海 と 安 全 二〇一一︵平成二三︶年 秋 日 本 海 難 防 止 協 会 海と安全550表1-4.indd 1 2011/08/12 15:20:00
省エネに取り組む国内就航船の現状と展望
地球環境保護、省エネ対策は現在社会のキーワードとなり、船舶からの大気汚染防 止のための対策・措置は喫緊の課題となっている。IMOの第61回海洋環境保護委員会 (MEPC61・昨年9月~ 10月開催)でも、排出制限の指針案を作成している。またCO2 などの温室効果ガス排出量の削減を柱とした省エネ法が2006(平成18)年4月より改正 され、2万総トン以上を運航する船舶輸送業者(オペレーター)に対しては、省エネ計画 の作成とともに、エネルギー使用量の報告が義務付けられた。同法では省エネルギーへの 取り組みが著しく遅れている場合には勧告、命令などの罰則が課せられることとなる。 一方、原発依存の見直しや中近東諸国の政情不安から、原油価格の高騰が避けられない 状況もあり、省エネ対策は海運会社にとって避けて通れない経営戦略の一部となってきて いる。とりわけ運航経費に占める燃料費の割合が相対的に高い、内航船や旅客船業界にとっ ては重要な課題となっている。 そこで、国内就航船各社が身近に取り組める船舶の省エネ対策の現状、推移と到達点、 さらには今後の動向、省エネ技術の進展などを紹介することとする 上段左から右に、東京港に停泊する内航船、かもめプロペラ㈱に展示されている「水槽試験用モデルプロペラ」、宇部港に停泊中の内航ケミ カル船。中段左から右に、次世代型省エネ船の水槽試験図(山中造船提供)。国内初の電気推進旅客船「みやじま丸」、山中造船で建造中のエラ 型内航船の船首部。下段左から右に、佐多岬付近を行き交う内航船、宇部興産海運㈱の新造船「興山丸」の航海機器、潮岬沖を航行する船舶【特集】省エネに取り組む国内就航船の現状と展望
特集以外の記事
東日本大震災・被災地ルポ
宮城県南三陸の漁業関係者を襲った3.11────●
57苫小牧港を利用する船舶は注意を!
胆振東部日高海域漁業操業安全基金協会────●
70 海保だより/電子海図が見やすくなります/海上保安庁────●
72 海外情報/マ・シ海峡における「航行援助施設基金」に 関する動き(その6)/シンガポール事務所────●
74 海守便り/備えよ常に/海守事務局────●
75 海難速報値/主な海難/海上保安庁────●
76 日本海難防止協会のうごき────●
77 編集レーダー────●
78内航船の省エネ対策と今後の展望
広島商船高等専門学校 名誉教授 馬場 弘明────❷
乗船取材 最先端機器で高度化された内航の省エネ船
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機関士協会の取り組む内航船の省エネ診断
一般社団法人 日本船舶機関士協会理事・上席研究員(工学博士) 廣瀬 典樹─●
17わが社の取り組む内航船の省エネ対策
上野トランステック㈱ 工務担当 参事 戸松 憲治────●
22当社で取り組む省エネ対策の先進例
東海運㈱ 海運事業部技術部副部長 飯田 光利────●
26大型高速フェリーの省エネ対策と問題点
新日本海フェリー㈱ 取締役海務部長 高岡 淳────●
30内航船における次世代型省エネ船建造の実績
山中造船㈱ 代表取締役会長 浅海 宣博────●
34省エネ対策における推進器の役割と技術革新
かもめプロペラ㈱ 理事・技術部長 深澤 正樹────●
41船底塗料による船舶の省エネへの取り組み
神戸大学大学院海事科学研究科准教授(海事科学博士)深江丸船長 矢野 吉治─●
46静かで旅客にも環境にも優しい国内初の電気推進旅客船
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50 2011秋
No.550目 次
1.はじめに
内航海運は国内貨物輸送の約4割を占め、 特に鉄鋼、石油、セメントなどの産業基幹 物資については8割の輸送を担う我が国の 重要な物流産業である。運賃・傭船料は長 引く不況や高速道路料金の引き下げの影響 によりいまだ厳しい状況にある。 その他船員不足、老朽船の増大、燃料費の 高騰など内航海運業界が抱える問題は多い。 中国やインドなど発展途上国における人 口の増加や、経済活動の活発化による世界 的なエネルギー資源の需要の増大やエネル ギー資源の有限性を考えると燃料費の高騰 は今後避けて通れない問題であると思われ る。加えて舶用機関への厳しい排ガス規制 は目前に迫っており、環境税の導入などの 検討も進んでいる。 本稿においては、これらの内航海運業界 を取り巻く背景のもとで現在内航海運業界 が取り組んでいる省エネ対策と今後の展望 について考察した。2.排ガス規制および改正省エネ法
MARPOL73/78議定書付属書Ⅵ(大気 汚染防止規制)に関する審議の結果、ECA (指定海域といい IMO によって指定され る)において2016年から NOx 規制値が現 行の規制値より80%減となる。SOx の原 因である重油中の硫黄成分の含有量も2015 年から0.1%以下に引き下げられる。 日本における ECA(指定海域)は現在 検討されているが、内航船が寄港すること が多い東京湾・伊勢湾・瀬戸内海などの海 域において厳しい排御ガス規制が実施され ることが予想される。NOx 対策としては SCR(尿素を使った窒素酸化物の浄化技術)、 EGR(排ガス再循環)などの大型の追加 設備が必要となり設置費用や機関室スペー スの確保などの課題が発生する。 SOx 対策としては硫黄成分の少ない高 価な燃料を使用する必要がある。この燃料 は粘度が低いため冷却装置を設けなければ ならない。また排ガス処理装置を用いるこ ともできるが装置が大型であるためスペー スの確保が必要となる。 CO2などの温室効果ガス排出量の削減を 柱とした改正省エネ法が平成18年4月より 施工され、省エネ計画の作成、エネルギー 使用量の報告が船舶輸送業者(オペレー ター)に義務付けられた。省エネルギーへ の取り組みが著しく遅れている場合には勧 告、命令などの罰則が課せられることにな る。3.取り組むべき省エネ対策
エンジンで燃料を燃焼させて発生させた エネルギーのうち、約50%は大気や海水に 放出されている。風や波などによる船体抵 抗によるエネルギー損失もあるので、船舶内航船の省エネ対策と今後の展望
広島商船高等専門学校 名誉教授馬場 弘明
の推進に使われるのは発生エネルギー全体 の30%以下となる。 省エネ対策とは投入する化石燃料を少な くし、かつエネルギー損失を減らすための 対策を実施することである。 船舶の省エネ対策を大きく分類すると以 下のようになる !1 推進エネルギー損失の削減 (船体抵抗の低減、船体重量の軽減、電気 推進船、高効率機器や装置の使用) !2 エネルギー転換 (燃料電池、LNG や水素などの代替え燃 料、プラグインなどの陸上電力の使用) !3 再生可能エネルギーの利用 (太陽光発電、風力/帆) !4 効率的運行 (減速航海、荷役時間の短縮、ウエザールー ティング、復路の荷物の確保、喫水・トリ ムの最適化)
4.内航船における省エネ対策
の現状
4‐1 船体抵抗の低減
