【課題】
本編本部は、行政行為の附款を用いた分析が主な内容である。すなわち、検討対象 領域は、第三者保護(国民・住民の利益)が強く求められる領域である。例えば、食 品、医薬品、消費者保護、公害(環境分野)等の規制分野は有力な例であると考えら れる。
これらの分野は業者(申請の相手方)あるいは個人の利益より公益性が強調される 領域である。第三者の権利保護の観点から言えば、これらの分野は社会的規制という 性質が強い領域である。さらに、現代の行政には迅速性が求められ、また行政任務が 多様化されるが故に、従来の行政行為論のみではこのような公益性の要求に対応でき ない側面があるとの認識に立った分析を試みる。
早稲田大学審査学位論文(博士)
行政法学における『リスク介入』に関する法理の研究
第一章 行政行為の附款の意義・問題意識
(1)問題意識
モンテスキューは著名な『法の精神』の序文の所で「人は最悪を恐れるとき悪をそ のままにしておき、最善について疑うとき善をそのままにしておく。部分を考察する のはひとえに全体について判断するためであり、すべての原因を検討するのはすべて の結果を知るためである1」と述べて法の体系的・総合的分析を目指すことを宣言して いるが、この文言は、行政法学分析にも通ずるものであろう。
日本における最近の行政法学の理論状況は、行政法学方法論や体系論ということで はなく、体系を構成する各部分を社会状況の変化の中で再検討しようとするのがここ 数年の行政法学界の主要課題であるように思われる。私はとくに、行政法の核心部分 である行政行為論、行政指導、処分性等に関心を持って来た。
そして、なかでも、行政行為の一部である附款の再検討に至った主な理由は、許可 の場合、一旦行われた行政行為(処分)はなかなかその行為を変えることが難しいと いうことに関連する。これが伝統的行政行為の限界であるとの認識が出発点である。
ある行政目的の達成という観点からすれば、規制の実際において、とくに、公益配慮 が強く望まれる行政領域において附款を用いることで行政運用上の柔軟性・補完性を 実現できることに注目したい。言い換えれば、今日の行政行為の附款論の理論状況で は行政行為論の理解、なかんずく名宛人と第三者双方の利益保護における行政庁の役 割という側面から説得力が欠けていると思われる。
上記のような領域に限って、附款に対する分析を行った上で、今後さらに行政行為 論の体系的な再検討を試みたい。そこでは、従来から行政法学分野において中心的で あった警察概念に基づく規制手法を、各々の環境分野で問題とされているリスク概念 に基づいた制度手法へと転換するといったテーマで研究を進めていきたいと考えてい る。本論文もこのような問題意識から構成されている。
1 モンテスキューの『法の精神』のはし書き部分である。野田良之ほか『モンテスキュー 法の精神 上巻全三巻』(岩波書店 一九八七年) 右訳文六〜七頁参照。
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(2)本部の構成
日本の附款理論の淵源をたずねると、元来行政行為の附款はドイツ民法から借用さ れてドイツ行政法に組み込まれ、その後、日本の行政法に導入されたことが分かる。
このような経緯から分かることは日本の附款理論というのは抽象的な理論的検討が中 心に説明されてきたということである。それゆえ、行政行為の附款については実証的 な検討が貧弱であり、とくに附款の機能面についての十分な研究がなされずに日本の 行政法の枠組に導入され温存されてきたと言えよう。たとえば、とくに附款の機能に ついて許可をするか否かを判断するときに附款を利用することで、行政の柔軟な対応 を期待できるという抽象的レベルでしか附款の機能を説明してこなかった。
この点については、本稿で詳細に検討するが、行政手続法制定後、すでにある程度 解決できているのではないかと考え得る。このような事情から私は附款の機能理論を 芝池義一の「附款の機能論1」を土台とし、その理論的な可能性と欠陥等について章(第 四章)を分けてその検討を行う。まず、第二章では、附款の理論(概念)を日本の学 説の分析を通じて行う。とくに、節を分けて従たる概念である附款と主たる行政行為 の関係を検討する。附款の機能的側面との関連で、従来から議論されてきた附款の定 義というのは、法律上規定されている本体たる行政行為の規律内容に附加されている 附加的・付随的あるいは従たる規定であった。これは附款と主たる行政行為との関連 に鑑みると、本質的な面においては当然な論議であると読み取れる。しかし、このよ うな検討の視角は附款の属性あるいは機能を切り離して把握することになってしまう。
