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臨床リポート

ドキュメント内 kanpo_no6_0516_ol (ページ 41-49)

國井 隆英

  公立相馬総合病院皮膚科(福島県)

写真1  症例1の臨床像         (半夏瀉心湯内服前)

症 例 2

写真2 症例1の臨床像

          (半夏瀉心湯内服3カ月後)

を開始した。内服を開始してすぐに嘔気は消失し,下 痢の回数も徐々に減少した。内服開始 1 カ月後には 下口唇の皮疹は自覚症状・他覚症状ともに改善傾向を 示した。夕方に腹痛がしばしば出現したため,冷たい ものを飲んですぐ下痢をするなど脾陽虚の要素が関係 すると考えて黄耆建中湯エキス製剤9g/ 日の内服を 一時併用した。半夏瀉心湯の内服を開始して2カ月後 には下口唇の皮疹はほぼ消失した。本人は以下のよう な印象を報告した。

 「半夏瀉心湯が効いているようだ」「半夏瀉心湯を飲 むと腹痛が起こらない」「下痢をしなくなってから下 口唇の皮疹が改善してきた」

患者 66 歳,女性。

主訴 唇が痛くて,ものが食べられない。

既往歴 特記することはない。

現病歴 初診の3カ月前にぎっくり腰になり,鎮痛薬 を2週間内服した。その頃から口唇の荒れが出現した。

食欲不振に腹痛と下痢を伴っていたため,内科で加療 を受け,消化器症状はある程度治まったが,口唇の荒 れが改善しないため,来院した。口腔用デキサメサゾ ン軟膏,酪酸ヒドロコルチゾン軟膏の外用でも症状は 改善しなかった。金属のパッチテストでは,亜鉛・ア ルミニウム・錫・鉄・白金・パラジウム・クロムが陽 性を示した。

現症 下口唇に易出血性の浅いびらんを認め,その周 囲には鱗屑と黄色痂皮を伴っていた。口角部には白苔

を認めた(写真3)。

治療経過 食欲不振と胃もたれがあり,半夏瀉心湯エ キス製剤 7.5g / 日の内服を開始した。デキサメサゾ ン軟膏が無効であったため,外用をトリアムシノロン 軟膏に変更してみた。皮疹の一部でカンジダが陽性で あったため,ラノコナゾール軟膏を併用した。内服開 始5日目頃から徐々に皮疹が改善し,少し擦れても出 血しなくなった。内服2週間目(写真4)には唇がピ リピリしなくなり,ものが食べられるようになった。

また,以前のように出血しなくなり,お腹の調子も良 くなったと報告を受けた。しかし,その後も半夏瀉心 湯を2カ月内服継続したが,口唇の痛みが5割くらい 残存し,辛いもの・酸っぱいもの・ビール・わさびが まだ刺激になるようであった。再度問診したところ,

食欲不振・疲れやすい・食後眠くなる・口が乾くなど,

脾気虚の症候があった。そこで,補中益気湯エキス製 剤 7.5g/ 日の内服を併用開始したところ,数日で食欲 不振・易疲労感が改善し,口唇炎の症状にも改善傾向 がみられ,ついには口唇の痛みがほぼ消失した(写真 5)。その後の外用は口角部にラノコナゾール軟膏を 使用するのみで,口唇炎の症状は良好にコントロール されている。

 中国の古典である『黄帝内経素問』六節蔵象論篇に は「脾胃……その華は唇口四白にあり」という記載が ある1)。脾胃は消化機能全般を指すが,その栄華は口 唇の四隅に現れるという意味である。要するに胃腸 症 例 3

写真3 症例3の臨床像          (漢方薬内服前)

写真4 症例3の臨床像

          (半夏瀉心湯内服2週間後)

写真5 症例3の臨床像

          (補中益気湯内服3カ月後)

びらん性潰瘍の大部分は消退し,紅色調の 強い部分も下口唇の外側に限局してきた。

口角部にわずかに白色調の変化が見られる のみとなった。

考 察

漢方と診療 Vol.2 No.2(2011.06) −

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に異常があれば口唇にも異常が現れるということである が,あまりに常識的なためか,口唇炎が胃腸疾患に伴っ て出現したとする報告はこれまでのところほとんどな い。最近,逆流性食道炎の患者に口唇炎を伴うことがあ るという報告が 1 つあるのみである2)

