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第 5 章 画像診断機器に関する配置と利用の関連についての分析

5.4 考察

図 39:配置と利用指標に関するローレンツ曲線

CT と MRI の Gini 係数に着目すると、1 台あたり検査数では 0.0114、10 万人あたり検 査数では 0.0527 ほど MRI の方が高い。このことから、利用については CT の方が MRI よ りも偏在が少ないことが明らかとなった。また、Gini 係数に加えて同様に格差の指標であ る Theil 指標と Atkinson 指数についても同様の傾向が得られており、利用の偏在について は頑健な評価結果が得られていると考える。一方で、10 万人あたり台数の Gini 係数につい ては CT の方がやや高いが、Theil 指標や Atkinson 指数によって比較を行った場合、Atkinson 指数で同値となっていることが確認できる。そのため、配置については CT と MRI の偏在 状況について違いがあるとは言えない。このように、Gini 係数に加えて、同様の概念であ りながら、前提としているモデル関数が異なる Theil 指標と Atkinson 指数を使用すること によって、Gini 係数を使用した評価の頑健性を検証することが有用であると考えられる。

1 台あたり検査数を「効率性」を表す変数、10 万人あたり台数が「配置水準」を表す変数 として行政の資料で「負の相関関係があることがある」と報告されているが図 38 の図を見 た時に必ずしも線形関係を仮定できない可能性が考えられた。そのため、本考察で目的変数 を1台あたり検査数、説明変数を 10 万人あたり台数とし、二変数間の関係について検証を 行うため曲線あてはめを追加分析として試みる。仮定するモデルとして、最小二乗法

(Ordinary Least Square:OLS)に基づく線形回帰モデル、非線形回帰モデルとして累乗モ デル、対数モデルによる当てはめの結果を表 16 に示す。

表 16:配置と利用の二変数における曲線モデルの推定結果

モダリティ 推定結果 OLS 累乗モデル 対数モデル

CT

推定パラメータ

係数:-249.31* 係数:10905** 係数:-1964*

切片:5145.3* 指数:-0.657** 切片:7068.1*

AIC 393.6 396.3 391.8 R² 0.461 0.521 0.508

MRI

推定パラメータ

係数:-310.2 係数:5160.9** 係数:-1388*

切片:3993.1 指数:-0.542** 切片:4563.3*

CT においては全てのモデルで有意なパラメータが得られたが、MRI においては累乗 モデルと対数モデルにおいて有意なパラメータが得られた。まだ、モデルの評価を行うため に赤池情報量基準(Akaike's Information Criterion,AIC)および決定係数 R²を各モデルで求 めた。なお、AIC は値が小さい方が優れた予測が可能なモデルであることを意味する指標で ある。また、R²は 0 から1の範囲をとり、1に近いほど、説明変数によって目的変数のばら つきが説明可能であることを表す指標である。CT と MRI の双方において、AIC は対数モ デルが最も優れており、R²は累乗モデルが最も優れていた。AIC が小さいモデルの解釈と して、「新規にデータを加えた時に、当てはまりがよいモデル」であると言えるため、予測 に使用する際には対数モデルを仮定することが推奨される。これに対して、R²が高いモデル は当てはまりの良いモデルであると言えるため、データの記述を目的とした分析を行う際 には累乗モデルが推奨される。以上のことから、日本の画像診断における利用と配置には負 の直線的な関係ではなく、累乗モデルや対数モデルのような非線形モデルを仮定する事が 推奨される。対数モデルと累乗モデルのどちらを採用するかは分析目的によって異なるが、

今回は、日本の配置と利用の関連を検討するために、データのばらつきを最も説明している 累乗モデルを用いて検討する。図 40 に推定した累乗モデル曲線を示す。このモデルは負の 指数関数であるため、本追加分析により CT と MRI の配置と利用水準には非線形のトレー ドオフ関係があることが明らかとなった。また、配置水準が低いところでは、配置が増える と急峻に利用水準が下がっていくことが分かる。これは台数が少ない地域では 1 台に検査 が集中しているが、1台増やすごとに検査が分散していく傾向を示唆している。また、ある 程度配置水準が増えていくと、利用水準の減少幅は小さくなり、定常状態に近づいていく傾 向が見られる。このことから、定常状態に達するところが診断の1台あたり検査数の基準と 解釈でき、各二次医療圏が CTや MRI の追加配置の検討を行う際の指標として提案できる。

図 40:追加分析の累乗モデル(赤点線は定常状態の概念を示す)

