• 検索結果がありません。

第 5 章 認証キーの生成・管理のための「多次元インデックス法」の提案 70

5.3 評価

5.3 評価

節5.2.1で考案した三つの条件に適した擬似乱数生成法として,ロジスティッ

ク写像式(2.2 p.8)を用いた閾値法はよく知られている[3,14].

式(2.2)を有限桁の計算精度で計算するとき,整数を用いた固定小数点で計算

する方法がある(2章,p.16整数ロジスティック写像).整数ロジスティック写 像`N での計算は計算精度を容易に拡張できる.整数型の演算は計算機システム の種類が異なっても,同じ入力であれば同じ出力が得られる.

提案法では,定義2.1で定まる式(2.4)で計算されるXtに対し,定義3.6で定

まる式(3.20 p.32)にしたがって2値系列を生成する閾値法を用いる.本節では,

そのときの効果について考察する.

5.3.1 生成速度

「多次元インデックス法」が用いる擬似乱数生成法の2値系列r0r1. . . の生

成速度をS bps(ビット/秒),初期値をR,次元数K,生成・管理するNビッ

トのキーの総数をMとし,2進数列を生成する以外の作業時間(例えば,ビッ ト列を切り出す時間など)が十分に小さく,計算しないことにする場合,初期 値Rを用いた任意の位置座標iにあるN ビットのキーRiの生成に要する時間 について考察する.

計算値

節5.2.4に示したように,次元数Kの多次元インデックス法は位置座標i(i1, . . . , iK)に基づき,Nビットの初期値RからRiを生成する.従って,任意のNビッ トのRiを生成するに必要な時間TRiはTRi = (K+i1+. . .+iK)×N/Sで計算 される.

ここに,次元数K,総数M = M1 ×. . .×MKのN ビットのキーの生成に 必要の時間の最小値,最大値,平均値をそれぞれTminK , TmaxK , TaveK とするときの 値を示す.明らかに,最小値はi1, . . . , iKが全て最小値(0, . . . ,0)となるとき,

最大値はi1, . . . , iKが全て最大値(M1−1, . . . , MK −1)となるとき,平均値 は全てのRiの生成時間の和にその総数Mで割って計算される.従って,それ ぞれ以下のようになる.

第5章 認証キーの生成・管理のための「多次元インデックス法」の提案

TminK = N K/S

TmaxK = N(M1+· · ·+MK)/S TaveK = N

QK j=1Mj

MX11

i1=0

· · ·

MXK1

iK=0

(K+i1+· · ·+iK)/S

= N(K+M1+· · ·+MK)/(2S)

一般に,Mのサイズは大きいほうが望ましいが,K = 1のとき,提案法即ち 従来法に相当する一次元インデックス法では,Mを大きくすることができない.

しかし,K ≥ 2の場合,提案法によって,2値系列の生成速度Sの相対的に小 さい擬似乱数生成器でも,管理するキーRiの総数Mが大きい中の任意の1つ を高速に生成(再生)することが可能になる.

実生成速度の確認

節5.3.1に2値系列の生成速度Sが与えられたときの多次元座標iに位置する

キーRiの生成に要する時間を示した.ここでは,2進数列を生成する以外の作 業時間が十分に小さいので,計算には含めていない.

表 5.1: キーの生成時間の比較(Unit: msec)

i(i1 ∼i14) t0 t

0, ...,0(Min) 0.366 0.421 4, D,4,3,2, C,4,4,3,0, A,7,7, B 2.560 2.781 F, ..., F(Max) 5.851 6.234 (Genuine Intel(R) 1.50 GHz)

このような近似的に計算された生成時間を推測時間(t0)とし,実際に汎用PC を用いて計算にかかった時間を実測時間(t)とする.実験は整数ロジスティック写 像から生成される2値系列が有する非周期状態長が十分に長く得られるように,

計算精度N = 128ビットとする.また,K = 14,M1 =M2 =. . .=MK = 16 にして,2値系列の生成速度が4.9 Mbpsの時の両者の最小値,最大値などの結 果を表5.1に示す.次元座標iの値は16進表示である.両者は近い結果である.