4‐1‐1 船型改善 背が高くて風圧を受けやすい自動車専用 船においては船首部分を斜めにカットして ラウンド形状にし、船舶の側面に風の通り 道を確保することで正面や側面から受ける 風の抵抗を減らした船形が開発された。 造波抵抗を減らすために、船首が斧の形 を し た「Ax―Bow」や 鋭 角 な 形 を し た 「LEADGE―Bow」など船首の改造も行わ れている。 電気推進船においては船尾付近をスリム 化しさらにバトックフロー型の船尾にする ことにより大幅に推進効率を向上させるこ とができた。 写真1は船首を球状にすることによって 風圧抵抗を50%削減(風洞実験)し、年間 の燃料消費量を800トン削減することに成 功した自動車専用船である。 4‐1‐2 空気潤滑法 船底を空気泡で覆い摩擦抵抗を減少させ る事のできる空気潤滑法は、低速で船底が 広く平らで喫水が浅いセメント船やモジ ュール船に適しており10%程度の省エネ効 果が確認されている。 4‐1‐3 省エネ負荷物 抵抗成分の中で最も大きいのは水の粘性 抵抗であり、船尾へ行くにつれて蓄積され て大きくなる。 この水の粘性抵抗によって失われたエネ ルギーを回収するために設けられた装置を 省エネ負荷物と呼び、プロペラ前方搭載型、 プロペラ後方搭載型、新型プロペラに分類 され約4%の省エネ効果がある。 現在多くの省エネ負荷物が実用化されて いるが、原理をよく理解しそれぞれの効果 が相殺されないよう全体の最適化を図るこ とが重要である。 4‐1‐4 二重反転プロペラ 二重反転プロペラは二つのプロペラを同 写真1 球状船首による風圧抵抗削減 海と安全 2011・秋号 3軸上に配置し、それぞれを相互に逆転させ ることにより、前プロペラで発生した円周 方向へのエネルギーを後プロペラで回収し て推進方向のエネルギーに変えるものであ る。プロペラを小さくすることができるの で船尾形状がスリムになり、推進効率を大 幅に向上させることができる。 しかし構造が複雑であるので故障時の対 応やドックの長期化などの課題もある。
4‐2 電気推進船
従来船においては推進力を大型ディーゼ ル機関で作り船内電力は中小型ディーゼル 機関によって発生させていたが、電気推進 船においては同型の中・小型ディーゼル機 関による発電機を複数台装備し、推進 力・荷役設備をモーター駆動とした。 小型のディーゼル機関を自由に配置 できるので船尾形状をスリムにでき、 船体抵抗の少ない船型が可能で、操船 性が良いなど利点は大きい。しかし図 2に示すように、ディーゼル機関から プロペラの回転に至るまでの各機器に おいて発生する損失により、従来船に 比べると14%程度のエネルギーロスの 差が発生する。 現在では船型や二重反転プロペラの効果 により同型の在来船と比較し、15%以上の 省エネ効果があると報告されている。 しかし船価が高いことが課題であり、電 気推進船への補助金制度が今年の3月で終 ったことにより船主の建造意欲が低下する ことが心配される。4‐3 IT 技術による船舶運航の効
率化
安全運航が可能な範囲で航行速度を下げ たり、燃料やバラスト水などの積載量を少 なくして喫水やトリムを最適化し運航する ことによって得られる省エネルギー効果は 大きい。 IT 技術による支援システムを用い て減速などの指示を陸上より本船に与 え、沖待ち時間の短縮や荷役の効率化 を図るなどのオペレーションの改善が 実施されている。しかし急な気候変動、 荷主の要望、機関の長時間の低負荷運 転による乗組員の労務負荷の増加など の課題もある。 また同業他社同士の連携により、復 路の荷物を確保するための「相乗り」 図1 二重反転プロペラの省エネ原理 図2 電気推進船の伝達ロスを行い輸送効率の向上を図っている。
5.省エネ対策の今後の展望
今後長期的には燃料電池や水素へエネル ギー変換して行かなければならないが、両 者とも近い将来に内航船舶のエネルギー源 として使用されるための技術開発は進んで いない。とりあえずは資源も比較的豊富で クリーンなエネルギーである LNG を使用 できるガス焚きエンジンの開発を進めて行 かなければならないと思われる。5‐1 LNG へのエネルギーシフト
LNG は SOx の発生がないので、硫黄分 を含まない高価格の燃料を使うより経済的 メ リ ッ ト が あ る。現 在 ボ イ ル オ フ ガ ス (LNG タンカーのカーゴタンク内で気化 したガス)を使った DFE(Dual Fuel En-gine)を採用した LNG タンカーが運航さ れているが、他の船種にも使用できるガス 専焼エンジンの開発も進められている。 ガス専焼エンジンは高効率で低エミッシ ョンであり近距離運航船、頻繁に操船を要 する作業船、運航ルートが限定される内航 船などの中小型船への適用が期待されてい る。実用化に向けて動特性の改善、ノッキ ング裕度の確保、未燃 HC の低減、機動性 の改善などの技術的課題がある。5‐2 高効率蓄電池の舶用への適応
燃料電池は燃料の持つ化学的エネルギー を、燃焼プロセスを用いず直接電気エネル ギーに変換できるのでエネルギー変換効率 を高くできると同時に、排気エミッション がゼロなので次世代発電装置として最適で ある。しかし水素の取扱いや貯蔵など安全 設備などの対応策も必要であり、蓄電池の 船舶使用に関する開発が先行して進められ ている。 国の事業として開発された、写真2に示 す小型電動船外機船の電動化実証試験によ ると乗り心地も良く、スピードも十分で電 気代は燃料費の五分の一で済んだという報 告がある。また、ある造船所が中心となり 行政や他の造船所や電動機器メーカーなど と連携して、199トンの船に5,000KW の蓄 電池を積んで9.5ノットで10時間航海する ことができる内航船の建造について検討が 進められている。陸用や軍用として開発の 進んでいる高容量のリチウム電池は舶用と しては高価格であり、広い設置面積が必要 であり、充電のためのインフラの整備が必 要となるなどの課題がある。5‐3 ディーゼル機関の廃熱利用
ディーゼル機関の効率向上のために燃焼 温度を上げると、NOx の排出量が増える という関係があり、熱効率アップと NOx 規制のクリアとを両立させることは大変難 しい。ディーゼル機関の排気ガスや冷却水 の低温排熱を電気に変え蓄電し推進に使う など効率の良い総合システムを作ることが 今後の課題となる。 欧州では ABB やバルチラのようなエン 写真2 小型電動船外機船 海と安全 2011・秋号 5エアースペース エアースペース ジンメーカーが燃料電池や蓄電池メーカー を傘下に入れ、電気技術による未来の船を 作ろうとしている。
5‐4 連携による開発
ディーゼル機関駆動のプロペラとモー ター駆動のプロペラに二重反転効果を持た せるように配置した推進装置や、ディーゼ ル機関とポッドプロペラとの組み合わせな ど、これまでのシステムより経済的メリッ トの大きいものにする開発が国の支援によ りメーカー・船社・造船所が連携して進め られている。単独の技術ではなく、このよ うな連携による総合的な開発が今後さらに 必要となって行くものと思われる。5‐5 新たな発想
バラストタンクは航海の安全性を確保す るために必要な装置である。図3に示すの はバラストタンクを設けていない船舶の断 面図であり写真3は船底部分である(模型 船)。船底にエアースペース(空洞部分) を作り、船体が揺れるとエアースペースの 空気が圧縮されたり膨張したりすることに よって揺れのエネルギーを吸収し船体を安 定させるものである。 時化など揺れが大きい場合にはエアース ペースの空気を大気へ逃がして水面の位置 を上げれば、重心と水面までの距離が短く なり船体の揺れのモーメントを小さくする ことができる。 エアースペースへの空気の供給はブロ ワーで行い排出は空気抜き弁によって行う。 この方法によると船が進むことによって 発生する船底部分と海水との摩擦抵抗が軽 減され推進効率が上昇する。 また、船内にバラスト水を積まないので 負荷も小さくなり燃料消費量の減少が図れ る。さらに海洋水の移動がないので海洋汚 染の防止にも効果的である。 図3において点線で囲んだ部分を船体外 と判断できれば、その分カーゴスペースや 居住区の拡大が可能となり、運賃収入の増 加および船員の生活環境の改善に大きな効 果がある。 模型による実験での省エネ効果は実証済 みであるが実船における運転効果について はすでに2隻の船舶が稼働しており今後確 認することになる。 圧縮体である空気の物理的性質をうまく 利用してバラスト効果を持たせるという新 たな発想による省エネ方法である。 このシステムの開発を行った造船所では、 現在運航しているガット船への適用から、 コンテナ船への適用や使用している圧縮空 気を船底に送ることによる空気潤滑など発 想を広げていっている。 図3 ノンバラスト船の断面図 写真3 船底両側のエアースペース5‐6 乗組員の意識の高揚
