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計算科学的手法のナトリウム伝熱 流動現象への適用研究

ドキュメント内 J N C T e c h n i c a l R e v i e w JNC Technical Review (ページ 32-39)

Advanced Technology Division, O-arai Engineering Center Akira YAMAGUCHI Hiroyuki OHSHIMA Toshiharu MURAMATSU

Computational Investigation of Thermalhydraulics of Liquid Sodium

資 料 番 号 :11−4

サイクル機構では,ナトリウムの流れと伝熱現象を解明し,高速炉システムの開発に役立てるために,

伝熱流動の数値シミュレーション研究を実施している。本報では,最近の成果から流体構造連成解析と 複雑形状内部の熱流動及び,それらを支援する関連技術を取り上げて紹介する。熱伝達に関する流体構 造連成(熱的な相互作用)としてサーマルストライピング評価,運動量伝達に関する流体構造連成(機 械的な相互作用)として流力振動評価,複雑形状の例としてワイヤラップ型燃料集合体の熱流動評価の 成果について述べる。

キーワード

伝熱流動,数値シミュレーション,液体ナトリウム,計算コード,流体−構造相互作用,燃料集合体

Thermalhydraulics, Numerical Simulation, Liquid Sodium, Fluid-structure Interaction, Computer Code, Fuel Pin Bundle The authors performed numerical simulation research on thermalhydraulics of liquid sodium at Japan Nuclear Cycle De-velopment Institute(JNC). The purposes of the research are understanding heat and mass transfer phenomena in liquid so-dium and making contribution to the development of fast reactor system. A diverse thermalhydraulic phenomena and sys-tems and equipment are investigated. In this paper, recent topics are presented regarding : fluid-structure interaction(ther-mal striping and flow-induced vibration), refined flow modeling in wire-wrapped fuel pin bundle and supporting numeri-cal technology. The authors consider the numerinumeri-cal simulation technology is useful and applicable to various fields.

山口 大島 宏之 村松 壽晴

流体計算工学研究 グループ所属 グループリーダー 伝熱流動研究等に 従事

工学博士

流体計算工学研究 グループ所属 研究主幹 炉心熱流動解析手 法開発・評価等に 従事

流体計算工学研究 グループ,第2チ ーム所属 主任研究員 チームリーダ 多次元解析コード 開発,熱流動安全 解析に従事 工学博士

技術 報 告

1.はじめに

高速炉システムの伝熱流動現象の定量評価では,

複雑な形状の構造物に囲まれる空間内部の流れを 把握する必要がある。また,構造物と流体とは相 互に影響を及ぼすため,流体と構造物の相互作用 を考慮することが重要となる。高速炉の冷却材で ある液体金属ナトリウムの流れと伝熱を知り,複 合的で非線形な現象を予測し再現するために,大 規模数値シミュレーションが有効である。そこで,

サイクル機構では計算科学的手法を伝熱流動現象 へ適用する研究を実施している。それによって,

複雑な伝熱流動現象の解明や高速炉システムの高 性能化に役立つと期待される。

高速炉システムで実際に観察されるような複雑 な現象を考慮する場合に,システム設計において は現象を単純化させた工学モデルがしばしば利用 されてきた。その工学モデルを構築するためには 縮小実験が行われ,また,設計の妥当性を最終的 に確認するために,実規模もしくはそれに近いモッ クアップ実験が実施されている。しかし,実験で 観測されるのはいくつかの素事象が相互作用した 複合現象であるため,測定データだけからでは現 象のメカニズムなどの解釈が容易でない場合がし ばしば現れる。そこで,工学的解釈を加えること によって複雑現象を近似的にモデル化し,現状の 計算機性能に照らし合わせて現実的な計算時間の 範囲で解析を行うために,工学モデル(例えば圧 損や熱伝達相関式あるいは乱流モデル)が利用さ れている。こうして得られた工学モデルは,当該 の体系や伝熱流動条件に固有の特性を表現する評 価手段であり,必ずしも一般性が保証されている とは限らない。例えば,モデルのパラメータがあ る機器の形状に強く依存していれば,形状が変わ るごとに対応させた実験が必要となるであろう。

高速炉の冷却材であるナトリウムは,水に比べ ると熱伝導特性に優れ,粘性が小さい等の特徴が あるので,その流れと伝熱を評価する上でこれら を考慮する必要がある。また,ナトリウムは高温 で利用される上に,反応性があり不透明である等 の性質があるので,ナトリウム中計測は水中に比 べて困難さが増すことになる。

数値シミュレーションによれば,流れ場や温度 場に影響を及ぼさずに任意の場所で任意の物理量 を測定(計算)することができ,その結果は容易 に可視化できる。計算科学は,理想的な試験条件 の実現と着目する物理量の測定が可能な数値実験 であり,実験が困難な現象の観察が可能となる。

