I
は じ め にl
金融機関の当面するリスク近年における金融の自由化、国際化、証券化の進展は、金融機関の資金 仲介機能の効率化を促進する一方で、、金利や為替相場の変動幅拡大、業務 多様化による金融機関相互間や他業態との競争激化により、各金融機関の 経営を不安定化させる側面を持っている。
現在金融機関が直面するリスクとしては、第
1
章の第3
表に示きれてい る。具体的には①金融機関の信用供与(貸出、有価証券等)が受信者の業 況悪化から当初約定どおりに返済きれなくなる「信用リスク」、②資産と負 債の金利改訂時期が異なる時、金利変動に伴う損失が発生する「所得リス クj と金利変動による債券価格変動から損失が発生する「投資リスク j を 含んだ「金利リスク j、③外国為替相場変動に伴う「為替リスクJ
、④金融 機関に運用と期間のミスマッチや予期しない資金流出により流動性不足が 発生し、市場での調達が不可能となったり、著しく高金利で調達をせざる を得なくなる「流動性リスク」、⑤金融機関の事務処理の過程で発生する「事 務リスク」、⑥支払決済システムで、構成員の支払不能が他に波及して、システム全体が混乱する「システム・リスク」等に分類される。
このようなリスクの増大とともに金融機関にとっては、リスク管理の整 備体制強化が重要な課題となっている。また貸倒れなどの最終的なパッ
*
本章は財団法人『簡易保険文化財団』の助成による研究成果の一部である。1
)横山昭雄監修『金融機関のリスク管理と自己資本』有斐閣1 9 8 9
年、p p . 3 7 ‑ 8 9 .
94 グローパル経済下の内外金融のリスク管理
ファーとしての、自己資本の充実の重要性も再認識きれるようになってき た。
2
バーゼル合意( B I S
規制)の成立自己資金充実は業種や規模、国を問わず経営の健全性確保のため不可欠 なものである。とくに
1 9 7 4
年のへルシュタット銀行倒産以来、各国は従来 以上に銀行等の自己資本充実に努めてきた。このような状況下で1
9 8 7
年1
月、アメリカ、イギリスからの銀行の自己 資本比率規制について共同提案が発表されたのを契機に、国際的統一化の 動きが本格化し、スイスのパーゼルに1 9 3 0
年 設 立 さ れ た 国 際 決 済 銀 行( B a n k f o r I n t e r n a t i o n a l S e t t l e m e n t s
,以下B I S )
の「銀行規制監督委員 会」の場を中心に検討が加えられた。この結果、同委員会は「自己資本比率の測定と基準に関する国際的統一 化」と題した報告書を
1 9 8 8
年6
月完成きせ、周年7
月この報告書をG10
諸 国中央銀行総裁会議に提出し、全会一致でこの案が了承きれ、同年7
月1 5
日、各国監督当局から公表きれた。これがいわゆる「パーゼル合意
( B I S
規 制)J
と呼ばれるものである。各国監督当局は、合意された自己資本比率規 制の枠組を早急に実施するものとされ、日本では1 9 8 8
年12
月22
日、圏内適 用のための大蔵省通達が各金融機関に対して発出された。3 B I S
規制合意の背景B I S
規制合意の背景には、銀行業務の自由化、国際化が進展する中で、まず第
1
にイギリスでは7 0
年代、アメリカでは80
年代、銀行の支払不能や 倒産が増加したため、各国ともに自己資本比率向上による健全性確保を目2
)大蔵省銀行局『大蔵省銀行局年報(平成3
年 版)j1 9 9 1
年1 2
月、p . 2 7 .