荷役の行われていない夜間や休日などに 停泊用発電機に切り替えることは当然であ るが、航海・荷役と作業が連続する中でス ムーズな作業の実施を行うには乗組員の省 エネのモチベーションを上げる事が大切で ある。 燃料消費量などの省エネ効果を船内で 「見える化」したり、場合によっては形に して表彰することも省エネ意識の高揚を図 るのに効果的である。6.まとめ
省エネルギー対策は建造時・運航時・廃 船時(売船)と、船舶をライフサイクルで 考えて経済効果が得られるものでないと継 続していけない。 燃料油価格や環境汚染問題を考えると長 期的には船舶の電気推進化が進んでいくも のと思われるが、これまで述べてきたよう な課題も多く、現時点ではこれまでに開発 した船型や技術を従来型推進船に取り入れ ながら、各機器や装置の小型化や効率化と 同時に、コストダウンを進めていくことが 必要である。 そのためには外国の進んだ技術を取り入 れやすくし、国内においても限定された舶 用機器メーカーだけではなく、同業他社と の競争や連携を積極的に行って行く必要も ある。 行政と企業の連携で行われている研究開 発プロジェクトは、先端的な部分や基礎的 な部分に関するものだけではなく、最初か ら実用化することを考えたプロジェクトへ の人的・経済的資源の投入も必要であると 思われる。「ブリッジ・リソース・マネジメント」
Michael R.Adams 著/廣澤 明訳 船舶のヒューマン・エラーによる事故を防止するために有効な方策のひとつ「ブリッジ・ リソース・マネジメント(BRM)」の原則を解説した一冊。ブリッジ・リソース・マネジメ ントとは、ヒューマン・ファクターが原因となる事故を予測、回避しようとして用いられる 分析的な手法である。本書は、アメリカで発行されている「Shipboard Bridge Resource Management」を、海 技大学校で「BRM 訓練」を担当するエキスパートが翻訳したもの。タイタニック、エクソ ン・バルデス、えひめ丸とグリーンヴィルの事故など、過去のさまざまな事例をとり上げて いる。ヒューマン・ファクターの分析にはじまり、航海計画の立案、ストレスや疲労の及ぼ す影響、コミュニケーションの問題など、一読すれば、ブリッジ・リソース・マネジメント の概要が理解できる構成になっている。 安全運航の必読書として、学生が学ぶためのテキストとしてはもちろん、実務においても 有用。 A5判・216ページ・定価3,150円(5%税込) 発行:(株)成山堂書店 〒160―0012東京都新宿区南元町4―51(成山堂ビル) TEL:03―3357―5861/FAX:03―3357―5867 E―mail : publisher@seizando.co.jp 海と安全 2011・秋号 7
2011年2月25日発行(春号)の本誌の特集「船陸間情報通信の現状と将来」に「内航船で 取り組む船陸間情報通信の先進例」で紹介した、宇部興産海運㈱が運航する「興山丸」を再 度取材した。本船は、単に船陸間情報通信の先進的な設備を具備するだけでなく、既存のわ が国内航船の中では最も先端的に高度化された航海・機関関係の機器類が数多く搭載され、 省エネ対策についても従来にはない取り組みがされていることから改めて紹介することとし た。 宇部興産海運㈱は、化学製品・建設資材・機械・金属成形・医薬・エネルギー・環境の各 分野に関わる製品を開発販売している宇部興産㈱グループの海運部門を担っていて、自社船・ 管理船、定期傭船など数十隻の運航管理・保船管理ならびに船員管理を行っている。自社船・ 管理船は主にセメント・石灰石などの輸送を手がけ宇部市に本社を置く内航船社の中堅企業。 ブ リ ッ ジ
船橋は広くて開放的
本船は14.902総トン、載貨重量で21,500 ばら トンの撤積みセメント専用船。わが国に150 隻 あ る セ メ ン ト 専 用 船 の 平 均 ト ン 数 は 2,623総トン(2010年度)、従って本船は格 段に大きい部類に入る。 ブリッジ 船橋に昇橋した第一印象は「なんと広く 開放的か」。例外はあるが外・内航船とも 最近の船舶は、居住区とブリッジが船尾部 に位置するのが多く、かつ左右の幅は中央 に寄せられた形状が一般的。ブリッジの両 舷部は暴露甲板になっていて、雨天時は雨 にさらされることとなる。しかし本船は舷 側一杯までブリッジを伸ばし、雨天時や荒 天時にも「室内」で操船できる。また本船 のブリッジは両舷から後方にかけて大きな ガラス張りで全方位に視界が開かれている。 中央には航空機のコックピットに似た航 海機器がぎっしりと並び、ゆったりとした 操縦席まである。まるで映画で見るような 外航豪華客船のブリッジを彷彿させる。 オモテ ト モ 「船首・船尾オールラインレッコー、ヒー ビングアンカー!」(全係船索離せ、錨巻 け)。加藤佳宏船長の号令が響くとブリッ ジ内に緊張感がはしる。 西山俊介三航士が同じくマイクで「オモ テ・トモオールラインレッコー、ヒービン最先端機器で高度化された内航の省エネ船
宇部興産海運㈱が運航・配乗する新造船「興山丸」
乗船取材 ばら 撤積みセメント専用船 興山丸 全長:160.9m、幅:27.8m、計画満載喫水:8.9m 総トン数:14,902トン、載貨重量:21,500MTグアンカー!」と船首尾に伝え、間もなく それぞれの部署から復唱が返ってくる。 「スタボード、デッドスロー・アスター ン」(舵右転、機関後進微速)。再び加藤船 長の声。「スタボード・サー」とアンサー しながら舵輪を操作するのは、昨年9月に 大島商船高専を卒業し入社半年の辻田あや の次席三航士。本船はアンカーアップ(錨 回収)の後、バウラスターと本船自慢のポ ッド推進器により難なく、その場回頭して 船首を港外に向ける。 6月末の夕刻の東京湾は、梅雨時でもあ り視界は良くない。どこの港も夕刻は出港 船のラッシュ、本船は慎重に港外に出て東 京湾を反時計回りに南下、川崎・横浜そし て横須賀沖を通って浦賀水道に向ける。 船首尾の出港配置からブリッジに戻った 中村俊規一航士などの甲板部職部員は、船 長の補佐でそれぞれの任務に就くが、暫く して当直だけを残して降橋する。しかし、 わが国有数の船舶の輻輳海域が待ち受ける 東京湾、加藤船長は引き続きブリッジで操 船に当たる。
格段に優れた操船性
本船は、昨年9月に完工したばかりの、 タンデム型推進装置を有するスーパーエコ シップ(SES)。推進ユニットは普通の可 変ピッチプロペラ(前プロペラ)に加えて、 その後部にポッド推進器(後プロペラ)を 装備している(詳細は後述)。 前プロペラは左回転で推進力を得て、そ の流れを受けたポッド推進器は反対に右回 転させて推進力を増加させる。このポッド 推進器は360度自由に回転するので、舵に も強力なスターンスラスターにもなる。そ れだけに出港時の操船性は格段に良く、加 藤船長は「本船に慣れてしまったら、他の 船に乗れないかも」と笑う。 本船は、夕暮れに染まる観音崎灯台を右 に見て順調に南下し、太平洋に出た頃に主 機関は航海全速となった。 浦賀水道を出てから、本船の特徴をパソコン上のデータで説明し てくれる加藤佳宏船長本船には女性船員が2人
