【司会】
それでは、後半を始めたいと思います。
後半は、最初は、各パネラーの先生の間でのディスカッションということで進めたいと思いますが、お 願いしたいことは、前半の話の中で、これはいいなと思ったようなことを、さらにその先にエクステンドする にはどうしたらいいかというような、提案型の発言を歓迎いたします。もちろんそうでないのもよろしいわ けですが。
それから、フリーディスカッションということで、何か 1 つのポイントを深く追い求めるというよりも、やはり すべて先生方のお話を幅広く議論をしていきたいということでございます。
速記をとっておりますので、どんな短いキーワードでもぜひおっしゃっていただいて、そして、後からま た議論を深める、そのトリガーにしていただければよろしいかと思います。いろんなことをとにかくおっ しゃっていただきたい。計 100 分ありますので、各先生方について、平均やはり15 分ぐらいの時間が取 れると思います。池内先生は 7 時ごろご退席ということで、最初に池内先生に関連したディスカッションを 15 分ぐらいさせていただいて、それから、池内先生のほうから他の先生方へのコメントというような形で、
さらに 10 分ぐらいの時間をとりたいと思います。
大体それで 18 時 50 分ぐらいになると思いますので、その先は武者先生、それから沢田先生、大見先 生、高安先生、阿部先生と、お話しされた順序で、一人 10 分ぐらいの見当で進め、19 時 40 分ぐらいに なりましたら、フロアの方々からもいろいろ意見をいただくというふうに進めたいと思います。
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池内先生への質問
【司会】
では、池内先生に対する関連のディスカッションということで、先生方、ご自由にご発言ください。
【沢田】
先生、ちょっといいですか、質問ですが。
風土に基づいた科学ということで、私もアメリカにしばらくいたことがあって、戻ってきたときに、日本と いうのは科学に向いてないんじゃないかとか、日本から発信する科学で、西洋の科学ではなくて、日本 の科学というのがあるだろうかということにすごく疑問を持って、それは 30 年近く前ですけども。それで、
日本のものである尺八と、フルートとは違うかとか、尺八というのはノイズがいっぱいあって、ノイズの上に
音楽を乗せているようなところがあって、フルートというのは非常にきれいな音を出すのを目的としている というようなことを聞いているんで、どっちの音楽がほんとうに音楽性が高いのかとか、そういうことを実験 しようと思ったりしたことがあります。僕はそのときに、日本の科学をやる、東洋の科学をやるとかって宣 言したんですけれども、その後フランス人の友達に、あなたはいつ日本の科学をやるんですか、今あな たのやっていることは西洋科学と何も違わないように思いますけどっていうふうにずっと問い続けられて います。
そういうことで、確かに風土のある科学というのは、まあ、できないけども、しかし、自分の持っている個 性でやっていくというのが大事だというふうな結論に今はなっていて、個性というのは、西洋人であろうが 何人であろうが、みんな個性があるから、自分の個性で研究するよりしようがないのかと思っていますけ ど、いかがでしょうか。
【池内】
実は風土の科学と言いながら、僕は西洋的な宇宙論なんかやっておるわけですから、大きなことは言 えません。歴史的に言いますと、例えばグルタミン酸の発見とか、あれは椎茸の旨味の研究から広がっ ていったわけですね。で、今や旨味というのは、国際語の UMA MI になって、UMA MI 学会という国際的 な学会があり、世界中で研究されているようです。そんなごく身近なものから出発して普遍に至るという 方法も重要なのではないかということを強調したかったのです。
あるいは、フグ毒の研究なんていうのもあります。これもフグ毒でたくさんの人が死んだということから 研究が始まったわけですね。実は、フグ毒はフグが作り出した毒ではなしに、毒性プランクトンが集積さ れたものであることがわかり、広く魚介類の毒性研究に広がっていったそうです。むろん、すべての人が そんな研究やるというわけではなく、むしろ我々は普遍的なものにばっかり集中し過ぎて、そのような研 究を切り捨ててきた側面があったのではないかということを言いたいのです。
それから、特に工学的な技術の問題で言いますと、例えば、ダムを 1 つつくるのにしても、日本のあら ゆる川は、土壌も違う、気象条件も違う、生態系も違うと、ほとんど自然条件が違うにもかかわらず、単一 の技術でやってしまうわけですね。その結果として、海で魚がとれなくなるとか、ダムが砂利で埋まってし まうとかのいろいろな問題が生じています。今、問題になっている諫早湾の河口堰の問題でも、おのお のの自然環境条件は違うんだけれども、技術としては同じものを使ってしまう。我々が対象としているの は、実に多様な個性のあるものであるということを前提とした科学と技術の組み直し方、というのが重要 なのではないのかと思うのです。
