第 4 章 高磁場下での磁気抵抗効果 39
4.2 複合フェルミオンによる整合性磁気抵抗
試料Sq Midの零磁場付近に整合ピークが観測されたことから(第3章参照)、いったん 室温へ戻し15Tでの実験を行える実験系へ移した。そしてν = 1/2で複合フェルミオンの 効果の観測を試みた。ここではその結果についてまとめる。
ヒートサイクルの影響で二次元系とのオーミックコンタクトが若干悪化したため、電流 バイアスを10nAに増やし、SN比を向上させた。その後測定した整合性磁気抵抗や量子 ホール効果は第3章での結果と変化しなかった。そのため、電流を増やしたことによる影 響はほとんどないと考えられる。
図4.10は試料Sq Midにおける対角抵抗Rxxとホール抵抗Rxy の様子である。片側の 磁場方向にのみフィリングνを示した。図4.10を見ると整数量子ホール効果の他に、ν= 3/5,2/3,4/3,5/3の場所に分数量子ホール効果が観測され、不純物の少ない二次元正孔系 が形成されている事を確かめることができた。
図4.11は高磁場領域での対角抵抗Rxx及びホール抵抗Rxy の様子である。この測定で は電子系での結果のように明瞭な複合フェルミオンの効果は観測されなかった。しかし、
ν= 1/2前後で対角抵抗の傾きが若干変化している(図4.11)。ホール抵抗の傾きはほとん ど変化していないが、微分を取り詳しく解析すると、この前後でホール抵抗の傾きも変化 していることが確認された。図4.12に対角抵抗と対角抵抗の1回微分を示した。1回微分 の振る舞いを見ると、単調増加しているバックグラウンドの上に整合ピーク構造と同じ振 る舞いをする信号が確認できる。ν = 1/2からピークまでの距離は約0.38Tであり、これ が複合フェルミオンの効果だとして磁場を1/√
2倍すると0.27Tである。これは、0.19T 付近に現れた最も大きな整合性ピークの磁場位置とそれほど変わらない値であり複合フェ ルミオンの整合性ピークの可能性はある。しかしながら別の試料でアンチドット格子の無 いホールバーを測定した際にもν = 1/2付近に同様な効果が現れており、先ほどの効果は ν= 1/2前後に現れる構造であると考えるべきであろう。
30
20
10
0
Rxx (kΩ)
15 10
5 0
-5 -10
-15 Magnetic Field (T)
40
20
0
Rxy (kΩ)
Rxy Rxx Filling factor ǵ
2
1 3
4 5
3 3
2 3
5 2 3 1 2
図 4.10: 試料Sq Midにおける高磁場領域の対角抵抗Rxx及びホール抵抗Rxy。
4.2. 複合フェルミオンによる整合性磁気抵抗 47
これからなぜ、二次元正孔系で複合フェルミオンの効果が見えにくいのかを考えていく。
複合フェルミオンの効果が見えにくくなる理由の1つとして考えられるのは、二次元正孔 系自体の移動度が小さく平均自由行程が小さいことである。試料Sq Midの基板1の平均 自由行程440nmは二次元電子系の実験[11]と比べておよそ100分の1である。そのため、
複合フェルミオンとなりさらに有効質量が大きくなる[31]ことで平均自由行程がさらに
短くなり[11, 12]、複合フェルミオンによる整合ピークが見えにくくなってしまう。実際
に、キャリアの有効質量が複合フェルミオンとなることで大きくなるかどうかを[31]と同 じ方法で複合フェルミオンのSdH振動から見積もったのが図4.13である。図4.13は対角 抵抗と有効質量を示しており、確かにν = 1/2のSdH振動に対応する分数量子ホール領域 ν = 2/3,3/5では有効質量が低磁場の有効質量よりも大きい。しかし、ν = 1/2周りの有 効質量は揺らぎが大きく精度良く値を見積もることは困難であった。さらに、電子系では 図4.14に示すように複合フェルミオンの有効質量はGaAs中の電子の有効質量の10倍程 度に大きくなるので[31]、ν= 1/2周りの整合ピークが見えづらくなるとされる。
しかし、平均自由行程が短いから複合フェルミオンの効果が見えなくなるという理由は 必ずしも正しいとはいえない。なぜならば、低磁場領域において短い平均自由行程にもか かわらず強い整合性磁気抵抗を示し(第3章、[19])、本実験では複合フェルミオンの有効 質量は低磁場の有効質量のせいぜい5倍程度であるからである(図4.13)。さらに、分数 量子ホール領域においては通常用いられる移動度μ(Transport mobility)よりも量子移動 度μi(Quantum mobility)が重要と考えられる。二次元電子系では移動度と量子移動度は 大きく異なり、典型的には量子移動度は移動度の20分の1程度である。一方、本研究で使 用した二次元正孔系は移動度自体は小さいが、分数量子ホール効果が観測されることから も分かるように量子移動度はそこまで小さくはならない。本研究で使用した基板の4Kに おける移動度は5.5 m2/Vsであり、量子移動度は60mKにおいて得られたSdH振動から 見積もると1.9 m2/Vsであった。このように、量子移動度ベースで考えれば移動度や平均 自由行程で見るほどの差異は生まれない。今後の研究が望まれる。
25
20
15
10
5
0
Rxx (kΩ)
15 14
13 12
11
10 Magnetic Field (T)
60
55
50
45
40
35
Rxy (kΩ)
Rxy Rxx ǵ㧩
図 4.11: 試料Sq Midにおける高磁場付近の磁気抵抗。矢印で示すν = 1/2付近で対角抵 抗Rxxの傾きが変化している。
48 第 4 章 高磁場下での磁気抵抗効果
26
24
22
20
18
Rxx (kΩ)
15.0 14.5
14.0 13.5
13.0 12.5
12.0
Magnetic Field (T)
5
4
3
2
1
0
dRxx (kΩ) / dB
Rxx dRxx / dB
Filling Factor ǵ 21
6
図4.12: 試料Sq Midにおける対角抵抗Rxxと対角抵抗の1回微分の様子dRxx/dB。ν= 1/2 前後で構造がみられる。
30
20
10
0
Rxx (kΩ)
14 12 10 8 6 4 2 0
Magnetic Field (T)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
m* / me
Effective mass Rxx
図4.13: 試料Sq Midの対角抵抗RxxとSdH振動の温 度依存性をDingle関数でフィットして求めた有効質量 m∗。有効質量は電子の質量meで規格化している。
図 4.14: SdH振動の温度依存性か ら求めた複合フェルミオンの有効質 量(上部丸印)と分数量子ホール効果 の活性化エネルギー(下方四角印)。 [13]より引用。