本船の食事は、他船の乗組員が羨むほど、 美味しいと事前に聞いていた。夕食に誘わ れ食堂に行くと、食事を作ってくれたコッ クさんは、1週間後に20歳になる鈴木知世 さん。 鈴木さんは船が好きで、中学校を卒業す る時点で商船高専の進学も考えた。しかし、 考えることがあり調理師資格を取るため調 出港配置のブリッジ。右から加藤船長、田中二航士、辻田次席三 航士、西山三航士 海と安全 2011・秋号 9理専門学校に進学。卒業してからも船に乗 りたく、当社になんとしてでも「入社した い」と頼んで採用された。 辻田次席三航士も昨年採用され、本船に 乗船してからは女性船員が2人となり「や はり女性が2人になったので話しやすいし、 心強い」と話してくれた。 宇部港に入港してから私服に着替えて上陸する、 鈴木さん(左)と辻田さん(右)
開発途上の最適航海支援システム
浦賀水道を通過してからは、現在、産学 共同で実証実験している本船特有の最適航 海支援システム(詳細は後述)を作動させ た。同システムは外航船で使用されている 「ウェザールーティング」と似ているが、 さらに精密にデータを入手し、わが国沿岸 海域で有効利用しようとしているシステム。 同システムは直近の風向・風速・波高・ 波向・波周期・潮流などの各種データを気 象庁、気象協会から入手しコンピューター で計算処理し、進路と変針点などを ECDIS (電子海図)に重畳させて示す。 本船のシステムは最適航路を示すだけで なく、変針点が近づくと自動的に変針し、 機関回転数、機関出力なども自動制御する。 そして、設定した時間ごとに(女性の)自 動 音 声 で、進 路・速 力・機 関 回 転 数・偏 位・変針点までの距離と時間など、航海に 必要な多くの情報をアナウンスして知らせ る。当直者はモニター画面上の確認ボタン を押すか、自分の声で「了解」と、いずれ かレスポンスする。こまめに現場で実施する省エネ対策
加藤船長は、コースラインに乗ったこと を確認して、入港予定時刻から計算し現在 の速力では早く着きすぎると判断。ポッド 推進器を停止し、かつ主機回転数も若干下 げた。ポッド機関の停止と主機関の減速で、 機関室から聞こえる機関音が静かで心地良 いくらいに低下し、快適な夜航海となった。 省エネ対策をこまめに実施し、無駄な燃 料を使わない心掛けが見える。 本船の船体形状、特に船尾は流線型にな っていて(詳細は後述)、摩擦抵抗の軽減 設計になっている。また船底は一般の船で はフラットな形状となっているが、本船は ややV字型となっている。 そうした形状を利用して空船時、夏場で 凪の航海日にはトリム(船首尾喫水のバラ ンス)をバイザスターン(船首喫水より船 尾喫水を深く)にして、船首船底部を少し 海面に出して、摩擦抵抗の減少の可能性を チェックする計画もあるそうだ。 電子海図上に示されている最適航路操船は音声識別自動指令システムで
本船は航海中、当直者が必要とする変針 動作や機関の増速・停止措置などは、音声 識別自動指令システムが稼働し、在来船と 違って、舵輪の操作や機関の発停動作は必 要ない。まさに未来志向の装置が装備され ている。 広い操舵室の中央に設置された、飛行機のコックピットのような 航海機器と自動化された装置翌日は快適な航海日和
朝6時、昇橋すると4∼8当直の中村一 航士と辻田次席三航士が航海当直に就いて いた。中村一航士は若い後輩を優しく厳し く育てるべく、辻田次席三航士はいち早く 仕事を覚えようと、親子ほどの年齢差にも 関わらず、互いを気遣い情報を共有し当直 に就く。 朝8時からは、司厨長と夜間当直者を除 いた運航要員全員で、作業前の打ち合わせ と安全ミーティングに余念がない。甲板部 の本日の作業内容と注意事項を説明し、確 認。続いて機関部も同趣旨の話し合いが行 われる。内容はホワイトボードに記し、ノー トにも記録して後日の参考とする。0∼4当直は潮岬の沖合
0∼4当直は田中二航士と岡村甲板手。 和歌山県南端の潮岬の沖合に差し掛かり、 変針点が近づいてきたせいか、行き交う船 が増えてきた。大阪湾方面に向かう船は北 西へ進路を変える。また、そのまま太平洋 を西航する船は真西に進路を向ける。沖合 2∼5マイルのゾーンは様々な船が行き交 4∼8当直中の中村一航士と辻田次席三航士 朝の作業前ミーティング。ホワイトボードを使って、中央で機関 関係の本日の作業内容と安全にかかわる対策を説明する迫田信幸 二機士 左から岡村甲板手と田中二航士 海と安全 2011・秋号 11う。 田中二航士はまだ満25歳。若手のバリバ リだが本船では古手の部類に入るとこと。 本船の乗組員は加藤船長を除いて押しなべ て若い。皆、コンピューターの操作に習熟 し、テレビゲームを扱う感覚で電子化され た航海機器を操作する。 相ワッチの岡村甲板手は乗船して17年の ベテラン甲板手。2人は交互にレーダー、 ECDIS(船舶用電子海図表示システム) で位置を確認しながら前方を注視。前方は 太陽の高度が低い西日で、おまけにモヤッ ていて視界があまり良くない。 時々、船長が昇橋してきて位置と速力、 前方を確認して再び自室(?)に戻る。 静かで単調に見える当直が続くが、それ ぞれに航海の安全と船舶の運航状況の把握 に余念がない。
機関室にも案内してもらう
本船の機関部定員は3人の職員。以前に は外航船に乗ったこともある峠本謙二機関 長、そして沖中雄介一機士と迫田信幸二機 士。3人とも若くてイケメン揃い。 どの船もそうだが機関部定員は甲板部よ り少なく、担当機器類は違っても作業内容 は近似している。おまけに航海中のMO船 は、同一作業を朝から夕方まで同一時間帯 に行うことで「団結が強く」、従って夜の 食事時の一杯会も盛り上がる。他愛もない カタフリ(船員用語で冗談をいって話し合 うこと)の中から、海技の伝承が図られる。再び、
ポッド推進と主機関をアップ
夜間航海の途次、加藤船長は海・気象上 の刻々の変化に対応して、再びポッド機関 を回し、主機関も通常モードに戻した。 主機回転数の増減あるいは出力アップは、 和歌山県南端、潮岬の沖合を行く大型カーフェリー(上)と内航 船(下) 機関室で機器のチェックに余念のない峠本機関長ブリッジ当直者でも可能であるが、峠本機 関長は気になるのか責任感からなのか、や はりその都度、昇橋して機関コンソールの 席に着く。 当社の場合、セメント専用船は販売店の サイロの受け入れ体制に合わせて、揚げ地 に月曜日に入港・揚げ荷役、二港揚げの場 合もそれに準ずる。従って、セメントの需 要が逼迫し、スケジュールがタイトな場合 を除いて、積地での積荷と入港スケジュー ルは、極力省エネ対策を意識しながら、時 には減速航海をしながら走る。 四国西端と九州に挟まれた佐多岬を過ぎ 数時間で、ぼんやりと目的地の宇部港が見 えてきた。 港に接近すると僚船の新栄丸が錨泊して いる。所定の錨泊ポジションに達すると轟 音とともに「レッコーアンカー」。 着桟・積荷開始は2日 後、そ の 間 は 船 体・機関の手入れなど停泊中にすべきこと が待っている。 夕刻となり、雨が強くなってきた。ホー ムポートの宇部港は霞んで遠景に浮かぶ。 今年の梅雨明けはもうすぐだ。
興山丸の開発責任者として
10年以上前から構想していた
常務取締役海運本部長 今澄 敏夫さんに聞いた今までにない構想の船を
