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増ちょう剤構造の形成因子

ドキュメント内 潤滑グリースの流動特性と軸受性能への影響 (ページ 150-154)

第 4 章 増ちょう剤繊維による三次元構造とグリースの流動特性 …

4.4 考察

4.4.1 増ちょう剤構造とその変化

4.4.1.2 増ちょう剤構造の形成因子

増ちょう剤構造を形成する因子として,増ちょう剤繊維の大きさ,形状,強さ,量47), 比表面積47),かさ密度,基油の性状49),基油と増ちょう剤の相互作用17, 18),およびグリー ス中での増ちょう剤の分散状態51, 66) が挙げられる.ここで,増ちょう剤繊維の大きさや形

状は,増ちょう剤の種類52),基油との相互作用17),製法52-54) の影響を受ける.これらの因 子と増ちょう剤構造の関係を,増ちょう剤構造の観察結果から考察した.

4.4.1.2.1 増ちょう剤繊維の形状

P10OH38とP10OH21は,基油と増ちょう剤の種類および増ちょう剤量が同一で,反応時

の冷却速度のみが異なるにも関わらず,P10OH21はP10OH38の25倍の降伏応力を示し,

強い増ちょう剤構造を有した.これらの増ちょう剤は,Fig.4-7から判断するとP10OH38は 長さ0.2 m程度,P10OH21は長さ1 mを超える長い繊維形状を有し,P10OH38はP10OH21 よりも細く短い増ちょう剤形状であった.また,未分散法によるSEM像(Fig.4-8)より,

P10OH38はP10OH21よりも細かい増ちょう剤構造の形成が認められた.

4.4.1.1における観察より,増ちょう剤構造の形態の一つとして,繊維同士が接触するこ

とにより三次元的な構造を形成する形態が挙げられる.この場合,繊維が短い方が繊維の 数が多くなるため,繊維同士の接触点が多くなり,微細で脆弱な構造になると考えられる.

また,長繊維の増ちょう剤では,繊維同士が三次元的に絡み合うような構造を有する可能 性があり,短繊維の増ちょう剤と比べて,より強固な構造を形成すると考えられる.

E10St22 はE10OH29と降伏応力が同程度であるが増ちょう剤量が2.5倍以上多いため,

E10OH29と比較して,単位増ちょう剤量あたりの構造強度が弱い.また,E10St28はE10OH29

と混和ちょう度が同程度であるが,増ちょう剤量が2倍以上多い.各グリースの増ちょう 剤繊維形状を比較すると,Fig.4-7に示されるように,LiSt系のE10St22とE10St28は,

Li(12OH)Stよりも繊維の長さが同等以下および幅が太く,直線状であった.繊維形状が太

く,直線状である場合,比表面積が小さくなるため,増ちょう剤の比表面積が大きいほど 構造が強くなるとの報告47) と,本評価におけるLiSt系がLi(12OH)St系よりも増ちょう剤 構造が弱くなる傾向は一致した.増ちょう剤構造の強さには繊維の形状だけでなく基油と 増ちょう剤の相互作用などが影響すると考えられる.この相互作用の構造強度への影響に ついては後述する.

4.4.1.2.2 増ちょう剤繊維の分散状態

増ちょう剤構造の形成因子の一つとしてグリース中での増ちょう剤の分散状態が挙げら れており,Hokaoら 51) はAFM像を用いて分散度と呼ばれる指標を設定し,分散度が降伏

応力と相関することを報告している.このため,本研究においてもHokaoらと同じ手法と 増ちょう剤構造の強さとの関係を考察した.

分散度は,粒子の重心の分布が理想的に分散した状態からどれだけ外れているかを指標 化したものであり,式(4-1)から(4-4)により表される.分散度の考え方を示すイメージ

図をFig.4-26に示す.分散度は,AFM観察で得られた二次元像を二値化し,増ちょう剤の

面積率c,増ちょう剤の数nおよび増ちょう剤繊維間の重心間距離Liの測定値を用いて算出

した.理想的な分散状態を導出するため,二値化した像より増ちょう剤粒子の全面積を求 め,大きさが均一な,平均半径rの円形をした粒子が,各重心位置に分布すると仮定した.

