第 3 章 ポリシ流通を基本とする 自律的資源利用認証方式自律的資源利用認証方式
3.2 自律的資源利用認証方式
本章では,
2
章で示した5
つの要件から自律的資源利用認証のための基本モデ ルとそれに基づいた実現方式を提案する.3.2.1. 基本モデル
利用者属性(User Attribute)や資源属性(Resource Attribute)に関連する 条件などが記述された利用権(Use-right Policy)を導入し,その利用権の行使 判定によりサービス認可を行う電子権利技術に着目した.これは,資源側での アクセス制御ポリシの管理を不要【要件
1】とし,一時利用者からの確実な対価
受領を実現【要件2】する.さらに,利用者属性や資源属性に合わせたサービス
提供【要件3】が可能となる.利用者は,サービス提供者から利用権を取得(購
入)し,耐タンパ性を有したIC
カードに格納する.ここで想定しているIC
カ ードは,ISO/IEC 7816
や14443
タイプB[23]に準拠したカードであり,複数の
アプリケーションの搭載が可能な大容量マルチアプリケーションIC
カード[24][25]である.
IC
カードには,利用者の属性情報が格納されており,利用者が資源を利用す る際に,利用権とともに資源に通知される.資源内の判定ハンドラ(DecisionHandler)は,利用権に記述された条件が利用者属性や資源属性と合致している
かどうかを判定することでサービス認可を行う(図3.1)
.つまり,資源内の判 定ハンドラは,利用権に記述された条件の正しさと利用者属性,資源属性の正 しさを検証する.そして,その条件が満たされたかどうかの判定結果を根拠に23
利用者の資源利用資格の認証とサービス認可を行っている.またこの時,資源 は,IC カードから得られる情報と資源内の情報だけでサービス認可が可能であ
るため,【要件
4】を満たす.利用権には,利用者属性や資源属性に関連する条
件の他に,利用権をユニークに識別可能で対象となる資源種別の識別が可能な 利用権
ID
が含まれる.この基本モデルでは,利用権を格納する媒体として利用者が携帯する
IC
カー ドを想定している.これにより,利用者が利用権を取得するタイミングとそれ を利用するタイミングが必ずしも同期する必要がないという利点がある.たと えば,対象資源のサービスエリア近くに設置された利用権発行装置を用いて取 得したり,IC カードリーダを備えた会社や家庭のPC
からインターネットを経 由して取得したりして,必要な時にそれを利用するということが可能である.本論文では,IC カード内の利用者属性管理機能や利用権管理機能は,それぞ れ独立したアプリケーションとして
IC
カード発行後にダウンロードされること を想定している.そのため,IC カード発行主体として特定の事業者は想定して いない.たとえば,2.2.2 節で示した無線LAN
の例では,ISP が契約者認証用 に発行するような場合が考えられる.これまで,一枚のIC
カードを複数の事業 者が相乗りすることで,発行コストをシェアする仕組み[26]が提案されている.本研究では,このモデルを前提としている.このモデルを前提とすることで,
利用者にとっては,一枚の
IC
カードで,異なる事業者のサービスが利用可能に なる.また,事業者にとっては,IC カードの発行コストを抑制できるため参入 障壁を下げることができるという利点がある.・ID information
・Policy relating to user attribute and resource attribute
・The other information Service Provider
User
Use-right Policy
User Attribute
Use-right Policy
Decision Handler
Resource Attribute Resource
Paying
Issuing
If it is OK Service Offering
図
3.1 自律的資源利用認証基本モデル
3.2.2. 実現方式
図
3.1
に示した基本モデルに沿って,自律的資源利用認証を実現する上で機能 上最も重要な点は,条件に合致した人が,期待するサービスレベルや機能を持 った資源を確実に利用可能とすることである.これを可能とするには,資源内 の判定ハンドラが,利用権に記述された利用者属性や資源属性に関する様々な 条件を判定できる必要がある.通常の
OS
では,利用者や利用者の属しているグループに対してファイルなど のリソースに対する読み書き許可/不許可程度のアクセス制御を提供してい る.しかし,対象としている自律的資源利用認証のためには,たとえば,“ISP X の会員か?”といった利用者に関する条件や“ISP Xと提携関係にある公衆無線LAN
事業者のアクセスポイントか?”,“無線区間で帯域制御が可能なアクセス25
ポイントか?”といった資源に関する条件判断が必要である.これは,通常の
OS
が提供している程度のアクセス制御では十分でない.そこで,インターネット経由の情報アクセスに関する制御ポリシを表現/適用 する ため のマ ーク ア ップ 言語 であ る
XACML (eXtensible Access Control Markup Language)[27]
に着目した.これは,OASISにおいて仕様化されて いる.XACML は,条件判断に利用する要素の指定や要素の設定値などを比較 する演算方法が指定でき,より複雑で柔軟なアクセス制御が可能である.XACML
は,機密情報や商取引データなどを扱うWeb
サービスにおいて,OS
やプラットフォームに依存することなく,柔軟で拡張性の高いアクセス制御を 可能とすることを目的としている.そのため,XACML のデータフローモデル
(図