= 興山丸で乗船取材させていただきまし て、有難うございました。まず初めに本船 の設計思想というか、建造に当たってのコ ンセプトなどからお話しをお願いします。 今澄 1995年6月に新しい船を作るべく、 約40日間フィンランドなど欧州の技術先進 国の造船技術・適用法規などの現地調査を 実施してきました。ポッド型の氷海タン カーのドック工事やその他、いろんな船を 見てきて、帰国してから後も新しい発想の 船を作るため、様々な研究を続けてきまし た。 その背景にあるのは、親会社の宇部興産 が生産工場を合理化し、急速に近代化する 動きがあり、その中で船にも省エネ、さら なる合理化された船の建造が要請されまし た。 荷主サイドからは輸送コストの低減と環 境保護、船社としては省エネ対策とともに 乗組員の快適な生活環境確保、高度の自動 化による船舶安全運航の確保などを要請さ れたことが設計上のコンセプトです。 もう一つは、輻輳する沿海航路の安全航 海と、短距離輸送での多頻度離着岸の安全 性と経済性向上を図るという目的もありま す。 当社はセメント専用船が多いので、推進 力はディーゼル機関、揚げ荷役は空気圧送 船橋にある機関制御コンソールに表示される発電機などの電源装 置の運転状況 海と安全 2011・秋号 13方式ですから大量の電気を使用するため強 力な発電装置がいる。スラスターも電気で す。それと居住設備面ではやはり電気を使 用します。つまりディーゼル機関と発電機 関が別々あるわけで、これは無駄です。そ こで電気推進機関に着目しましたが、当初 は省エネにならないとの理由から誰も見向 きしてくれませんでした。その後、国交省 海事局からも声がかかり、海上技術安全研 究所とも研究を重ねながら、いうなら産官 学の共同研究で進めてきました。 試行錯誤の結果、ハイブリッドというか 半分はディーゼル、半分は電気で推進させ ることとし、最終的にはタンデム型推進装 置になりました。
合理化だけでなく
乗組員の福利厚生面にも配慮
= 船陸間の情報通信設備についても、 従来にない斬新で画期的な試みがされてい ますが、理由をお聞かせください。 今澄 船と会社での情報交換には電話や FAX が主力でありましたが、情報の記録 が残らない上、FAX では鮮明さに欠け、 通信費も高価なものです。できる限りの情 報を電子化しメールでの運用ができれば情 報は記録として残り、画像も鮮明で陸用携 帯による通信は非常に安くなります。目的 はこの通信費の削減、情報の記録、確実な 情報伝達の確保です。 導入した当初は陸用携帯の通信速度も遅 く、用途が限られていましたが将来性も大 いにある事を確信していたので採用し、携 帯電話の技術の発展とともに船側設備を更 新させることで、現在では画像・映像の送 信・機関や荷役のデータロガー情報の送信、 AIS 情報の送信が可能となっています。 その上、インターネットの利用も可能に なり乗組員への福利厚生にも役だっていま す。スリムな船型と
画期的なタンデム型推進装置を装備
= 興山丸の特徴について船体(船殻)設 計、主機関・補機関係、プロペラ、ラダー、 その他の設備などの順で紹介してください。 まず船体(船殻)設計からお願います。 今澄 タンデム型推進装置を装備するスー パーエコシップ向けに開発された、モディ ファイドバトックフロー船型を採用してい ます。モディファイドバトックフロー船型 とは、抵抗減効果の高いバトックフロー船 型を、保針性能が向上するように改良した 新船型(船尾が流線型で、船底は少しV字 型)で、この船型にタンデム方式の二重反 転推進器を採用することで、従来の主機関 直結駆動の一般貨物船に比べて大幅な省エ ネを実現しています。 電 動 POD 推 進 器 と、主 機 駆 動 に よ る CPP(可変ピッチプロペラ)とを同心線上 に配置し、2組のプロペラの回転方向を逆 開発に当たった今澄 敏夫・常務取締役海運本部長転させることで、二重反転型推進器(CRP プロペラ)の効果による高いプロペラ効率 を得ています。環境負荷の低減と労働環境 の改善、経済性の確保をバランスよく保ち、 電気推進船のメリットとデメリットを補完 するために、ハイブリット方式を導入しま した。国内での最大船型での採用であった ため、各構成機器のメーカーには実績が少 なく、検討に次ぐ検討を重ねました。 ポッド推進装置とは、繭型の容器内に装 備された推進軸を介して、プロペラを回転 させる推進装置のことです。本船用は船内 に配置した電動機によりポッドプロペラを 駆動します。また、ポッド推進器には旋回 装置も装備されているので、本船の主操舵 装置となっています。ポッドは360度旋回 可能ですので、ポッドをスターンスラス ターとして使用し、船首の二基のバウスラ スターと組み合わせることで、安全かつ迅 速な離着岸操船が可能となりました。また、 ポッド推進器はインバータ制御による電気 推進システムを採用しているため、気象海 象の変化に対応できるスムーズな加減速が 可能です。 電動ポッド推進器は本船の操舵装置とし ても使用しますが、全速航海中は二重反転 効果の低減を避けるため、進路保持など小 舵角の操船用としてはサーフェースフィン (写真参照)を装備しています。 統合操船制御システムにより、通常運行 中の各推進器の出力比を二重反転効果が最 適となる出力比に自動的に設定されます。 また、港内時は、ポッドの操船性能を重視 した出力配分とし、容易に港内操船がおこ なえるような設定としています。現在、統 合操船制御システムを設置しているのは本 船だけではないでしょうか。
抜群の操船性能と旋回性
そして保針性
= 興山丸が営業航海に入って以来、他 船と顕著に違う省エネ効果や実績などにつ いてお話しください。 今澄 同型他船と比較した際の具体的な燃 費削減効果は今現在ではデータがそろって いませんので、何ともいえません。先ほど いいましたように当社の社船は、国内間の 短距離輸送での多頻度離着岸が特徴です。 ですから離着岸時の操船性や旋回性に注目 します。同じ2万トン積セメント船に比べ、 離接岸が確実に容易になったと船長から報 ポッド型推進器が横を向いていてよく見える 右からサーフェースフィン、主推進器とポッド 海と安全 2011・秋号 15告がありました。 本船は他船と違い、19m/s の強風下で もタグボートを使用しないで短時間で離岸 します。先日の東日本大震災の際、宇部港 でも港外退避命令が出されましたが、入港 中であった興山丸は操縦性の良さを発揮し、 港内でその場回頭して出港していきました。 操船性に優れた本船に慣れ、長い乗船をし た船長は、他船に乗ったら当初は戸惑うか もしれませんね。(笑)
省エネに対しては
あらゆる対策を講じたい
= 在来船の省エネ対策に関してはどう 取り組んでいますか 今澄 省エネ対策は避けて通れませんので、 できる限りのことは取り組んでみたいと考 えています。今やっているのはプロペラの 推進効率を上げるための省エネフィンの取 り付けと主機関の軸発による電源確保、船 内照明の LED 化を用いた省エネ対策、そ れと基地港である宇部港接岸中の陸上電源 の利用などですね。産官学で取り組む
さらなる新システム
