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第 2 章 グリースの流動特性と軸受トルクの関係における課題

2.3 試験結果

増ちょう剤の種類によるトルク挙動の違いを比較評価するため,本研究のLiStを増ちょ う剤としたデータと,OikawaらのLi(12OH)Stを増ちょう剤としたデータ17) を対比して示 す.

2.3.1 増ちょう剤繊維の形状

横内66) はLi(12OH)St系グリースの増ちょう剤繊維を観察し,Fig.2-3に示されるように,

基油の比誘電率が高くなるほど長繊維化する傾向があることを指摘している.LiSt系グリー スにおいては,Fig.2-2に示すように,比誘電率が低いPAOを基油としたPSt25で微細な繊 維となる傾向を示したが,POE基油のESt28とPAG1基油のG1St30を比較すると比誘電率

が低いESt28に長い増ちょう剤繊維が確認され,基油の比誘電率と繊維長さに明確な相関は

認められなかった.

LiSt系グリースの増ちょう剤繊維は直線状のものが多く存在した(Fig.2-2)が,Li(12OH)St

系グリースの増ちょう剤繊維では,らせん形状のものが多く観察されている(Fig.2-3).こ

れはLiStとLi(12OH)Stの分子構造とその結晶構造の違いに由来すると考えられる.

増ちょう剤繊維の長さや形状は,増ちょう能力や,せん断力が印加された時の流動特性 に影響を与えると考えられるが,本観察からは,混和ちょう度や降伏応力との相関性は不 明確であった.

2.3.2 混和ちょう度

試作グリースおよびOikawaら17) が用いたグリースについて,基油ごとの混和ちょう度 をFig.2-6に示す.本試験のLiSt系とOikawaraらのLi(12OH)St系は増ちょう剤量が異なり,

LiSt系では15 wt%,Li(12OH)St系では11 wt%である.

Fig.2-6に示されるように,LiSt系およびLi(12OH)St系の混和ちょう度は,それぞれ増ち

ょう剤量が一定であっても,増ちょう剤と基油の組み合わせにより変化した.LiStを増ちょ う剤とした場合は,PAO基油のPSt25で最も低い混和ちょう度,PAG1基油のG1St30で最 も高い混和ちょう度を示し,その差は55であった.ちょう度差55は,ちょう度番号67) で 1以上の差に相当し,有意な差があるといえる.

Li(12OH)Stを増ちょう剤とした場合,POE基油を用いたときに最も低い混和ちょう度,

PAG3基油品において最も高い混和ちょう度を示し,LiSt系と基油による混和ちょう度の順 列が異なった. LiSt系とLi(12OH)St系を比較すると,POEよりも比誘電率が低いPAO,

COEを基油とした場合にちょう度の順列の違いが顕著であり,LiSt系では,PAO基油およ びCOE基油の方がPOE基油よりも混和ちょう度が低くなるのに対し,Li(12OH)St系では逆 に,PAO基油およびCOE基油の方がPOE基油よりも混和ちょう度が高くなる傾向を示し た.

COE基油品では,LiStが15 wt%,Li(12OH)Stが11 wt%と増ちょう剤量が異なるが,ほぼ 同等の混和ちょう度を示した.また,POE基油,PAG1基油では,Li(12OH)Stの方が低増ち ょう剤量であるにも関わらず混和ちょう度が低く,強い増ちょう剤繊維による構造(以下,

増ちょう剤構造)を作る傾向を示した.PAO基油,PAG3基油に対しては,LiSt系の方が低 い混和ちょう度となっており,本試験の範囲ではLiStとLi(12OH)Stで,増ちょう能力に明 確な差は認められなかった.

2.3.3 降伏応力

試験グリースの降伏応力をFig.2-7に示す.比較としてOikawaら17) によるLi(12OH)St 系の降伏応力をFig.2-8に示す.LiSt系の降伏応力は,混和ちょう度と同様に基油の種類に より異なり,COE基油のCSt25で最も高い降伏応力,PAG1基油のG1St30で最も低い降伏 応力を示し,CSt25はG1St30の2倍程度高い降伏応力を示した(Fig.2-7).Li(12OH)St系 ではPOE基油で最も高い降伏応力を示すのに対して,PAO基油およびPAG3基油は低い降 伏応力を示しており(Fig.2-8),基油との組み合わせによる降伏応力の順列はLiSt系と Li(12OH)St系で異なった.

2.3.4 軸受トルク

グリースによる軸受トルク挙動の違いを確認するため,深溝玉軸受6305を用いて軸受ト ルクを評価した.試験結果例として,降伏応力の差が大きいグリースであるCSt25とG1St30 の軸受トルク時間変化をFig.2-9に示す.

Fig.2-9に示されるように,軸受トルクは初期に高い値を示した後に時間ともに低減し,

その低減の程度は,時間とともに小さくなっていく傾向を示した.LiSt系グリースである

CSt25とG1St30の軸受トルクは,降伏応力に差があるにも関わらず同様な時間変化を示し

た.

Oikawaら17) によるLi(12OH)St系グリースでの軸受トルク評価結果例を,Fig.2-10に示 す.Fig.2-10に示されるように,Li(12OH)St系では降伏応力の差が大きいPOE基油品とPAG3 基油品で,トルクの時間変化挙動が異なることが報告されている.POE基油品では,本研 究におけるCSt25とG1St30と同様に,軸受トルクが時間とともに低減する傾向を示すが,

PAG3基油品では300 secまでわずかにトルクが低減した後,若干トルクが上昇する傾向が 示されている.

Fig.2-9とFig.2-10を比較すると,回転直後のトルクの減少速度に違いが認められ,LiSt

系のCSt25とG1St30はLi(12OH)St系のPOE基油品よりも回転直後のトルクの減少速度が 速い傾向を示した.

試験グリースの起動トルクTsと回転トルクTrをFig.2-11に示す.LiSt系グリースの起動 トルクは,POE基油品であるESt28が最も低い傾向を示した.一方回転トルクは,誤差範 囲を考慮すると各グリースでほとんど差が認められなかった.比較として,Oikawaら17)

よるLi(12OH)St系グリースの起動トルクと回転トルクをFig.2-12に示す.Li(12OH)St系で は,基油の種類の違いによりトルク値が大きく変化する傾向があり,POE基油品は起動ト ルクが最も高く,かつ回転トルクが最も低い.このように,LiSt系とLi(12OH)St系では,

Li(12OH)St系の方が基油の違いによる軸受トルクの時間変化が大きい傾向を示した.