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行動分析学の視点に基づく課題

第 7 章 結論

第 2 節 今後の課題と展望

2. 行動分析学の視点に基づく課題

このような最中、小学校においては令和 2 年度から、中学校においては令和 3 年度から より新学習指導要領が完全実施される。前回の学習指導要領との違いの主なキーワードは、

「主体的・対話的で深い学び」と言われる学びのモデルチェンジや小学校外国語教育の教科 化があげられる。また、教科ではなく領域という扱いであった道徳の授業が、実際の体験活 動や「考え議論する」点を強調した「特別の教科 道徳」として、指導内容のさらなる充実 を図られたり、ICT教育の充実が加えられたり、今後10年間の教育を見据えた内容が盛り 込まれており、すでに学校現場ではこれらの教育が実際に動き出している。

この時代の流れも受けて、文部科学省(2020d)は、学校現場に対して、教室等のこまめな換 気の徹底や、マスクを装着するよう指導するなど、染症対策を講じた上で、新学習指導要領 が示している「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を求めた。Table 7-1のよ うな配慮をしつつも、新しい教育の動きは止めるべからず、ということであろうが、現実は なかなか厳しいと考えられる。コロナ禍の現状や、教育に対する時代の要請を踏まえた上で、

主に学びの場面における児童生徒を軸として、行動分析学のパラダイムである行動随伴性 により、まさに「今」の学校現場の現状分析を試みる。

行動随伴性とは、「先行条件」、「行動」、「結果」が連鎖する3つの項からなる枠組みのこ とである。先行条件とは、その個体の周囲の環境において、その個体が特定の行動を行う際 のきっかけや前触れとなる動機づけや刺激のことである。ある特定の条件(先行条件)下で、

行動が自発すると、その個体にとって何らかの結果が生じる。その結果が、その個体にとっ

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て好ましいものであれば、行動は強化され、その行動の生起頻度が増加したり、学習された 行動として難度も繰り返し行うようになったりする。一方で、行動の結果、その個体にとっ て好ましくないものが随伴する場合は、行動の生起頻度は減少することになる。

先行条件 行動 結果

【社会科】調べ 学習の場面で

友人と協働作業 で調べ学習を行 う

自分の意見が賞 賛される(↑)

友人の考えを学 ぶことができる

(↑)

先行条件 行動 結果

【外国語】英会 話練習する場面 で

多くの友人と対 面して英会話を 行う

自分の英語が通 じて嬉しい(↑) 友人の英語が理 解できて楽しい

(↑)

先行条件 行動 結果

【道 徳】思い やりについて学 習する場面で

「思いやり」と は何かを友人と 議論する

自分の意見を伝 えることができ る(↑)

友人の考えを学 ぶことができる

(↑)

Figure 7-1 児童生徒の学びが促進される行動随伴性例

先行条件 行動 結果

【理科】植物の 葉の断面を観察 させる場面で

拡大提示器を使 って大画面モニ ターで説明する

生徒の驚く顔が 見られる(↑)

生徒から「わか りやすい」と言 われる(↑)

Figure 7-2 教員の指導の工夫が促進される行動随伴性例

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まず、より対話的に変貌しつつある新しい時代の教育を念頭に置き、児童生徒の学びが促 進される理想的な行動随伴性について、その例をFigure 7-1に示した。なお、結果の欄に付 記した(↑)は、今後、直前の行動が増加または促進されることを示唆している。

いずれも、学校の日常的な授業場面を切り取った例を示したものである。共通することは、

行動をした直後に、他者から賞賛されたり、自分が嬉しかったり気持ちが良かったりと、そ の後の行動の増加につながる強化子が随伴することである。このような行動随伴性が存在 する授業は、児童生徒の学習を促進する望ましい行動が増加することが容易に想像できる。

また、児童生徒の学習が促進される状況は、教える側の教員にとっては授業を行う動機づけ を高める要因となる。またそればかりでなく、教員が授業という行動をした結果、何より学 習が促進している児童生徒の表情を観察したり、児童生徒から授業の肯定的なフィードバ ックを得たりすることは、教員の行動随伴性において、よりわかりやすい指導を工夫したり、

優れた授業を構築したりする大きな強化子であるはずである。教員の指導の工夫が促進さ れる行動随伴性例をFigure 7-2に示した。このような好循環を生み出す行動随伴性が存在す る学びの場面は、学び手、教え手の双方にとって好ましいと言える。

この行動随伴性による分析によって、新学習指導要領にキーワードとして示されている 新しい学びと、Table 7-1で示された感染のリスクが高い学習活動の状況を踏まえ、現状のコ ロナ禍の学びについて、行動科学の目で可視化すると以下のようになる(Figure 7-3)。いずれ の先行条件もTable 7-1で言及されているように、児童生徒が長時間、近距離で対面形式と なるグループワーク等及び近距離で一斉に大きな声で話す活動には制限がある状況が想定 されている。

Figure 7-3が示すように、「学校の新しい生活様式」の中では、新学習指導要領が掲げるよ

うな学びにおいて、児童生徒の学習を促進する強化子が充分でないことが予想できる。さら に、学校生活全般に目を向け、長時間、近距離で対面形式となるグループワーク等及び近距 離で一斉に大きな声で話す活動が難しいことを前提に考えれば、Table 7-1 で示した各教科 の授業場面以外の学校生活においても、児童生徒の行動に対する強化子はおそらく充分で はないだろう。授業の合間に友人と顔をつきあわせて語らうことのできる休み時間、対面形 式で楽しく会話が弾む給食時間、大きな声で友人と鼓舞しあった部活動などに制限がある。

友人や教員との語らいや切磋琢磨があればこその学校が、「楽しくない」場にならないため にも、私たちはその叡智を結集し、現状の学校を「楽しい」学びの場に変えていくために叡 智を結集する必要がある。

このような時、私たちがついつい行いがちなのが責任を他者に求めることである。島宗 (2000)は、問題の所在を、個人の能力、性格、態度等に求め、解決に向けたアクションをと らないことを個人攻撃の罠と称してこれを戒めている。学校が学び舎として「楽しくない」

場であることを、行政関係者や教育関係者のせいにしても非生産的である。ましてや医療従 事者のせいにすることも筋違いである。もちろん感染症に対する有効な治療薬やワクチン の開発等に対して学校は無力である。しかし、「楽しい」学校を再び作り出すために、その

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行動随伴性を分析し、先行条件としての動機づけを高めたり、児童生徒や教員が行動した結 果として、彼らの行動を強化する仕組みを考えたりすることは、問題解決に向けた前向き且 つ具体的なアクションである。特に、児童生徒が強化を受けられる仕組みが減少している現 状において、学校内の望ましい行動随伴性を整えていく視点は非常に重要であろう。

先行条件 行動 結果

【社会科】調べ 学習の場面で

グループではな く個人で調べ学 習を行う

友人との意見交 換の機会の減少 協働作業の楽し みの減少

先行条件 行動 結果

【外国語】英会 話練習する場面 で

数人の友人と距 離をとって短時 間だけ英会話練 習する

コミュニケーシ ョンの機会減少 英語が通じる楽 しみ減少

先行条件 行動 結果

【道 徳】思い やりについて学 習する場面で

読み物教材を読 んで「思いやり」

を理解する

自分の意見を伝 える機会の減少 友人との議論の 楽しみ減少

Figure 7-3 コロナ禍における学習活動の行動随伴性例

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