5.3. 評価

5.3.2 初期値敏感性の確認

方法

多次元座標iを固定にして,初期値R(X0)に微小な変化を与え,生成される2 つのRiの間のビット間ハミング距離の統計量のχ二乗値の分布を理論値と比較 することにより,2つのRiの間に無関係であることを確認し,「多次元インデッ クス法」において,整数ロジスティック写像を用いたときの初期値敏感性の存 在を確認する.

手順

N = 128, K = 14, M1 =. . .=M14= 16にする.

1)iとRをランダムに選び,Riを生成する.

2)iとR0を用いて,R0iを生成する(R0 =R+ 1).

3)RiとR0iの間のハミング距離hを計算する.1

4)手順1)∼3)をj = 1000回繰り返し,hの頻度分布f(h)を集計する.

5)理論値に対するf(h)のχ2値νを計算する.2

6)手順4),5)を1000回繰り返し,χ二乗値νがそれぞれν <8.26,10.85,15.45, 19.34,23.83,31.41,37.57(それぞれ自由度20のときのP 値1%,5%,25%,50%, 75%,95%,99%に対応する([21] 3.3節))に入る数を数える.

結果の確認

節5.3.2.の手順6)で計測し得たχ二乗値νの分布を表5.2に示す.比較は,4 章でのχ二乗検定と同様に,χ二乗値の経験分布が理論分布に対する乖離をあ らわすχ二乗値を求め,自由度7,有意水準0.01で行う.χ二乗値が<18.48で あれば,経験分布が理論分布にしたがっているとする.経験分布が理論分布に 対する乖離をあらわすχ二乗値が,3.32で,<18.48である.従って,RiとRi0

1整数ロジスティック写像`N において,R0i(R0 =R+ 1)が一つのホール(3.2節を参照)

に属している場合を除いた.

2RiR0iの生成がランダムであれば,f(h)の理論値f(H)f(H) =j×N!/((NH)!H!) となる(H = 0,1, . . . ,128).尚,χ二乗値の計算においてのhのカテゴリ数は頻度数の小さい h54h74のものをそれぞれ1つのカテゴリに統合して,54,55, . . . ,73,7421 した.

第5章 認証キーの生成・管理のための「多次元インデックス法」の提案 の間に無関係であることと判断できる.「多次元インデックス法」において,整 数ロジスティック写像`N を用いたときの初期値敏感性の存在を確認できた.

表 5.2: ハミング距離の頻度のχ二乗分布(Ri, Ri0) ν < 8.26 10.85 15.45 19.34 23.83 31.41 37.57 理論値 10 50 250 500 750 950 990 計測値 11 50 226 496 775 956 993

5.3.3 近傍座標 i 間の R

i

の無相関性

方法

節5.3.2と同じ方法である.Rを固定にし,iに微小な変化を与え,生成され

る2つのRiの間のビット間ハミング距離の統計量のχ二乗値の分布を理論値と 比較することにより,近傍座標i間のRiの無相関性を確認する.

手順

節5.3.2の手順の内容に2),3)だけを以下のように変える:

2)i0とRを用いて,Ri0を生成する(if (i <15) then(i0K =iK+ 1) else(i0K = iK−1)).

3)RiとRi0の間のハミング距離hを計算する.

結果の確認

計測し得たχ二乗値νの分布を表5.3に示す.比較は,4章でのχ二乗検定と 同様に,χ二乗値の経験分布が理論分布に対する乖離をあらわすχ二乗値を求 め,自由度7,有意水準0.01で行う.χ二乗値が<18.48であれば,経験分布 が理論分布にしたがっているとする.経験分布が理論分布に対する乖離をあら わすχ二乗値が,1.41で,< 18.48である.従って,RiとRi0 の間に無関係で あることは判断できる.提案法において,`Nを用いたときの近傍座標i間のRi

が線形的な相関関係が持たないことを確認できた.

