破裂に関与する因子として,Juvonen らの報告168)では,
年齢がOdds 比2.6,痛みがOdds 比2.3,慢性閉塞性肺 疾患がOdds 比3.6,大動脈径がOdds 比1.5としている.
特に大動脈径に関しては,Coady ら169)及びDavies ら163)
の報告によれば,破裂を 1年間に起こす頻度は,4cm 未満で0%,4〜4.9cm では0〜1.4%,5.0〜5.9cm では 4.3〜16%,6cm 以上では10〜19% とされている.さ らに,Perko らの報告170)によれば,大動脈径6cm 以 上の例では,6cm 未満の例に比し,5年間に破裂する頻 度は5倍高いとされている.また,大動脈解離を起こす 頻度は,4cm 未満では0%,4〜4.9cm では3〜8.5%,
5.0〜5.9cm では7.7〜8.5%,6cm 以上では13〜28.6% と報告されている.1年生存率と5年生存率は,初期大 動脈径5.2cm(3.5〜10cm)で,それぞれ85% と64% と報告されている.
3)胸部・胸腹部大動脈瘤の外科治療
(表11)大動脈基部の外科治療に関して,David らが大動脈弁 形成術を含めた大動脈再建術151例の検討で,初期死亡 率1.3%,8年の遠隔生存率83%,大動脈弁逆流の再発 率2% と極めて良好な成績を発表している171).
大動脈弓部の外科治療に関して,術中の脳保護と脳合併 症が大きな問題となり,様々な手法が取り入れられてき た.治療成績は徐々に向上し,Kazui ら172)の全弓部置換 術50例の検討では,初期死亡率2%,2年生存率92%,
脳合併症4% と良好な成績が報告されている172).
しかしながら,Okita らの胸部大動脈瘤手術648 例の 検討では,70歳未満の早期死亡率が8.6%,70歳以上 が15.6% であった.緊急手術が含まれているため,待 機手術のみの死亡率を論じることはできないが,患者が 高齢化している現在においては,少なくとも 5% 以上 の早期死亡率は考慮すべきと思われる173).
仮に胸部大動脈瘤の外科手術での死亡リスクを 5 % と仮定した場合,上記の内科治療における破裂および大 動脈解離のリスクとの比較では,大動脈径 5.0〜5.9cm 表 10 大動脈解離における亜急性期および慢性期治療の適応
Class Ⅰ
1.大動脈の破裂,大動脈径の急速な拡大(>5 mm/6 ヶ
月)に対する外科治療 (Level C)
2.大動脈径の拡大(≧60 mm)を持つ大動脈解離例に
対する外科治療 (Level C)
3.大動脈最大径50 mm 未満で合併症や急速な拡大のな
い大動脈解離に対する内科治療 (Level C)
Class Ⅱa
1.薬物によりコントロールできない高血圧をもつ偽腔開 存型大動脈解離に対する外科治療 (Level C)
2.大動脈最大径55〜60 mm の大動脈解離に対する外科
治療 (Level C)
3.大動脈最大径50 mm 以上のマルファン症候群に合併
した大動脈解離に対する外科治療 (Level C)
Class Ⅱb
1.大動脈最大径50〜55 mm の大動脈解離に対する外科
治療 (Level C)
胸部大動脈瘤
2
が手術適応として妥当な基準と判断される.
下行大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤では,下肢対麻痺 の予防対策が課題となっている.脳脊髄液ドレナージ,
肋間動脈の再建,術中のsomatosensory-evoked potential のモニタリング,術中の大腿動脈からの送血などが試み られ,下肢対麻痺を合併する頻度は5% 程度まで低下
している174−178).初期死亡率は5〜10 %,5年生存率は
62〜74% と報告されている174−178).胸腹部大動脈瘤の手 術適応としては,内科治療における破裂および大動脈解 離のリスクとの比較により,大動脈径6.0cm 前後が比 較的妥当な基準と思われる.
