第 5 章 炭酸カルシウムとシリカの複合膜の作製
3.1. 炭酸カルシウムの形態変化
3.2.1. 炭酸バリウム
炭酸バリウムは、共存イオンが無い場合には、アラゴナイト型結晶の典型的な c 軸方向に伸びた 針状の擬六方柱の結晶となる。水中のシリケートイオン濃度が非常に小さい pH8.5 の場合には、図 5-10 に示すような針状の結晶であった。
図 5-10 pH8.5 のシリカゲル共存下での炭酸バリウムの形態
pH10.5 では、炭酸カルシウムの場合と同様、キトサン基板の上には膜状の炭酸バリウム結晶が 観察された(図 5-11)。炭酸カルシウムの場合との違いは、膜の表面に円形結晶の中心から外に 向け高度に分岐した多数の葉脈状の凹凸が見られた点である。(図 5-11a)。同じ基板上には外形 が明らかに六角を示している膜状結晶も観察された(図 5-11b)。さらに、膜の中心部に六角形や (図 5-11c)、六角柱(図 5-11b, c) も頻繁に観察された。この共通する六角の晶相とは、膜状結晶 中の成長ユニットが規則性を持って繋がっているということを示唆するものである。
(b)
(d) (a)
(c)
XRD 測定結果を図 5-12 に示す。pH8.5 の場合には、(200) 及び (220) 面によると見られる強 いピークが観測されたが(図 5-12a)、これはこのような針状結晶の c 軸が基板と平行であることを示 している。これに対し、pH10.5 では、(002)面からの強いシグナル(図 5-12b)が観察され、膜状結晶 の c 軸は基板に対し垂直であることがわかった。なお、シリカ由来と思われるシグナルは観察されな かった。
20 25 30 35 40 45
2θ(degrees)
Intensity (arbitrary unit)
(a) pH 8.5
(b) pH 10.5
(c) standard (JCDPS#45-1471) (021)
(111)
(002) (200) (022)
(130)
(220) (221) (040) (041)
図 5-12. シリカゲル共存下キトサン上にできた炭酸バリウム結晶の X 線回折パターン(a) pH8.5、
(b)pH 10.5。(c)は粉末 X 線回折標準データ(JCPDS#45-1471)。25-30°のハローは基板のガラスに よるもの。
シリカゲル中でアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させた先行研究では、酸で炭酸塩を溶かし 出し、残るシリカの殻を観察するということが行われている。2,9 本実験の場合には、塩酸を使用 すると基板であるキトサンも同時に溶けてしまうため、キレート剤である EDTA
(ethylenediaminetetraacetate) (エデト酸) 水溶液を用いて炭酸バリウムを除去してその前後の結 晶を観察した。
図 5-14a は炭酸バリウムが存在する状態の膜状結晶を SEM でさらに拡大した像で、葉脈 状に見える構造が小さいサブユニットから構成されているのが判る。成長端におけるサブユニ ットのサイズは直径 100 nm 以下で、このような微小な粒子が連なって基板表面に広がってい る。図 5-14b は EDTA により炭酸バリウム結晶を除去した後に観察したものであるが、基板上 の膜状結晶があったと思われる箇所に凸状に残渣が観察された。残渣の形状は元の膜状結 晶の基本的な形態を踏襲されていた。この結果は結晶の成長ユニットがアモルファスシリカの 皮膜で覆われているという仮説を裏付けるものと言える。
図 5-14. EDTA 処理前後のキトサン上の炭酸バリウムの膜状結晶。(a): 処理前、(b): 処理後。
炭酸カルシウム膜状結晶で実施したのと同様に、強アルカリである 0.1M 水酸化ナトリウム 水溶液でこの膜状結晶を洗うと、葉脈上に明らかな六角の晶相が現れ(図 5-15)、膜状結 晶が小さい六角形による多数のステップ、テラスの積層から作られているのが観察された。
この結果もまた、炭酸塩の成長ユニットをアモルファスシリカの皮膜が覆っているということを 示すものである。アラゴナイト型の結晶において、六角形の晶相とは c 軸に垂直な面を示す。
成長ユニットの六角形の晶相はその c 軸に垂直な面を示していると思われる。すなわち、
XRD の結果と合わせて考えると、この膜状結晶全体が c 軸を基板に対し垂直にした成長ユ ニットが基板に水平方向に成長する途中でさらに微細化され、分岐して葉脈状になったも のを構成単位としていると考えられる(図 5-15c)。
(a) (b)
図 5-15. シリカゲル共存下で作成された炭酸バリウム平板結晶の水酸化ナトリウム水溶液浸漬処 理後の SEM 写真、(a): (c)図の(a)を上から見た様子、(b): (c)図の(b)を斜め上方向から見た様子、
(c): 葉脈状構造の図解。
膜状炭酸バリウムの析出している基板の IR スペクトルを測定した(図 5-16a)。1100cm-1付近に 出ると思われる Si-O 伸縮振動由来のピークはキトサン基板の強い吸収(図 5-16b矢印)のため 検出されなかったものの、3400cm-1付近のキトサンの-OH 伸縮振動由来のピークが滑らかでな くなっている(図 5-16a の矢印)。これは、キトサンの水酸基とインタラクションを持つものが存在 していることを示している。
(b)
~100 nm
(a)
(C)
(b)
(a)
(001) plane c axis
(b)
(a)
(001) plane c axis
(c) (a)
(b)
(c) (c) (a) (a) (a)
(b) (b) (b)