一方で、診断の CT や MRI の診療報酬は海外よりも低く、医療機関は導入コストを回 収するために検査数を増やすことが可能であると指摘されている。例えば、二木らは日本の 画像診断のコストは米国の 5 分の1であり、政策設定時には低い診療報酬の設定により不 要な検査を抑制するねらいであったが、却って検査数の増加を招いている可能性を指摘し ている[21]。Ikegami らは、MRI の診療報酬点数が下がった年度の MRI 検査数が低下した ことから、医療経済学的に医療機関の収入と検査件数に関連があることを示唆している[22]。

医療においては、患者の診断などの診療行為はインフォームドコンセントの過程を通じて 決定されるが、患者の需要を医師が誘発する「提供者誘発需要」の可能性が指摘されている。

医療提供者が患者需要を誘発し、医療費の増大や不必要な侵襲を招くことが懸念されてお り、各省庁の議論で画像診断検査においても、その存在が指摘されている[5]。病院経営者 が導入コストをベースにした損益分岐点を勘案し、スクリーニング検査として検査数をコ ントロールする可能性は、病院経営戦略の観点からは否定できず、前述の基準値は各医療機 関の損益分岐点として運用されている可能性についても十分考慮した上で解釈する必要が ある。また、画像診断検査における提供者誘発需要の存在については検証した報告はなく、

本結果においても解釈することは出来ないため、追加調査や検証が必要である。

これまでの既存統計を使用した報告では、月次の統計データに基づき配置と利用の関係 は負の線形関係であると報告されてきた。本研究では、悉皆性の高いレセプトデータのデー タベースである NDB を使用して解析したところ非線形関係であり、さらに配置と利用に非 線形のトレードオフ関係が成立することを明らかにした。先行研究では、医療資源の配置に ついてのみ分析しているものがほとんどであり、利用という視点を加えた研究はほとんど なく、新規性のあるデータである。また、画像診断分野を対象とした NDB の研究はほとん ど行われていないのが現状である。NDB が有する高い悉皆性という強みを、画像診断分野 に活用した研究として、新規性が高いと言える。また、都道府県が医療計画で検討すること となっている配置台数の追加を行う際の評価指標は現在のところ存在しない。本研究では、

図 40 の二次医療圏別の検査数と配置台数との関係から、基準となり得る数値の算出方法を 例示しており、新たな指標として提案可能である。

本研究の限界点として、レセプトデータに基づく分析であるため、公的医療保険の枠組み の中で実施された件数のみを対象としている。そのため、自由診療内で実施された件数や、

過少に推計している可能性については留意する必要がある 5)。また、NDB の第三者提供時 にコメントデータが削除されている。そのため、各検査がどの部位を対象にしているかを把 握することは不可能であり、同日に部位を分けて撮影した患者であっても複数回としてカ ウントされているなど過大推計の可能性についても考慮すべきである。

また、本研究では NDB の公表基準に則り最小地域単位として二次医療圏を採用している ため、医療機関個別の実態については掘り下げた分析が出来ない。例えば、本研究の結果に おいて、1 台あたり検査数を見ると、全国では MRI の方が CT よりも高く、二次医療圏別 の中央値および信頼区間においては CT の方が高かった(図 37)。このように結果が逆転 しているのは、二次医療圏別の Box-plot においては外れ値の影響に比較的頑健な記述方法 として中央値および 95%信頼区間を採用しているのに対して、全国集計値では、こうした 外れ値の影響も含めた集計値として算出されているためであると考えらえる。1 台あたり検 査数の Gini 係数を見ると、MRI の方が CT よりも高いことから地域格差が指摘されるた め、外れ値の影響を受けやすいことは矛盾しない。こうした場合に、二次医療圏内の医療機 関においてどのように検査が実施されているかを分析することによって、外れ値として定 義すべきかを検討可能であると考えるが、本研究においては限界点である。

最後に、本研究は 2014 年度のデータのみを使用した分析であり当該年度における実態を 記述した分析として限定的な理解にとどめておく必要がある。CT と MRI の利用に関して、

一般化可能な知見を得るためには、本研究の結果について経年的な変動がないかを観察す る必要がある。しかし、2014 年より後ろ向きのデータを検証する場合は、レセプトの電子 化率に注意する必要がある。NDB に格納されているデータは電子化されたもののみを対象 としており、電子化率が低い場合はバイアスがかかるためである。厚生労働省によると、診 療所において電子化率が 95%を超えたのは 2014 年度レセプト請求分からであり、2014 年 度データを使用した本研究における影響は小さいと考えられる[23]。そのため、今後は 2015 年以降のデータを取得し分析を進めることで、経年変化の影響について検証を行う必要が ある。

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