7.1.Twitter の利用法
今回の実験から、実地観戦と Twitter 実況という使い方は、試合の理解度を上げる効果は あまり得られないことが分かった。
試合会場にいると、Twitter が無くても試合の流れを判断するためのたくさんの情報源が ある。電光掲示板や場内アナウンスのような分かりやすい「情報発信」メディアも然りだ が、近くに座っている人たちの話し声、応援席の盛り上がり方など、会場の雰囲気で「感 じる」ことができる。
特に試合会場で実況解説が必要な場合は、①ルールが分からなくて試合の流れをつかめ ない初心者に向けての観戦ガイド、②試合の流れは掴めるが、背番号が見えなかったり、
反則名が聞こえなかったりするものを補完してくれるもの、の 2 種類が挙げられると思う。
いずれの場合も、周りの人の会話などから推測して観戦を続けることができる。その場合、
Twitter の画面を見る際の目線の上下が問題となった。手元に持っている携帯端末の画面と、
フィールドの目線の上下は面倒、疲れるといった意見が多数挙がった。
この問題を解決しているスポーツチームがあった。プロ野球の東北楽天ゴールデンイー グルスだ。ホーム球場であるクリネックススタジアム宮城に設置された巨大な創造電力ビ ジョンで応援メッセージとして流れるサービス「いーぐるなう!」を行っている。
図 27:いーぐるなう!
出典:東北楽天ゴールデンイーグルス公式ホームページ
これは、Twitter に各自ログインし、ハッシュタグ#eaglenow を付けて、上映時間である 試合開始 40 分前に合わせて投稿すると、会場内の大画面に自分の投稿が映し出されるとい うものである。試合前練習中の選手に自分の応援メッセージを届けることが可能になって いる。
今回実験では試合実況のつぶやきを「受信する」ことがメインとなる利用法を提案した が、このように試合前に選手へのメッセージを「発信する」という利用法もある。これこ そがネットメディアの特徴である。特に基本的にオープンな場である Twitter では、普段会 話もできないような「憧れの存在」である選手などにも、直接メッセージを送ることがで きる。mixi では承認制を取っているため、申請して承認されないとマイミクシィ51にはなれ ない。しかし、Twitter では有名人を一方的にフォローすることも、返信を送ることもでき る。今まで遠かった存在の人を身近に感じられる仕組みがあるのだ。
7.2.家で見るメディア・会場のメディア
さらに、このメディアは本来一人で画面を見るメディアであるネットメディアを、大勢 で共有できるようにしている。しかし、Twitter は本来一人で見るメディアなのではないか。
しかも、外で周りは人に囲まれた状態のときではなく、家にいるとき、一人でテレビを見 ながら、それでも誰かと共有したい話題をつぶやくツールなのではないか。
そもそも Twitter とは、一人でいる時に使うメディアなのか。「つぶやく」という語を辞 書で引くと、次のように記されている。
つぶやくとは、独り言を言うことであるとされている。つまり、Twitter は「独り言を世 の中へ発信する」ということなのだ。これをスポーツの場で用いると考えると、「一人で見 ているときに他人とつながるためのツール」としての利用が最も合っているのではないか>
ここで、第 5 章で挙げた紅白歌合戦の例をもう一点言及したい。お茶の間で家族や友人 と紅白歌合戦を楽しんでいるとしたら、何か言いたいことがあれば一緒にいる人に伝える だろう。しかし、一人で観ている人は何か言いたいことがあっても言う相手がいない。そ ういう人が、不特定多数の人に自分の意見を伝えたいとき、「つぶやく」のが Twitter なの
51 mixiでいう「友だち」。どちらかがマイミクシィ申請を出して、相手が承認すると、互
いの日記やつぶやきが閲覧可能になる。
つぶ・や・く【 呟く】
[動カ五(四)]小さい声でひとりごとを言う。「ぶつぶつと―・く」
『大辞泉』
ではないか。人や内容によるかもしれないが、独り言である「つぶやき」は、返信を期待 することは少ない。わざわざメールするほどのことでもなく、特定の誰かに宛てたもので もなく、でも自分がいま感じたことを表現したい。そんな欲求を満たしてくれるのが Twitter なのではないか。つまり、Twitter を利用する人々が求めているのは「共感」であるのでは ないかということだ。
7.3.Twitter を使うなら、どんなコンテンツ?