 デルマドロームは「内臓疾患の皮膚徴候」と定義され る3)。今回の3例のうち,上部消化器内視鏡検査を行っ て精査しているのは症例1のみであり,他の2例は消化 器症状についての精査は行っていない。しかし近年,器 質的変化をもたずに上部消化器症状が持続する病態が,

機能性胃腸症 ( 機能性ディスペプシア ) と呼ばれて注目 されている4)。今回の症例では,器質性の変化こそ証明 されていないものの,全例で上部消化器症状を伴ってい た。これらの消化器症状と口唇炎の症状の間に明らかな 相関関係がみられた点で,口唇炎が胃腸疾患のデルマド ロームとして出現したと言えるだろう。

 症例 1 では逆流性食道炎があり,プロトンポンプ阻害 薬を内服している。胃酸の分泌が抑制されているために 酸っぱい水ではなく,苦い水が上がってくるという症状 が残存していた。逆流性食道炎には消化管の運動機能の 低下が大きく関与しているとされているが5),症例 1 で は半夏瀉心湯の内服によって,消化管の運動機能も改善 した可能性がある。

 症例3では複数の金属に対してアレルギーを有したに も関わらず,歯科金属を除去することなく症状の改善が 得られた。口唇炎の難治例において,金属アレルギーが ある場合,しばしば歯科金属を全部除去する処置が選択 されるが,それは患者に多大な負担をかけ,しかも効果 が確実とは言い難いところがある。漢方治療によって,

多大な苦痛を伴う処置を回避できた意義は大きい。

 半夏瀉心湯は脾胃(胃腸)を調和させる代表方剤であ る。半夏瀉心湯の適応証とされる「寒熱錯雑痞証」では,

心窩部になんとなくすっきりしない感じ(痞証)があり,

噫気・悪心・嘔吐という胃気不降(胃熱)の症候に腹鳴・

下痢という脾気不昇 ( 脾寒 ) の症候を伴う6)。これらの 症候を伴う機能性胃腸症の治療に半夏瀉心湯はよく活用 されている7) 。また,半夏瀉心湯は脾胃湿熱証の治療に もよく用いられる6)

 症例1は胃もたれと噫気がみられ,皮疹部の触痛が強 く,上口唇に黄色痂皮を伴っていた。逆流性食道炎の存 在も考えると,脾胃の湿熱が関与していた可能性が考え られる。

 症例2は皮疹部に灼熱感や触痛こそなかったものの,

喜冷飲・食欲亢進など胃熱の亢進を思わせる症状と,冷 たいものを飲むとよく下痢するなど脾寒を示唆する症状 が併存しており,他の消化器症状と合わせると,寒熱錯 雑痞証が存在していたと思われる。

 症例3は発症時に吐気と上腹部不快感・下痢がみられ,

寒熱錯雑痞証と考えられる。

 一方,口唇のびらんは中医学的には,脾胃湿熱や脾胃 湿困・気滞血瘀・血虚風燥によって生じるとされている8)。 脾胃湿熱による口唇のびらんは,発疹部に灼熱感と触痛 があり,黄色の痂皮を伴う8)のが特徴とされており,症 例1と症例3でみられた所見に一致する。

 半夏瀉心湯は脾胃湿熱証や寒熱錯雑痞証を呈する口唇 炎に有効と思われる。試みに,これらの証のみられない 慢性の難治性口唇炎の患者2例に半夏瀉心湯を使用して みたが,いずれも無効であった。治療効果を上げる上で は,やはり正確な弁証(中医学的診断)が重要である。

 ただ,慢性に持続する口唇のびらんや亀裂をみた際に は日光角化症(表皮内がん)や扁平苔癬,開口部形質細 胞症などを鑑別する必要がある。症状の改善が思わしく ない場合には漫然と治療を続けず,生検による病理組織 学的検討が必要になることは言うまでもない。

【参考文献】

1)黄帝内経素問 . 東洋学術出版社,1991, 上巻 , p.183

2)Mathelier-Fusade P. Cheilitis: a new manifestation of gastro-oesophageal        refl ux? Ann Dermatol Venereol. 2009, 136(12), p.887

3)Kurt Wiener. Skin Manifestations of Internal Disorders. Henry Kimpton,         London,1947

4)三浦洋人 . 機能性ディスペプシアの病態と治療 . 日本臨床,2010, 68(7),         p.1391

5)本郷道夫 . 逆流性食道炎と PPI. Clinician,1998, 45(4), p.380 6)森雄材 . 漢方処方の構成と適用 ( 第 2 版 ). 医歯薬出版社 , 1998, p.275 7)L Zhao. Treatment of functional dyspepsia by alternative medicine in         China. J US-China Med Science, 2006, 3(3),p.62