3.2)は, Web
サーバ側で事前に管理されたアクセス制御に関するポリシと,事前に登録された利用者の属性情報を基に認可決定を行うことを前提としてい る.そのため,このままでは,事前契約の無い利用者による資源の一時利用を 可能とする自律的資源利用認証には適用できない.そこで,XACML のデータ フローモデルで定義されている各プロセスを,図
3.1
の基本モデルで定義した各 処理主体に,その機能的役割の考え方に基づいて配置することを考えた.これ により,自律的資源利用認証のための機能配置(図3.3)とその機能配置を前提
とした処理シーケンスを明らかにした.access requester
PIP PEP
PDP
1.policy
2.access request
10.response
6.attribute
7.resource 8.target,
attribute, resource
3.Request
subject environment
resource
PAP
context handler 4.attribute
query 9.decision
obligations service 11.obligations
5a.subject attribute
5b.environment attribute
5c.resource attribute
図
3.2 XACML
のデータフローモデル(1)機能配置の考え方
図
3.1
の基本モデルでは,サービス提供者は,利用者属性や資源属性に関する 条件を記述した利用権を発行する.この条件が図3.2
のアクセス制御のルールを 定義する役割を持つPAP(Policy Administration Point)が生成するポリシ
(policy)に該当すると考えた.そして,PAPをサービス提供者が運営すること を想定しているサービス提供者装置(Service Provider Server)に配置した.
利用者は,ICカード内に利用権を保存し,資源の一時利用時に利用者属性と ともに資源に提示する.そこで,ICカードには,サービス提供者装置から取得 した利用権を一時的に保存しておく利用権管理(Use-right Policy
Management)と利用者(主体:subject)の属性情報(subject attribute)を
管理する利用者属性管理(User Attribute Management)を配置した.資源は,利用権や属性情報を収集し,利用権に記述された条件が各属性情報 に合致しているかどうかを判定することでサービス認可を行う.そこで,属性 情報を収集する
PIP(Policy Information Point)と属性情報やアクセス制御ポ
リシを基に行使判定を実施するPDP(Policy Decision Point)を資源に配置し
27
た.また,利用者(access requester)からの要求に基づき
PIP
やPDP
に対し て属性情報の収集指示や行使判定指示を行うことでアクセス制御を行うPEP
(Policy Enforcement Point)を資源に配置した.これは,プロトコル変換のた めの
Context handler
を経由して行われる.さらに,資源(resource)の属性 情報(resource attribute)を管理する資源属性管理(Resource AttributeManagement)を資源に配置した.
なお今回提案した基本モデルでは,図
3.2
の環境属性(environmentattribute)の利用は前提としていない.そのため,図 3.3
の機能配置には含めていない.資源の利用場所や時間,温度,湿度などの情報を環境属性ととらえ,
それらをアクセス制御ポリシとすることで,環境属性に応じた行使判定が可能 になると考える.
Service Provider Server
IC card
Resource Resource
Attribute Management PDP
PIP
Context handler
Decision Handler
PEP
Subject Policy
①Use-right Policy
②Service Request
⑤Usage Decision
③Use-right Policy
④Resource Attribute
④User Attribute
⑥Service Of f ering PAP
access requester
obligations service Use-right
Policy Management
User Attribute Management
図
3.3 電子利用権の行使制御が可能な機能配置
(2)処理シーケンス
図
3.3
で示した機能配置図を前提とした場合の処理シーケンスは以下のよう になる.①利用者は,必要に応じてサービス提供者装置から利用権を取得して,IC カー ドの利用権管理により一時保管する.
②利用者は,資源の
PEP
に対して資源利用要求を出す.PEP は,Contexthandler
を経由してPDP,PIP
に行使判定処理を依頼する.③PDPは,PEPからの依頼により
IC
カードの利用権管理から利用権を取り出 す.④PIPは,
PEP
からの依頼によりIC
カードの利用者属性管理から利用者属性を,資源の資源属性管理から資源属性を収集し,PDPに通知する.
⑤PDPは,取得した利用権内のアクセス制御ポリシと
PIP
から通知された属性 情報により行使判定を行う.⑥判定結果は,Context handlerを通じて
PEP
に伝達され,判定結果に応じた サービスが利用者に提供される.PEP
の実行に際しては,責務(Obligation)を与えることがある.たとえば「必要なメッセージを要求者に伝えなさい」, あるいは,「指定した時間のみサービスを提供しなさい」などである.