4. 測定実験
4.3 考察
4.3.1 実験1、2の考察
実験1において10Base-Tのスイッチングハブと10Base-Tのハブの送信時間を比べると、
10Base-Tのハブの方が平均して約1.5秒速かった( 図4.18参照 )。この原因としてスイッ チングハブのスイッチ機能が考えられる。ハブは繋がっている全てのポートにデータを送 るが、スイッチングハブはデータの宛先を認識し、その宛先の端末が繋がっているポート にのみデータを送る。この宛先を認識する時間として約1.5秒の差がでたと考えられる。し たがってスイッチングハブにいくつもの端末、サーバを繋げるとこの遅延が大きくなると 考えられます。
28 28.5 29 29.5 30 30.5 31
1回目 2回目 3回目 平均
送信時間(s)
10Base-T HUB 10Base-T SW-HUB
図4.18 10Base-T SW-HUBと10Base-T HUBの送信時間
0 5 10 15 20 25 30 35
1回目 2回目 3回目 平均
伝送速度(Mbit/s)
10Base-T SW-HUB 100Base-T SW-HUB
図4.19 10Base-T SW-HUBと100Base-T SW-HUBの伝送速度
同じく実験 1 において、10Base-T と 100Base-T のスイッチングハブを比べてみる。
10Base-Tの伝送速度の10倍が100Base-Tの伝送速度になっているかというと、実際には
約3.7倍にしかなっていない。10Base-Tの伝送速度は7.84Mbpsで伝送路の約8割使えて
いるが、100Base-Tの方は伝送速度が29.28Mbpsで伝送路スペックの約3割しか実データ 転送能力として稼動していない ( 図4.19参照 )。何故100Base-Tの方は伝送路の約3割 しか使えていないのか?原因として①送信データ量が 30MBと小さかったため、伝送速度 が上がりきる前に送信が終わってしまった。②データ転送の手段としてWindowsのファイ ル共有を使用したが、ファイル共有の伝送速度の限界が速くない。という 2 つが考えられ た。おそらくは①が原因だったと思われる。しかし伝送速度が上がりきったとしてもファ イル共有の制限要因により5 0Mbpsぐらいが限界ではないかと思う。
実験 2 においてUTP ケーブル(12m)と光ファイバ(12m)の平均値を比べると、送信時間
の差は 0.2 秒であまり差はない( 図 4.20 参照 )。光ファイバの方が速いはずだがOE コン バータを使用し電気を光に、光を電気に変換するときの遅延により遅くなっていると考え られる。ノードや端末に光ポートが装備されていれば、OEコンバータを使用したときの遅 延がなくなり、送信時間の差は顕著に現れると思う。
光ファイバ(12m)と光ファイバ(50m)を比べると、送信時間の差は約1.14秒もあった( 図 4.20参照 )。UTPケーブルの50mの送信時間は測定していないので、UTPケーブルの12m と 50m の送信時間差は分からないが、光の速さを考えるとわずか38mの違いで約1.14 秒の差がでるのはおかしい。これは2.5.2で説明したようにコネクション型の通信によって、
応答信号が何度も何度も行き来しているからだと考えられる。したがってケーブル長が3 8m違うことで1.14 秒もの遅延がでてもおかしくない。マルチモード光ファイバは LAN 内で500mまで繋げるが、この実験の結果を参考にすると、信号転送がコネクション型で、
高度の到達補償を要求する大容量データの場合、何十秒もの遅延が起こり得る。Windows のファイル共有による伝送速度、送信時間の測定実験の結果を考えると、会社内などのス モールLAN内で、たとえ光ファイバであっても長い伝送路になると、ファイルやアプリ ケーションの過度の共有化は望ましくない。
0 2 4 6 8 10 12
1回目 2回目 3回目 平均
送信時間(s)
UTP 12m 光ファイバ 12m 光ファイバ 50m
図4.20 UTPケーブル光ファイバの送信時間
4.3.2 実験3、4の考察
実験3において同じ負荷がかかった状態(負荷×2)での送信データが 30MBと125MBの ときの伝送速度を比べると、送信データが大きい方が伝送速度は遅かった。しかし送信デ ータが同じ(30MB)で負荷の数を増やしても伝送速度は落ちなかった( 図4.21参照 )。実験 1の負荷がない状態と負荷が1のときを比べた場合約13 Mbps伝送速度は落ちているが、
