本調査分野においては、エチオピアにおける軽産業の育成という開発課題に対し、今後成長が 期待される繊維産業、皮革産業、木製品産業にターゲットを絞り、これら産業で製造される製品 の高付加価値化を我が国中小企業の技術を用いて目指すことを企図し調査を行った。なお、想定 した仮説と異なる現地ニーズが確認された場合には、現地ニーズに合わせて仮説を修正する方法 を取ることとした。
4-1ではまず、繊維産業、皮革産業、木製品産業について、それぞれの原料・生産・加工・
輸出・販売の各フェーズにおける実態、並びに同国政府の今後の方針を明らかにした上で、我が 国中小企業の参入余地について考察した。
4-2では、我が国中小企業の参入可能性が最も高い木製品産業のうち「竹の有効活用」に焦 点を当て、産業育成に適した日本技術の抽出を行った。この結果、同国では「竹粉製造技術」「竹 粉の飼料化・肥料化技術」においてニーズが高いことが明らかになった。本項では更に、これら 技術の強みの整理、並びに日本国内外の競合技術との比較を行った。
4-3では、「竹粉製造技術」「竹粉の飼料化・肥料化技術」を活用した新規ODA事業の提案 を行った。また、既存ODA事業との連携可能性についても検証した。
最後に4-4では、本調査で得た情報をもとに、上記技術のODA事業を活用したビジネス展 開のシナリオについて整理した。
4-1.エチオピアの職業訓練・産業育成分野の現状及び開発ニーズの 確認
4-1-1.エチオピアの職業訓練・産業育成分野における開発課題の現状 1)課題認識・政策の概要
エチオピア政府は 1960 年代から同国の工業化の重要性について注目しはじめている88が、
工業化に係る本格的な政策の策定は 2002 年の「産業開発戦略(IDS:Industrial Development
Strategy)」が初めてとなる。本戦略は同国の産業開発に係る政策の根幹に位置づけられており、
これに基づいて同国の5ヵ年計画や分野別のマスタープランが策定された89。戦略の基本原則と して、「民間セクターを成長のエンジンとすること」や「輸出主導の工業化」などが重視されてお り90、民間企業を巻き込みつつ、海外輸出できるレベルの工業品生産を目指す同国政府の意向が 確認できる。
IDS をもとに策定された 2010/11 年~2014/15 年の 5 ヵ年開発計画(GTP:Growth and
Transformation Plan )においては、エチオピア政府は同国の主産業である農業から工業化への
構造転換を謳っており、ハイレマリアム首相は「エチオピアは 2025 年までに、アフリカ軽工業 におけるトップ国となり、製造業全般においても上位数カ国の 1国となる」と発言している91。
