第 6 章 実験と実践報告
4. 考察
本実験は、Table2-2に示した3つの学習スタイルに基づく「主体的・対話的で深い学び」
の解釈を土台として、従来の一斉授業のスタイルから、「主体的・対話的で深い学び」型の 授業スタイルに変換するために開発された短期集中研修プログラムの効果を測ることを主 眼として実施された。その結果、すべての従属変数において、授業を「主体的・対話的で深 い学び」の実現に資する結果が得られた。実験場所として使用した場面が、英語科のコミュ ニケーション重視の教科であったことを鑑みれば、元々対話的な授業形態が日常的に実施 されやすい環境であったことが予想できる。そのような条件の中でも、教員の言葉の変化に より、ペア活動による前時の復習、協働作業によるプリントの空欄補充など、生徒同士の実 体験やお互いの観察、対話を通じた言葉による学びの共有場面が増加したことは大変望ま しい結果であると言える。また、対話的な学習スタイルの持続時間が増加したことからもわ かるように、生徒同士の関わりが増加したことにより、「素晴らしい」「拍手!」といった教 員が生徒を強化する場面が増大したことはさら望ましい結果であると言える。
このような強化場面の増加が、授業以外の日常生活場面に於ける生徒同士や生徒と教員 の人間関係に信頼関係や協力関係等の形成などの良い効果をもたらすことが期待できる。
本実験の参加者であるトレーニーは、教職1年目のいわゆる若手教員であったが、このよ うな短期集中型の研修プログラムを実施することにより、総じて、教員の研修プログラムと して短時間の中で確実な効果を生み出す可能性があることが示唆された。本実験の課題と しては、プログラムの特徴でもある講義(言葉による学習)、先輩教員の授業参観と振り返 り(観察による学習)、トレーニーによる練習授業と振り返り(実体験による学習)という 一連のステップの中で、どの部分の研修効果が高かったか、またこのプログラムが他教科、
他校種の研修としても有効に機能するかなどについての検証について、今後さらなる知見 を積み重ねていく必要があることにある。また、本実験の効果判定はトレーナーである筆者
分
持続時間
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一人により測定され、2人以上の測定者による一致率を求めるまでの正確な測定に至ってい ないことも課題の一つである。今後はこれらの課題を鑑みながら、さらなる現場での知見を 積み重ねることが重要である。
社会的妥当性
参加者は、教職1年目として初任者研修などをはじめとした多くの研修を受講していた。
しかし既存の「主体的・対話的で深い学び」に関する研修は、その概要や理念の理解にとど まり、実際の授業がどのように行われるかについて及んでいるものは無かったことを筆者 に報告していた。参加者は本実験を振り返り、本実験のような具体的な行動レベルで「主体 的・対話的で深い学び」を理解し、客観的な指標に基づき自分の授業を振り返ることで、今 後もトレーナーがそばにいなくても、日頃の授業を通じて自己研修を行ってくことが可能 である、という感想を述べた。多忙な教育現場において、一人一人の教員が、このようなわ かりやすい研修の指針を持つことは大きな意義があると考えられる。
第 2 節 小学校教員の基礎的英語授業スキル向上のための電子メールを利用した三段階サ ポートの効果
1. 問題と目的
榊原(2019a)は、教員の授業力向上に資する研究の必要性を訴えている。そして、その授業 力とは、やはり具体的な「行動」で論じられることが望ましく、具体的で観察可能な行動で 論じていくことにより、誰もが授業力について、共通の言語で語れるようになると言及して いる。
その中でも、小学校教員の英語授業力スキルは、今まさに早急に求められているものであ る。小学校の英語の授業については、その研究例の少なさもさることながら、英語科の教員 免許状もない現場の教員が、また特別な英語運用能力のもたない教員が、いわば何の専門性 のないままに教壇に立たされていることに大きな課題がある。また実際に2020年度からは、
小学校5、6年生の外国語科が教科化となり、国語科や算数科など他教科同様、「評価」が実 施化される運びとなった。このような現状の中、早急に訓練が必要とされているスキルは、
小学校教員の「基礎的」な英語授業スキルである。