負荷1から負荷2に増やした場合伝送速度は落ちるどころか少し上がっている。この原因
として100Base-Tのスイッチングハブの機能が考えられる。スイッチングハブはサーバご
0 5 10 15 20 25 30 35
1回目 2回目 3回目 平均
伝送速度(Mbit/s)
送信データ30MB 負荷×0
送信データ30MB 負荷×1 送信データ30MB 負荷×2
図4.21 負荷数による伝送速度の変化
図4.22 スイッチングハブのスループット例
とに100 Mbps のスループットを確保している( 図4.22参照 )。複数の端末からサーバに データが送信されている場合1つの端末が伝送路を占有することは出来ず、送信データ量 に見合った伝送路を確保している。注目する伝送データのファイルサイズ 30MBは外部負 荷データのファイルサイズ 1、2GB と比べると小さく、確保できる伝送帯域はあまり差が ない。そのため30MBの送信データが負荷1GB、2 GBの状態で送信されても伝送速度は さほど変化しなかったのではないかと考える。
実験4において送信データ、負荷の数を増やしていくと伝送速度は落ちた( 図4.23参照 )。 送信データが30MBの場合に注目してみると負荷1、負荷2のとき、50mの光ファイバよ りも12mの光ファイバの方が伝送速度の低下が激しかった。伝送路が長い方が伝送速度は 低下するはずだがそのような結果は得られなかった。伝送速度に有益な差がみられない点 があったがその原因として次のような事が考えられる。今回の測定実験では光ファイバの みでの測定は行えず、OEコンバータを使用してUTPケーブルと繋げている。端末から送 信されたデータはUTPケーブルを通って光ファイバに達する。光ファイバはUTPケーブ ルと比べて伝送帯域が広いので伝送速度が上がる。したがってファイバ長の短い方(12m) は伝送速度が上がりきらず、長い方(50m)に比べて伝送速度が低下していたのではないか。
伝送路が短い方が長い方に比べて伝送速度が低下した理由は今のところ不明です。
負荷による伝送速度の違い
1.2 1.6 2 2.4 2.8
30MB ×1 30MB ×2 125MB ×1 125MB ×2 送信データ(MB)と負荷(×N)
伝送速度(MB/s)
光ファイバ12m
光ファイバ50m
30MB送信時の負荷数による伝送速度の違い
14 18 22 26 30
負荷 0 負荷 1 負荷 2
伝送速度(Mb/s)
光ファイバ12m
光ファイバ50m
図4.23 伝送速度の違い
4.3.3 実験5~7の考察
実験5、6でデータ量を変化させても伝送速度はあまり変化しなかった。送信時間はデー タ比にほぼ比例していた。ノードを重ねることによってスイッチングハブ、ルータいずれ を介した場合でも伝送速度は落ちた( 図4.24、図4.25参照 )。データ量に関係なくノード 数が少ない方が最大伝送速度は速かった。スイッチングハブはノード数が増えることで比 例的に伝送速度が低下している。ルータの場合、ルータを 1 台通ることで伝送速度は 3.7 分の 1 になり、急激に伝送速度が低下している。それ以降はスイッチングハブと同様に比 例的に伝送速度が低下している。
30 34 38 42 46
0 1 ノード数 2 3
伝送速度(Mbit/s)
1.19GB 281MB
図4.24 ノード数による伝送速度の変化(スイッチングハブ)
0 10 20 30 40 50
0 1 2 3 4
ノード数
伝送速度(Mbit/s)
1.19GB
281MB
図4.25 ノード数による伝送速度の変化(ルータ)
実験 5 では伝送速度の上がり下がりが激しかったがこの理由は、スイッチングハブのア クセス制御方式がCSMA/CD方式で1つの伝送媒体を共有するためフレーム伝送中にも衝 突の検出を行っており、衝突した場合送信中止、待機、再送による遅延の影響が大きいか
らだである。相手からの応答信号等を検出しているため伝送速度は安定していない( 図4.26 参照 )。逆に実験6ではルータの伝送速度は安定していた。この理由は、ルータは一方から 受信したパケットを別方向にそのまま通すことが出来るので信号の衝突がなく、競合制御 によるトラフィックの待機再送による遅延の影響が小さいからである。
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