研究者の立場から言えば、まさに今おっしゃっている研究者の個性のことです。今や効率主義になっ て、あまりにも個性豊かな学生を切り捨てるところもあるんですよね。遠回りしながらも近づいていくという ような、そういう多様な個性があっていいんだろうということを、今、風土という言い方で言ったわけです。
【佐藤】
先生のその風土の科学と、あるいは、朝日新聞に掲載された縮みの天才というのは、非常に感銘を 受けて読ませていただくわけでございますけれども、一方、すばるというような、そういうものが先生の分 野では非常に強い武器として存在していまして、そういうものはビッグサイエンスだと思うんですけれども、 そのようなものの建設というのは、先生がおっしゃるようなものとは違って、わりと強いリーダーシップのも とででき上がっていくサイエンスだと思うわけですけれども、そこいらあたりの関係というのはどういうぐあ いに先生はお考えでしょうか。
【池内】
はい。その意味では、我々基礎科学、理学の分野では、必然的に非常にビッグになる部分がありま す。それを、日本では大学共同利用機関という格好で、全国の研究者の共同利用の施設として作って います。これは、いわば広がりの世界です。
しかし、広がりの世界だけでは学問が危うくなります。典型的なのは核融合の研究で、次代のエネル ギー生産は核融合だというわけで、ビッグな研究所を作って研究者を集めました。その結果、大学の研 究者はほとんどいなくなっちゃったんです。そうなると、いわゆる基礎的な研究、あるいは実験的な研究、
かつ若い人材を供給するという面で、非常に手薄になってしまいました。その意味では、最先端のビッ グサイエンスへ行く部分と、大学でそれぞれ特徴のある、中小規模でいいんですが、独自な装置を持ち ながら、技術開発をし、基礎研究をし、人を育てるというすみ分けが必要なんだろうと思うんです。
僕は、風土の科学と主に大学で言うのは、大学でこそ、そういう手づくりの機械で研究ができるんだと 胸を張ろうという気持ちなんです。大学の研究にはそれこそが大事なのですから。すばるぐらいのビッグ サイエンスになると、ほとんどは企業がやっちゃうわけです。その意味で、大学の技官なんかの人に技 術が残っていくわけじゃないんですね。ですから、すみ分けが必要であるということと、それから、基盤と しての大学での研究というのは非常に大事だと思っています。
【佐藤】
ありがとうございました。
【司会】
では、ほかの質問がありましたらどうぞ。
【武者】
個別性から何か普遍的なものをやるには、やはりあちこちの隅をつっつく必要があるので、そういう壺 に入って深く掘り下げるのも大事だなということですね。
今、1/ f ゆらぎで、世界的なレベルで答えが出ないというのは、50 の現象があると、説明が 50 あるんで す。それで一応説明はできるのですけど、だれも納得しないんです。というのは、現象が同じであれば、
何か共通な原理があるに違いないという気持ちが強いからですね。ですから、そういう共通性をつまみ 出す資料として非常に重箱の隅をつっつくことが大事だということですね。
それから、1 つの大きな問題は、物理学の対象になっている1/ f ゆらぎと、生体の中で起こっている1/ f ゆらぎは統一できるのかどうかということです。さっきの沢田先生の話にもありましたが、私は生体の「1/ f ゆらぎ」も物理現象としての「1/ f ゆらぎ」も同じ考え方でいきたいですね。
例えば、細胞膜電位が 1/ f ゆらぎをするんですね。この現象は細胞膜のイオン電流に対する抵抗が 1/ f ゆらぎをしていると考えれば、説明できるんですよ。だから、細胞膜の膜電位が 1/ f ゆらぎをしている ということは、物理学的に説明できる。そこから生体信号の担い手である活動電位パルスのコーディング が「1/ f ゆらぎ」をすることが説明できます。
そうすると、生体リズムというのは、ニューロンから出る電気パルスで制御されていますから、心臓の拍 動間隔の「1/ f ゆらぎ」も物理学の領域に入ってくる。そうすると、その延長で詰めていくと、生きているか、
生きてないかというのは一体どこに残るのかなという感じがします。
【司会】
池内先生の風土の科学とは、個々の人間とか、いろんな場所とか、そういうところでのそれまでのダイ ナミクスというものを大事にしながら、その先どうなっていくかというようなことを考えたり調べたりすること によって普遍的なものも見出そうというような、そういう発想だと思うんですけど、そういうふうに理解してよ ろしいでしょうか。
【池内】
結構ですというか、それぞれのイメージを持っていただいて結構だと思うんですが、要するに、あまり にも普遍性だけを表に出すと、かえってたどり着けないのではないか。特殊を切り捨ててはいけないとい うことなんです。
【武者】
まず具体的なものからね。
【池内】
具体的なもの、はい、そうです。それはいかに特殊に見えようとも、実は普遍的なものにつながってい くはずであると僕は思っているんですけどね。