本実験の目的は、英語科の教員免許状をもたず、専門的な英語に関する知識や運用経験の ない、いわば「普通」の小学校教員の英語授業マネージメントスキルについて、電子メール による三段階のサポートにより向上させることにある。電子メールを使用する理由は、多忙 な教育現場に配慮し、効率性と簡便性を追求したためである。電子メールに動画等を添付す れば、模範となる授業スキルを実際に観察することも可能となる。英語の授業数は小学校5、
6年生で年間わずか70時間である。このような中で効率よく英語を学習させるためには、
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そのわずかな時間の中でいかに多くの英語に触れさせるか、という仕掛けを演出するスキ ルが必要になる。簡単言えば、いかに多くの英語を聞かせ、しゃべらせるかとう言うことで ある。また通常、小学校の英語の授業にはALT(Assistant Language Teacher)と呼ばれる主 に外国籍の英語が堪能な助手が配置され、ティーム・ティーチングと呼ばれる指導形態をと ることが多い。彼らはもちろん英語は堪能なのだが、授業においては文字通りアシスタント の役割である。日本人小学校教員は、彼らと協働しながら授業をマネジメントし、時には英 会話のモデルを示したり、英語を学ぶ良き日本人のモデルとして多くの英語を口にしたり する必要がある。このようにかなりの専門的なスキルが要求される英語の授業について、小 学校教員に一朝一夕に身につけさせようということは非常にハードルが高い。
本実験は、小学校教員1名に対して、専門性の高い英語授業スキルの基礎となる「英語に よる質問指示・賞賛」、「個別評定」、「ALTとの簡単なやりとり」の3つのスキルを向上させ ることを目的に実施した。それぞれのスキルを身につけるためのポイントや効果的な方法 を記述した電子メールを3回にわけて送付することにより、3つのスキルの形成について、
1つずつ無理なく段階的にサポートしていく方法を採用した。また、そのサポートの効果を 具体的な行動の頻度で判定することとした。
2. 方法 参加者
公立小学校男性2年目教員(5年生担任)1名が参加した。
場面
公立小学校5年X組の英語科授業場面を効果測定場面とした。
研究期間
2020年8月から同年10月まで、授業に関するスキルの向上のためのサポートを3回と、
サポート効果の測定のための授業の録音を4回実施した。
倫理的配慮
実験前には、参加者である教員には本実験の意義を説明し、了解を得た。また管理職にも 同様の説明を行い、授業場面をビデオカメラ等で撮影するのではなく、個人の特定ができな いように録音することよる配慮を行うことで実験の了承を得た。
手続き
小学校教員の基礎的英語授業スキル向上のための電子メールによる三段階サポートを独 立変数とした。標的となった3つのスキルについては、その獲得が平易なものから、難度の 高いものとなるように、「英語による質問指示・賞賛」、「個別評定」、「ALTとの簡単なやり
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とり」の順番で時期をずらしながら参加者に示した。参加者は3回のサポートを受け、計4 回の授業を実施した。測定1回目の授業はベースラインデータとして録音した。全体のサポ ートの流れをFigure 6-3に示した。
サポートは、トレーナーである筆者(指導主事)が参加者に対して、電子メールを使用し て行い、初回だけは研修の動機づけも兼ねて、サポート全体の流れについてWeb会議ツー ルを用いオンラインで説明した。またサポート2の段階にはサポート1の内容、サポート3 の段階にはサポート1 とサポート 2 の内容を復習として電子メールに記述し、スキル向上 のポイントとなる内容を段階的に蓄積し、参加者が 3 つのスキルついていつでも確認でき るようにした。
それぞれの段階のサポートの事後には、セルフトレーニングのための日数を 1 週間以上 とった後で、従属変数の測定のため、授業を録音した。録音はスマートフォンのボイスメモ 機能を用いて、教室後方にて筆者の授業参観のもと実施された。録音時間は授業開始から40 分間とした。それぞれのサポートの内容をTable 6-2に示した。
従属変数
Table 6-3の操作的定義に基づいた行動の生起頻度を従属変数として測定した。測定は、録
音された音声データに基づき、筆者(指導主事)が音声データを再生しながらカウントを行 った。
Figure 6-3 三段階サポートの全体の流れ