= 今後の貴社所属船の省エネ対策の方 向性があれば紹介してください。 今澄 現在、東京海洋大学・日本気象協 会・海上技術安全研究所などと共同で実証 実験中ですが、目的地に向かって最小燃費 で到着できる航路を自動的に作成するよう 最適航海支援システムを採用すべく研究を 重ねています。これは、日本気象協会から の直近の気象・海象データを基に計算され た航路・速力(出力)データを入手して、 統合操船制御システムに反映させ自動によ る最適航海が可能なシステムです。今では 一般的となった自動車のカーナビと間違わ れますが、カーナビはあくまでも道路情報 を検知し、目的地までコースや距離、到着 時間などの情報を音声でガイドをしますが、 運転するのはあくまでも人間です。本船が 取り組んでいる最適航海支援システムは、 人間の手を借りずに、すべて統合操船制御 システムに組み込まれて電子海図上に反映 され可視化され、自動的な変針、速力の増 減、機関出力などの制御などが可能となる システムです。 こうしたシステムを研究し取り入れてい くには、従来のシステムに慣れたベテラン の船長や航海士の発想では不可能と思いま すので(笑)、若手に責任をもって担当さ せています。 興山丸の広いデッキ ブリッジは前後左右とも、視界が広いわが国で唯一の船舶のエンジニ
ア団体
一般社団法人日本船舶機関士協会は、舶 用機関および船舶の運航に関する応用技術、 労務・人材育成問題などを調査研究し、海 運の発展ならびに海事の運航技術の進歩と 振興に寄与するとともに、船舶運航技術に 関して国際協力の推進を図り、人類福祉の 向上に資することを目的としています。 1947年9月に任意団体として創立、1952 年5月に社団法人とし、2011年4月に一般 社団法人として認可されました。 海技士(機関)の免状を受有する正会員、 準会員、外国人会員(2011年4月現在1,177 人)および本協会の趣旨に賛同し事業を賛 助する団体または法人よりなる賛助会員 (2011年4月現在99法人)により構成され ています。 主な活動内容は、「関係団体との協力お よび委員会などへの参画」、「舶用機関技術 などに係る調査研究事業」、「故障情報に係 る調査研究事業」、「技術誌“マリンエンジ ニア”の発行」、「技術講演会の開催」、「内 航海運の省エネルギーに係る運用調査研究 事業」および「機関長・士の労務問題に関 する調査研究事業」などを行っています。 協会の活動については、ホームページ URL http : //www.marine―engineer.or.jp でご覧になれます。「内航海運の省エネルギーに係る
運用調査研究事業」について
内航海運の環境負荷低減を支援するため に、公益財団法人日本財団の助成と日本内 航海運組合総連合会の協力のもとに、2010 (平成22)年度より3ヶ年計画で下記の事 業を実施しています。 1)省エネルギー対策の進捗状況調査 2)環境負荷低減推進モデルの作成 3)省エネルギー推進ソフトの開発 4)省エネルギー診断の普及 5)内航海運省エネルギー診断員の育成 6)セミナーの開催 7)パンフレットの作成配布 本事業の公益性に鑑み、各界有識者より なる「内航船舶のエネルギー効率マネージ メント推進委員会」を設置し、指導助言を 仰いでいます。また、推進委員会の下に、 船舶の運航管理や省エネルギー推進に十分 な知識と経験を有する者により構成される 分科会を設置し、個船の省エネルギー診断 を実施しています。1.内航海運の省エネルギー診断
「省エネ法」では、エネルギー使用の 原単位を、貨物輸送事業者ごとに中・長期 的にみて年平均1%以上低減させることを 目標としています。 輸送能力の効率的な活用、エネルギー消 費効率が優れた輸送用機械・器具の導入、機関士協会の取り組む内航船の省エネ診断
一般社団法人 日本船舶機関士協会 理事・上席研究員 工学博士 のり き廣瀬 典樹
海と安全 2011・秋号 17輸送能力の高い輸送用機械・器具の使用、 エネルギー使用の合理化に資する運航など が求められており、判断基準を参考とした ポイントを踏まえた省エネの取り組みが重 要となります。 日本船舶機関士協会が実施している「内 航海運の省エネルギー診断」は、上記判断 基準の中で、“エネルギー使用の合理化に 資する運航”を実現されることを支援する ものです。 1―1 診断希望船舶の公募と受託 日本内航海運組合総連合会を通じて、診 断希望船舶を公募し、推進委員会により承 認された船舶に対して無償で省エネ診断を 実施し、内航海運の省エネルギー推進をサ ポートします。 1―2 省エネルギー診断の流れ 診断申込者へ事前調査資料提供の依頼、 入手データの事前分析、訪船調査を経て診 断報告書を取りまとめの上、診断申込者に 対する報告会を開催します。 診断受託より報告会まで、約3か月を予 定しています。 1―3 省エネルギー診断の内容 省エネルギーの推進には、関係者すべて の理解と協力が欠かせません。そのため、 診断は陸上管理体制と本船の取り組み状況 全般について、省エネ法の判断基準に沿っ て実施します。 1)陸上の管理体制:会社の省エネに対す る取り組み状況調査と着眼点の見出し。 2)本船の管理体制:本船内における省エ ネに対する管理状況調査と着眼点の見出 し。 3)本船での省エネ実施状況:実施状況の 調査と着眼点の見出し。 1―4 診断実施社に対する提供成果物 診断申込者に対し、下記を提供します。 1)省エネルギー診断報告書(製本と CD) 2)省エネ進捗状況自己診断ソフト(CD) 3)運航実績電子ファイル作成モデル(CD) 4)省エネルギー推進支援ソフト(CD)
2.内航海運の省エネルギー推進手法
2―1 省エネ進捗状況の自己診断 省エネルギーに対する取り組み状況の自 己分析が必要です。自己分析により見出さ れた自社の強みをさらに伸ばし、弱点を改 善することが重要です。省エネ法の判断基 準に基づき分析し見える化した例を示します。 自己分析には「Cool な目」が求められ ます。第三者の協力を得ることも大切であ 自己診断の見える化例り、当協会では判断基準に基づく“自己診 断ソフト”を用意しています。積極的に活 用してください。 2―2 省エネルギーの進め方 省エネルギーの推進には、 現状の把握 ⇒省エネ推進阻害要因分析 ⇒ 着眼点の見出しと対策法検討 ⇒ 効果の試算⇒ 実施 の、PDCA サイクルを機能させることが 必要です。 2―2―1 運航実績の電子ファイル化 陸上管理部門や本船には、省エネ推進に 資する多くのデータが保管されていますが、 電子ファイル化が遅れているために統計・ 分析が容易でなく、貴重なデータが有効活 用されていません。 電子ファイル化により、運航実態の把握 から、省エネ推進を阻害している要因分析 さらに着眼点の見出しへと容易に進むこと ができます。 下の円グラフは、ある油槽船の航程別稼 働時間割合を示します。荷役以外の停泊時 間が年間稼働時間の約33%に達しているこ とに注目してください。 この要因を分析したのが入港時刻と荷役 開始待ち時間の散布図です。 危険物積載船の荷役開始可能時刻は日出 から日没までとなっているために、荷役開 始時刻より早く入港すればそれだけ待ち時 間が増えることがわかります。 また、下の図は燃料消費量を示します。 電子ファイル化にあたり、“運航実績電 子ファイル作成モデル”を活用してくださ い。 航程別稼働時間割合 入港時刻と荷役開始待ち時間 機器別燃料消費量 海と安全 2011・秋号 19
主機関の燃料消費量が圧倒的に多いこの 船で、荷役開始時刻にあわせて減速航海を 実施すれば大きな省エネ効果が得られるこ とをこれ等のグラフは示しています。 このように運航実績を電子ファイル化す ることで、省エネ推進を阻害している要因 分析から着眼点の見出しへと容易に進むこ とができます。 2―2―2 省エネルギー支援ソフト 省エネルギーの推進は、関係者全員の理 解と協力なしには達成できません。シミュ レーションにより効果が予測できれば、乗 組員の協力が得られるでしょう。 複雑な技術計算を省き、最低限のデータ 「省エネルギー推進支援ソフト」メニュー画面 (CPP 装備船の最適運転モード検討例) (荷物油の加熱管理例)