8)趙金鐸主編 . 症状による中医診断と治療 . 燎原書店,1987, 下巻 , p.417

*本論文の要旨は第 74 回日本皮膚科学会東部支部学術大会にて  発表した。

臨床リポート/半夏瀉心湯が有効と思われた胃腸疾患のデルマドロームとしての口唇炎の3例

散を母子同服させて 抑肝散 散

的であった症例 効果的 的

春田  道雄

  七生病院(東京都日野市)

患者 30 歳,女性。

診断 Personality Disorder(人格障害)

主訴 衝動的に子どもに暴力を振るう。もう1人の自 分がいて,よくわからないという。

家族歴 H市で生育。同胞は兄が1人。中学・高校時 代は不登校の時期もあり大学を中途退学。デパートな どに勤務。20 歳で結婚。流産1回。21 歳で離婚。デパー ト,キャバレーなど風俗関係にも勤めた。26 歳で専 門学校に入学。27 歳で妊娠し再婚するが 30 歳で離婚。

患者自身,易怒的で衝動的な性格であると述べる。

既往歴 幼児の頃,兄に性的ないたずらをされ,塾の 先生にも性的ないたずらをされた。ふとしたきっかけ で過去の嫌なことを思い出す。クリニックからの紹介 状によると 29 歳時,育児と家事のストレスで抑うつ・

不安・不穏状態で受診。そこで SSRI(パロキセチン 30㎎)を中心に薬物治療を受けている。しかし,衝 動的に子ども(1 〜 2 歳)の首を絞めるなどの問題行 動があり当院へ紹介される。

初診(X年) 本人からは,衝動的になると子どもに 暴力を振るい,自身も大量服薬,2 階から飛び降りる などのことをしたと聞く。自己嫌悪も強く,肝心なと ころは「記憶にない,わからない」と答える。初診時 は,簡単な過去のエピソードと家族歴を聞き,子ども

(2 歳)に対する暴力は絶対にしてはいけないことを 約束させて帰ってもらった。顔貌は色白で細面,眉間 にときどき縦皺を寄せる。処方:抑肝散エキス剤 7.5g,

毎食前。ゾルピデム酒石酸塩5mg 1錠,就寝前。

経過 2 週間後,表情も柔らかい。昼夜逆転傾向だが,

少し余裕も出てきた。子どもは両親に預け,暴力は振 るっていない。

 4週間後,抑肝散を子どもに 1/4 くらい飲ませ,患 者は残りの 3/4 を服用している(母子同服)。日中は 犬の散歩や軽い運動を心がけ寝ないようにしている。

 2か月後,前夫のことや悪い夢をみて目が覚めると いう。イライラはなく落ち着いている。中途覚醒あり。

処方:抑肝散エキス剤 7.5g,苓桂朮甘湯エキス剤 7.5g,

毎食前。ロルメタゼパム1mg 1錠,就寝前。

 3カ月後,離婚調停の関係で前夫と会い,調子が悪 い。夜は眠れているが,食欲が低下している。

 4,5 カ月後,両親が子どもの面倒をみてくれている。

以前より頻度は減ったが,ときどきイライラし子ども へ暴力を振るってしまう。処方:抑肝散エキス剤 7.5g,

毎食前。エチゾラム1mg 2錠,分2朝夕。ロルメタ ゼパム1mg 1錠,就寝前。

 患者とその父とも短気でときどき,子どものお尻を 叩いてしまう。母親(子どもにとって祖母)を中心に 育児をしていく。無理であれば児童相談所へ相談する こと。

 その後,急性胃腸炎で体調を崩したり,前夫との示 談交渉で調子が悪くなるなど波があったが,子ども家 庭支援センターに行き,子どもが新年度より保育園に 行けることが決定し,前夫との離婚に関しての取り決 めもまとまり安定してきた。子どもへの暴力行為はな くなり,自殺念慮もなくなった。

 子どもは患者(母)がイライラしているときは落ち 着かなくなり,患者が安定してくると子どもも安定し てくるという連動がみられた。平均すると月1度の外 来受診であったが,家族内の人間関係は協力的となり 症 例

ドキュメント内 kanpo_no6_0516_ol (ページ 41-49)