60 120 180 240 300 360 420
送信時間(s)
伝送速度(Mbit/s)
ノード数0 SW-HUB(ノード数1) SW-HUB(ノード数2) SW-HUB(ノード数3) ルータ(ノード数2) ルータ(ノード数3) ルータ(ノード数4)
図4.26 スイッチングハブとルータの伝送速度の違い
スイッチングハブはデータリンク層(MAC 層)で中継処理を行うので、ネットワーク層で 中継処理を行うルータと比較すると遅延時間が小さい。そのため実験 7 でルータ間にスイ ッチングハブを挿入しても伝送速度はあまり低下しなかった。最大伝送速度もノード数に よって変化せずほぼ同じだった。
スイッチングハブとルータを比べると、スイッチングハブの方が明らかに伝送速度が速 い (図4.27参照 )。先ほど述べたようにスイッチングハブはデータリンク層で中継処理を、
ルータはネットワーク層で中継処理を行っているため、伝送速度(Mbit/s)は一桁値が異なっ ている。以上のことから距離の短い局所でLANを構築する際、ネットワーク内でルータを いくつも介するような設計は望ましくない。長距離のポイント・ポイント、ルータ間で通 信する場合、高性能のスイッチングハブで端末を分散し、ギガビットクラスのルータで全 体をまとめると効率の良い通信が行える。( 図4.28参照 )。
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32
送信時間(分)
伝送速度(Mbit/s)
ノード数0 SW-HUB(ノード数1) SW-HUB(ノード数2) SW-HUB(ノード数3) ルータ(ノード数2) ルータ(ノード数3) ルータ(ノード数4)
図4.27 スイッチングハブとルータの伝送速度と送信時間(送信データ1.19GB)
図4.28 効率の良いネットワーク
5. まとめ
マルチポートルータの購入が出来なかったために、ネットワークの性能を測定というよ りも、ネットワークを構成するノードやケーブルの測定を中心とする評価となった。信号 を転送する際、各ノードを通る際に発生する遅延は避けられないが、考察の最後で述べた ように距離、ファイルサイズ、ユーザ数等を把握し、使用する環境に合わせてシンプルな ネットワークを設計するならば、その遅延は最低限に抑えられる。
またネットワーク機器のパフォーマンスだけでなく、端末自身にも大きな遅延の要素が あることが、測定実験をしている過程で明らかになった。例えばネットワーク管理ソフト の容量が大きいせいで、当初使用していた高性能のFTPソフトを使っている間、著しい伝 送速度の低下がみられた。そのため測定にはCPU、バッファに負荷のあまりかからない低 機能のトラフィックモニタを代わりに使用せざるを得なかった。
上で述べたように、高速通信ハードウェアの性能を十分活用するためには、データの送 受信端末が、データ転送に十分なCPUやメモリを確保することが必要不可欠であることが 分かった。CPU、ディスクといった端末側のコンポーネントのどこかが能力不足に陥った 場合、そこがボトルネックとなり全体の処理能力は頭打ちとなる。従って端末上でマルチ タスクを実行しながらのデータ転送は著しく送受信効率が落ちることを踏まえつつネット ワークを利用しなければならない。
注意しなければならない点は、処理能力が頭打ちになった時、それがネットワークの能 力不足なのか、それとも端末の能力不足なのかを見極める事である。端末の能力が不足し ているのに伝送媒体やノードを高性能にしても効果は小さいし、逆も同様である。よって 予め各端末のコンポーネントの限界能力を調べておく事が必要であるといえる。調べてお く事によって、処理能力が頭打ちになった原因が、ネットワークにあるのか、端末にある のかが明確になる。ネットワークのどの部分で負荷がかかっているのか、正確に判断する 事が出来る。これらのことを踏まえた上でネットワークを構築することが重要である。
今後は光ポート付きの ATM 対応マルチポートルータを購入することで本格的なネット ワークの構築が可能になる。
以上の結果をふまえたうえで、今後の課題として
・ セキュリティ対策
・ ATMスイッチを使ったATM-LANの構築
・ LAN-WAN接続時の伝送速度の測定
・ OS、メモリの負荷によるパフォーマンス低下の定量化
・ ネットワーク管理ソフトの強化 などが挙げられる。