項目 原油換算削減量 (kL / 年) CO2削減量 (t -CO2/ 年) エネルギー 削減率(%) 主機関燃料 消費削減 停泊時間短縮と減速航行 767.8 ∼ 14.9 2,132.6 ∼ 41.4 7.78 ∼ 2.06 オートパイロットのエコノミーモード活用 72.8 ∼ 7.4 73.9 ∼ 20.5 0.58 ∼ 0.38 燃料油・清水等の積載量管理 248.4 ∼ 2.7 690.0 ∼ 7.6 1.76 ∼ 0.28 船底サンドブラスト効果 約 1,170 約 3,250 約 9.32 主機関回転数と CPP 翼角の最適モード選択 204.3 ∼ 35.9 567.5 ∼ 99.7 6.97 ∼ 0.75 ボイラ燃料 消費削減 ボイラの空気比調整 25.9 ∼ 0.6 72.0 ∼ 1.5 1.29 ∼ 0.03 荷物油の温度管理 約 290 約 806 約 14.40 消費電力と 発電機燃料費削減 主冷却海水ポンプ流量制御 16.5 ∼ 1.7 45.6 ∼ 4.5 0.30 ∼ 0.04 機関室通風機運転管理 28.0 ∼ 0.4 77.6 ∼ 1.0 0.76 ∼ 0.02 空調設定温度の適正化 11.7 ∼ 0.4 32.5 ∼ 1.1 0.09 ∼ 0.01 を入力するだけで結果と効果が解る「省エ ネルギー推進支援ソフト」の例を示します。 2―3 2010年度までの省エネ診断実績 日本船舶機関士協会は、2006年省エネ法 の改正施行に伴い内航海運が法の対象とな って以来、2006∼2008年度資源エネルギー 庁管掌により(財)省エネルギーセンター が実施した「内航船の省エネルギー推進委 員会」における診断、2009∼2010年度国土 交通省海事局管掌による「内航海舶の低炭 素化等推進検討委員会」における合計26隻 の省エネルギー診断を担当し、内航海運の 省エネルギー推進のお手伝いをしてきまし た。 2―4 内航船舶の省エネルギー診断結果 2010年度に調査した14隻の船舶における、 “設備の改善を伴わない運航や取扱上の工 夫による省エネルギー”の可能性は、船型 や船種による差はあるが、原油換算削減量 で約20∼900kL/年、CO2排出削減量は約 50∼2,500t―CO2/年 そ し て 燃 料 消 費 量 削減の経済効果は約1.6∼10.1%となって います。 上の表は、499∼16,000総トンの一般貨 物船、輸送船、RORO 船やフェリーに対 する主な診断項目と効果の試算結果を示し ます。
おわりに
省エネルギー推進は、関係者一丸となっ た努力なくしては達成できません。 経営トップが自らリードする重要な企業 戦略です。現代では、環境活動の良し悪し が市場の企業評価に影響し、企業価値を動 かす可能性があります。 企業は環境をきっかけとして金銭的な価 値を獲得することになります。 (一社)日本船舶機関士協会は、内航海運 の環境活動と省エネルギー推進のお手伝い をいたします。 (主な診断項目と効力の試算結果) 海と安全 2011・秋号 21弊社は、国内タンカー部門において、石 油製品、ケミカル製品の海上輸送の約2割 を担うオペレーターであり、その輸送貨物 は、市民生活および産業活動に欠かすこと のできない物質である一方、石油製品やケ ミカル製品の海上輸送は、万一流出などの 事故が発生すれば、火災、爆発、環境汚染 などの危険性と有害性を併せて持っている。 そのため、弊社は「環境保護」およびそ れに密接する「安全輸送」を最重要社会的 責任と捉え、下記の対策に取り組んできた。 ①平成12年:内航部門にも国際標準の安全 管理コードである ISM コードを取得した。 ②平成12年:品質管理の国際基準である ISO―9001を取得。 ③平成13年:環境保全の国際基準である ISO―14001を取得。 ④平成17年:関東運輸局より「環境保全功 労者」として運輸局長表彰を受賞した。 ⑤平成19年:4999載貨重量トン型 オイル タンカー「海悠丸」に業界として初めてソー ラー発電システムを搭載した。 ⑥平成20年:交通関係環境保全優良事業者 国土交通大臣表彰を受賞。 ⑦平成21年:物流大賞「特別賞」を受賞し た。
SES 船の誕生
船舶の建造については、国土交通省が推 奨するスーパーエコシップ(SES)を業界 に先駆けて計画し、499総トン数型内航ケ ミカルタンカーの第1船として「第五日光 丸」を平成19年5月に建造、749総トン数 型内航オイルタンカー第1船の「なでしこ 丸」を平成19年11月に相次いで建造した。 両船に引き続いて、ケミカルタンカー3 隻、オイルタンカー1隻を就航させ、計6 隻を運航中で、さらにケミカルタンカー1 隻を現在建造計画中である。 弊社の SES 第一船「第五日光丸」の第 一歩は、実は省エネではなく、ケミカルタ ンカーにおける作業の安全性確保から始ま った。 内航タンカーの多くはカーゴタンクの後 部にポンプ室を配置し、サクションヘッド を確保するためにカーゴタンクのボットム プレートと同一の高さのデッキに据付ける ことが一般的である。しかしながら、ポン プ室はその機能および配置からガスが滞留 しやすい場所であり、作業動線が垂直方向 となるため状況の管理もし難い場所となっ ていることから、過去にも重大な事故が発 生している。 「第五日光丸」の建造計画の初期に、船 主であり自らも船長として乗船する国鵬汽 船(有)の竹下社長からカーゴポンプ室の ないタンカーを考えたいとの申し出があり、 当時、内航では傍流であった「1タンク1 ポンプ方式」を採用し、ポンプの駆動源は 電動機とすることとした。わが社の取り組む内航船の省エネ対策
上野トランステック株式会社 工務担当 参事 と まつ けん じ戸松 憲治
高効率設備の採用
ここで問題になったのが、発電機関の負 荷のアンバランスである。カーゴポンプを 電動とすることにより航海中と荷役中の必 要電力が大きく異なるため、航海中の発電 機関が低負荷状態となると推定された。そ のため必要電力のバランスを取るために電 気推進を採用することとした。 従来の固定翼プロペラと渦流 ここで、ディーゼル推進から電気推進に 切替えることによる効率の低下を如何にし て取り戻すかが焦点となった。 構造設備面においては、船型を改善し、 スターンバルブを設け、さらに抵抗となる 船体防蝕材料などの外板付加物の撤去、溶 接工程における品質管理により船体抵抗を 軽減した。 推進設備では二重反転プロペラ(CRP) を採用して前プロペラで発生した回転流の エネルギーを後方のプロペラで推進力とし て回収し推進効率を向上させている。 動力設備面を従来型と比較するために 499G/T 型ケミカルタンカーを例にとり単 純化してみれば、従来型の総排気量はデ ィーゼル主機関(260mm 径)1基とディー ゼル発電機関(130mm 径)2基で166リッ ターが標準的で、弊社 SES 船においては ディーゼル発電機関(160mm 径)3基で 72リッターとなっており、半分以下となっ ている。自動車でいえば1,000cc と2,000cc ほどの違いがあると言える。 定格回転数で考えた場合でも、排気ガス 量/min は22,500L/min と21,750L / min となり、1分間で0.75㎥の差が出る。従来 型では CO2を低減するためには主機関の回 転数を下げる必要がある。それに引き換え 発電機関の場合は、回転数を変えるわけに はいかないため CO2削減のためには運転台 数を変更しなければならない。運用面での効率化
