1 冠動脈血行再建法の選択
①緊急および早期冠動脈血行再建術の選択 クラスⅠ
1.十分な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が原因と 考えられる不安定な血行動態あるいは胸痛持続の原 因となっていると考えられる病変に緊急
PCI
を行 う.(レベルA
)2.血行動態不安定な左主幹部病変を持つ患者に緊急
PCI
を行う.(レベルB
)3.
PCI
が困難あるいは不成功例で心筋虚血が持続し,心筋虚血範囲の大きな患者,あるいは血行動態が不 安定な患者に緊急
CABG
を行う.(レベルB
) 4.虚血が原因と考えられる胸痛発作があり,心電図にて新たに
ST
降下が出現した患者やトロポニンT/
Iが上昇している患者に,早期PCI
あるいは早期CABG
を行う.(レベルA
)5.十分な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が原因と 考えられる胸痛発作が頻発し,胸痛の原因となって いると考えられる病変に早期
PCI
あるいは早期CABG
を行う.(レベルA
)6.薬物治療,
PCI
が無効で,持続する胸痛あるいは 心筋虚血を有する患者に緊急あるいは早期CABG
を行う.(レベルB
)42,43)7.左主幹部の高度狭窄病変を有する患者に早期
CABG
を行う.(レベルA
)161),283),369),370)8.左主幹部相当の病変(左前下行枝と左回旋枝入口 部の高度狭窄)を有する患者に早期
CABG
を行う.(レベル
A
)23),161),239),371)9.左前下行枝近位部の高度狭窄を有する患者に早期
CABG
を行う.(レベルA
)46),371)クラスⅡ
a
1.左主幹部,左前下行枝入口部以外の高度狭窄病変 を有し,心筋虚血範囲の大きな患者に早期
PCI
を行 う.(レベルC
)2. 重 篤 な 心 不 全 を 有 す る
CABG
適 応 患 者 に 早 期CABG
を行う.(レベルB
)47)クラスⅡ
b
1.出血性素因や出血性合併症のため,ステント留置 後の抗血小板薬使用に制限のある患者に
PCI
を行 う.(レベルC
)2.左主幹部(入口部,体部,分岐部で回旋枝入口部 病変のないもの)あるいは左前下行枝入口部の高度 狭窄病変で形態的に
PCI
に適した冠動脈病変で,か つ胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が可能 と思われる患者に早期あるいは緊急PCI
を行う.(レ ベルC
)3.高度腎機能低下の患者に早期
PCI
を選択する.(レ ベルC
)4.左前下行枝近位部に高度狭窄を有しない1枝また は2枝病変の患者に緊急あるいは早期
CABG
を行 う.(レベルC
)5.
PCI
不成功例で心筋虚血範囲が小さい患者に緊急 あるいは早期CABG
行う.(レベルC
)クラスⅢ
1.肝不全,呼吸不全,悪性疾患など重度の病的状態で,
血行再建のメリットよりもリスクが上回ると考えら れる患者に緊急あるいは早期
PCI
を行う.(レベルC
)2.同意しない患者に緊急あるいは早期血行再建術を 選択する.(レベル
C
)3.薬物治療で予後が良いと考えられる患者に緊急あ るいは早期
CABG
を行う.(レベルC
)非
ST
上昇型急性冠症候群患者に対する冠血行再建術(
PCI
,CABG
)施行時期の定義については研究によっ て幅があるが,発症数時間以内の血行再建術を緊急,入 院後数日以内に施行する血行再建を早期と定義する.緊 急および早期冠動脈血行再建術施行を前提とした治療方 針を,急性冠症候群に対する早期侵襲的治療と定義する.したがって,薬物治療により既に胸痛発作や血行動態な どが安定化した患者に対して行う冠血行再建術も早期侵 襲的治療に含める.