Twitter を使って、今回の実験では簡単な実況中継を行った。①の 2 名へのインタビュー では、主観情報が欲しいとの声が挙がった。
スポーツのテレビ中継などを見ていると、「実況」と「解説」がいる。サッカー解説をメ インに、ジャーナリストとして幅広く活躍している中西哲生52氏は、「誰が見ても「すばら しいものはすばらしい」と分かってしまうのがスポーツである」とし、以下 3 つをコンセ プトに解説をしているそうだ。
①なぜすごいのか。
②なぜだめだったか。
③どうしたらよくなるか。
テレビ中継の番組では実況アナウンサーと解説者がいるが、インタビュー等によると場 内アナウンスで実況が聞ける環境では実況は不要とのことであった。そこで、実況をつぶ やくハッシュタグと、解説をつぶやくハッシュタグがあれば良いのではないだろうかと提 案したい。
7.4.「間」
予備実験の考察の際、「間」の有無がスポーツ観戦に影響を与えることに気付いた。再度 振り返ると、
有:アメリカンフットボール、野球、テニス、ゴルフなど 無:サッカー、ラグビー、バスケットボールなど
と分類ができる。サッカーやラグビーなど、時計が止まらないスポーツは見ていてテンポ が良い。メディア側からすると、放送時間の大幅な延長が無く、他の番組に影響が無い。
52 中西哲生(1969.9.8〜) 元サッカー選手。現役時はJリーグ名古屋グランパスエイト、川
崎フロンターレでそれぞれ活躍。
一方、間のあるスポーツはテンポが悪いのか。そういうわけではない。全日本アマチュア 野球連盟会長の山本英一郎53氏は、「日本人には、野球の何ともいえない「間」が非常に合 っていて、それが老若男女に受ける理由だと思います。」と述べている。例えば、ピッチャ ーがボールを投げる「間」。観客にとっては、考える時間が生まれる。ここでピッチャーは 打たせるのか、スクイズさせるのか、見ている人が次の展開を考える時間ができるのだ。
つまり、野球には見ている人が監督になれる面白さがある、ということだ。
これは、野球に限ったことではない。野球のように間のあるスポーツであれば、アメリ カンフットボールでも「見ている人が監督になれる」のではないだろうか。つまり、観戦 回数を重ね、ヘビーユーザーになるにつれて、観客は監督気分で選手を批評したり、次の 展開を予測したりして楽しむということである。実際、慶應義塾体育会各部の応援指導を 行っている應援指導部の人に話を聞いたところ、「アメリカンフットボールの応援をしてい ても、試合中は皆試合に集中してしまって、あまり応援しようとしてくれない。」とのこと であった。
そこで、アメリカンフットボールなど間のあるスポーツにおいては、ライトユーザーを ヘビーユーザーにすることで、その間を最大限活かすことができると考えた。
図 28:観戦回数のエスカレーター
出典:Mullin (2000), p.191. 日本語訳:大野 (2009), p.12.
53 山本英一郎(1919〜) 全日本アマチュア野球連盟会長。小学校4年から野球を始め、慶大 などでプレーした。その後審判などを経て、国際野球連盟第一副会長として、野球のオリ ンピック正式競技の実現に尽力した。1997年野球殿堂入り。
そこで例に挙げたいのが、プロ野球の北海道日本ハムファイターズの「ファイターズプ ロジェクト」である。
ファイターズは、2004 年に本拠地を東京都から北海道札幌市に移してから、地域に根ざ したファン作りを行い、ファンクラブの会員数を劇的に増加させた。さらに、ファイター ズの地域に対する貢献が大きく、サービス産業生産性協議会(2007 年設立)が選定する「ハ イ・サービス日本 300 選」においてスポーツサービス提供事業者として最初に受賞した。
このファイターズの躍進に関心を持った産業技術総合研究所が、その成功の理由を解明 しようとしたのがファイターズプロジェクトである。
まず、観戦スタイルの異なるエリートモニターをファンクラブ会員の中から 9 名選定し、
観戦行動を記録。被験者は各月 1 回、計 3 回の試合観戦を行い、その後デプスインタビュ ーを受けた。こうして 9 名の行動変化からできあがったのが、ファンロイヤリティ進化ダ イアグラムである。(図 29)
図 29:ファンロイヤリティ進化ダイアグラム
引用元:「認知行動学的立場(スポーツ以外の学問領域)から見たスポーツ消費者」, 北島宗雄, 日本スポーツマネジメント学会第 2 回大会発表資料
ファイターズプロジェクトとは
球場に何回も足をはこぶリピーターがどのように球場での野球観戦を楽しんでいるの かを解明し、ロイヤリティの高いファンがどのように作られていったかを明らかにする ことによって、ファイターズの成功の理由を客観的・科学的に解明する。
「認知行動学的立場(スポーツ以外の学問領域)から見たスポーツ消費者」, 北島宗雄, 日本スポーツマネジメント学会第2回大会発表資料より引用。