タンカーの運航は大別して、航海、着離 桟および荷役の3モードで構成され、さら に航海は満船、空船の2パターンに分けら れる。 従来型では、動力設備としては、主とし て航海に使用するディーゼル主機関と、船 内の電気機器へ電力を供給するディーゼル 発電機関とで構成されている。荷役装置に ついては、主機関の前端(後端はプロペラ 駆動)から動力を取り出し、カーゴポンプ を駆動するシステムが多く採用されている。 二重反転プロペラと渦流 海と安全 2011・秋号 23推進力と電力は、空船航 海時、満船航海時、積み 荷役時、揚げ荷役時では それぞれ必要動力が異な っているため、それぞれ のモードにおける動力が アンバランスな状態であ り、航海中の発電機負荷 は1/2以下、荷役中の 主機関負荷は1/4程度 となっているのが現状で ある。 推進動力を電力とする電気推進船にする ことによりパワーマネージメントの一元化 を図ると同時に、運航中の動力設備の遊休 部分を削減(基数制御)して効率的な動力 設備体系を目指した。 電気推進においては各モードの必要動力 により、発電機関の運転台数を選択するこ とになる。これは実質的な減筒運転となり、 燃料消費量を削減できると共に、発電機関 を最適負荷で運転することにより燃料消費 率も改善できた。 二重反転の前後のプロペラは同心軸で独 立 し て お り 個 別 の 電 動 モーターで駆動されてい るため、それぞれに単独 運転も可能であり、さら に動力設備である発電機 関、制御設備であるイン バーターも複数台装備し ていることから、仮に1 台故障しても航行が可能 であり、冗長性(安全性) が向上し安定した運航が 可能な設備となっている。 従来型では、プロペラ、伝達軸、主機関 を一列に並べて配置する必要があるので、 機関室を一定の大きさ以上に確保する必要 があったが、電気推進船の場合は電動機と 発電機をケーブルで結ぶため機器配置の自 由度が高まる。この特長を生かして、機関 室をコンパクトに配置し、その分だけ貨物 区画を広くとることが可能となると推定さ れたが、実際は、貨物区画を確保するため に、機関室はかなり窮屈な配置となってい る。その要因として、各機器メーカーがそ
ᶵჾ㓄⨨㛗ᛶ れぞれの思想に基づいた 設備を持ち込んでいると ころにある。船舶の機関 室は一個の動力プラント として考えるべきであり、 今後の課題ではないかと 思慮する。
今後の課題
商船としての電気推進 船は、まだ初期の段階に あるといえる。そのシス テムには未だ開発途上と もいえる要素が多く含まれているのではな いかと思慮する。今後の課題として取り組 む必要性がある問題の一部を列挙する。 ※コストパフォーマンス 現段階では政策的な補助がなければ、導 入することは困難である。 ※機関室の空調 原動機を含む各機器から放熱される熱量 はかなりなものとなり、さらに箱物が多い ために従来の機関室の空気の流れとは異な ったものとなっている。 ※高周波ノイズ対策 歪是正のための変圧器はかなりな容積、 重量を占めている。また、逆起電力吸収の ための抵抗器も同様である。 ※自動化と人間の判断の境界 現在のところパワーマネージメントは乗 組員の判断に任されている。 ※大型船への応用 大型船においては、荷役装置などに大動 力を要求される船舶以外では、従来型の燃 費効率には及ばない。 ※メンテナンス 特定の業者、メーカー以外でもメンテナ ンスが行えるようなシステム、機器が望ま しい。おわりに
弊社の SES 船の建造は、多くの方々の ご協力、ご支援をいただいた。 第1船である「第五日光丸」の初期計画か らご協力を頂いたヤンマー㈱、興亜産業㈱ など、実際の建造に関し多方面でご支援頂 いた独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備 支援機構、船型開発、二重反転プロペラに 加えて総合的にプロデュースして頂いた㈱ アイ・エイチ・マリンユナイテッド、推進 と荷役の両方を一元的に制御する多重イン バーターを開発して頂いた西芝電機㈱、ダ ブルハル2000KL 積みで749G/T 型オイル タンカーを実現していただいた㈱前畑造船 はじめ多くの方々のご協力とご支援により SES タンカーが実用化されたことに感謝 したい。 海と安全 2011・秋号 25当社は約90年前、京浜港において艀(は しけ)を回漕する港湾運送業社として創業 を開始し、現在では港湾運送業、陸上運送 業、倉庫業、海運業、国際複合一貫輸送な どを展開する総合物流企業です。 内航・外航海運輸送サービスとしては、 セメント輸送のパイオニアとして1952年に 「龍洋丸」を運航を開始して以来、以来半 世紀以上の実績を誇り経験と確かな専門性 により先進的な専用船を建造・整備し、貨 物の安定輸送と効率化を目指しています。 現 在 で は、内 航 セ メ ン ト 専 用 船17隻 (67,700D/W)、紛体貨物専用船5隻(7,900 D/W)、一般貨物船3隻(3,500D/W)、外 航紛体輸送船1隻(4,700D/W)の船隊を 有し太平洋セメント株式会社の製品輸送お よび石膏、石灰石、石炭灰などの内航・外 航輸送を行っております。
環境への取り組み
船舶より排出される温室効果ガスの削減 については、IMO(国際海事機関)お よ び京都議定書目標達成計画による国土交通 省所管の改正省エネ法(エネルギーの使用 の合理化に関する法律の一部を改正する法 律)が制定されており、当社内航船につい ても改正省エネ法が適用になり輸送単位当 たりの燃費削減に取り組んでおります。 もちろん、環境に関する取り組みは当社 の企業活動における行動指針の中にも網羅 されており、「循環型社会」の実現に向け 会社全体として種々の環境事業に取り組ん でおります。 具体的な省エネへの取り組みとしては次 のものがあります。 船体抵抗の低減(摩擦抵抗の低減) ※ 空気潤滑システムの採用 2010年3月9日に、電動ブロワーを使用 して船底から気泡を放出し船底の摩擦抵抗 を低減する装置、空気潤滑システムを採用、 搭載した「パシフィック・シーガル」(全 長:126.6m、11,356D/W)を竣工させま した。本船は、世界で初めて省エネ効果を 得ています。当社で取り組む省エネ対策の先進例
東海運㈱ 海運事業部技術部副部長 いい だ みつとし飯田 光利
空気を船底に送り込み船底を気泡で覆うことで摩擦抵抗を減らす © 海上技術安全研究所※ 低燃費型防汚塗料の採用 LFSea 船底塗料(46ページ参照)など の低燃費型塗料は、船底の汚れを防ぐだけ ではなく、水に接する船底塗料表面と海水 の境界面に凹部を形成し船体抵抗を低減さ せ省エネ効果を得ています。 推進力を高める装置 ※ フレンドフィンの採用 プロペラ前方に5枚の翼を放射状に取り 付けたもの。それによりプロペラ後方に発 生する無駄な回転流を減少させ推進効率を 向上させ省エネ効果を得ています。 ※ スーパーフィンの採用 プロペラ後方の舵に2枚の翼を対照的に 取り付けたもの。これはプロペラ後方に発 生する無駄な回転流を減少させ推進効率を 向上させ省エネ効果を得ています。 ※ NHV プロペラの採用 プロペラ後方に発生する無駄な回転流を 減少させ推進効率を向上するよう設計され たプロペラを採用し省エ ネ効果を得ています。 電子制御燃料噴射機関の 採用 EUP(Electronic Unit Pump)式 電 子 制 御 燃 料 噴射システムを採用した、 主機の採用、これは高圧 の燃料蓄圧部品を必要と せず燃料噴射を電子制御 し CO2(二 酸 化 炭 素)や NOx(窒素酸化物)およ び煤塵低減効果を得てい ます。 フレンドフィン スーパーフィン © ヤンマー株式会社 海と安全 2011・秋号 27