「みやじま丸」を建造した
造船所に聞く 中谷造船株式会社
地元の業界紙に「広島の小さな造船所が、
3度のシップ・オブザ・イヤー※を受賞し ています。確かな技術と人間優先のテクノ ロジーが裏付けされた結果です」と紹介さ れた中谷造船㈱を訪ねた。3隻の内の1隻 は勿論「みやじま丸」。
中谷造船㈱の創業は明治9年と古く、現 会社組織として創立されたのは1960(昭和 40)年1月。本社工場は広島港の沖合にあ る江田島、戦前に大日本帝国海軍の将校を 養成した海軍兵学校があったことで知られ る島である。
同社の中谷敏義代表取締役会長は会社の 方針を次のように語る。
「当社が船を造るに当たっては、お客さ ん(船主)の要望を十分聞くことから始ま る。船主さんの目的とする事を十分に踏ま えて、当方の方からも種々の提案をさせて もらう」。続けて「船の高速化・自動化そ して省エネ対策はむろん、居住設備の改善 まで含めた人間最優先の船を作っていきた い。今日では中軸の設計部門には、いち早 くCAD(コンピュータによる設計支援シ ステム)を導入し、経験豊かなスタッフが 開発提案型の設計に取り組んでいます」と いう。
近代化への一つのステップ
こうしたコンセプトから建造された第1 船が内航船の翔陽丸」(1997年1月就航、
497総トン 1,600載貨重量トン)だという。
同船は、一人で操船を可能としたブリッ ジのコクピット化や、自動衝突予防援助装 置、機関室 M0化、モジ ュ ー ル 化、食 堂 とサロン、居室を一体化したコミュニケー ション・フロアなど、数々の新機軸を採用 し、従来の内航船イメージを大きく転換し、
1997年のシップ・オブザ・イヤーの準賞を 受賞した。
※シップ・オブ・ザ・イヤー:毎年、日本で建造された話題の船 舶の中から、技術的・芸術的・社会的に優れた船を選考して日 本船舶海洋工学会が授賞する。
高速化と省エネ化を実現するための 困難で独自な挑戦
水の抵抗を最小限に抑える理想のフォー ムは、船のスピードを高めるための重要フ ァクターである。優れたフォームはまた、
積載能力のアップや燃料の効率化など、多 くのメリットをもたらす。船舶の高速化と 省エネ化は矛盾するファクターでともに実 現するには様々な困難を伴う。
中谷会長は、こうした課題に対して「当 社は長年、広島大学や西日本の性能開発コ ンサルタント企業(流体テクノ㈱や西日本 流体技研㈱)との水槽試験を実施し、小型 模型を使って抵抗値の極小化を図る開発に
左から同社相談役の小瀬邦治広島大学名誉教授(工学博士)、中 谷尚道代表取締役社長、中谷会長
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取り組んできた。この結果、エンジン出力 を約30%カットしても、カット前と同等の 性能を得ることができる画期的な船型の開 発に成功した。また、「船体振動を押さえ る船尾フィンの開発、波を起こさない船型 の研究なども実施している」と披歴してく れた。
居住環境の改善も重要なテーマ
船舶は職場であるとともに乗組員が共同 で長時間、生活する場でもある。従って内 航船の後継者対策の一環としてだけでなく、
今日では住みやすく快適な居住環境を提供 することも重要視されてきている。
大量輸送という使命を前に、従来は機能 一点張りで、居住空間は快適といえるもの ではなかった。しかし、当社では「早くか らこの点に着目し、速度などの性能アップ 以上に力を注いできた」という。
「乗って働く人が快適で気持ちいい、楽 しいと思える環境を創造する。それが本当 の人間が主役の船だと考えます。また、若 者にとって魅力のある環境を整えることは、
労働力の確保といった将来的観点からも欠 かせません」と乗組員にとってうれしいコ メントが返ってきた。
電気推進システムや
「みやじま丸」 について聞いてみた
= わが国では電気推進船はあまり普及 していませんが、なぜ取り組んでこられま したか。
小瀬 電気推進にすると、モーターを自在 に制御できるために操船性は良くなります から、従来は、調査船などのような特殊船 に使われてきました。しかし、一旦、エネ ルギーを電気量に変換するために、15%か ら18%程度のロスが生じますから、日本で は普通の商船には余り使われてきませんで した。しかし、欧州では相当に多数の商船 に電気推進が使われており、何故だろうか と考えて広島の研究者が勉強を始めました。
電気推進にすると、推進器の直前に大き な主機を配置する必要がなくなりますから、
船尾船型が自由に設計でき、船体抵抗を相 当に少なくすることができ、ロス分を超え て省エネにする可能性があります。欧米で は、このような観点での電気推進も行われ ていることに気づき、それが「千祥」の開 発のアイデアになりました。
= もう少し具体的にお話しください。
小瀬 次世代エコシップの先駆けとして中 谷が独自に提案した電気推進船の「千祥」
はバトックフロータイプと呼ばれる低抵抗 の船尾に効率の良い電気駆動の2軸のポッ ド推進器を取り付けましたから、エネル ギー変換のロスを考慮しても省エネになる との考えを実証したものです。ケミカルタ ンカーですから、荷役時にポンプに相当の 電力が要りますから、航行中の推進用の電 力を共用で使うこともできます。さらに電
広島県・江田島にある 中谷造船のフローティングドック
気にしますと、色々な利点があります。
まず、本当に振動や騒音が少なくて、居 住性が良いです。また、電気推進はトルク 変動に強いですから、荒天中の航行性能か 良くて、定時運航性が優れています。中谷 造船は「千祥」の経験を通じて、電気推進 の良いところが商船でも生きることに自信 を持ちました。