時間的,空間的分解能を向上させた大規模数値シ

ミュレーションでは,それぞれの非線形な支配方 程式で記述されるいくつかの素事象の強い相互作 用を,同時時間進行により解くことができる。

このような背景から,複雑形状境界の内部の熱 流動現象を数値シミュレーションによって詳細に 予測すること,流体と構造物の相互作用問題や,

化学反応を伴う伝熱流動問題を統合的に解析する 研究を実施している。高速炉システム開発で,実 規模に近いナトリウム試験を代替できるモックアッ プ数値実験を実現することが,本研究の目標であ る。本稿では,流体−構造物相互作用シミュレー ションと複雑形状空間における熱流動シミュレー ション及び,それを支援する関連技術について述 べる。

2.流体−構造物相互作用シミュレーション 従来の熱流動解析では,ナトリウムの周囲境界 を構成する構造物は運動しないものとし,境界に おける温度あるいは熱流束は既知であるとする条 件を前提としていた。しかしながら,後に述べる ように,ナトリウムと構造物の間には熱的あるい は機械的な相互作用が生じるため,流体系と構造 系を分離した解析では非定常現象を正確に捉える ことができない場合がある。構造振動や温度変動 を伴う場合には,それによりエネルギー伝達特性 が時間とともに変化するため,流体系と構造系を 連成させた解析が必要となる。

高速炉炉心から流れ出る冷却材の温度は500℃を 上回る領域と400℃程度の領域があり,それらが混 合するところでは温度が時間・空間的に変動して いる。また,ナトリウムは沸騰温度までの温度裕 度が大きくとれるため,自然循環により崩壊熱を 除去しやすいという特長があるが,ナトリウムを 内包する大きな容器ではナトリウムの膨張と収縮 に伴う体積の変動を吸収するための自由液面が必 要となる。原子炉容器の自由液面の揺動等による 流体構造連成振動や,液面近傍での熱応力の変動 にも注意が払われる。このような,流体の温度変 動による熱的相互作用と,流体力による構造振動 を生じる機械的相互作用に着目して,流体−構造 連成解析手法を開発した。

2.1 ナトリウムと構造物の熱的な相互作用1)

高温ナトリウムと低温ナトリウムが混合する過 程では,時間平均が一定な温度の不規則変動(温 度ゆらぎ)が発生する。構造物の表面近傍で温度 ゆらぎが生じると,それが構造物表面から内部へ と伝達される。構造物の温度変動が有意な振幅と 技術

報 告

なった場合には,材料は高サイクル疲労を起こす 可能性がある。この現象はサーマルストライピン グと呼ばれる。

サーマルストライピング現象は,構造物の形状 や流速,流量比など多くのパラメータに関係して いる。これまでは,機器構造を概略決定した上で,

実寸大モックアップナトリウム試験を実施し,設 計評価を行ってきた。そして,実験データを安全 側に包絡するように温度変動条件を設定し,高サ イクル疲労を防止する保護構造を設置している。

しかし,この方法では,適切な安全裕度を確保す るための対策構造が過剰設計となりがちであり,

より合理的な設計評価手法が望まれている。

このような熱的な相互作用を評価するために,

① 汎用多次元乱流解析コード AQUA 及び② 乱 流の直接シミュレーションコード DINUS‐3を開発 した。AQUA は,場における温度ゆらぎ強度の推 定と,詳細に温度ゆらぎを評価すべき空間を特定 する機能を受けもっている。それを受けて,DINUS

‐3は,ナトリウムと構造物間の境界層における温 度ゆらぎ振幅の減衰を考慮して,評価の空間内の 温度ゆらぎの時系列と振幅や周波数成分の頻度分 布を算出する。さらに,③ 境界要素法による構 造物の熱的な応答評価を行う BEMSET コードを DINUS‐3と結合させることにより,伝熱流動場と の連成を考慮して構造物表面及び内部の温度挙動 を定量化している。

ナトリウムの平行噴流下流に試験片を置いた流 体−構造物熱的相互作用の,試験体系と温度場の

解析結果を図1に示す。噴流ノズルの幅は5mm であり,高温側ノズル(320℃,2m/s)と低温側 ノズル(280℃,2m/s)は4mm 隔てて設置され ている。ノズルの下流36mm の距離に試験片を置き,

その表面の熱電対により,ナトリウム主流部,境 界層内部,構造物表面及び内部の温度を測定した。

平行噴流は左右にゆれながら上昇し,試験片表面 に達している様子が図1から分かる。

図2には,解析により得られた温度変化を示す。

ナトリウム中では高周波数で振幅の大きい温度ゆ らぎが解析されているが,境界層内部,構造物表 面,構造物内部と徐々に減衰し,低周波数成分の みが残る状況が見られる。図3には,時間平均で 見た温度ゆらぎ振幅に関する実験と解析結果を比 較して示す。構造物表面近傍での温度ゆらぎの減

図2 ナトリウムと構造物中の温度ゆらぎ時系列の解析結

図1 サーマルストライピング試験の体系とナトリウム温度分布

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