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5.7 蛍光観察法

5.7.2  落射型蛍光顕微鏡

オランダのプローエム(J. S. Ploem, 1927-)は、短 波長を反射し長波長を透過するダイクロイックミラー

(dichroic mirror)を組み込んだ落射蛍光照明法を 1967 年に発表し 27)、間もなくライツ社は 4 種の励起ユニッ トを回転により簡単に切り換えできる落射蛍光装置を PLOEMOPAK の商品名で発売した。この落射型蛍光 照明方式は、透過型に比べ多くの利点をもっていた。

1)対物レンズがコンデンサを兼ね、励起照明の NA と照明範囲が対物レンズの NA と観察範囲に一致 するため、明るく高解像の蛍光像が得られ、また退 色(励起光により蛍光の強度が徐々に落ちる現象)

も限定的となる。

2)透過型では、グリセリンのような粘度の高い浸液 を暗視野コンデンサ側にも使うため、使い勝手は良 くなかったが、落射型では対物レンズ側のみのため かなり改善される。

一方で落射型の場合、対物レンズに直接励起光が照 射されるので、対物レンズ自体の自家蛍光を小さくし ないと、蛍光像の背景が明るくなりコントラストを落 とす。このため無蛍光ガラス材料による対物レンズが 必須となる。

また蛍光の明るさを高めるためには色収差の少ない 高 NA 対物レンズが望まれる。こうした課題を乗り 越えて各社で開発された落射蛍光顕微鏡は、その後の 蛍光顕微鏡の主流となり現在に至っている。

次に図 5.31 に基づき、落射蛍光顕微鏡の構成を説 明する。落射照明装置は、鏡基と鏡筒の間に配置され る。光源から出た光は、励起波長を選択する励起フィ ルタ Exciting filter を通り、ダイクロイックミラーで 反射され対物レンズにより標本を照射(励起)する。

励起された標本から発した蛍光は、対物レンズを通り ダイクロイックミラーを透過する。この時点で励起光 の大部分はカットされるが、このあとさらに吸収フィ ルタ Barrier filter を通ることによって、蛍光のみが

図 5.31 落射蛍光顕微鏡の構成図1)

結像光線となり、観察・記録される。励起光の波長 は、標本や蛍光色素によって選択する。光源は主に超 高圧水銀灯が使われてきたが、光学系の改良や撮像素 子感度の向上により、幅広い波長帯域をもつキセノン ランプも使われることが多くなっている。両者の分光 特性を図 5.32 に示す。主な励起法の種類としては、U

(365nm)、V(405nm)、BV(436nm)、B(490nm)、

G(546nm)などがある(カッコ内は主励起波長)。

図で点線で囲んだ励起フィルタ、ダイクロイックミ ラー、吸収フィルタの組合せはキューブ(図 5.33)と してユニットになっており、各種励起法に対応して 組み合わせと切り替えが容易にできるようになって いる。図 5.34 に U、V、B、G 各励起の励起フィルタ

(EX)、ダイクロイックミラー(DM)、吸収フィルタ

図 5.32 超高圧水銀灯とキセノンランプの分光特性4)

図 5.33 蛍光キューブ群4) 図 5.34 各励起法の分光特性1)

(BA)の特性を、図 5.35 に U、B、G 各励起による蛍 光像の写真を示す。最近は干渉フィルタ技術の発達に より、それぞれの複数の波長を反射・透過させる特性 をもったものが製造できるようになり、異なる蛍光色 素に対する二重励起や三重励起と蛍光の同時観察が可 能になっている(図 5.36)。

図 5.35 蛍光顕微鏡各励起法による写真1)

a)U 励起 b)B 励起 c)G 励起

図 5.36 a) U、B、G 励起の 3 バンド励起フィルタ(青)、

ダイクロイックミラー(緑)、吸収フィルタ

(赤)の分光特性4)

b) U(DAPI 染色:細胞核)、B(FITC 染色:微 小管)、G(TRITC 染色:アクチンフィラメ ント)の三重励起蛍光写真1)

a)

b)

c)

a)

b)

国産の落射蛍光装置は、1973 年にオリンパスより バノックス(AH)の付属ユニットとして発売された のが最初である(図 5.37)。対物レンズは比較的自家 蛍光の少ない種類が選別された。また油浸液は、独自 開発のシリコーンオイル(グリセリンに比べ粘度が低 く使いやすい)を採用した専用の 100 倍対物レンズも 開発された。1976 年には、日本光学より落射蛍光専 用鏡基フルオフォト(Fluophot:図 5.38)も蛍光専 用の CF UV-F 対物レンズ(図 7.22d))と共に発売さ れた。こうして、リサーチ分野を中心に蛍光顕微鏡の ウェイトが高まると、落射蛍光装置を内蔵した生物顕 微鏡がラインアップされるようになってきた。図 5.39 は、オリンパスが 2010 年に発売した BX63 である。

図 5.37 オリンパス 落射蛍光装置 AH-RFL 4)

図 5.38 ニコン フルオフォト17)

図 5.39 オリンパス BX63 4)

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