その後、国交省海事局、鉄道建設・運輸 施設機構の事業として内航船の電気推進化 が進められ、今では電気推進船は変換ロス ではなくて、総合的な省エネ船として評価 いただけるようになり、また、普通に発電 システムを3系統ぐらい装備しているため の安全性などから、機関員の削減も認めら れるようになって来ましたのは、とても有 難く、感慨の深いことと理解しています。
欧米の先進例に果敢にチャレンジ
= 失礼ですが当社の規模で、欧米の先 進例にチャレンジするのは、かなりの冒険 の様な気がしますが。
会長 今までは電気推進船は、振動の低減 を必要とする調査船や高級クルーズ客船、
また砕氷時の負荷変動が大きい砕氷船など、
限られた用途の船に搭載されてきました。
欧米では1990年代に入って電気推進シス テムに技術的改善が進み、次世代のエコシ ップの要として注目されるようになりまし た。
当社の経営理念として、地球環境にも配 慮し、使う人(船社や乗組員)が乗ってみ たい船、技術や文化の発展にもつながる船 を作っていきたいとする考えがあります。
こうした思いから『思わず乗ってみたく なる船』、『人をわくわくさせる船』、『夢と ロマンがある船』を建造のコンセプトとし て、賛同してくれた大手電気メーカー、民 間の流体研究所、JRTT、広島大学の研究 者たちの協力で電気推進船の開発を進めて きました。つまり、日本には色々な技術開 発の資源が整っていますから、時代の要請 に沿った提案をして、努力すれば、小さな 当社でも思いがけないような技術革新の推 進役になりうると感じています。
確かに今、内航海運業界は冬の時代が続 き、この状況を反映して内航造船業は厳し い時代が続いています。内航船のリプレー スも少ない中で同業者も半減しています。
しかし、いずれは、内航船の代替建造の時 代が来ますから、その時に内航海運業界が 国際競争力を持てるような小型船を提供で
広々としたデッキから厳島神社を見る乗船客 入港直前に、厳島神社に最接近して乗船客を楽しませる。
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きるように、日本の技術資源を結集して開 発を進めるのが私達の仕事と考えています。
船主の意欲と
要望を聞くことから建造開始
= 「みやじま丸」の設計・建造プロセ スにもそうした意向が反映されているので すか。
会長 船社さんから新造船の建造目的、就 航航路、船型その他を伺い、そうした意向 を尊重しながら、必要な技術開発を進めて います。その開発に際しては広島大学や船 型開発のコンサル会社などで構成された広 島電気推進船研究会が中心的な役割を果た してくださいました。つまり、当社は当社 の知恵の水準ではなくて、日本の蓄積した 技術を活かすという立場で、皆さんの積極 的な貢献を頂くように仕事を進めています。
みやじま丸の設計は正にそのような開発の 過程で、県の補助も得ながら、広島電気推 進船研究会が牡蠣筏をひき波で損なわず、
抵抗も小さい双胴船型の開発を行って下さ いました。当社はそうした地域の知恵を活 かしながら競争力のある、先進的な仕事を したいと考えています。
省エネ船の建造は
内航船主の企業体力の確立が急務
= 最後に内航の船主さんや乗組員に話 したいことがあれば
会長 私たち、造船に携わるものも今の厳 しい現実の下で生き残る必要があります。
そのためには日本の内航海運が競争力を持 ち、発展することが必要と考えます。しか し、現実には殆どが減価償却済みの老朽船 になりつつあり、内航海運が船腹を更新で きる活性を維持することが必要です。中谷 造船は電気推進技術も活用して、環境に優 しく、燃費効率が良く、省力運航も可能な 船を提供する努力を続け、荷主、海運、操 船者とともに一致して競争力ある海運造り に貢献したいと考えています。
(80ページより続く)
※ 前号に引き続き、東日本大震災と巨大津波関 連の取材で宮城県石巻市と南三陸地方に行ってきた
◆震災と津波の後の甚大な破壊の現実を見ると、誰 しもが言葉を失う。月並みな言葉では表現しようが なく、どんな言葉を使っても事実を伝えることが困 難で、ありきたりの文章表現では現実から遠ざかり 陳腐になる、そんな光景が延々と続いていた◆ボキ ャブラリーと表現力の乏しさから取材ルポでは、同 じ単語を繰り返し使うはめとなった。とりわけ多用 したのは「破壊」◆被災地にいち早く入って精力的 な報道活動をしているフリーカメラマンの森住卓氏 は「(被災地は)世界の戦場で砲弾が飛び交う中を
つわもの
歩いてきた強者にさえ、その破壊のすさまじさに立 ちすくみ息をのんだと、一様に思わせる光景だっ た」(写真集「3.11メルトダウン」より)と表現し
ている◆すさまじい破壊力で想起するのは66年前の 8月6日と9日、広島と長崎に原子爆弾が投下され 炸裂した後の街の光景◆地表面の温度約4,000度で、
すべてを焼きつくし、吹き飛ばし、人々が先ほどま で生活し生きていた一つの街を、地上から殲滅し、
復興は不可能と思わせた、あの写真でしか見たこと のない光景◆今回の震災と津波に襲われた、いくつ かの沿岸地域を完全に消滅させた破壊力は、核兵器 に匹敵するくらいだったのでないか。(ふじ)
訂正:2011年5月25日付発行の549号で、表紙 3のカラーグラビア「漂着ごみを宝の山に」の 写真解説中、発泡スチロールの記載がすべて発 砲スチロールと表示されていました。お詫びし て訂正いたします。