88 The Idea of Industrialization in Ethiopia: Fundamental Issues for Debate, Tsegaye Tegenu, 2011.
89 JICA:エチオピア国企画調査員(民間セクター開発支援)最終報告書 第一部(セクター調査報告) 2011年 [link:
http://www.jica.go.jp/regions/africa/business/ku57pq00001o1duf-att/34.pdf]
90 Policies and Strategies, Ethiopian Government Portal, 2012. [link:http://www.ethiopia.gov.et/policies-and-strategies1]
91 日系企業向けエチオピア投資情報,GRIPS開発フォーラム,2015年
同GTPでは、以下の8つの工業分野が重点分野として数値目標が設けられている92。
・繊維産業 ・鉄鋼エンジニアリング産業
・皮革産業 ・化学産業
・製糖産業 ・医薬品産業
・セメント産業 ・農作物加工産業
このうち、エチオピア政府は成長が期待できる分野として繊維産業と皮革産業の2つの軽工業 分野を特に推進している。また、GTPの重点分野として掲げられていないが、同国政府が別途策 定している5ヵ年開発計画の第2フェーズ「GTP II」(2015/16年~2019/20年)や「持続的土地 管理プログラム(SLMP:Sustainable Land Management Program)」の第2フェーズにおいて は、木製品産業、特に竹分野の有効活用も重要課題の一つとして位置づけられている93。これら 繊維産業、皮革産業、木製品産業の発展を促進する具体的施策としては、工業団地の建設による 外資誘致や、輸入機械への関税免除や法人税免除による外資への投資インセンティブが挙げられ る94。また、エチオピア政府はこれらの産業における人材育成にも力を入れており、工業省傘下 に繊維産業開発機構(TIDI)や皮革産業開発機構(LIDI)を設置し、木製品については技術職業 教育訓練(TVET)の実施機関において技術指導を行っている。
このように、エチオピア政府は繊維産業、皮革産業、木製品産業の発展を開発課題として掲げ ている。このことを踏まえ、本調査ではそれぞれの産業の実態分析を行い、ニーズや課題点を整 理することで、これらの産業への我が国中小企業の参入可能性を明らかにした。
2)繊維産業の現状 2)-1. 原料
綿花はエチオピアにおいて古くから存在している繊維作物のひとつであり、今でも同国の主要 な換金作物として栽培されている。
同国は綿花の栽培に適した耕作地を約320万ヘクタールと豊富に有している。繊維産業開発機 構(TIDI)によると、2014年現在わずか6.9%の土地しか綿花の栽培に使用されていない95 が、
これは綿花栽培として耕作地を有効利用する具体的なアクションプランがまだ整備されていな いことに起因する96 。ただし「4-1-2.エチオピアの職業訓練・産業育成分野の関連計画、
政策及び法制度」にて後述する通り、同国政府は今後繊維産業の輸出額を拡大する予定であり、
これに伴い主要原料である綿花の栽培面積や生産量も増加する見込みである。なお、同国が綿花 栽培について投資家への農地貸し出しに積極的であることも本調査の中で明らかとなっている
(第2章参照)。
同国の繊維産業で使われている原料は綿花がほとんどだが、その栽培・収穫は古くから地方の 小規模農家によって行われている。この収穫された綿花は、主に外資系が所有する大型工場で糸
92 Growth and Transformation Plan (GTP) 2010/11-2014/15, Ministry of Finance and Economic Development, 2010.
93 Bamboo for Africa: A Strategic Resource to Drive the Continent’s Green Economy, INBAR, 2014. [link:
http://www.inbar.int/sites/default/files/INBAR%20Policy%20Synthesis%20Report2_Bamboo%20for%20Africa%20%20%5B WEB%5D.pdf]
94 エチオピア政府Regulation No.270/2012
95 Textile Industry Development in Ethiopia – An Overview of Facts and Opportunities, Ethiopian Textile Industry Development Institute. 2014. [link:
http://www.german-tech.org/Download/MEK_Ethiopia_Presentation_ETIDI_10.10.14.pdf]
96 Ethiopia fails to meet textile export targets, East African Business Week, 2016. [link:
http://www.busiweek.com/index1.php?Ctp=2&pI=4794&pLv=3&srI=68&spI=107]
