるもの。

35 例:「食う」「すげえ」「いてー」など

⑥ 「です/ます」やその活用形を含まない定型表現

例:「おはよう」「ありがとう」「よろしく」など(表 2 を参照)

⑦ 動詞の命令形や禁止を表す形など

例:「減らせよ」「するなよ」「もてやがったね」

(4)「V」:Vulgar

罵り表現やいわゆる放送禁止用語など、丁寧度が極端に低い語彙 例:「馬鹿(やろう)」「畜生」「ざま」「食らいやがれ」「死ね」など

表 2 文中における定型表現のコーディング

S よろしくお願いいたします・申し訳ありません・申し訳ございません

P おはようございます・こんにちは・ありがとうございます・よろしくお願いします・

ごめんなさい・すみません・おめでとうございます

N おはよう・ありがとう・よろしく・ごめん・すまない・すまん・おめでとう

また、文中のスピーチレベルのコーディングについて以下の注意事項が挙げられる。

① 発話文中に同じ丁寧度の語彙が複数出現する場合

例:「カナダの大学の寮で寝泊りしたの。」⇒ P(記述する記号は一つとする)

カナダ:P 大学:P 寮:P

②一発話文中に異なる丁寧度の語彙が出現する場合、ニュートラルの P 以外の全てのレ ベル(S~V)を記述する。ただし、出現する順番ではなく、レベルが高いものから順に(S

~V の順に)記述する。

例:「やっぱお酒がないとね。」 ⇒ SN やっぱ:N お酒:S ないとね:P

例:「<いや>{>}、毎回、会う度に、なんか、そういうお説教されて、おれ。」 ⇒ SN いや:P 毎回:P 会う度に:P なんか:P そういうお説教:S おれ:N

以下のように、文中の丁寧度のコーディングの例を示す。

例 1 文中のスピーチレベルのコーディング例 ライン

番号

発話文 番号

発話文

終了 話者 発 話 内 容 文中 365 337 * JWN04 《沈黙 4 秒》お昼ご飯とかっていつもどこ

で食べられるんですか。 S

366 338 * JWB04

なんか、結構ーー、やっぱ、お弁当とか(あ あ)コンビニで買ったりとかが多いかもし れないですね。

SN

36

367 339 * JWB04 たまに、たまに、外食べに行くとか。 P

368 340 * JWN04 うんうん。 P

369 341 * JWB04 好きな店、<カレー屋さん>{<}。 S 370 342 * JWN04 <ああ、美味しい>{>}ですね。 P 371 343 * JWB04 美味しいですよね。 P 372 344-1 / JWB04 私、二週目のパンプキンカレー大好きで,, -

373 345 * JWN04 うんうん。 P

374 344-2 * JWB04 結構行ったりします、あそこ。 P 375 346 * JWN04 [小さな声で]そっか。 N 376 347 * JWB04 [小さな声で]そっか。 N

4.1.2 文中スピーチレベルの基本状態

4.1.2.1 日本人初対面会話の文中スピーチレベルの基本状態

この節では、日本人初対面会話の文中のスピーチレベルの基本状態を同定する。女性の 会話と男性の会話という 2 つの部分からなっている。

まず、文字化された日本人女性初対面会話データを 4.1.1 小節の基準に従って、文中の スピーチレベルの観点からコーディングした。さらに、信頼性を確認するために、20%に ついて第二評定者がコーディングし、評定者間信頼性係数19を測った結果、κ=0.83 という 数値が得られた。

その後、宇佐美(2010)の BTSJ 集計ソフトで会話ごとに、その各項目の数を集計する。

さらに、6 会話の各項目の割合の平均値を算出すると、表 3 の結果となる。

表 3 日本人女性初対面会話文中のスピーチレベルの平均値

話者 S(Super-polite) P(Polite) N(Non-polite) SN20

合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 合計 平均 割合 JWB 45 7.50 2.62% 1532 255.33 89.33% 133 22.17 7.76% 5 0.83 0.29%

JWN 21 3.50 1.31% 1500 250.00 93.40% 81 13.50 5.04% 4 0.67 0.25%

平均 66 11.0 1.99% 3032 505.33 91.30% 214 35.67 6.44% 9 1.50 0.27%

注:コーディング不能の発話(#)を含まない21

つまり、日本人女性初対面会話の文中スピーチレベルでは、S / P / N / SN の比率は 1.99%

19 評定者間信頼性係数は単純な一致度から偶然の一致度を差し引いた数値であり、この数値(κ)が 0.75 以上であれば信頼性が高いと見なしてよいとされている。以下も同様である。

20 SN というのは一発話に S とコーディングする項目と N とコーディングする項目が同時に出てくる発話で ある。例:「一食丸々お腹いっぱいになっちゃう。」 お腹:S ちゃう:N

21 以下の表では同様にコーディング不能の発話(#)を含まない。

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