第4章 自己資本比率規制と銀行のリスク管理 95 指したこと、第
2
に金融のグローパリゼイションによる内外金融市場の一 体化により、一国の銀行破綻が国際的に波及するようになったため、国際 的な銀行システムの安定性の向上を図る目的で、国際業務に従事する銀行 に同ーの自己資本比率規制をする必要が生じたこと、第3
に国際的に活動 している銀行聞の競争条件を平等化することを狙いとしていたことがあげ られる。とくに邦銀がユーロ市場で高金利による資金調達、低金利による資金供 給といった薄利多売により著しくシェアを拡大していた反面、自己資本比 率は国際的にも低水準で、あったため、「オーバー・プレゼンス(目立ちすぎ)
J
となり、いわゆる「ジャパン・パッシング(日本たたき)
J
も相まって、邦 銀と欧米銀行の競争条件の平等化が強〈意識された結果といえるだろう。確かに国際金融市場における邦銀資産は
BIS
年報によると1 9 8 4
年は5
,1 7 9
億ドルで世界合計の23%
に過ぎなかったのが、8 8
年38.2%
とピークに達し、
BIS
規制実施後の8 9
年38%
、9 0
年35.5%
と停滞し始めた。世界の総資 産は8 4
年の2 . 2
兆ドルから9 0
年の5 . 9
兆ドルと2 . 3
倍の伸びに対し、邦銀は2 . 1
兆ドルと約4
倍の増加を示しており、欧米銀行が競争条件をイコール・フッテングにしようと考えたのも、ある意味では当然といえるだろう。
4 本 章 の 目 的
本章においては日本の自己資本比率規制の推移、
BIS
規制の枠組み、BIS
規制に対する大蔵省、日銀の対応、バブル経済下の銀行の自己資本比率の 推移、バブル崩壊後のBIS
規制に対する銀行の対応、日本におけるBIS
規制見直し論の検討、第2
次、第3
次BIS
規制案を、内外マネーフローの 変化とリスク管理に留意しつつ考察していくことにしたい。96 グローパル経済下の内外金融のリスク管理
I I B I S 規制の枠組み 1
日本における自己資本比率規制の推移日本では自己資本の充実についての意欲が従来希薄で、あったかというと そうではない。第
1
図によれば昭和初期までは、狭義の自己資本((資本勘 定+引当金)/総資産期末残高〕は20%
を上回っており、戦後の混乱期を除 けば、その比率が最も低下したのは1 9 7 0
年代央以降である。%
3025
20
15
10
5
第
1
図 自己資本比率の推移自己資本上h率
。
190010 20 30 40 50 60 70 80 90年度
(注1) 自 己 資 本 比 率 と は ( 資 本 勘 定+引当金)/総資産期末残高 (注 2) 1950年 度 ま で は 財 閥 系 大 銀
行、それ以降は都市銀行合計 (出所) 大蔵省資料
3 )西村吉正「緩和・延期こそ疑心暗鬼を助長する
J r
週刊東洋経済.11992年5月号、 pp.92‑97第
4
章 自己資本比率規制と銀行のリスク管理9 7
日本でも自己資本充実の必要性が大蔵省通達でしばしば強調されていた ものの、自己資本比率規制として最初に具体的目標が示されたのは、第1
表のように1 9 5 4
年の通達においてであった。この通達では広義自己資本(貸 借対照表上の資本金、法定剰余金、剰余金と諸引当金を加えたもの)を期 末預金残高の10%
以上にすることが要請されていた。その後82
年、8 6
年に 改正されて現在にいたっている。88
年のパーセ'ル合意を受けて日本でも従来の自己資本比率規制に関する 大蔵省銀行局長通達を改正する形で、前述の国際的統一基準による自己資 本比率規制に関する通達が88年12
月発出された。この通達で第4
表の従来第
1
表 わが国の自己資本比率規制の推移実施期間 規 市JI (7) 内 ,廿Z宅,
昭
2 0
「昭和2 9
年度下期決算について」( 1 9 5 4
年) 自己資本比率 広義自己資本二~10%預金期末残高
昭
5 7
「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」( 1 9 8 2
年) 広義自己資本自己資本比率預金および譲渡性預金期末残局注
10%
日召
6 1
「普通銀行の業務事項等についてjの一部改正( 1 9 8 6
年) 自己資本比率二(本則)
資本勘定
+
諸引当金勘定 十税効果相当額とし+その他別に (外部流出金) ( 鞍 思 ? 別 ) て別に定めるもの 定めるもの分を除〈
一債権償却特別ー、程
4
度%
総資産 支払い承諾見返勘定(期中平均残高) (借入の保他証、債定権発行保証、 勘定相当額 そ 別 に め る も の を 除 〈
(補則)海外支底を有する金融期聞の追加基準
本則の分子+有価証券の時価と帳簿価格の差額
X70%
注6 選
本則の分母 程
本則、補則とも昭和
5 6
年度までに達成することを目標。(出所) 横山昭雄『金融機関のリスク管理と自己資本』有斐閣p.