かくして、今日まで附款の概念は原則として相手方に対する効果の観点からしか定 義されて来なかったのである。このような観点からすれば、従来の附款は本体たる行 政行為に附加され、当該行為の効力・効果を制限する内容の附加的規律あるいは従た る規律と見なす定義と言える。しかし、これに対して本部では、附款の定義を行政行 為の効果を制限若しくは「補充」する従たる規律と考えることによって、従来附款の 概念であった相手方に対する効果の観点を強調するのみならず、従来のように制限と
1 芝池義一『行政法総論講義〔第三版〕』(有斐閣 一九九八年一二月)一九三頁参照。
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いう側面もふまえつつ私人に対する附款の観点として定義できると言えよう。さらに、
私の附款の定義に含まれる「補充」といった側面から導き出す当該発給行政庁の観点 からこの観念を用いる。本稿では、従来の附款を用いる際の行政庁の裁量を認める見 解に立ち、さらに、上記のように原則的には附款の附従性についても認めることとす る。
近年、附款を契約論で展開する学者もいるようである。これらの検討を踏まえた上、
第三章では附款の可能性と限界についての理論を論ずる。本部の射程範囲は次のとお りである。本部における附款の機能的側面をめぐる問題(第四章)との関連で考え得 る領域は、経済活動における許可・認可・特許等である。
とくに、その中でも、第三者関係(国民・住民の利益)が広く登場する領域である。
例えば、食品、医薬品、消費者保護、公害(環境分野)等の規制分野は有力な例であ ると考えられる。つまり、これらの分野は業者(申請の相手方)あるいは個人の利益 より公益性が強調される領域である。第三者の権利保護の観点から言えば、これらの 分野は社会的規制の性質が濃厚である。さらに、現代の行政には迅速性が求められ、
また行政任務が多様であるが故に、従来の行政行為論のみではこのような公益性の要 求に対応できない側面があるのではないかと考える。
確かに、附款を用いることにはメリットやデメリットがあると思われるが、附款の メリットである行政作用の伸縮性、弾力性に注目すべきではないかと思われる。また、
ささやかなミスで拒否されることは時間や努力の無駄であり、附款はこのような面で の節約的機能を有している。とくに、行政行為の附款の新たな類型として修正負担、
負担の留保といった類型が議論されている。また、附款の限界として、事後の附款の 当否について触れることとする。要約すると、附款は行政運営にあたっての合理性、
弾力性、私人にとっての有用性、そして両者にとっての経済性を確保することにその 意味があると言えるであろう。
差し当たり、ここで、附款の機能についての意義に関する私見を提示しておくこと とする。行政行為の附款の機能とは、.............
行政運用にあたっての合理性、弾力性、相手方.....................
にとっての有用性、相互にとっての経済性の確保にその存在意義があり、伸縮的に行
......................................
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政課題に対応できる役割を持っている.................
と思われる(傍点、筆者)。しかし、ここでの 問題点は、行政行為の附款の濫用に対しての対策である。これに対しては、組織法的・
手続的統制を通じて対応することが重要であると思われる。なお本部では、行政行為 の附款をめぐる訴訟の議論は省略し、今後の課題とする。
私見では、附款を用いることのデメリットを考えると、附款を裁量的に用いること や附款の限界等を裁判所や行政庁に任せるよりも、ある一定範囲まで立法を通じて法 定附款にすることが理想的であると思われるが、現段階は多少無理がある。なぜなら、
立法の段階においても行政運用上予測できないものが生じるからである。本部では現 段階に議論できる範囲内で行政行為の附款を論じることにする。