5.3. 評価

表 5.3: ハミング距離の頻度のχ二乗分布(Ri, Ri0) ν < 8.26 10.85 15.45 19.34 23.83 31.41 37.57 理論値 10 50 250 500 750 950 990 計測値 9 53 264 512 745 946 992

5.3.4 非周期空間サイズ

ここに,「多次元インデックス法」が管理する総数MのNビットのキーRiの 中に,同じものが存在しないとき,そのサイズを非周期空間サイズと呼ぶ.

「多次元インデックス法」は`N を用いた時の周期性は基本的に`N が有する 周期性に依存すると考えられるが,繰り返して初期値を更新することで、`Nが 持つ複数の周期系列の複合周期になる可能性がある(3.4節を参照).ここで,

N ビットのキーの生成可能なサイズM の多次元空間にあるキーに対する全件 検索を行う.同じキーが検出されれば,ループに入ったことと判断できる.

検索は計算精度N を40,44,48ビットの3通りにし,対応する多次元空間サ イズをM = 2N/24とした.それぞれの次元数Kを2通りに与え,各次元のサ イズMkを同じ値(M1 =. . .=MK)にした.各ケースに初期値を無作為に選 び,50回検索してループが検索された回数を表5.4に示す.

表 5.4: 計算精度と非周期空間サイズ

計算精度N(bit) 40 44 48

多次元座標空間サイズM 216 218 220 次元数K 8 4 9 6 10 5 各次元サイズMk 4 16 4 8 4 16

ループ検出回数 19 22 18 25 18 27

表5.4から,同じ空間サイズにおいては次元数Kの大きい(次元サイズMkの 小さい)方がループの検出数が少ないことが分かる.また,表5.4には示してい ないが,検出された同じキーの連続している数が全てMkよりも少ないことか ら,ループは次元Kで初めて入ったと判断できる.仮に次元K−1に既にルー プに入ったのであれば,次元KにはMk個の同じキーが並んで検出されるはず である.

第5章 認証キーの生成・管理のための「多次元インデックス法」の提案 検索結果に基づき,我々は計算精度N(例えば128)ビットのときの管理す るRiの総数(空間サイズ)M = 2N/24(例えば260)が非周期である確率は0.6 程であり,次元数を更に一次元減らしたときの空間サイズ(例えば256)は高い 確率で非周期的であることを推測できる.従って,適切な次元数の設定により,

一定の非周期空間サイズを確保することは可能となる.

5.3.5 パラメータ N, M, K(k) について

計算精度N と次元サイズM

計算精度Nのとき,ある初期値X0から生成できるキーの総数M を決める.

そのとき,とりうる値の数は2N 通りあるが,3章で議論したように,ある初期 値(種)X0から生成できる非周期状態の長さは5×2N/23に近いことから,一 次元インデックス法の場合,M が非周期状態である大きさは5×2N/23/N と 推測される.この値は節5.3.4の数値実験結果と近い.

次元数Kと次元サイズMk

Mが一定のとき,Kを大きくすれば,Mkの平均サイズが小さくなり,Riの生 成速度が速くなる.Mkは各次元の座標空間のサイズを決める(k = 1,2, ..., K). また,Riの生成速度に影響を与える.個別のMkのサイズが極端に大きいとき,

一次元生成法で見たように,この次元においての平均生成時間は長くなり,Ri の生成速度が極端に遅くなることもある.

分類上,Mkはk番目のクラスのサイズを表しており,適切なMkのサイズは 生成速度だけでなく,分類上の便宜さと照し合せて,決める必要がある.

なお,経験的にKの設定は,Mkのサイズを4 ∼ 16にするのが適切と思わ れる.