本章では、枯草菌べん毛モーターH+駆動型固定子MotABおよびNa+駆動型
固定子MotPSに導入した変異に基づいて運動性に重要なアミノ酸残基の特定を
行った。
MotA-E98とMotP-R94は他の細菌間においても固定子に高度に保存されてい
た。MotA-E98とMotP-R94の変異導入株の運動性試験やウエスタンブロット解 析による固定子の発現量、ドミナント-ネガティブ効果における運動性の結果か
らMotA-E98とMotP-R94は、べん毛モーターの駆動力の発生に直接的に関与
していることが示唆された。また、MotP-R94はMotPサブユニットの安定性に も寄与していること示唆された。MotP-K95Aは運動性がBS-PSと比較して低下 しているにも関わらず、固定子の発現量はBS-PSと同様の数値を示した。ま た、MotP-K95は、Na+駆動型固定子間において荷電アミノ酸残基の荷電が高度 に保存されていた。これらのことから、MotP-K95はモーターの回転において 重要なアミノ酸残基であることが示唆された。
MotA-R90、MotA-E92、MotP-D91、MotP-D102の変異体は、運動性の顕著な 低下を引き起こした。この原因として、変異株の固定子の発現量の低下が考え
られた。MotA-R90は他の細菌間においても高度に保存されているが、
MotA-R90Aは、固定子の発現量の低下による運動性の低下を引き起こしている。こ のことから、MotA-R90はMotABの構造の安定化に寄与していることが示唆さ れた。MotA-E92の変異体は運動性の低下は引き起こさなかった。しかし、
MotA-E92A、MotA-E92Q、MotA-E92KのMotAサブユニットの発現量が顕著に 低下していることから、MotA-E92は構造の安定化に重要であると推定した。
MotP-D91とMotP-D102はアラニン残基またはリジン残基に置換した変異体の
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運動性やMotPサブユニットの発現量は、置換変異の影響によって低下した。
これらの結果から、MotA-R90、MotA-E92、MotP-D91、MotP-D102は固定子タ ンパク質の安定化に寄与している可能性が示唆された。
サルモネラ菌を用いた研究から、モーターの回転に重要であると考えられて いたMotAサブユニットの98番目のグルタミン酸残基(E98)に対して構築した 置換変異株は、アラビノース誘導プロモーターを用いて変異型固定子を強発現 させることによって運動性を回復することが報告されている(31)。この結果は、
MotA-E98はモーターの回転に直接的に重要ではなく、固定子を基部体に取り
込むためにFliGのC末端領域の荷電アミノ酸残基と静電的相互作用をしてい ることを示唆していた。本研究においても枯草菌の変異型固定子の強発現株を 構築し、IPTG誘導によって変異型固定子を強発現させた株の運動性への影響 を検証した結果、MotA-E102とMotP-E107において構築した変異株において運 動性の回復が観察された。この結果から、MotA-E102とMotP-E107は固定子が 基部体に取り込まれるために重要な荷電アミノ酸残基であることが示唆され た。
本研究から、枯草菌べん毛モーターの回転機構は、MotAサブユニットと MotPサブユニットの2番目と3番目の膜貫通領域間の荷電アミノ酸残基と回 転子FliGサブユニットのC末端領域に保存された荷電アミノ酸残基間での静 電的相互作用に依存している可能性が示唆された。モーターの回転に重要であ ると同定した荷電アミノ酸残基の電荷が、H+駆動型はマイナス(E98)、Na+駆動 型はプラス(R94、K95)であった。このことから、1つの回転子FliGに対して2 種類の固定子を持つ枯草菌のべん毛モーターは、H+駆動型とNa+駆動型で相互 作用部位を区別している可能性が示唆された。
V. alginolyticusのNa+駆動型べん毛モーター固定子PomABのPomAサブユニ
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ットと回転子構成タンパク質FliG間における静電的相互作用にはPomAサブユ ニットとFliGの多くの荷電アミノ酸残基が必要となる。このことから、MotA サブユニットとFliG間の静電的相互作用と比較して複雑であることが報告され ている(35)。一方、枯草菌のNa+駆動型固定子MotPSは回転子との静電的相互作 用に多くの荷電アミノ酸残基を必要としていない。
今後、枯草菌のFliGのC末端領域の運動性に重要な荷電アミノ酸残基の同 定を行うことで、より詳細な回転子、固定子間の相互作用の解明が進むことが 期待される。
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