第 4 章 炭酸カルシウム薄膜形の結晶形の制御と環境因子
4. 考察
図 4-7 キトサンの同一面上にあるアルコール性水酸基の配列 (a) 含水結晶 (a=8.95Å、
b=16.97Å、 c=10.43 Å)14、 (b) 無水結晶 (a=8.28Å、 b=8.62Å、 c=10.43 Å)15。破線は同一面上 の水酸基による格子を示す。
4.2. 温度の影響
キトサン上の炭酸カルシウム薄膜の結晶形はまた水溶液の置かれた周囲の温度に依存してい た。温度だけで結晶形が変わっていることがないかどうか調べた表 4-2 から、結晶形への温度の 直接的影響はこの狭い温度範囲では無視できると判断した。キトサン基板とポリアクリル酸両者が あってはじめて温度による結晶形の違いも現れていることから、やはりキトサン表面にアンカーされ たポリアクリル酸の配列が結晶形に影響し、さらにその配列が分子鎖長だけでなく温度からも影響 を受けているということが推測される。
b=16.97 Å
c=10.43 Å c=10.43 Å
b=8.62 Å
alcoholic hydroxyl group b=16.97 Å
c=10.43 Å c=10.43 Å
b=8.62 Å b=16.97 Å
c=10.43 Å
b=16.97 Å
c=10.43 Å c=10.43 Å
b=8.62 Å c=10.43 Å
b=8.62 Å
alcoholic hydroxyl group alcoholic hydroxyl group
(a) (b)
4.3. 有機高分子による結晶形制御のメカニズム
キトサン基板と温度による影響それぞれに対する考察から、炭酸カルシウム膜の場合の結晶 形が何によって決まったかについて以下のように考える。即ち、高分子は分子鎖が短いと基板との 相互作用が弱くなるので、低分子量ポリアクリル酸ではカルボキシ基の配列も弱い。さらに、水温が 低いとポリアクリル酸のモビリティーが低く、一旦基板に吸着するとその後吸着位置が最適化される ことがない。その結果、キトサンの水酸基の格子の影響が相対的に小さくなるため、低分子量ポリ アクリル酸と低温では母液そのものが作りやすいカルサイトが選択されやすい。カルボキシ基の配 列は、基板との相互作用が強くなるので分子鎖が伸びるに従い向上する。さらに水温が高い場合 には一旦キトサン面に吸着したポリアクリル酸もブラウン運動により吸着状態が最適化される。高分 子量のポリアクリル酸と無水キトサンの組み合わせは、アラゴナイトやバテライトといった準安定層の 生成を促進した。無水キトサンのはっきりとした矩形格子は三方晶のカルサイトよりも斜方晶のアラ ゴナイトに適している。従って、アラゴナイトの膜が高温で高分子量ポリアクリル酸共存により得られ た。中間的コンディションである高分子量ポリアクリル酸と低い水温、あるいは低分子量ポリアクリル 酸と高い水温の場合には、バテライトが主に生成していた。バテライトはカルサイトと近い六方晶の 構造をとっているが、bc 面は矩形で(001)面の面間隔は 8.56Åであり、これは無水キトサンにおける 水酸基の格子 8.62Åに近い。このためバテライトの c 軸を無水キトサン表面と平行にしてバテライト の膜が無水キトサン上に成長した。この仮説は追加成長により成長した花弁状のバテライトが膜状 バテライト結晶の上に垂直に配列したことからも裏付けられる。キトサン面の水酸基の格子が吸着 した PAA の配列に影響を与えているという考察の概念図を以下に示す。キトサンの水酸基を吸着 サイトとして吸着した PAA を介してキトサン基板の構造を炭酸カルシウムの結晶形と配向に反映さ れるという、いわば「2段構造」の基板がテンプレートとして働いていた。すなわち、この2段構造の 状態を温度や水溶性高分子の分子量を変えることでコントロールすることにより、結晶形と配向が コントロールされるようになる。
キトサンの水酸基
PAA分子の配列 バテライトまたはアラゴナイト
キトサンの水酸基
PAA分子の配列 バテライトまたはアラゴナイトバテライトまたはアラゴナイト