1)急性期管理
超急性期における治療でもっとも重要なことは,降圧 と 鎮 静 お よ び 安 静 で あ る . 降 圧 の 目 標 は 100〜120 mmHg とされているが67,179,180),エビデンスはない.解 離の進展によると考えられる痛みが消失するまで血圧を 下げることが重要と考えられる.超急性期はやはり100
〜120 mmHg をひとつの基準とすることが一般的であろ
う.可能であれば橈骨動脈にラインを確保して連続的な 血圧モニタリングをすることが望ましい.使用薬剤に関 す る エ ビ デ ン ス も 乏 し い . 早 い 降 圧 の 得 ら れ る Nicardipine,Nitrogricerine,Diltiazem などの持続静注と
β遮断薬の静注の組み合わせが頻用されており67),超急 性期は静注による血圧のコントロールが調節性に優れて いるため推奨されるが,経口剤を開始,併用してもよい.
持続する痛みに対しては鎮痛,鎮静を図るべきである.
Morphine またはBuprenorphine などが用いられる.安静 度は,破裂の可能性の高いとされる 48時間以内は,絶 対安静が必要である.また,この時期には頻回のエコー 検査にて,心嚢液の貯留量の変化,解離の主要分岐への 進展の変化などを注意深く観察することが望まれる.
超急性期を乗り切った急性期における問題は,血圧管 理,安静度をどのようにあげていくか,譫妄,呼吸不全 への対応などである.血圧管理は,100〜120mmHg を 基準として若干の上下は許容せざるを得ない場合もあ る.解離の安定度と尿量などを慎重に観察しながら,あ る程度柔軟に対応するべきであると考える.降圧剤の静 注から経口への切り替えに関してのエビデンスはない.
安静に関しての詳細はリハビリの項に譲る.しばしば問 題となる高齢者に見られる不穏,譫妄も過度の安静に関 与している可能性もあり,解離の型に応じて対応すべき である.呼吸不全は胸水と臥床による無気肺などに関与 すると考えられているが原因は不詳である.ある程度の 呼吸不全は必発であると考え,早めの酸素投与で低酸素 血症による不穏を惹起しないよう注意が必要である.
2
)慢性期管理(表12)慢性期における患者管理の最大の目標は,再解離と破 裂の予防であり,(再)手術のタイミングと術式を決定 することである.
①血圧管理
最も大切なことは血圧の管理である.良好な血圧のコ ントロールは再解離の発症を約1/3に減らすと報告され ている181).降圧剤の選択は,確実な降圧が得られること
2 内科治療
2
大動脈解離 1
表 11 胸部・胸腹部大動脈瘤における治療の適応(マルファン症候群,嚢状瘤を除く)
Class Ⅰ
1.最大短径6 cm 以上に対する外科治療 (Level C)
Class Ⅱa
1.最大短径 5〜6 cm で,痛みのある胸部・胸腹部大動
脈瘤に対する外科治療 (Level C)
2.最大短径 5 cm 未満(症状なし,慢性閉塞性肺疾患な
し,マルファン症候群を除く)の胸部・胸腹部大動脈 瘤に対する内科治療 (Level C)
Class Ⅱb
1.最大短径 5〜6 cm で,痛みのない胸部・胸腹部大動
脈瘤に対する外科治療 (Level C)
.最大短径 5 cm 未満で,痛みのある胸部・胸腹部大動 脈瘤に対する外科治療 (Level C)
Class Ⅲ
1.最大短径 5 cm 未満で,痛みのない胸部・胸腹部大動
脈瘤に対する外科治療 (Level C)
表 12 大動脈解離における慢性期治療のエビデンス Class Ⅱa
1.許容される運動は,自転車,ランニングなどで血圧が 180 mmHg を越えない強度に設定するべきである
(Level C)
2.外来におけるCT 撮影は発症1,3,6,(9),12月後に
行うことが好ましいとされる (Level C)
Class Ⅱb
1.慢性期における血圧の管理は主としてβ遮断薬を用い
て行う (Level C)
2.収縮期血圧の管理目標は130〜135 mmHg である
(Level C)
が肝要であるが,β遮断薬のみが,入院などの解離関連 事故を減らし6,182),また瘤径の拡大を抑える183)などのエ ビデンスがある.しかし一方で3〜5cm の腹部大動脈瘤 症例に対して,propranolol はplacebo と比較して瘤拡大 速度を有意に遅延させることはなかったとする報告184), あるいは35mm 以上(中間値43mm)の胸部動脈瘤の 拡張に対してβ遮断薬の投与は影響しなかった185)との 報告もあり,β遮断薬の効果はマルファン症候群以外に 対しては明らかであるとはいえない.管理の目標収縮期 血圧は,130mmHg としているもの186),135/80mmHg 以下としているもの2)などがあるが明らかなエビデンス はない.灌流圧の低下による臓器障害が生じる場合は,
目標血圧を上げざるを得ないことがある.
