第1章 緒言
1. 本研究の背景
1.4. 溶液系での結晶成長とバイオミメティックミネラリゼーション
バイオミメティックミネラリゼーションは、溶液系での結晶成長である。以下に溶液系での結晶 成長過程と8、これをバイオミメティックミネラリゼーションと照らし合わせて考える。
1.4.1. 核形成と成長
(1) 平衡状態から過飽和が駆動力となり次の段階に進む。
即ち、飽和溶液を作ったときの温度 TEでの飽和濃度 C∞と、成長温度 TGでの飽和溶液 の濃度Cの差 ⊿C= C∞-C が駆動力となる。
(2) 臨界サイズ以下の粒子が生じ、離合集散を繰り返す。
平衡状態から溶解度曲線のある領域内では臨界値以下であるため核形成も結晶成長も 起こらない(図 1-28 マイヤーズ領域)。
(3) 一部が臨界サイズ以上に到達して(核形成)エネルギー的に安定になり、一方向的に成長 する。
臨界エネルギーが小さいほど核形成は容易に起こるので、容器壁表面のステップ、凹 凸、傷などの助けを借りる不均一核生成の方が、自発的核生成よりも起こりやすい。バイ オミメティックミネラリゼーションにおける基板上での結晶成長は、この不均一核生成を対 象とした研究である。
濃度
温度
平衡濃度曲線
TG TE
C C∞
溶解度曲線
マイヤーズ領域
濃度
温度
平衡濃度曲線
TG TE
C C∞
溶解度曲線
マイヤーズ領域
図 1-28 溶液系での溶解度曲線と核形成8 TE, C∞は平衡温度と濃度、TG, C は成長温度と濃度
1.4.2. 結晶形
多くの場合、最初に核形成するのは準安定の相で、安定相が出現する以前は準安定相 が安定相と同じように成長できるが、いったん安定相が出現すると、準安定相は溶解あるい は転移して安定相が成長する。この原理でいくと、炭酸カルシウムにおける準安定相である バテライト、アラゴナイトはカルサイトが生成するとともに消失する方向と考えられるが、実際 にはバイオミネラルにおいては安定して準安定相のアラゴナイトが得られている。これは、
安定相の出現が抑えられる要因があったか、あるいは準安定相が安定化される要因があっ たためと考えられる。バイオミメティックミネラリゼーションにはこの要因を見出し応用すること が求められる。
1.4.3. 形態
固層と液相の界面が、原子オーダーで荒れているキンク(半結晶位置)度が高いラフ面で は環境相から来た分子がただちに取り込まれて一様に成長する付着型機構、平坦な面(テ ラス面)と少数の階段やその折れ曲がりでできているスムース面における二次元核形成機 構・渦巻型成長機構による成長となる(図 1-29)。駆動力を2相間の化学ポテンシャルの差
⊿μ/kT(k はボルツマン定数、T は絶対温度)で一般化すると、駆動力と結晶の形態変化は 図 1-30のように示される。即ち、低駆動力条件では渦巻型成長機構が支配的で平らな結 晶面で囲まれた多面体結晶、平衡から離れた高い駆動力のある状態では樹枝状結晶、そ の間の領域では二次元核生成成長機構が支配的になり骸晶状の形態となる。この一般的 な形態変化に加え、バイオミネラリゼーション/バイオミメティックミネラリゼーションではこの 環境層に存在する有機物が取り込まれ成長を抑制し、両者の効果で特有の形態を形成し ていると考えられる。この点を本研究で明らかにしたい。
図 1-29 結晶成長における 3 種類の成長機構8
図 1-30 成長速度対駆動力および形態変化({111}のみで囲まれた結晶を想定)8