冠動脈血行再建術選択において,まず評価すべき点は 緊急冠動脈血行再建術を必要とするかどうかである.緊 急冠動脈血行再建術を必要とする患者としては,血行動 態の破綻(虚血に起因すると思われる低血圧や心不全)
した患者および薬物治療にもかかわらず胸痛が持続する 患者が挙げられる.血行動態の破綻した患者においては,
虚血の責任病変に対する緊急
PCI
施行が基本である.ま た薬物治療にもかかわらず胸痛が持続する患者において も,虚血の責任病変に対する緊急PCI
施行が基本である.PCI
困難な責任病変が左主幹部あるいは左前下行枝近位 部の場合には緊急CABG
も考慮する必要がある.この ような場合には虚血の改善を目的としたIABP
の使用も 考慮する必要がある.胸痛発作が頻発する患者や心筋虚血範囲の大きな患者 に対しては早期冠血行再建術
(PCI
,CABG)
の適応を検 討する.非ST
上昇型急性冠症候群患者に対する早期血 行再建術としてのPCI
,CABG
が生命予後を改善し,心 筋梗塞を予防することが報告されている.また早期CABG
・不安定狭心症に対するCABG
の成績は待機CABG
とほぼ同等である.したがって早期冠血行再建に おけるPCI
,CABG
の選択は基本的には安定冠動脈疾患 に準ずる.CABG
の適応が考えられる場合には早期CABG
が行える体制が整っているが可能か否かも含め てハートチームで討議する.したがって早期CABG
を 行う施設は迅速な対応および,待機手術と同程度の安全 性を保つ体制を整えておくことが重要である.実際には非
ST
上昇型急性冠症候群患者の多くは虚血 や血行動態が薬物治療によって安定化できると考えられ る患者であり,これらの患者に対するPCI
,CABG
の選 択は安定冠動脈疾患と同じである.PCI
とCABG
の選択 に関しては日本循環器学会「安定冠動脈疾患における待 機的PCI
のガイドライン」ならびに「虚血性心疾患に対 するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」を参照していただきたいが,重症冠動脈疾患(左主幹部 病変,左前下行枝近位部病変を含む多枝病変,特に,低 心機能,糖尿病を合併した多枝病変など)ではハートチ ームにおける議論が必要である.
緊急あるいは早期
PCI
を施行する際,虚血の責任病変 が明らかでない場合や複数の病変が虚血の責任病変とな っている可能性のある場合には,複数の病変に対してPCI
施行を必要とするケースもあるが,多くの場合には 単一の責任病変を同定することが可能であり,緊急ある いは早期PCI
の標的は原則として単一の責任病変のみと すべきである.急性冠症候群の急性期に虚血の責任病変 に対しPCI
を施行し,慢性期に残存狭窄に対して冠動脈 血行再建を考慮する場合も多い.この場合に重要なこと は,残存病変の虚血評価をしっかりと行って冠動脈血行 再建の適応を決定することである45).慢性期に左主幹部 や左前下行枝に狭窄を認める場合のPCI
とCABG
の選 択は安定冠動脈疾患と同様と考えられる.このような症 例に対して急性期血行再建後残存病変に対する再血行再 建を行う判断は,内科医,心臓外科医を加えたハートチ ームによる判断が重要である.②待機的冠動脈血行再建術(PCI,CABG)
薬物治療によって病態が安定してからの待機的冠動脈 血行再建術(
PCI
,CABG
)の適応については,安定冠 動脈疾患と同様である(日本循環器学会「安定冠動脈疾 患における待機的PCI
のガイドライン」ならびに「虚血 性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガ イドライン」を参照).2 血栓溶解療法
クラスⅢ
1.血行再建を目的として血栓溶解薬を投与する.(レ ベル
A
)
ST
上昇を伴わない急性冠症候群に対して血栓溶解薬 が有効とする報告もある372)が,多施設共同研究の結果 からはその有用性は否定的である.t-PA
による血栓溶解 療法はUNASEM
294),TIMI
ⅢB
試験266)のいずれにおいても予後の改善には結びつかず,出血性合併症や心筋梗 塞発症が多いという結果であった.
ST
上昇型の急性心 筋梗塞を除けば,急性冠症候群に対する初期治療として 血栓溶解療法を単独で施行する治療戦略は推奨されな い.血行再建を目指す場合にはPCI
あるいは冠動脈バイ パス術を考慮することが妥当である.なお,PCI
に血栓 溶解薬を併用することについては「4 冠動脈バイパス術(
CABG
)」を参照されたい.3 冠動脈インターベンション治療(PCI)
①緊急および早期冠動脈インターベンション 非
ST
上昇型急性冠症候群患者に対する冠血行再建術(
PCI
,CABG
)施行時期の定義については研究によっ て幅があるが,発症数時間以内の血行再建術を緊急,入 院後数日以内に施行する血行再建を早期と定義する.緊 急および早期冠動脈血行再建術施行を前提とした治療方 針を,急性冠症候群に対する早期侵襲的治療と定義する.したがって,薬物治療により既に胸痛発作や血行動態な どが安定化した患者に対して行う冠血行再建術も早期侵 襲的治療に含める.
急性冠症候群に対する
PCI
は,心筋虚血を改善,心収 縮力を温存,心筋梗塞への移行を防止するための根本的 な治療戦略である.急性冠症候群において致死的不整脈 に対する最良の防止策としても,血行再建は有意義であ る.十分な薬物療法下で安静時狭心症の再燃した患者,低レベル負荷で狭心症を生ずる患者,心不全の徴候があ る狭心症患者,非侵襲的な検査で高リスクと判断された 患者,低左心機能例,血行動態不安定例,持続する心室 頻拍を有する患者,6か月以内の
PCI
施行例,冠動脈バ イパス術の既往のある患者では緊急冠動脈造影を考慮す べきである237),373),374).近年では,心筋特異性が高く,感度が鋭敏な心筋壊死の指標であるトロポニン