1 0 3
を修正98 グローパル経済下の内外金融のリスク管理
の「海外支屈を有する金融機関の追加基準
J
の代わりにi B I S
基準」が適 用きれ、海外支屈がない銀行の場合は、国際的なBIS
基準か従来の圏内基 準かを選択できるようになった。2 BIS
規制の概要G10
諸国およびルクセンブルグの国際業務を営む銀行( 1 2
か国)に統一 的に適用されるBIS
規制による自己資本比率は次のとおりである。すなわ ち以下の算式で、9 1
年3
月末から9 3
年3
月末の期間では中間目標基準7 . 25%
以上、9 3
年3
月末以降の経過期間終了後は最終目標基準の8.00%
以上 が達成きれなければならないことになっていた(子会社を含めた連結決算 ベース)。自己資本
( T i e r1 + T i e r I I
一控除項目)自己資本比率二 詮
8%
(リストアセyトレシオ) リスク・アセット総額(リスクウェイトによる加重総資産)
( a ) T i e r 1
まず
i T i e r1
(第1
次自己資本)は中核となる資本で無制限に算入可能 である。具体的には資本金、資本準備金、利益準備金、任意積立金、次期 繰越利益金等で、連結ベースでは100%
出資できない子会社の外部株主持分 を含む。また普通株式(非累積配当型優先株式)、内部留保も含まれる。こ れらの合計額から営業権相当額を控除して計上するのが「基本的項目jと いわれるT i e r1
の内容である。(b)
T i e r
Ilつぎに
i T i e r
Il (第2
次自己資本) J
は「補完的項目」といわれ、非公表 準備金、資産再評価準備金、一般引当金、一般貸倒引当金、負債性資本調 達手段、期限付劣後債が含まれる。各国の金融・会計制度の違いからT i e r
Ilの自己資本への算入は、各国の監督当局の裁量に委ねられ、細部では各
第4章 自己資本比率規制と銀行のリスク管理 99
国毎に異なる部分が存在するo
日本の場合、
T i e r I I
としてとくに有価証券(投資有価証券勘定中の上場 有価証券のみを対象)含み益の45%
相当額が算入可能で、、貸倒引当金(債 権償却特別勘定を除く)は、資産評価損や特定しえない潜在損失を反映す る金額を含んで、いる場合、リスク・アセット・レシオベースで1.2 5
ポイン トを上限として算入可能(特例で2 . 0
ポイント以下)であり、負債性資本調 達手段としての累積配当型優先株式、永久劣後債、転換義務付証書等も算 入可能で 、期限付劣後債はT i e r1
の50%
が算入限度で、残存期間5
年以内 の場合、毎年20%
ずつ割引算入きれることになっている。また経過期間(日本の場合87年度末スタートで92年度末までの5年間) 中は、第
2
表に示されているような範囲で、T i e r I I
算入対象の一部をT i e r
I
に加算できる「みなしT i e r1 J
を設定していた。さらにT i e r I I
はT i e r I
と同額まで自己資本に組み入れ可能とされていた。また総資産から非連結金融小会社への出資が控除きれ、資本の持ち合い 分の控除は各国の裁量に委られ、控除しなければ
100%
リスク・ウェイトと されている。日本の場合、自己資本総額から自己資本比率引き上げを狙っ第2表 経 過 措 置
目標基準比率 TierIJから Tier1への TierIlへの算入 営業権担当額の 年 (うちTier1) 算入(みなし Tier1) 貸倒引当金 期限付劣債権 Tier 1からの控除
当 宇E1987年末時点の
レrく/レ Tier 1の25% 無制限 無制限 裁 量
90年度末 7.25%(3.6%勺 Tier 1の10% リスク・アセット 無制限 裁 量 の1.5or 2.0%
92年度末 8.0%(4.0%) 無 1.25 or 2.0% Tier 1の50% 控 除 ( 注 *iTier 2か ら 算 入 き れ た Tier1