や生地、衣類に仕立てられ、残りは同国特有の伝統的な手織り技術を有する現地中小企業により 同じく糸や生地、衣類に仕立てられる。
2)-2. 生産・加工
1960 年代から民間企業によって大規模な機織り工場や衣類の製造工場が設立され、徐々に繊 維産業が拡大されてきた。図4-1に示す通り、2013年時点で、計130箇所の繊維関連の工場が 全国に設立されており、うち衣類の最終仕上げ(Finishing)工場が約半数の60箇所を占めてい る。
表4-1. 2013年時点のエチオピアの繊維産業における業種別工場数(大・中規模)95
No. 業種 工場数
1 繰棉工場 18
2 機織り工場 20
3 紡績工場 5
4 織物/編み物生地工場 12
5 手織り工場 6
6 染色工場 3
7 毛布工場 6
8 織物/編み物衣類の最終仕上げ工場 60 合計 130
(出典:TIDI資料をもとに調査団作成)
表4-2には、これまでエチオピアに導入された機械を示す。大型テキスタイル産業においては、
既にドイツ、スイス、イタリアといったヨーロッパ系の大手企業の機械が導入されている。また、
表4-3の通り、今後はインドやパキスタンといった中央アジア系の企業も同国の繊維産業に参入 することが決定している。
表4-2. 2014年までにエチオピアの繊維産業に導入された外資系大型機器95
No. 国 企業名 導入機械の種類
1 ドイツ Trutzschler 紡績
2 Zinser 紡績
3 Schlafhorst 紡績
4 Dornier 織物
5 Mayer 編み物
6 Terrot 編み物
7 Menschner 衣類の最終仕上げ
8 Textima 衣類の最終仕上げ
9 スイス Oerlikon 紡績
10 Rieter 紡績
11 Luwa 紡績
12 イタリア Marzolie 紡績
13 Itema 織物
14 Pilotelli 編み物
15 Orizio 編み物
16 Protti 編み物
17 Lafer 衣類の最終仕上げ
18 Reggiani 衣類の最終仕上げ
19 ベルギー Picanol 織物 20 イギリス Monarch 編み物
21 カナダ Weliknit 編み物
22 日本 村田機械 紡績
23 津田駒工業 織物
24 島精機 編み物
25 台湾 Pailung 編み物
26 Fukahama 編み物
27 タイ Simat 衣類の最終仕上げ
(出典:TIDI資料をもとに調査団作成)
表4-3. 今後エチオピアの繊維産業に参入予定の外資企業95
No. 国 企業名 参入予定業種
1 インド SVP 紡績
2 Green Valley 紡績
3 Karl International 衣類の最終仕上げ
4 Velocity 衣類の最終仕上げ
5 Jay Jay Mills 衣類の最終仕上げ
6 パキスタン Gulf Textile 衣類の最終仕上げ
7 Experience Clothing 衣類の最終仕上げ
8 トルコ Akper 紡績、衣類の最終仕上げ
9 エチオピア―中国共同 Dima Faiweiwei 紡績
10 中国 Myungsung 衣類の最終仕上げ
11 韓国 Shin TS Com 衣類の最終仕上げ
12 Shin TS 衣類の最終仕上げ
13 台湾 New Wide Garment 衣類の最終仕上げ
14 不明 Atraco 衣類の最終仕上げ
(出典:TIDI資料をもとに調査団作成)
2)-3. 販売・輸出
2010 年時点では、繊維製品の生産高は金額ベースでは軽工業の 12.4%を占めるところまで成 長している。TIDIによると、2013年には同国は3,700万kgの紡績糸、8,800万mの織物生地、
3,000万kgの編み物生地と、6,200万枚の衣類を生産したとのこと97。これらの製品のうち、一
部は国内で消費され、一部はヨーロッパをはじめとした海外に輸出されている。海外輸出に関し ては、表 4-4に示す通り、2013年には紡績糸、生地、衣類、手織り物の4種類の製品で、合計
9,900万USD(約120億円)の輸出額を達成している。
表4-4. エチオピアの繊維産業における輸出総額の推移(百万 USD)97
No. 製品 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
1 紡績糸 - - - 3.7 8.5 9.1 8.9 23.0
2 生地 4.2 4.4 4.6 3.7 6.3 22.9 8.3 10.0
3 衣類 6.9 8.0 9.7 6.6 6.7 26.7 63.1 61.0
4 手織り物 0.1 0.2 0.4 0.4 1.7 3.4 4.4 5.0 繊維関連製品の
輸出合計額 11.1 12.6 14.6 14.4 23.2 62.2 84.6 99.0
(出典:TIDI資料をもとに調査団作成)
97 Ethiopian Cotton – Textile Value Chain Development 2011-2015, Z. Desalegn, 2014. [link:
https://www.icac.org/getattachment/tech/Regional-Networks/Papers-of-the-12th-SEACF-Meeting/ZDesalegn_Ethiopia.pdf]