分散度は0から1の値をとり,1は完全に均一な状態を表す 51, 66)

・・・(4-1)

・・・(4-2)

・・・(4-3)

・・・(4-4)

ここで,

UF: 分散度

Li: i番目の粒子に隣接する粒子までの重心間距離

Lideal: 球状の粒子が細密構造を取っているときの粒子重心間距離

R: 細密構造を取っている各粒子を隣接粒子まで膨張させたときの半径 φ: 細密構造を取るときの充填率

S: 測定視野面積 r: 粒子の半径 n: 粒子数

c: 粒子が測定視野に占める面積の百分率

 

 

 

 

 

2 2

2 2

r c n S

n R S

r c R L

ideal

ideal n i

i

L n

L UF   

1

分散度の算出は,増ちょう剤構造を表出させるため,グリースを薄膜状に塗布して取得 したAFM像を用いて行った.このため,せん断速度5 s-1で調製したもの(Fig.4-9)よりも,

速いせん断速度で調整した場合の像となる.各グリースの分散度と降伏応力の関係を

Fig.4-27に示す.この結果,Hokaoら51) の報告と比べて分散度と降伏応力の相関性は低か

ったものの,分散度とともに降伏応力が高くなる傾向が認められ,増ちょう剤繊維が均一 に分布しているほど増ちょう剤構造が強くなる傾向を示した.分散度と流動特性の関係に ついては,4.4.2節で詳述する.

4.4.1.2.3 基油と増ちょう剤の相互作用

基油と増ちょう剤の相互作用力が高いほど基油が増ちょう剤に濡れやすいと考えられ,

この濡れの状態は増ちょう剤構造の強さに影響すると考えられる.このため,グリースの 状態での増ちょう剤と基油の濡れの状態をAFM観察像より確認した.

エステル油を基油とするグリースのAFM像を比較すると,LiStを増ちょう剤とする

E10St22は,グリースの最表面で増ちょう剤繊維の周囲が窪んでいる形状が得られた(Fig.4-9

(c) 矢印部).同様の窪みはLi(12OH)Stを増ちょう剤とするE10OH29(Fig.4-9 (b) 矢印

部)にも存在し,E10St22の方がその程度が大きい傾向が認められた.この窪みは,基油が 増ちょう剤に濡れにくいため形成されたと考えられる.

また,E10OH22(Fig.4-9(a))では,増ちょう剤繊維が表面でほとんど観察されなかった ため,増ちょう剤であるLi(12OH)Stがエステル油に強く濡れていると考えられる.このた め,LiStの方がLi(12OH)Stよりもエステル油との相互作用力が弱いことが示唆された.

PAOを基油とするグリースのAFM像を比較すると,LiStを増ちょう剤とするP10St22

(Fig.4-9(g))は,増ちょう剤繊維が表面で観察された一方,P10OH22(Fig.4-9(e))では,

E10OH22の場合と同様に,増ちょう剤繊維はわずかしか表面で観察されなかった.このた

め,エステル油の場合と同様に,LiStの方がLi(12OH)StよりもPAOとの相互作用力が弱い ことが示唆された.

LiSt/エステル系は,Li(12OH)St/エステル系と比べて,同程度の混和ちょう度を得るた めに,増ちょう剤濃度を高くする必要があった(Table 4-1).この一因として,増ちょう剤 繊維の大きさや形状,および増ちょう剤同士の相互作用の影響とともに,基油と増ちょう 剤の相互作用が低いことによる影響が考えられる.

基油と増ちょう剤の相互作用を表す指標として,発熱量が考えられる.このため,AFM 観察による考察結果と発熱量の測定結果(Fig.4-14)を比較した.AFMではLiSt系の方が

Li(12OH)St系よりも基油に濡れにくく,増ちょう剤の種類が強く影響することが示された.

一方発熱量測定においては,エステル系の方がPAO系よりも発熱量が低く,基油の種類 による影響が強く表れ,基油と増ちょう剤の相互作用は,本評価のAFMと発熱量で異なる 傾向を示した.この原因として,発熱量測定では増ちょう剤試料として原料粉末を用いて おり,グリースの状態での繊維形状の違いが測定結果に影響したことが考えられる.また,

発熱量測定では測定のばらつきが大きい.このため,基油と増ちょう剤の相互作用力を定 量的に評価するためには,測定方法の高精度化が必要であるといえる.

基油と増ちょう剤の相互作用には,分子構造の違いが影響すると考えられる.Li(12OH)St はLiStと異なり炭化水素基中にOH基を含むため,このOH基と基油分子間での水素結合 などの相互作用が発生すると,基油と増ちょう剤の相互作用力が大きくなると考えられる.

しかし,発熱量はエステルよりもPAOの方が高くなる傾向を示しており,相互作用力の発 生原因を明らかにすることは,今後の検討課題である.

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