②安静度,運動
通常の日常生活に関しての制限はほとんどないと考え てよい.運動に関するエビデンスは少ない.ランニング や自転車などの等長性,好気性運動が推奨され,その運 動強度は,トレッドミル運動負荷テストで血圧が 180
mmHg をこえることがないような強度とするべきであ
り,胸腔内圧を上昇させるような重量挙げなどは避ける べきであるとの記載がある187).
③画像によるフォローアップ
外来においては大動脈径の変化を経時的に観察するた めに,解離関連事故の多い2年までは,CT,MRI など を一定間隔で撮影する必要がある.CT のフォローアッ プの間隔に関して,発症後3月目,6月目,その後発症 2年まで6月ごと186),あるいは1,3,6,9,12月目に 撮影すべきと報告されている2).動脈径が手術適応に近
くなればCT を撮影する間隔を短くすることもあり,ま
た動脈径が小さく偽腔が血栓閉塞してULP もない,な どのときは若干CT の撮影間隔もやや長くするなどの対 応も,放射線被爆および造影剤の腎障害を考えれば必要 かもしれない.胸部単純X 線も瘤径拡大のおおまかな 評価について有効と思われる.
④内科治療の限界の見極め
さらに,そのCT,MRI の結果で(再)手術をするか,
降圧のみで経過をみることができるかを決定しなくては ならない.
⑤手術例の慢性期管理における注意点
Stanford A 型,B 型にかかわりなく,残存解離と術後
遠隔期合併症が問題になる.
a.術後遠隔期合併症について
大動脈基部における手術を施行した場合には大動脈弁 閉鎖不全,上行あるいは弓部置換術を含む術後の場合に は縫合不全と再解離が問題となる.
b.残存解離による瘤形成について
Ⅰ型解離の場合には,上行弓部置換術を施行しても,
遠位部に解離腔を残すこととなる.残存解離の進展,拡 大,血栓化の程度,真腔と偽腔の関係に注意をする.A 型解離術後症例における遠位部残存偽腔のうち,46〜78
% で開存の持続が認められ188−191),術後生存かつ瘤径拡 大を認めないものは3,5,8年で75%,59%,43% と 報告されている92).ステント留置を含めた再手術の適応 を検討する必要がある.
c.再手術の頻度(初回手術は慢性期,急性期の両方を含む)
日本胸部外科学会の 2002〜2003年度における年次報 告によれば再手術後の在院死亡率は17〜21% である173,157). また,近年の諸家の報告では再手術率は 8〜10% 程度
である192,193).再手術の原因の80% 以上が破裂,再解離,
瘤の拡大などによる192−194).初回手術後 5,10,15年に おいて再手術回避率は 94%,64 %,35% との報告あ り194).
1)はじめに
胸部大動脈瘤における手術例と非手術例での内科治療 について記述する.本邦では,この領域に関しての大規 模な臨床試験などはほとんど行われておらず,主に欧米 から報告されている成績を参考にした(表13).
2
)内科治療における基本的な注意事項①動脈硬化性危険因子の管理
胸部大動脈瘤の手術例・非手術例に関わらず,高血圧 症,高脂血症(特に高コレステロール血症),糖尿病,
高尿酸血症,肥満ならびに喫煙などの動脈硬化性危険因 子を有していることが多く,動脈硬化の促進予防および 生命予後の改善を図るために,これらの危険因子につい て十分に患者に指導しつつ,治療および管理することが 重要である.
胸部大動脈瘤非手術例での降圧目標は,収縮期血圧で
105〜120mmHg と通常の高血圧症患者に比較して低値
にすべきとされている195).腹部大動脈瘤非手術例の場合 も高血圧症ガイドラインで奨励されている正常血圧値以